ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2008年4号
keyperson
日通総合研究所 大島弘明 経済研究部主任研究員

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

APRIL 2008  2 も下落したら運送会社は持ちこたえら れないという話は、五〜六年前から 言われていました。
しかし、その後 も運賃相場は下がり続け、事業者数 は増加し続けた。
当時の「もうやって いけない」という話は結局、運送会 社のブラフだったことになります。
今 回は違いますか。
 「そのことについても、真面目な会 社とそうでない会社の違いが大きい のだと思います。
苦しいという点で は同じでも、真面目な会社は工夫し てなんとか凌いでいる。
エコドライブ を徹底して燃料費を抑えたり、ドライ ブレコーダーを導入したり、ドライバ ー教育に力を入れることで交通事故 を防止する。
地道な取り組みですが、 不要な出費を抑えることで、経営を 安定させることができる。
あるいは 『儲からない荷主とはもうお付き合い しないよ』という話も最近ではよく 耳にします」  「一方で真面目でない会社、社会保 険に加入していなかったり、安全規 制を無視しているような会社は、軽 油の問題だけでなく、コンプライアン ス(法令順守)の点から生き残れない、 倒産するという話がこれから出てくる のではないかと見ています。
既に国 交省はトラック運送事業者に対する違 反点数制度をはじめ、違法業者の取 法令遵守強化が引き金に ──ここ数年の実勢運賃相場のトレ ンドをどう認識していますか。
 「少なくとも上がってはいない。
た だし、安い運賃で引き受ける事業者 が、以前と比べると減ってきている。
そのためにようやく下げ止まった、と いうところではないでしょうか。
各地 の運送会社を回って話を聞いていて、 そんな印象を受けています。
ここか らさらに安値攻勢をかけても、経営 が成り立たない水準まで既に下がって いる」 ──今後の動きについては。
 「過去を振り返ると、ドライバーが 集まらなくなった時に、初めて運賃は 本格的に上昇しています。
バブルの時 がそうでした。
ただし、あの時は景 気が良くて人手が足りなかった。
今は 景気が悪いのに人手が足りない。
他の 産業に労働力が流れている。
労働力 全体のパイも減ってきています。
今は 現役を引退した団塊の世代が定年の 延長なり再雇用なりで、その穴を埋 めている状況です。
しかしこれから 団塊の世代の層も薄くなってくる。
そ のときにどうするか。
そこが大きな ポイントになると思います」 ──ご存じの通り、トラック運賃の相 場には今のところ実用的な指標があ りません。
数少ない指標の一つとな っている、日本銀行の「企業向けサ ービス価格指数」では運賃相場が九〇 年代半ばから一貫して下がり続けて います(図1)。
ただし、このデータ は運送会社の届け出がベースになって いるようで、実勢運賃をビビットに反 映しているとは思えません。
その一 方で全日本トラック協会の調査による と、軽油の高騰を運賃に転嫁できた とする運送会社は今年一月時点で四 〇%を超えています(図2)。
これは 値上げしたということです。
日銀の 調査とはまったく整合性がとれない。
 「そのうちの後者、全ト協の調査に ついては、われわれも調査屋なので、 ある程度は察しがつきます。
アンケー ト形式の調査に回答してくれる会社 というのは基本的に真面目な会社が 多いんです。
そのため、例えば実勢 運賃の調査であれば、無理なダンピン グをしている運送会社は回答自体を しないので、調査結果が高めに出て しまう傾向がある。
軽油の運賃転嫁 についても同じで、端から転嫁を諦 めてしまっているような運送会社は 回答してこない。
そのため、これも 上に振れているのだと思います」 ──運賃は既に底値であって、今より 日通総合研究所 大島弘明 経済研究部主任研究員 「日本の運送市場は転換期を迎えている」  極端に安い運賃を呑んでしまう運送会社が減ってきた。
社会 的規制の強化も進んでいる。
社会保険の未加入や安全規制、環 境規制の軽視など、コンプライアンス上の問題を抱える運送会社 は、もはや事業を継続できない。
これから日本のトラック運送市 場はゆっくりと安定化に向かう。
     (聞き手・大矢昌浩) 3  APRIL 2008 り締まりに本腰を入れて乗り出してい ますし、今後も監督を強化していく ことは間違いありませんから」 ──その一方で、行政は「燃料サー チャージ制」の導入にも乗り出してい ます。
しかし行政が運賃制度を強制 するのは時代に逆行しているように も思えます。
い分けている。
それに比べると日本の 運送業はサービスレベルに大きな差が ない。
会社の大小を問わず、皆一定 のサービスレベルを維持している。
そ こで差別化しにくいために、運賃の 差もつきにくい」 ──一般論としては、効率の悪い会 社が市場から退出し、効率の良い会 社が生き残って大きくなることで全体 の効率が上がるとされています。
日 本の場合は規制緩和しても、そうし た淘汰があまりないとすると、これ は社会経済的に良いことなのか、そ れとも利用者に不利益になるのか。
 「その評価は難しいですね。
ただし、 欧米のようなドラスチックな変化はな いにしても、日本の運送市場も今後は 少しずつ時間をかけて変わっていくは ずです。
そして長いスパンを後から振 り返って見たときには、この二〜三年 が市場の大きな転換点だったと言われ ることになるのかも知れません」  「日本の規制緩和政策は、もともと 競争規制の緩和と社会的規制の強化 をセットにして進めようという考え方 に立っています。
実際これまでも新 規参入や運賃の規制を緩和するだけ でなく、環境規制や安全規制などの 社会的規制は強化してきました。
し かし、その効果には限界のあったこと が誰の目にも明らかになってきた。
ル ールを守らないものがのさばって、真 面目な事業者がダメージを受けてしま うような市場では健全とはいえない。
そのために社会的規制をもっと徹底 することが必要になってきているとい うことなのだと思います」 ──実は今回の特集に関連して今年 度のトラック運送事業者数の増減を、 各地の運輸局にヒアリングしてみたの ですが、九〇年の「物流二法」から 一貫して増え続けてきた事業者数が 今年度は頭打ちになっているんです。
新規参入のペースが落ちて、退出する 企業が急増している。
一方で運賃に は反転の兆しが見られる。
やや大げ さですが、日本のトラック運送業の規 制緩和の時代が終わったと言えるので はないでしょうか。
 「少なくとも大きな節目を迎えたと は言えると思います。
どこの国でも 運送業の規制緩和を実施すると、新 規参入が急増し過当競争が始まって、 運賃が低下する。
それによって労働 者の給料も下がっていく。
そして何年 か後には市場が飽和状態になって、そ の混乱期を経て市場の安定する時代を 迎える。
九〇年の規制緩和当時、私 はまだ入社したばかりでしたが、先 輩からそう教えられました。
ところ が日本では規制緩和から既に一七年 も経つのに、これまで安定化してい なかった」 日本市場の特殊性 ──規制緩和後の市場で必ず起こる はずの業界再編も進んでいません。
運 送業界の大手の顔ぶれは二〇年前と ほとんど変わっていない。
新陳代謝 がない。
 「それは日本の特殊性かも知れませ ん。
日本と欧米では、経営者の会社に 対するスタンスや仕事のやり方に、か なりの違いがあるように感じます。
日 本の事業者はほとんどが家業として 運送業を営んでいる。
大手であって もその傾向があります。
それだけに いくら経営が苦しくても潰せない。
他 人に会社を譲ったり手を組んだりする ことにも抵抗がある」  「また欧米の運送業は良くも悪くも サービスとコストが合致している。
品 質の良いサービスは値段も高い。
逆も そうです。
荷主もそれを理解して使 おおしま・ひろあき  日通総合研究所・経済研究部物流・交通政 策グループ担当部長主任研究員。
主にトラック 運送事業における事業環境の変化や労働・安全 問題、物流効率対策等の調査研究に従事。
ま た都市内物流問題に対する調査や各地で貨物 車の駐停車対策に関する社会実験にも携わる。
その他、諸外国との物流環境の比較調査や最 近では中国をはじめとする東アジアにおける物 流関連の調査研究にも取り組んでいる。
無回答 1.3% 図2 軽油値上がり分による運賃転嫁の状況 ほぼ転嫁できている 1.5% 一部転嫁 できている 38.8% まったく転嫁 できていない 58.4% 図1 日銀「企業向けサービス価格指数」 トラック運賃の推移(2001 年=100) 94 95 96 97 98 99 100 101 01年02年03年04年05年06年 100 98.7 97.6 96.7 96.4 96.3 国土交通省資料より全日本トラック協会 2008 年1 月調査

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