ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2007年10号
特集
環境物流の進め方 経済産業省──着荷主にもメスを入れる

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

経済産業省──着荷主にもメスを入れる  今年6 月末、大手荷主企業804 社が改正省エネ法 の特定荷主に指定された。
今後、特定荷主は毎年、 輸送に係わるエネルギー使用量を国に報告し、CO2 を継続的に削減していく義務を負うことになった。
荷主企業を対象にした環境規制は世界でも例がない。
それだけに運用上の課題は山積している。
“逃げ得”は許さない ──改正省エネ法の特定荷主として大手企業八〇四 社が指定されました。
当初約二〇〇〇社が対象にな ると言われていたのに半分以下です。
 「確かに会社数としては当初の見込みより少なくな りました。
それでも国内貨物輸送量の過半数をカバー しようという目標は達成できました。
平成一七年度 の国内貨物輸送量は約五七〇〇億トンキロでしたが、 今回の八〇四社の貨物輸送量を足し合わせると、そ の半分以上になることが確認できました。
また八〇四 社というのは今年六月末の数字ですが、その後も事 業規模が大きいのにリストに入っていない企業など、 特定荷主と推定できる企業に対しては我々から声をか けていますので、最終的には多少数は追加されます。
近くそれを特定荷主リストの改訂版として改めて発表 する予定です」 ──リストを見ると、やはり小売りや流通など川下の 企業が薄い印象を受けます。
 「その傾向はありますね。
小売りでも専用の配送セ ンターを運営している場合は、センターから店舗に配 送する部分の物流をきちんとカウントしてもらわない といけない。
ところが、消費者に近いところになると、 所有権の移転や輸送の形態が複雑になってきて実態 の判然としないところがある。
そうした商慣習のあい まいさを理由にして規制の対象から逃れるようなこと もあるのかも知れない。
しかし、“逃げ得”を許すつ もりはありません。
我々としても川下の輸送の状況に ついては別途、調査をして状況はどうなっているのか を調べてようと考えています」 ──そもそも日本の小売業の多くは自分では物流を管 理していません。
物流費が調達価格に含まれているた め管理する必要もなかった。
 「そうした商慣習も影響していると思います。
こち らから大手小売りに対して、おたくは特定荷主に当 たりませんかと声をかけても『ああ、そういえば』とか、 『荷主って何?』といった反応をされることもありま した。
上流と下流では、かなり物流に対する意識が 違うという印象を受けました。
あるいは発荷主と着荷 主の違いと言ってもいいかも知れません。
恐らくセッ トメーカーと部品メーカーの間でも同じような問題が あるはずですから」  「このところ物流事業者は値上げの要求もできない なかでサービスのアップばかり要求されています。
発 荷主にしても着荷主の要請は年々きつくなる一方で す。
着荷主が無理難題をふっかけて都合の良いよう にやっている実態があるのではないかと推測していま す。
その意味でも着荷主の実態を押さえておく必要 がある」 本当の荷主は誰か ──例えば実質的には小売りの専用センターでも、 指定問屋制をとっている場合には、センター内の在 庫の所有権はもちろん店舗配送の部分まで、直接的 には指定問屋が物流を発生させていることになって しまう。
 「そこは我々としても問題視しています。
現在の省 エネ法の建て付けとして、明示的に規制の対象範囲 が及ぶのは、まずは輸送事業者、それからその輸送 事業者に輸送を委託している会社、つまり発荷主ま でです。
着荷主に対しては現状では網が掛けられてい るとは必ずしも言えない状態です」  「しかし、本当に輸送の動向に影響を与えているの は、むしろ着荷主かも知れない。
実際、着荷主の意 経産省 新保一彦 資源エネルギー庁 省エネ対策課 課長補佐 OCTOBER 2007  20 第3部「改正省エネ法」運用の行方 21  OCTOBER 2007 特集環境物流の進め方 向で輸送方法が左右されているケースはかなりある。
特定荷主にヒアリングしても、そんなに少なくない割 合の荷主が『我々も着荷主さんの意向を受けて、そ の荷を出しているのであって、うちらだけではどうし ようもない』という。
確かにその通りなのでしょう。
それにも関わらず着荷主に省エネに向けた取り組みを 行ってもらえないような状況になっているのだとした ら、そこは改善していかなければいけない」 ──しかし、行政が着荷主を縛るのは、なかなか難し そうです。
 「改正省エネ法の『荷主対応マニュアル』の『荷主 の判断基準』(下図参照)に書かれている通り、当面 は輸送事業者や着荷主と意志の疎通を密にして、で きるところから進めてくださいと説明しているのです が、そうはいってもなかなか実際には難しいというの が現状でしょう。
それだけでは対策として我々も弱い と思っています」  「ただし着荷主をターゲットに法令を改正するのは、 かなりハードルが高い。
一朝一夕にはいきません。
着荷主にも非常に様々なパターンがあります。
同じ 事業者が、ある場面では着荷主であり、別の場面で は発荷主になっている。
着荷主を定義すること自体 が容易ではない。
そのため、まずは着荷主の輸送へ の係わり方の実態をしっかり把握したい。
その上で、 法令改正が最も強力な方法ですけれど、それが難し くても運用上の措置で手を打てることがあるかもしれ ない」 ──そもそも「改正省エネ法」には、CO2排出量の 計算方法が煩雑だといった批判もありましたが、物流 事業者だけではなく、荷主企業を規制対象にしたこ と自体は画期的でした。
 「それまで輸送にかかるエネルギーの消費というの は輸送事業者が発生させているものだという認識しか ありませんでした。
そこに荷主の存在を加えたことは、 我々としても一つのステップアップになったと自負し ています。
世界的に見ても先駆的な取り組みだと言 えると思います。
しかし、輸送事業者から荷主へと辿っ ていくと、今度は着荷主の存在に突き当たった」  「難しいのは、その着荷主にしても需要発生の一番 の大本だと決めつけることはできないことです。
着荷 主をさらに辿っていけば、それこそ全く家計ベースで の消費者が輸送需要を発生させていて、消費者のニー ズに応えるために末端の着荷主から上流側に順繰り にオーダーをしていくというような多層構造になって いるのかもしれない。
しかし、そうだからといって一 般の消費者の行動に規制の網をかけられるかといえば、 それはほとんど不可能な領域になってしまう」 規制の強度を決めるもの ──どこまでを法的に規制し、どこから先は運用でカ バーするのか。
あるいは行政として立ち入れるのか。
その線引きについてはどう考えますか。
 「非常に難しいところですけども、やはり省エネに ついての国民や産業界の理解、どの程度のコモンセン ス(社会的常識)が形成されているかによって、規 制の強度、あるいは対策の強度が変わってくるのだと 思います。
我々としてもCO2削減が命題だからと闇 雲に規制をかけるというのではなく、そうした理解を 得ていくことを合わせて進めていきたい。
先ほどの話 で言えば、着荷主は輸送にかかるエネルギー消費に影 響を及ぼす主体なのだという認識が広がっていくこと 自体が重要なのだと思います。
そうしたコモンセンス が形成されることで、我々が対策を打つための素地も 整ってくるはずです」 ●改正省エネ法(輸送分野)施行のスケジュール●荷主の判断基準(抜粋) ?. エネルギーの使用の合理化の基準 荷主は、技術的かつ経済的な考慮をしつつ、以下に示 す諸基準を遵守することを通じて、省エネルギー対策 H18.4 の取り組みや実施が求められる 改正省エネ法施行 H18.4 末 輸送事業者の輸送 能力届出の〆切 H19.6 末 中長期計画、 定期報告書の〆切 H20.6 末 中長期計画、 定期報告書の〆切 H19.4 末 荷主の輸送量届出 の〆切 H19.9 末 計画、定期報告書 の〆切 H20.6 末 計画、定期報告書 の〆切 4. 貨物輸送事業及び着荷主との連携 計画性及び必然性のない多頻度少量輸送等の見直し、 及び貨物の輸送時間等の決定方法を定め、緊急な貨 物の輸送を回避する ?. エネルギーの使用の合理化の目標及び   計画的に取り組むべき措置 荷主は、エネルギー消費原単位を中長期的に見て年平 均1% 以上低減する努力が求められる 3. 貨物輸送事業及び着荷主との連携 検討会や情報交換等の実施により、貨物輸送事業者 及び着荷主との連携体制の構築を図り、着荷主との 連携による返品条件の透明化により、返品に係わる 貨物の輸送を削減する。
また、貨物輸送事業者の従 業員の対する教育、研修等の実施に協力して、エコ ドライブを推進する 平成18年度平成19年度平成20年度 輸送事業者 荷 主

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