ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2007年10号
特集
環境物流の進め方 味の素──共同配送で取引条件の壁を破る

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

味の素──共同配送で取引条件の壁を破る  取引条件の改善を検討する「ロジスティクス環境会議」 の「グリーンサプライチェーン推進委員会」を舞台に、 食品メーカー同士の大規模な共同配送プロジェクトが進 められている。
業界最大手の味の素が、その取りまとめ 役を務めている。
これが実現すれば同業界の物流地図が 大きく塗り替えられることになる。
物流に差別化は求めない ──もともと味の素は物流分野の環境対策には熱心 だという印象です。
モーダルシフトでも業界の先駆的 な役割を果たしてきた。
 「当社は九五年からモーダルシフトに本格的に取り 組んでいるのですが、当初は環境対策イコールコスト ダウンでした。
つまりコストが下がるという理由から モーダルシフトをはじめとした環境対策を進めてきた わけです。
そこに二〇〇〇年頃からCSRや環境報 告書の問題が加わってきた。
これによって現在ではコ ストがイーブン、あるいは許容できる範囲のコストの 上昇であれば環境を優先すべきだというトーンに社内 の認識が変わってきた」  「今や環境対策をしていない、あるいは環境に対し て取り組みが遅れているということが、企業イメージ 自体の悪化に直接的につながりますからね。
ましてや 今回、改正省エネ法の規制が加わって、対策を怠る と荷主の企業名が公表されてしまうということになっ た以上、コストをかけてでもやるべきことはやらざる を得ないという認識になっている」 ──モーダルシフトについては既に一段落したという 認識ですか。
 「一〇〇%やりきったとは言えないまでも、既に相 当のレベルにまで達していることは確かです。
モーダ ルシフトを進めれば、CO2は劇的に下がる。
トラッ クを使うのに比べて約六分の一になりますから、改正 省エネ法で定められている年一%程度の削減は楽々と クリアできる。
しかし、当社の場合、そこは既に取 り込み済みであるため、これから省エネ法に対応して いくのも大変なんです」 ──そこで現在は「ロジスティクス環境会議」の「グ リーンサプライチェーン推進委員会」の活動をベース にして、食品メーカー同士の共同配送をしかけていま す。
しかし、この委員会の本来のテーマは取引条件 の改善です。
それがなぜ共同配送をメーンとするよう になったのでしょうか。
 「取引条件で問題になるのは、何といっても時間指 定と取引のロットです。
時間指定が厳しいために、納 品待ちのトラックが倉庫の前に連なるか、あるいは午 前便と午後便で別のトラックを手当てしなければなら ないという問題が生じている。
ロットについても、最 低取引ロットの制限がないために、低い積載率でも運 ばなければならない。
その結果、トラックの台数が増 えて、CO2も増えてしまう」  「しかしメーカーと取引先が一対一で取引条件を改 善しようとすれば、どうしても力関係が働く。
最低 発注ロットを守って欲しいとお願いしても、売れない 商品は取れない、売れ残ったら在庫責任はどうなる んだと言われるとそれまでです。
これが共配になれば 最低ロットを制限する必要自体がなくなる。
トラッ ク一台にまとめて納品するので指定時間の問題もク リアできる」  「つまり共同配送を実施することで、納品ロットや 時間指定などの取引条件の問題の多くは自然に解消 される。
そこで、いきなり取引条件の問題にメスを入 れるのではなく、先に共同配送を実施した上で、残っ た問題を一つひとつ潰していこうというアプローチを とったわけです」 ──しかし同業種共配は、過去にあまり成功例がない。
とくに業界最大手のメーカーは共配には抵抗しがちで す。
最大手は他社と比べて物量が大きいために、相 対的には積載効率もいい。
物流で差別化できる。
味 の素も同じでは。
味の素 恒吉正浩 食品カンパニー物流企画部企画グループ長 OCTOBER 2007  16 第2部規制強化をビジネスチャンスに 17  OCTOBER 2007 特集環境物流の進め方  「そんなことはありません。
そもそも当社は取引条 件という点で業界では一番厳しい。
受注の締め時間 や最低取引ロットの縛り、返品やセンターフィーの対 応にしても、得意先に対して当社は最も強く出てい るメーカーだと思います。
少なくとも取引条件の面か ら過剰サービスをしている会社ではありません」  「それに物流上の差別化などは、しょせん一時的な ものに過ぎません。
それによって未来永劫企業が繁栄 できるわけではない。
逆にそんなことにこだわること で、環境負荷が上がって、コストも上がってしまう。
その商品が売れるか売れないかという問題には、他に 大事な要件がいっぱいあります」 ──正論ですが、必ずしもそうした考え方が従来から 常識だったわけではありません  「そうかも知れません。
しかし、ここ数年の市場で 実際に何が起きているかと言えば“勝手に共配”です。
ライバルメーカー同士が手を結んで共配を開始すると いう取り組みは、話題性があるためにニュースにもな りますが、それは全体のごく一部であって、それより も、もっと大きな共配が自然に実施に移されている。
実際、卸や小売りのセンターには様々なメーカーの荷 物を混載したトラックが納品に来ている」 共配のスキームを練り上げる  「例えば宅配便であれば、どのメーカーの荷物も今 では宅配大手の二〜三社がまとめて納品している。
地場の運送会社の淘汰も進んでいる。
メーカー側に 共配をするつもりはなくても、特定のエリアの地域配 送をカバーする運送会社の数はだんだんと絞られてき ています。
結果として同じトラックが複数のメーカー の荷物を混載して納品するかたちになっている。
そん なところで優位性を保とうとしても意味がない」 ──今回の共配で主な対象になるのは?  「大きくは二つあります。
一つは中小メーカーと大 規模卸もしくは大規模小売りのセンター間の物流で す。
もう一つは、外食産業など地域ごとに中小規模 の卸が残っている業種の輸送です。
地域卸の数百坪 程度の小規模な倉庫に対しては、大手メーカーとい えども専用便では効率が悪い。
この二つが当面の対 象で、路線便に相当する中ロットの荷物が焦点になる。
その領域では、ほとんどの食品メーカーが参加する圧 倒的な共同化を実現したいと考えています」 ──具体的なスキームとしては?  「秘策はあります。
ただし今の段階ではまだ詳細に ついては話せません。
正式には来年三月のロジスティ クス環境会議の報告会で公表します」 ──いずれにしろ、大規模な共同配送となると、既 存の協力運送会社は大きな影響を受けることになりま す。
味の素をはじめ物流子会社をグループ内に抱えて いるメーカーも少なくありません。
調整は難航するの では。
 「もちろん、その点も考慮しています。
いま検証し ている最中です。
総論賛成・各論反対は共配の常で す。
それを乗り越えるには当社をはじめ、要はエゴ を持っているところが引くしかない。
何のために引く のかといったら環境のためです。
逆に環境や改正省 エネ法というプレッシャーがなければ、共配の足並み は揃わないのかも知れません。
こうしたら効率的だと いうことがわかっていても、自分の今のやり方を変え たいという人は少ない。
これまでの物流の取り組み を見ていると、そこを乗り換えるのには、恐らく三 年から五年はかかる。
しかし今なら、それを一年で クリアできる。
環境という旗印が絶対的な器になる からです」 味の素グループの商品群別モーダルシフト率 2003年度2004年度2005年度 調味料、食品 ギフト 冷凍食品 グループ全体 20.9 23.5 19.4 20.4 2.8 2.4 3.1 2.9 23.7 25.9 22.5 23.3 鉄道 海上 計 21.2 28.8 24.8 22.8 3.4 0.0 4.0 3.5 24.6 28.8 28.8 26.3 鉄道 海上 計 25.5 25.7 24.8 23.7 5.4 0.0 5.0 5.1 30.9 25.7 29.8 28.8 鉄道 海上 計 (注記)モーダルシフト率については、味の素(「味液」バルク輸送を除く)、味の素冷 凍食品。
鉄道利用分と海上利用分とし、単位はトンキロ。
鉄道・海上利用に付 随する陸送はトラック利用として評価。
(注記)CO2排出量の算出については、味の素(「味液」バルク輸送 も含む)味の素冷凍食品 味の素グループの国内製品輸送によるCO2 排出量と原単位 50,000 40,000 30,000 20,000 10,000 0 140 130 120 110 100 0 2002 2003 2004 2005(年度) 139 134 130 125 44,812 44,933 42,788 40,842 資料はいずれも味の素の環境報告書より CO2 排出量 (t-CO2 /年) 原単位 (t-CO2 /トンキロ) (%)

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