ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2007年6号
特集
コスト偏重の誤算 常識の逆張りで差別化する

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

勝ち組ネット通販の物流戦略 昨年九月、オフィス用品通販のアスクルは延べ床面 積約二万二〇〇〇坪という同社最大の物流拠点「大 阪ディマンドマネジメントセンター(DMC)」を大 阪市此花区に稼働させた。
施設はプロロジスからの長 期賃貸で総投資額は約三三億円に上る。
これに伴い、 3PLのワールド・ロジに運営を委託していた旧大阪 センターは閉鎖し、オペレーション管理も直轄に切り 替えた。
ほぼ同じタイミングで、「シンクロカーゴ」と呼ぶ 新たな配送情報管理システムを稼働させている。
協力 運送会社のドライバーに携帯端末を配備。
リアルタイ ムの配送ステータス情報を把握し、顧客からの問い合 わせに即座に回答する仕組みだ。
ユーザーが直接ウェ ブ上の地図で配達中の車両の位置と納品予定時間を 確認することもできる。
今後も二〇一〇年まで、物流インフラやSCMシ ステムの整備に毎年五〇億円規模の投資を行う計画 だ。
既に同社は社名にも掲げた「明日来る」というリ ードタイムを、自社配送網の整備によって当日配送の 「今日来る」に進化させている。
これをさらに、必要 なモノを必要な時に必要な場所に届ける顧客サービ ス・パッケージへと革新する狙いだ。
アスクルは日常のオペレーションの管理にも、「ク レーム率」と「当日配送の時間内配送率(最終配送 一八時までの完了率)」という対顧客向けの指標を採 用している。
また顧客サービスの実態を調査するため に、定期的なアンケート調査と顧客へのヒアリングを 行い、さらにはロジスティクス部門のスタッフが協力 会社のトラックに同乗までして、配送品質や配送員の マナーをチェックしている。
常識の逆張りで差別化する “死に筋”まで品揃えする。
在庫も自分で抱える。
物流 インフラへの投資も厭わず、現場のオペレーションまで 社内で処理する――ネット通販の勝ち組たちは、従来の 物流管理の常識とアウトソーシングのトレンドに逆行す る戦略で売り上げを伸ばしている。
(大矢昌浩) JUNE 2007 18 同様に金型部品卸のミスミグループ本社も、同社が 基本コンセプトとする「品質、短納期、コスト」の頭 文字をとった「QTCセンター」と呼ぶ自社物流セン ターを全国に配置し、独自の配送ネットワークを運営 している。
かつては宅配便を利用していた。
しかし専 用便を試してみたところ、運用の手間やコスト負担は 増えたが、顧客満足度が上がり、売り上げにプラスの 効果が認められたことから全国展開に踏み切った。
顧客サービスから出発してロジスティクスを設計す る。
原則通りのマネジメントをアスクルとミスミは日 本市場で実行した。
そのことが荷主企業自らの大規 模な物流設備投資や現場オペレーションの自社管理 など、アウトソーシングのトレンドとは逆を行く施策 へと両社を導いた。
その成功は、彼らの後を追うベンチャー企業のロジ スティクス戦略に大きな影響を与えている。
ミスミの 創業者、田口弘前社長が社外取締役に名を連ねるチ ップワンストップもその一つだ。
インターネットを使った半導体一個からの小口販売というニッチなビジネ スで二〇〇四年に東証マザーズに上場している。
現在の扱いアイテム数は五五〇万。
うち一〇万以 上のアイテムを最短翌日・最長一週間で納品する「即 納在庫」と位置づけ自社で保管している。
当初は無 在庫経営を目指して一万アイテム程度を保管している だけだったが、顧客サービスレベルを向上させるには 一定の在庫保有が避けられないと判断を改めた。
その 結果、財務諸表上の棚卸資産額は昨年一年間で二倍 以上に膨らんだ。
「もちろん在庫リスクは当社だって避けたい。
しか し、それで顧客満足度が落ちてしまえば元も子もない。
トータルな顧客サービスが当社の競争力の源泉だ。
物 流も顧客ニーズありきで、ゼロから全て自前で構築し てきた」と、同社の梶川拓也取締役マーケティング部 部長は説明する。
サプライヤーの数は約七〇〇社。
発注をかけた時の 各社の受入率、回答の対応速度、納品リードタイム、 納品精度などを全てデータベースで管理し、サービス レベルに問題がある場合は改善を要求する。
改善しな ければサプライヤーを変える。
それができない場合は 自社で在庫を抱えてしまうといった措置をとる。
物流現場のオペレーションも全て内製化している。
複数のサプライヤーから仕入れた部品を納品先ごとに まとめる仕分け作業をはじめ、五〇〇〇個が一つのユ ニットになった部品を注文に応じて小分けにする、あ るいは水晶デバイスの周波数を設定するといった、細 かな流通加工まで、正社員マネジャー一人と直接雇 用の契約社員で処理している。
もちろん物流コストは把握しているが、あくまでも 内部指標として推移をチェックしているに過ぎない。
それよりも作業品質など、対顧客指標を向上させるこ とに、はるかに重きを置いている。
仮説を元にサービ スを設計し、それを実施し、顧客の反応を確かめて修 正する。
それを飽きずに繰り返す。
「極めて手間のかかる泥臭い仕事だ。
複数の3PL にアウトソーシングを打診したこともあるが、オペレ ーションの詳細を説明すると、現状の数倍の料金を提 示されるか、あるいは断られるだけだった。
しかし、 そのことでかえって、物流サービスで差別化できる、 参入障壁を高くすることができると認識できた」と梶 川取締役は説明する。
B to Cビジネスでも同じ戦略が成り立つ。
東証マ ザーズ上場で健康関連商品をネット通販するケンコー コムは昨年一〇月、宇都宮に自社物流センターを稼 働させた。
「約二万アイテムを在庫し、関東以北の顧 19 JUNE 2007 客に対して昼の十一時までの注文を即日出荷してい る」と、同社の内田善久宇都宮物流センター長は説 明する。
同センターのほか福岡県飯塚市には中央在庫拠点 を置いている。
それも当初は約一〇〇〇坪の規模だっ たが、物量の急増に伴い〇五年に二倍に拡張。
これを さらに三倍まで拡大する計画だ。
同拠点への投資額は 累計で一〇億円以上に達する。
年商約六五億円の企 業にとっては小さな金額ではない。
顧客サービスは全て内製化 それでも物流をはじめコールセンター業務など、顧 客サービスに関する機能は基本的にアウトソーシング しない方針をとっている。
庫内オペレーションも直接 パート・アルバイトを雇用して内製化している。
庫内 作業用のバーコード管理システムやサプライヤーへの 自動発注システムも全て自社開発だ。
在庫は増える一方だ。
普通なら?死に筋〞として店舗から排除されてしまうアイテムでもネットでは売 れる。
価格競争もないためむしろ粗利率は大きい。
ロ ングテール理論が利く。
これに対応してアイテム数を 毎年一万〜二万のペースで増やしている。
現在は約七 万。
これを当面は一〇万まで拡大する計画だ。
しかも、 その大部分を自社で在庫する。
ネット通販ビジネスでは、自分では在庫を持たず、 ウェブサイト上で注文だけ受け、物流のオペレーショ ンをサプライヤーに委託する?ドロップシッピング〞 が定石として広く普及している。
それとは正反対に、 同社はロジスティクスで差別化するビジネスモデルを 選択した。
物流オペレーションを裏付けとしたリアル な顧客サービスには長期間持続する競争優位性がある と分かっているからだ。
ケンコーコムの 内田善久宇都宮物 流センター長 チップワンストップ の梶川拓也取締役マ ーケティング部部長 チップワンストップの物流 センター。
本社そばのビル のワンフロアを借りている ケンコーコムの物流センター。
一日最大5000件の出荷を処 理している

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