ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2007年6号
特集
コスト偏重の誤算 デル・モデルは陳腐化したか

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

顧客サービスから出発する。
それがロジスティクス の原則だ。
ところが日本企業の多くはロジスティクス の生み出す顧客サービスに無頓着でいる。
結果として コスト偏重を招き、顧客の期待を裏切り、競争力を 失うという悪循環に陥っている。
JUNE 2007 14 サービス神話の崩壊 デルが失速している。
昨年第三・四半期に世界首 位の座をヒューレットパッカード(HP)に奪われて 以降、日を追うごとにその差が拡大している。
米調査 機関のガートナーによると、今年第一・四半期にHP がパソコンの出荷台数を前年同期比で二八・七%増 加させたのに対し、デルは同七・八%減らした。
これ によってデルの世界シェアは一六・四%から十三・ 九%に下落した。
顧客満足度の低下が不振の主な原因として挙げら れている。
実際、シェア凋落に先立ち二〇〇一年頃か ら、主戦場の米国市場ではデルの顧客満足度の低下 が各種調査で顕著になっている。
その後のテコ入れに よって回復の兆しは見られるものの、かつて同社が誇 っていたサービス神話は今や完全に過去のものとなっ てしまった。
デル・モデルはこれまで、SCMの手本とされてきた。
受注生産方式とVMI(Vendor Management Inventory:ベンダー主導型在庫管理)によって極限 まで在庫を絞り、ITとアウトソーシングの徹底活用 でオペレーションを自動化するその手法は、同じパソ コン業界はもちろんのこと、他の業界でもベンチマー クの対象とされ、多くの追随者を生んだ。
しかし、そのほとんどが失敗に終わった。
二つの理 由が指摘されている。
ひとつは「ディマンド・コント ロール・マネジメント(DCM)」だ。
いくら緻密に 市場を分析しても、需要予測が必ず当たるとは限らな い。
それに対してデルは、需要自体をコントロールす ることで計画通りの販売を実現している。
ある製品の売れ行きがふるわなかった場合でも、価 格を下げる、あるいは他の製品と組み合わせてセット デル・モデルは陳腐化したか 販売するといったマーケティング的な施策を打つこと で売り切る。
一方、生産が追いつかなくなった場合に は、キャンペーンを事前に予告して、それまでの期間 の需要を抑えるといった対応をとる。
デルはメーカー 直販、しかもネット販売なので、リアルタイムで自由 に価格を操作できる。
これが店頭販売や販売代理店 などのチャネルを併用していれば、そうはいかない。
デル・モデルのもう一つの導入障壁は「カスタマ ー・エクスペリエンス(顧客の満足体験)」と呼ばれ る経営コンセプトだ。
ロジスティクスをはじめデルの サプライチェーンは全て顧客の満足体験という観点か ら、組織やKPI(主要業績評価指標)、スタッフの 報酬体系が設計されている。
それを他の会社が導入し ようとすれば、既存の仕組みと衝突を起こす。
ダイレ クトモデルや、そこで使用されているITは導入する ことができても、コンセプトは目に見えない組織カル チャーまで含んだものだけに、容易な真似を許さない。
製品開発力やデザイン性ではライバルに見劣りする デルが、競争の激しい同業界で勝ち続けることができ たのは、サプライチェーンの効率性に加え、顧客指向 で貫徹された組織という、キャッチアップしにくい、 従って優位性が長く持続する強みを持っていたからだ。
海外シフトが裏目に そのデルが顧客満足度で躓いた。
同社は二〇〇〇 年に米国市場向けのコールセンターをインドに設置し ている。
同様に二〇〇二年には日本市場向けセンター を中国・大連に置いた。
いずれも本国と比較して割安 な人件費を狙ったものだ。
これが顧客サポート機能の 低下を招いた。
しかも現地スタッフの教育に予想以上 の手間と時間がかかり、トータルコストも期待したよ うには下がらない。
実際、その後、同社はコールセン 15 JUNE 2007 ター機能の海外シフトから一転、国内拠点の強化に 動いている。
このコールセンターの問題に象徴されるように「デ ルが一時、それまでの顧客指向から、売り上げやコス トを重視する方向にシフトしたのは確かだ。
サービス をなおざりにして規模拡大を優先してしまった。
経営 の軸がブレてしまったことが、その後の不調を招いた」 と、同業界のアナリストは解説する。
今年一月には創業者のマイケル・デルが会長職から CEO兼務に復帰。
原点回帰による巻き返しを急い でいる。
しかし、この一年の間に前CEOをはじめ、 CFOや技術畑のトップなど、創業時代からデル・モ デルを支えてきた経営陣がごっそりと入れ替わってし まった。
失われた組織カルチャーを巻き戻すのには、 しばらく時間がかかりそうだ。
現在のデルの不振の原因についてPRTMの入江 仁之パートナーは、「ライバルのHPが合併後の混乱 から回復し、パフォーマンスを上げてきたこと。
それとデル自身の個人ユーザー市場の読み違いが大きい。
そこで教訓とすべきは、デル・モデルの陳腐化ではな く、顧客サービスの重要性だろう」という。
米国ホワイトハウスの調査によると、購入した製品 やサービスに満足できなかった消費者の九六%は、そ の不満を企業に対して表明はしないが、そのうち九 〇%は二度と顧客として帰ってくることはなく、また 不満を感じた消費者は少なくとも九人にそのことを伝 えるという。
顧客サービスは、すぐに業績に影響する ことはなくても、長期的には確実に売れ行きに反映さ れる。
ところが目の前のコストや効率性にあまりに夢 中になっていると、もっと大事なものがあることを、 つい忘れてしまう。
そのことを最も熟知しているはず のデルでさえ、その罠に落ちた。
( 大矢昌浩) PRTMの入江仁之 パートナー

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