ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2007年3号
ケース
宅配ビジネスセブン・ミールサービス

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MARCH 2007 46 スタート時から一変した営業方針 セブン―イレブン・ジャパンの子会社で食 事の宅配ビジネスを手掛けているセブン・ミ ールサービス(以下、セブンミール)は昨年一〇月、全国にサービスエリアを拡大した。
これによって国内に一万一五七四(今年一月 末時点)あるセブン ―イレブン・ジャパンの 店舗の大半で、弁当や惣菜の宅配サービスを 利用できるようになった。
セブンミールに会員登録(入会金・年会費 無料)すると毎月、専用カタログが送られて くる。
カタログには日替わり弁当、惣菜、下 ごしらえ済みの食材、デザートなどが載って いて、利用者はそこから好きなものを選んで 電話やインターネットで注文する。
一年三六 五日いつでも一食分から注文できるが、一回 の注文は合計一〇〇〇円以上が条件。
最寄 のセブンイレブンの店舗で商品を受け取れば 送料は不要だが、宅配だと一回につき二〇〇 円(税込み)の配達料がかかる。
売上高は公開していないが、現在の会員数 は約一四万人。
サービスエリアの拡大ととも に徐々に増えてきた。
「このまま順調に会員 数が伸びていけば、事業としてやっていける 感触にはなってきた。
カタログの制作費や、 電話の問い合わせに対応するサービスセンタ ーの維持費などがかかるため、あともう一息 という感じ。
正直なところ、やっと先が見え てきた」と、同社営業部の石塚光男マネージ ャーは率直に現状を説明する。
常勝イメージの強いセブンイレブングルー プだが、この事業ではかなり苦しんできた。
二〇〇〇年八月にセブンミールが発足してか ら、すでに六年以上がたっている。
二年目に 全国展開をするとしていたスタート時の計画 は大幅にずれ込んだ。
そもそも設立時のセブンミールは、介護サ ービスの需要拡大を主なターゲットとしてお り、現在とはまったく事業コンセプトが異な っていた。
当時は二〇〇〇年四月に介護保険 法が施行された直後で、多くの企業が新たな 宅配ビジネス セブン・ミールサービス 専用便からヤマトへの委託に転換 全国展開と“御用聞き”支援を実現 弁当や惣菜の宅配ビジネスを手掛けるセブ ン・ミールサービスが、設立6年目にしてようや く事業の全国展開に踏み切った。
スタート当初 は専用便で行っていた宅配業務を、ヤマト運輸 にアウトソーシングしたことが事業拡大の決め 手になった。
コンビニチェーンと宅配事業のト ップ同士が手を組み、ライバルには真似のでき ないビジネスモデルを構築しつつある。
47 MARCH 2007 ビジネスチャンスの到来に沸いていた。
配食 サービスが直接、保険給付の対象になってい たわけではないが、高齢化社会の進展状況を 考えれば期待できる分野とされた。
これまで 若年層を主要顧客として成長してきたセブン イレブンが、シニア層を取り込んでいくうえ でも有効な手段と思われた。
セブンイレブンは当初、この事業を訪問介 護サービス大手のニチイ学館と組んで進めよ うとした。
セブンミールの資本金三億円の当 時の出資比率は、セブンイレブンが六〇%、 ニチイ学館が三〇%。
残りを三井物産とNE Cが五%ずつ出していたが、この二社はあく までもサポートする立場にすぎない。
実質的 にはセブンイレブンとニチイ学館による新規 事業だった。
高齢者をメーンターゲットとする食事の宅 配ビジネスを全国展開する。
この事業に、ま だ当時はスタートしたばかりだったネット通 販のセブンドリーム・ドットコムや、設立が 予定されていたアイワイバンク(現セブン銀 行)なども絡めて、「配食サービス」や「買 物代行サービス」、「代金収納サービス」など を展開していく――これが発足した当初のセ ブンミールの狙いだった。
しかし、この目論見はあっけなく破れた。
介護サービスに携わる事業者が、利用者に特 定の物品販売を推奨することは望ましくないという行政などの考え方があって、思うよう に営業活動を展開できなかったのである。
こ れによって設立時のシナリオは完全に狂って しまった。
ほどなくニチイ学館は資本を引き 上げ、セブンイレブン九〇%という現在の出 資比率に落ち着くことになる。
採算の合わなかった専用物流 さらに深刻な問題を抱えていたのが物流だ った。
この事業にとって宅配の物流は、ビジ ネスの成否すら決しかねない重要な業務だ。
このため発足時のセブンミールは、すべての 宅配業務を専用便でまかなおうと考えていた。
物流センターについても専用拠点を構える方 針だった。
利用者が増えて配送密度が高まれば、専用 物流でもコストは合う。
セブンイレブンの共 配センターの運営で取引のある物流業者を中 心に展開していけば、ゼロからのスタートと いうわけでもない。
初期段階では共配センタ ーの一角に間借りするなどしてコストを抑え、 専用車両の台数も最低限にとどめる。
会員数 の伸びに応じて専用インフラを拡充していけ ばいい、という考え方である。
たしかに利用者の密度がある程度まで達し さえすれば、専用物流の優位性は大きい。
何 よりも購入者がすぐに口に入れる食事を扱っ ていくうえで、物流まで自ら管理しているほ うが消費者の信頼を得やすい。
いったん展開 してしまえば、物流インフラそのものがライ バルとの差別化要因にもなる。
しかし、これも甘かった。
前述したような 介護保険にまつわる見込み違いもあって、肝 心の利用者数がなかなか伸びなかった。
当然、 専用物流の採算割れが続く。
かといって、宅 配料金を大幅に値上げすることもできなかっ た。
嗜好性の強いピザや寿司ならまだしも、 毎日の食事のために利用者が高い送料を負担 しつづけるとは考えにくいためだ。
日常的な食材の宅配ビジネスで現在、圧倒 的な強みを発揮している生協の個配事業が、 一週間に一度だけのルート配送となっている のも、専用便による宅配コストの制約があるためだ。
こうすれば一週間分をまとめ買いす るため、一回あたりの購入額がまとまり物流 効率を確保できる。
これに対して、一〇〇〇 円以上の注文であればいつでも専用便で配達 するというセブンミールの当初のビジネスモ デルは、かなり劇的に配送密度を高められな ければ成立しえないものだった。
結果として、セブンミールの事業展開は当 初の計画とは大幅に乖離してしまった。
スタ ートから数カ月こそ順次、一都三県にサービ スエリアを拡大していったが、その後は長い 停滞を余儀なくされた。
ある意味では事業の セブン・ミールサービス 営業部の石塚光男マネー ジャー MARCH 2007 48 当がほとんどだ。
昼食にせよ夕食にせよ配達 時間の制約も厳しい。
セブンイレブンの店舗 から先だけとはいえ、多忙な日々を送ってい るセールスドライバーが、この仕事を新たに こなせるのかどうか分からなかった。
ただしネットワークを限りなく緻密にして いこうとするセブンイレブン側の発想そのも のは、全国の拠点数を五〇〇〇店に増やす計 画にすでに着手していたヤマトと完全に一致 していた。
ごく狭いエリアの中で、セールス ドライバーの顔の見えるサービスを提供しよ うとしていたヤマトにとって、生活に密着し た日常食の配達が魅力的であったことも想像 に難くない。
二〇〇三年の半ばに、両社は北東京の一部 の地域でテストをスタートした。
ヤマト運輸 でセブンミール向けの営業を担当している宅 急便第二営業部の大場史宣係長は、ヤマト側 の雰囲気をこう振り返る。
「あの頃は当日配 達そのものがほとんどなかったし、このよう な荷物を大々的に扱うのも当社にとって初め ての経験だった。
かなり多くの人間が荷扱い のテストなどを繰り返したと聞いている。
ド ライバーの話から、問題点を現場レベルで検 証する必要もあった」 一年近い慎重なテストを経て、両社は二〇 〇四年七月からサービスを本格展開しはじめ たのだが、実はそこにはセブンミールとは無 関係の事情も働いていた。
ちょうど当時は、 日本郵政公社とローソンが急接近していた時 期。
二〇〇四年八月一七日には、ローソンが ヤマトに取扱店契約の解約を通告し、袂を分 かつことになる。
こうした宅配便の取扱店を めぐる地殻変動が、一方ではセブンイレブン とヤマトの盟友関係を深めることにつながっ ていた。
ヤマトにとってセブンイレブングループと 協業する意味はより大きなものとなり、この ことは専用物流から脱却しようとしていたセ ブンミールの思惑と合致した。
両社は互いに 協力しあいながら、ヤマトの現場にこの新しい業務を浸透させていった。
サービスを開始 するときには、必ずセブンミールの担当者が 当該エリアのヤマトの主管支店に出向いて、 エリア支店長たちを集めて説明会を催すとい ったことを繰り返した。
荷主の熱意はヤマトの現場にも伝わり、最 初はこの仕事に難色を示していたドライバー も徐々に協力的になっていった。
「スタート から一カ月もすると、ドライバーの負担は思 ったほど大きくないことが現場でも分かって きた。
まだ現状では一人が担当している件数 が少ないこともあるが、ほとんどのお客様は 限界すら感じてもおかしくない状況だったは ずだが、セブンミールが真骨頂を発揮したの はここからだった。
専用物流に見切りをつけて、ヤマト運輸と 組むという大胆な方針転換をしたのである。
常識的に考えれば、ターミナルなどでのリレ ー方式の仕分けを特徴とする宅配便のインフ ラで、日常の食事は扱えない。
荷扱いに無理 があるし、コスト面でも合わないことは容易 に想像できる。
しかし、すでにドミナント展 開を果たしているセブンイレブンの店舗から 先だけであれば、宅配事業者の緻密なネット ワークを活用できるのではないか。
これがセ ブンミールの発想だった。
ネットワークの緻密さに共通点 宅配パートナーが、最初からヤマトありき だったわけではない。
全国展開を視野に入れ て大手宅配業者と組むことを考えたのだが、 パートナー選びは慎重に進められた。
「何よ りも最も信頼できるところはどこなのかを考 えた。
きちんとチルド配送をやってもらえる ことが必須条件だったし、利用者からの信用 も大切だ。
いろいろと調べていったなかで評 価が一番高かったのは、やはりヤマト運輸だ った」(石塚マネージャー) もっとも、ヤマトにとってもこの仕事は、 安請け合いできるものではなかった。
一般的 な宅配荷物と違って、セブンミールの商品は ビニールの手提げ袋に入っているだけのお弁 ヤマト運輸・宅急便第2 営業部の大場史宣係長 49 MARCH 2007 リピーターのため、少し集配コースを変えれ ば対応できる。
むしろ、この業務をきっかけ に、新たに『宅急便』のお客様になっていた だけるといった付帯効果に目を向けるように なった」とヤマトの大場係長は述懐する。
新しい流通インフラの誕生 専用物流からの脱却という決断は、セブン ミールにとっても吉と出た。
全国の現場を均 一サービスで運用できるヤマトと組んだこと によって、サービスエリアの拡大は格段に容 易になった。
この新しい役割分担を本格的に スタートしてから約七カ月後の二〇〇五年二 月には、対象エリアを関東全域へと拡大。
以 降は段階的に対象エリアを広げ続け、ついに 昨年一〇月に、冒頭で述べた全国展開へとこ ぎつけた。
従来とは打って変わった順調なエリア拡大 を支えたのは、両社が協力しあいながら問題 の解決に取り組んだことが大きかった。
たと えば、セブンイレブンの各店舗の商圏と、ヤ マトのドライバーの集配エリアが食い違って いるようなエリアで、セブンミールが受けた 注文通りにヤマトのドライバーが動いている と、担当エリアの外にある店舗まで集荷に行 くといったムダが発生してしまう。
異なる会社が別々の事業を展開している以 上、違いがあるのは当たり前だ。
しかし、こ れを放置しておくと、ヤマトの現場にばかり シワ寄せがいき、いずれはセブンミールの配 達品質の低下として表れることになる。
こう したケースではヤマトからセブンミールに依 頼して、店舗や利用者の調整を図ってもらい、 無理のない配送体制を構築できるようにして いるのだという。
また、一部のドライバーに仕事を集中させ ないための工夫もしている。
セブンミールは 会員に、昼食を正午までに届けることを約束 している。
これに対して、昼食のための商品 がセブンイレブンの店舗に納品される時刻は、 午前八時三〇分から十一時までと店舗によっ てまちまちだ。
十一時すれすれに着荷する店 舗では、それから約一時間で集荷と宅配を終 える必要がある。
このようなスケジュールで 動いている地区で取扱件数が重なれば、現場 はたちまちパンクしてしまう。
こうした事態を未然に防止するため、セブ ンミールは前日の午前十一時に締め切った注 文を、その日の一七時にはヤマトに流してい る。
情報はヤマトのサービスセンターを経由 して各ドライバーに伝えられ、もしパンクが 予想されるような場合は、前日のうちに現場 レベルで対策を打つ。
「一度でも配達が遅れ れば大きなクレームにつながりかねない。
そ うならないように前日の夕方と当日の朝の二 度、あえて同じ情報を現場に流すようにして いる」とヤマト運輸・宅急便第二営業部の上 野真弘氏は言う。
会員が自分で注文した商品だけに、配達時 に留守宅になっていることは少ない。
それでも急用などで不在だった場合は、通常業務と 同じように不在票を残し、一度だけ再配達に 応じることがルールになっている。
その際に はセブンミールのコールセンターに会員から 連絡が入ることもあるが、不在票に書かれた ドライバーの携帯電話に直接、連絡が入るこ とが多い。
このように現場で完結して処理で きることも、担当エリアの狭いヤマトならで はの強みといえる。
セブンミールによる食事の宅配ビジネスは、 一万二〇〇〇近い店舗をドミナント展開して いるセブンイレブンと、全国に約四万人のセ MARCH 2007 50 の活動をバックアップする存在へと変わった。
つまり、かつてはプロフィットセンターだっ たセブンミールが、コストセンターへと変質 しているのだ。
現在、セブンミールの宅配コストは、セブ ンイレブンの本部とFC店がそれぞれに負担 している。
これによって本部が後押ししよう としているのが、いわゆる?御用聞き〞だ。
近年、セブンイレブンの本部は、各店舗によ る御用聞き営業を推進してきた。
飽和感の出 てきたコンビニ市場で勝ち残っていくために は、店舗ごとに近隣住民にアプローチしてい く必要がある。
そうすれば既存の商圏をさら に深耕できるはず、というわけだ。
だが現実には、店舗が抱えている人手は限 られている。
住民に個別にアプローチをして いる余裕などないという店だって当然ある。
「いつも加盟店さんがお客様のところに行け るとは限らない。
だが、忙しいときはヤマト さんを使えばいいとなれば、お店の安心感に つながる。
もちろん加盟店さんが自分で配達 した場合は、ヤマトさんへの支払いは発生し ないため、お店の取り分が増えるようになっ ている」とセブンミールの石塚マネージャー はヤマトと組んだ意義を強調する。
現在のセブンミールは、セブンイレブンの 本部がチェーン全体で御用聞き営業を推進し ていくための企画部門のような位置づけにな っている。
だからこそセブンミールがカタロ グやネットを介して受注する売り上げも、す べて当該エリアの店舗の扱いになる。
このよ うに直接、利益を追求しなくなったことが、 コスト面でヤマトと折り合えるようになった 最大の理由といえる。
一連の取り組みの背景には、セブンイレブ ンの店舗の一日あたりの販売金額の下落も影 響している。
ピーク時の九三年に六八万円余 りあったセブンイレブンの平均日販は、現状 では五万円近く減っている。
見方を変えれば、 一日あたり五万円分の物流インフラが遊んで いるということだ。
このインフラを有効活用できれば、多少のコスト負担が発生しても全 体としては採算が合う。
セブンイレブンとヤマトが構築した物流イ ンフラに乗せられる荷物は、いまセブンミー ルが扱っている食事だけに限られない。
今後 は利用者の反応をみながら、さまざまな試み がなされるはずだ。
こうした試みを通じて、 コンビニと宅配業のトップ同士による強者連 合が相乗効果を発揮するようであれば、ライ バルも対抗せざるをえない。
他社はどのよう な戦略に出てくるのか。
興味深いところだ。
( フリージャーナリスト・岡山宏之) ールスドライバーを抱えているヤマトの組み 合わせだからこそ軌道に乗った。
いずれかが 単独でやろうとしても難しかったはずだ。
強 者同士のコラボレーションが、新しい流通イ ンフラを生み出した。
単独事業から?御用聞き〞支援へ 物流コストの問題もクリアしつつある。
ま ず店舗まで商品を運ぶコストは、セブンイレ ブンの商品供給網に相乗りすることでかなり 軽減できた。
もちろんセブンミールにしてみ れば、物流業者に代わって、新たにセブンイ レブンの本部への支払いが発生した。
それで も専用物流と比較すれば、物流効率が異なる 分、負担は小さくなっている。
また、宅配物流のコスト負担についても、 ビジネスモデル全体のなかでメドをつけよう としている。
現状でも、会員から受け取る宅 配料金二〇〇円だけでは、店舗への集荷と会 員への宅配費用の全額をまかなうことはでき ない。
セブンミールが実際にヤマトに支払っ ている金額との差額は、常に持ち出しになっ ている。
これが同社の事業にとっては大きな 課題だったのだが、まったく異なる観点から 解決する方法があった。
実はヤマトと組むことを決めた時点で、セ ブンミールの事業モデルは本質的に変わって いる。
当初は?事業〞として利益を生み出す ことを最大の目的としていたのだが、およそ 三年ほど前からは、セブンイレブンのFC店 ヤマト運輸・宅急便第2 営業部の上野真弘氏

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