ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2007年2号
特集
物流企業番付 平成19年版 総合ランキングTOP10

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

オールドエコノミーの復活 コマツ、三菱電機、日立建機、マツダ――いずれも 九〇年代後半から二〇〇〇年初頭にかけ、業績悪化 からリストラに追われていたオールドエコノミーの大 手メーカーであり、業績のV字回復を経て、現在は勝 ち組として過去最高益を更新している点でも共通して いる。
彼らを親会社に担ぐ物流子会社が、今日の物 流業界を席巻している。
親会社の業務構造改革が物 流子会社を飛躍させる土壌となっている。
このたび本誌は国内物流企業売上高上位約二〇〇 〇社を対象に、直近三カ年の決算数値を分析。
各社 の成長性や収益力、安定性を評価し、物流会社の強 さを検証するランキングを作成した(一五頁「評価の 方法」参照)。
その結果、上位にはグローバル化の流 れに乗る国際物流企業や有力3PLを抑え、重厚長 大産業の老舗メーカーを親会社に持つ物流子会社が 並んだ。
一時は親会社の業績低迷から苦境に陥り、人員削 減や事業再編を強いられていた子会社群だ。
物流子 会社の必要性そのものを問う株価市場主義の洗礼も 受けた。
しかしグループ内における位置付けを再定義 された結果、逆に従来よりも役割を強化されることに なった物流子会社が、親会社の業績回復という追い 風を受けて爆発的に業績を伸ばしている。
総合一位にランクしたコマツ物流の売上規模は過 去五年間で二倍以上に拡大した。
親会社コマツの業 績回復には当然恩恵を受けている。
ただし、同期間の コマツの増収率は約三六%に過ぎない。
しかも売り上 げ増は海外市場の需要拡大によるもので、国内の建 機市場はむしろ縮小傾向にある。
売り上げのほとんど を国内物流事業に依存するコマツ物流にとって、経営 解説 FEBRUARY 2007 12 勝ち馬に乗る物流子会社が圧倒 13 FEBRUARY 2007 環境は必ずしも良好とは言えなかった。
親会社のグローバル化に追随するかたちで〇六年二 月には中国青島に現地法人を設立、遅ればせながら 海外物流にも乗り出したが、その成果はまだ業績には 反映されていない。
外販拡大にも意欲を見せるが、売 り上げに占める比率はむしろ低迷気味だ。
それでも事 業領域を、従来型の物流事業から、親会社の部品調 達を商流ごと代行する商社機能に広げたことで、急成 長が可能になった。
こうした親会社向け事業の領域拡大は、上位にラ ンクされた物流子会社に共通している。
外販の獲得に よる親会社依存体質からの脱却が、これまでは物流子 会社経営の定石とされた。
しかし直近三カ年に限って は、物流子会社の業績を決定する要因として、事業 領域の設定が外販以上に大きく影響している。
物流子会社戦略の転換 老舗の大手メーカーのリストラが物流子会社に大きなビジネスチャンスをもたらした。
今回のランキング で総合四位となったマロックスは、マツダがほぼ一〇 〇%の株式を所有する物流子会社だ。
米フォード・ モーター主導のマツダの経営再建で一時は、他のグル ープ会社と同様に売却まで検討される存亡の危機に 立たされていた。
大手メーカーがそれぞれ傘下に物流子会社を抱える 日本の現状は世界的に見て異例といえる。
欧米の産 業界ではコア・コンピタンスとはなり得ない機能にリ ソースを投下するのは非効率とされ、メーカーの物流 は資本関係のない第三者へのアウトソーシングが常識 となっている。
実際、日産自動車はゴーン改革の下、 〇一年に物流子会社のバンテックとゼロ(旧・日産 陸送)の株式をMBO(子会社経営陣による買収)で FEBRUARY 2007 14 売却している。
しかし、日産とは逆にマツダは〇四年一〇月、マロ ックスに追加資本を投下し、完成車輸送のマツダ物 流を吸収させて、結びつきを強化する道を選んだ。
同 じタイミングで、マツダは本社の生産管理部と物流本 部の機能を統合し、受注から生産、納品に至る一連 のプロセスを一貫して管理する体制を整えている。
目 的はロジスティクス改革によるトータルリードタイム の短縮だ。
そのオペレーションの担い手としてマロッ クスをグループ内にとどめておこうという判断だった。
もっとも国内市場の物量低迷は自動車産業も同様 だ。
マツダ物流を吸収しただけでは、合併によるマロ ックスの増収効果も一時的なものに終わっていたはず。
それが合併後も右肩上がりで伸びているのは、合併を 機に部品調達先の管理や生産加工、販売支援などに、 事業領域を拡大させたからだ。
マーケティング戦略の確立急げ 米国の物流市場では、主要産業が構造不況に陥っ た九〇年頃に本格化した大手メーカーのリストラが、 3PL台頭の引き金となった。
米国から一〇年遅れ て日本でも、基幹産業の大手メーカーが大量の人員 削減も厭わないリストラに乗り出した。
そこで生まれ るアウトソーシングのニーズは、日本の物流市場に3 PLを普及させる原動力となるはずだった。
しかし、蓋を開けてみれば日本では、荷主と資本関 係を持たない3PLではなく、物流子会社の役割の 変化によって、アウトソーシングのニーズが吸収され た。
荷主は3PLの活用よりも、身内でロジスティク ス改革を実施することを選んだ。
独立系3PLは物 流子会社の壁を崩せなかったとも言える。
しかし、親会社のリストラに永続性は期待できない。
15 FEBRUARY 2007 構造改革が一段落して、現在の景気がピークアウトす れば、売り上げのほとんどを親会社に依存する物流子 会社は、再び存立基盤を脅かされることになる。
中国 特需に沸くフォワーダーや港湾関連などの国際物流企 業もそれは変わらない。
生き残った物流子会社はまだ、拡大した事業領域 をグループ外に販売できるだけの競争力を持ったソリ ューションとして確立できてはいない。
現在の業績回 復も、このままでは物流子会社から3PLへの業界再 編を先送りするだけに終わってしまう。
国際物流企業 の差別化の裏付けのない横並びの投資もまた、景気の 反転でいずれ手痛いしっぺ返しに合うだろう。
大手メーカーのリストラと中国特需というミニバブ ルが現在の物流市場を覆っている。
追い風の吹いてい るうちに、景気に左右されない売り物を作っておく必 要がある。
市場の次の局面を見据えた経営ビジョン、 そして自社の強みとライバルの実力を客観的に評価し、 差別化されたサービス商品を開発するマーケティング力が、物流会社に今問われている。
( 大矢昌浩)

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