ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2007年2号
内部統制とロジスティクス
物流業務が孕むリスク

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

内部統制とは? ここ数年、カネボウや西武鉄道、ライブド アなどに見られるように、企業による不正取 引や粉飾決算といった不祥事が相次いでいる。
こうした背景もあって、二〇〇三年に入ると、 金融庁をはじめ東京証券取引所、法務省、経 済産業省などが内部統制の強化に向けたガイ ドラインを発表した。
二〇〇六年五月の新会社法施行に続き、同 年六月には金融商品取引法が成立した。
これ を受けて、上場企業とその連結子会社には二 〇〇八年四月から「財務報告書の信頼性確 保」を目的に、内部統制の構築が義務づけら れることになった。
日本では有力企業が二〇〇五年七月中旬 に公開された「財務報告に係る内部統制の評 価及び監査の基準(公開草案)(案)」に基づ き、米SOX法(二〇〇二年七月成立)を参 考にしながら、早々と内部統制の構築に乗り 出している。
さらにこの動きは二〇〇六年六 月に金融商品取引法が成立して以降、上場各 社へと徐々に広がりつつある。
二〇〇六年十一月に金融庁企業会計審議 会内部統制部会が「財務報告に関わる内部統 制の評価及び監査に関する実施基準――公開 草案」(以下、実施基準)を発表した。
この 実施基準をベースに、内部統制の構築で先行 した企業は対応範囲の追加・変更といった取 り組みをスタートさせた。
一方、発表を待っ ていた後続組も二〇〇八年四月に向けた対応 策の検討を本格化している。
実施基準では内部統制の基本的枠組みとし て、次の四つの目的と、六つの構成要素を掲 げている。
《目的》 ?業務の有効性および効率性 ?財務報告の信頼性 ?事業活動に関わる法令等の遵守 ?資産の保全 《構成要素》 ?統制環境 ?リスクの評価と対応 ?統制活動 ?情報と伝達 ?モニタリング ?IT(情報技術)利用内部統制とは基本的に「四つの目的が達成 されているとの合理的な保証を得るため、業 務に組み込まれ、組織内のすべてのものによ って遂行されるプロセス」をいう。
また、金 融商品取引法で導入された内部統制報告制 度では、上記のうち?財務報告の信頼性を確 保するための内部統制を「財務報告に関わる 内部統制」と定義している。
しかしながら、財務報告は組織の業務全体 に係る財務情報を集約したものであり、業務 FEBRUARY 2007 82 ベリングポイントは昨年秋、企業におけるロジスティク ス面での課題やリスクを診断するためのツールを開発した。
2008年4月上場企業とその連結子会社に義務づけられる内 部統制の構築を進めていくうえで有効なツールだという。
このコーナーでは内部統制の基礎知識と診断ツールの活用 方法を2回にわたって解説する。
(本誌編集部) 物流業務が孕むリスク の有効性および効率性、資産の保全、法令等 の遵守とは不可分である。
したがって、企業 は上記の目的相互間の関連性を理解したうえ で、内部統制を整備し、運用することが求め られる。
また、基準案では財務報告に係る内部統制 の評価とその範囲について、「経営者は全社 的な内部統制の評価を行い、その評価結果を 踏まえて業務プロセスの評価範囲を決定する」としている。
全社的な内部統制について は、原則としてすべての事業拠点を対象に全 社的な観点で評価することに留意するように、 と記載されている。
一方、業務プロセスに係 る評価については、「決算・財務報告に係る 業務プロセス」以外の業務プロセスが事業拠 点の重要度や企業の事業目的に大きく関わる 勘定科目かどうかで決定される、と説明して いる。
具体的には、「(前略)重要な事業拠点にお ける、企業の事業目的に大きく関わる勘定科 目(例えば一般的な事業会社の場合、原則と して売り上げ、売掛金および棚卸資産)に至 る業務プロセスは原則としてすべて評価対象 とする」とされており、企業の特性等を踏ま えて対象プロセスを検討する必要がある。
一 般的には棚卸資産に至る業務プロセスとして 販売プロセス、在庫管理プロセス、期末棚卸 プロセス、購買プロセスなどが関連してくる と例示されている。
実施基準の記載にもある ように、重要勘定科目である棚卸資産の信頼 性を確保するためには、今後ロジスティクス の現場で「入出庫」や「保管」といった作業 の管理精度向上が問われることになるのは確 実である。
ロジスティクス部門の責務 実施基準には以下のような記述もある。
「(前略)重要な事業拠点における、企業の 事業目的に大きく関わる勘定科目(例えば一 般的な事業会社の場合、原則として売り上げ、 売掛金及び棚卸資産)に至る業務プロセスは 原則としてすべてを評価の対象とする。
(中 略)なお、棚卸資産に至る業務プロセスには 販売プロセスのほか、在庫管理プロセス、期 末棚卸プロセス、購買プロセスなどが関連し てくると考えられるが、これらのうち、どこ までを評価対象とするかについては企業の特 性等を踏まえて、虚偽記載の発生するリスク が的確に捉えられるよう適切に判断される必 要がある」(実施基準? ―2―(2)―?評価対 象とする業務プロセスの識別より抜粋) 販売プロセスの場合には、受注、出荷、請求、売上計上といったサブプロセスがその範 囲となるが、このうち出荷業務を担うのは一 般的にロジスティクス部門となる。
このこと は出荷精度に対するロジスティクス部門の責 務が今後いかに重大になっていくかを物語っ ている。
一方、在庫管理プロセスには、長期滞留品 の管理や預託品在庫管理、返品管理など物流 現場の保管オペレーションの精度や、期末棚 卸で発生した在庫差異の処理方法によって、 財務報告上の棚卸資産の信頼性が大きく左右 されるというリスクがある。
さらに購買プロ 83 FEBRUARY 2007 FEBRUARY 2007 84 り上げ計上の主要勘定科目における信頼性 の低下を招く。
――対応策 ・受注処理が完了した時点で、ピッキングな ど出荷準備のための出荷指示書が倉庫に届くようなルールに改める。
・出荷検品時に出荷場所で出荷指示書と現 物を確認して検収するようにする。
・出荷担当者は出荷後、納品先から物品受領 書(検品書)を受け取り、出荷指示書と照 合するようにする。
・出荷完了分については営業部門に出荷報告 書を提出。
営業部門は注文書と出荷報告 書を照合し、未処理の注文書を確認するよ うにする。
・受注から出荷指示、出荷完了報告(納品 書)に至るまでの業務が決められた手順で 進んでいくよう情報システムで制御するよ うにする。
《ケース2》期末棚卸業務 出荷頻度が少ない長期滞留品の保管場所 を高回転商品と入れ替えた。
長期滞留品は翌 期にまったく出荷されなかったため、廃棄処 分とした。
――内部統制上の主なリスク ・承認なしで保管場所を変更したうえに、当 該商品が棚卸対象から漏れてしまい、棚卸 差異が発生してしまう。
・正式な承認を得ずに廃棄処分したため、帳 簿在庫と棚卸在庫に在庫差異が生じてしま う。
――対応策 ・不良品や陳腐化した商品、長期滞留品の処 分は、適切な権限者の承認がある処分依頼 表に基づき、現物と依頼表の内容を照合し 保管責任者の承認を得たうえで処理するよ う運用を徹底する。
・処分結果を示す証拠は必ず担当部門(また は外部委託会社など)から入手し、適切に 保管する。
・棚番管理を徹底し、在庫がどこにあるのか を即時に把握できるような仕組みを構築し、 定期的にチェックする。
《ケース3》返品業務 月初(期初)に数店の量販店から物流セン ターに大量の商品が返品されてきた。
物流センターでは返品を一括で受け入れ、月末にま とめて情報システムに処理情報を入力した。
――内部統制上の主なリスク ・期末に営業マンが量販店に押し込み販売を したため、期初に大量の返品が発生し、前 期末の売り上げの信頼性を大きく阻害して いる。
――対応策 ・返品については担当ごとに返品理由を入力 すると同時に、売り上げ責任者が返品を承 認するプロセスを追加し、架空売り上げを 防止する対策を講じる。
セスには発注、検収、仕入れ計上といったサ ブプロセスがあるが、一般的に検収から入庫 に至る作業はロジスティクス部門が担ってい る。
オペレーションの正確性やタイミングに よって棚卸資産の信頼性を損なう場合もある ということを、ロジスティクスの担当者は肝 に銘じておく必要がある。
業務上のリスクと対応策 実際に物流現場のオペレーションのどの部 分に内部統制上のリスクが存在しているのか。
それをきちんと把握するため、以下で事例を 紹介しておこう。
《ケース1》緊急出荷業務 年末に顧客から注文があったが、与信限度 額を超えていたため、受注することができな かった。
年末で品薄なうえに納期が迫ってい たため、営業マンは自ら倉庫に足を運び、一 時的に倉庫から商品を出して営業車で客先に 納品した。
後日、営業の事務方に依頼して与 信限度額を変更し正式な受注処理を施したう えで出荷伝票を発行する予定だった。
しかし 多忙なため、年明けにまとめて処理した(会 計年度は十二月末締め)。
――内部統制上の主なリスク ・受注処理をせずに出荷してしまったため、 棚卸資産に差異が生じる。
・売掛金、売り上げ計上で期ズレが発生して しまう。
そのため、棚卸資産、売掛金、売 このように入出荷管理や保管、返品の受け 入れなど物流現場のオペレーションが財務報 告に及ぼす影響を、ロジスティクス部門はき ちんと理解しておく必要がある。
高い効率性 を維持しつつ、いかに管理精度を向上させて いくかがロジスティクス部門にとって大きな 課題となっていくであろう。
物流現場でのオペレーションミスを減らし ていくことはもちろん、営業など他部門と運 用ルールを整備したり、情報連携を強化する など組織横断的な対応が不可欠である。
さら に物流現場での運用のみならず、情報の一元 化や可視化、承認プロセスの制御を目的とし た情報システムへの投資も必要になってくる。
業務委託先も内部統制の対象に 近年、ロジスティクス分野ではアウトソー シングの拡大が進んでおり、これまでに述べ てきたような入出庫・棚卸業務のコントロー ルはより一層複雑化している。
こうしたアウ トソーシング業務についても内部統制の評価 範囲が次のように定義されている。
「委託業務に関しては、委託者が責任を有 しており、委託業務に関わる内部統制につい ても評価の範囲に含まれる。
委託業務が企業 の重要な業務プロセスの一部を構成している 場合には、経営者は当該業務を提供している 外部の委託会社の業務に関し、その内部統制 の有効性を評価しなければならない」(実施 基準 ?章2項(1)?業務委託の評価か ら抜粋) 評価の検証方法については、?サンプリン グによる検証、?委託会社の評価結果の利用 の二つの方法が例示されており、委託業者(物流委託業者)の内部統制の整備および運用状況を把握し、適切に評価しなければなら ないとされている。
例えば、委託業者に棚卸業務を任せた場合、 決められた頻度と方法で棚卸が実施されたか どうかを、期末には荷主が実際に倉庫に出向 いて確認したり、委託会社が提出した報告書 の中身を確認することもロジスティクス部門 の重要な責務となる。
また、棚卸差異が発生した場合についての 対応も、理由不明のまま減耗処理するのでは なく、「棚卸業務における内部統制上の不備 の改善」として、棚卸差異を委託業者責任に おいて補填するなど契約上の取り決めを新た に用意しておく必要がある。
委託業者との契 約が「基本契約」のみで詳細が取り決められ ていない場合には、内部統制上の不備を指摘 されるケースも発生している。
委託業者との 契約方法については今後、改善すべき余地が 多いにあると言えそうである。
さらに複数社への業務委託および階層化さ れた委託業者の構造も、統制を複雑化かつ困 難にしている。
内部統制の統制環境の整備や 統制活動における負荷軽減などの観点からも 今後は委託業者の絞込みはもちろんのこと、 選定基準も従来のコスト重視からリスク対応 のレベルへと重要性が変化する可能性は多い にある。
現段階では多くの企業が経理・監査部門主 導で内部統制への対応を進めている。
しかし、 ロジスティクス部門としても対応を迫られる のは必至であり、もはや他人事では済まされ ない。
ロジスティクス部門の一人ひとりがそ れぞれの責務と経営に対する影響度を理解し、 オペレーションに従事することが求められる。
さらにマネジメント層にとっても委託業者 の管理を含め、組織体制の見直しやリスク管 理を強化する業務フローの見直しなど課題は 山積している。
今後は経営的な視点で、戦略 立案、委託業者を含めた組織設計、業務改革、 ITの活用まで幅広く対応すること求められ る。
内部統制の体制構築を機に、取り組むべ き課題と優先順位を再度見直し、二〇〇八年 四月の本番を迎えたいものである。
85 FEBRUARY 2007

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