ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2007年2号
ケース
アウトソーシング資生堂

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

量販チェーンを見据えた決断 「ロジスティクスを知らない人たちが見れば、 (資生堂物流サービスの譲渡は)単なるリス トラだと思うかもしれない。
しかし、ぜんぜん違う。
将来を見据えた資生堂が、戦略的に 正しい経営判断を下したとみるべきだろう」。
八〇年代半ばから資生堂で自社物流網の整備 を主導し、これを管理するために設立された 物流子会社、資生堂物流サービスの社長も務 めた重田靖男東京ロジスティクス研究所顧問 は、古巣の決断を高く評価している。
その理由はこうだ。
「いま資生堂の国内売 上の六割近くは量販店からもたらされている。
だが従来の仕組みは、あくまでも専門店(資 生堂の系列専門店)を意識したもの。
近年の 資生堂にとっては、量販店チェーンに対応す るための物流をどうやって作るかが大きな課 題になっていた。
そういう意味では、日立物 流はいいパートナーだと思う」 日本でも近年、物流子会社のM&Aが活発 化してきた。
しかしその多くは、親会社の収 益低迷に伴う資産売却だったり、元来いらな い物流子会社の整理だったりとマイナスのイ メージがつきまとう。
その点、資生堂と日立 物流の取り組みは少し様相が異なる。
いま資生堂の業績は絶好調で、過去最高水 準の利益を確保している。
さらに同社の化粧 品事業には、これまで系列専門店への直販制 度を強みに成長してきたという経緯がある。
独自の流通戦略とワンセットの物流はコアビ ジネスに極めて近い。
だからこそ四〇〇億円 ともされる巨費を投じて全国各地に自前の物 流拠点を設置し、多少のコスト高を承知でそ の管理を物流子会社に委ねてきた。
この体制が今年四月一日からガラリと変わ る。
まず全額出資だった資生堂物流サービス の株式の九〇%を日立物流に約二八億円で譲 渡する。
同時に、資生堂本体が保有している 全国八カ所の物流拠点の土地・建物を合計 約一六〇億円で米プロロジスに売却し、拠点内にあるマテハン機器も約三〇億円で日立キ ャピタルに売る。
子会社譲渡後も一〇%の株 式を保有し続けることで、物流品質の向上と コスト削減に共同で取り組む意思表示はして いるものの、自社物流とは完全に決別。
アウ トソーシングへと大きく舵を切る。
「二〇年前にお得意様へのサービスレベル を高めようとしたら、自分たちで物流を手掛 けるしかなかった。
だが今は流通のパターン がたくさんある。
すべての流通業態に対応で きる物流を自ら整備していくのは難しい時代 になった。
我々はグローバル・コンペティタ アウトソーシング 資生堂 物流子会社を日立物流に売却 年間20億円のコスト削減図る FEBRUARY 2007 52 資生堂は今年4月1日、化粧品事業の物流を一手 に担ってきた物流子会社の株式の90%を日立物流 に譲渡する。
これによって年間170億円規模の物流 業務を一挙にアウトソーシングするとともに、全国 各地に保有している物流拠点もすべて手放す。
受け 皿となる日立物流にとっては、かねて宣言していた 「物流子会社の再構築による事業拡大」を実現する うえで試金石ともいうべき大型案件となる。
資生堂で情報企画とロジ スティクスを担当する森 光平執行役員常務 ーとも戦っていかなければならない。
やはり 餅は餅屋にまかせたほうがいい」と、資生堂 でロジスティクス戦略を担う森光平執行役員 常務は説明する。
本格的なSCMにむけた条件整備 資生堂は二〇〇一年以降、「店頭基点」を 合言葉とするサプライチェーン改革に取り組 んできた。
全国に一万六〇〇〇余りある系列 専門店のほぼ全てにPOSレジを導入。
店頭 情報でロジスティクスを高度化し、在庫削減 と欠品率の低減を両立させた。
加えて最近の 大胆な宣伝活動の成功もあって、これまでの 停滞が嘘のようなV字回復を遂げている。
ただし、同社のサプライチェーン改革はま だ緒についたばかりだ。
現行の経営三カ年計 画の主要テーマは「国内マーケティング改革」 や「抜本的な構造改革」だった。
量販チェー ンなど新しい販売チャネルの台頭に加え、化 粧品という商品そのものがコモディティ化して、日用品(トイレタリー)との垣根がどん どん低くなっていることが背景にある。
国内の化粧品事業とトイレタリー事業を融 合するため、昨年四月には両事業のマーケテ ィング部門を統合し、あらためて商品分野ご とに組織を再編した。
「対面販売」を特徴と する販売チャネルだけでなく、量販店チェー ンなどによる「セルフ販売」への対応力を磨 くためだ。
ここでも小回りの効かない自社物 流の限界が見えつつあった。
量販店チェーンの多くは、自ら主導して物 流効率化などを進めている。
資生堂としても、 こうした取引先それぞれとサプライチェーン の最適化を図っていく必要がある。
実際、二 〇〇八年四月からの次期三カ年計画では、調 達から小売店頭までを見据えた攻めのSCM 改革に打って出る方針だという。
「改善による物流合理化を取引体系に迅速 に反映するなど、多くのことを機動的に考え ていく必要がある。
まさに今そのための業務 改革を進めているのだが、全体を考えていく うえで、物流がネックになって対応が遅れる ようなことがあってはいけない」(森常務) こうした事情から、資生堂は物流アウトソ ーシングに踏み切った。
だが完成度の高い自 社物流と、人・物・金のすべてにわたって多 くの資産を保有している同社にとって方針転 換は容易ではなかったはずだ。
約九カ月を費 やした物流コンペを通じて、新たなロジステ ィクスのあり方を模索することになる。
日本最大規模の一括アウトソーシング 二〇〇六年の三月末、資生堂は物流アウト ソーシングの受け皿になりそうな複数の事業 者に声をかけた。
事前に大手日雑卸にも入札 を打診したが、応じたのは3PL事業者だけ だったという。
結果的にコンペを勝ち抜くこ とになる日立物流も、このとき入札企業の一 社として参画した。
資生堂グループと日立物流の付き合いは深 い。
トイレタリー分野(エフティ資生堂)で は一〇年来の取引がある。
直販が基本の化粧 品と違って、卸流通が基本のトイレタリー分野では、資生堂も早くから物流業務を外部委 託してきた。
この分野の同社の物流拠点は九 〇年代末には全国九カ所に分散し、管理も複 数の物流事業者が担っていた。
これを東日本 から段階的に日立物流が肩代わりしていき、 東西二拠点体制に移行した二〇〇二年からは 唯一の物流パートナーとなった。
これによって日立物流は年間二〇億円規模 の物流業務を受託し、同社の経営陣が「この 案件こそ当社の3PL事業の代表例の一つ」 と胸を張るほど良好な関係を築いた。
その後、 日立物流が日用品分野でプラットフォーム事 53 FEBRUARY 2007 FEBRUARY 2007 54 階から日立物流は、米プロロジスなどと組ん で現状のまま化粧品事業を引き継ぎ、資生堂 物流サービスを日立物流の子会社として丸ご と受け入れるというスキームを提出した。
こ の段階ではまだ詳細な情報開示がなかったこともあり、日立物流のソリューション部隊が 独力で作った提案だった。
七月末に一次審査の通過を知らされて以降 は、デューデリジェンス(資産査定)などの 精度を高めるため、かなりの経費をかけて外 部の専門家をチームに招いた。
こうして精査 した内容を、十一月中旬の最終プレゼンテー ションに提出。
十二月初めに資生堂から、パ ートナーに選ばれたという連絡が届いた。
センター集約で合理化すすめる この仕事を受注するにあたって、日立物流 は大幅なコスト削減をコミットしている。
「資 生堂物流サービスさんの今期の売り上げは一 七〇億円余りになる見込みだ。
これをそのま ま受け継いで、新会社の初年度(〇七年度) の売り上げも同程度になる。
これを五年後に 一五〇億円を切る水準にまで引き下げること で合意している」(日立物流の長谷川常務)。
この約束は、実際の原価が下がろうと下がる まいと果たさなければならない。
とは言え、初年度はこれまで資生堂物流サ ービスと取引関係にあった輸送業者や現場作 業者をそのまま使い続けることになる。
昨年 三月末の時点で二八二人を数えた従業員のう ち、約八割のプロパー社員はすべて雇用を引 き継ぐ。
四〇人余りいる資生堂からの出向者については、とりあえず出向状態のまま新会 社で働いてもらう。
四月一日以降、一年から 二年かけて話し合いを進めて、希望者は日立 物流グループに転籍してもらう。
前述したように、初年度の売上規模は前期 比で横ばいの約一七〇億円を計画しており、 表面的にはコスト削減は不要のように見える。
だが物流施設のオーナーが資生堂からプロロ ジスに変わるため、新会社が負担する賃料は 従来より年間数億円あがる。
最低でもこの分 の合理化効果を出せなければ日立物流の持ち 出しになるわけだが、この程度は地道な現場 業を展開しはじめたときには、エフティ資生 堂が中核荷主となっている。
このような関係を通じて、資生堂の化粧品 事業についても日立物流は間近に知りうる立 場にあった。
このため今回の案件で日立物流 サイドの責任者を務めている長谷川伸也執行 役常務も、「この仕事はいずれうちに来るか な、と心中ひそかに期待していた」と明かす。
だが、そう甘くはなかった。
物流コンペの開 催が決まると、仕切り役は外部の第三者へと ゆだねられ、化粧品事業に関する両社の接触 は完全に絶たれてしまったという。
このコンペは、ある意味で稀有なケースだ った。
親会社のリストラに絡んで物流子会社 を売却するだけの案件であれば珍しくない。
ところが今回は、物流子会社の譲渡に加えて、 不動産をはじめとする資産の買い取りや雇用 の受け入れ、物流の合理化がすべてセットに なっていた。
しかも案件の規模が桁違いに大 きい。
日本のメーカーが単一の3PL事業者 に物流をアウトソーシングする事例としては、 恐らく過去最大の案件だろう。
コンペを開催するにあたって資生堂は、将 来展望やビジョンこそ提示したが、事前に細 かい条件を指示したり、スキームを決めるよ うなことをほとんどしなかったという。
応札 した3PL各社は、資産評価や買い取り方法、 物流合理化の道筋などを、ほぼ白紙の状態か ら提案することを求められた。
六月初めの第一次プレゼンテーションの段 改善などでまかなえると見ている。
もっともコンペに応札した時点では現場レ ベルの分析まではやっていない。
これほど大 型の案件となると、スタートから半年程度は 従来通りにやって混乱を避けるほうが得策だ。
新体制を軌道に乗せつつ、庫内作業や輸配送 を合理化する余地を探っていく。
五年後に二〇億円というコスト削減を確約 できた根拠は、拠点集約の余地があると見て いるからだ。
「ゆくゆくは集約して一、二カ 所は廃止するところも出てくるはずだ。
この 点についてはプロロジスも承知している」と 長谷川常務はいう。
たしかに全国九拠点とい う現状の拠点数は、近年の常識からするとか なり多い。
合理化の余地は明らかだ。
コスト削減を約束する一方で、日立物流は、 資生堂関連の仕事を五年後に二〇〇億円規 模にするという目標も掲げている。
前述した コミットは約一五〇億円のため、単純に考え れば五〇億円の仕事を新たに上積みする計算 になる。
これを同社は国際物流の受託や、化 粧品のプラットフォーム事業などによって実 現していこうと目論んでいる。
子会社再編の新しいかたち 契約では向こう五年間は資生堂の商権が約 束されているが、日立物流はプロロジスと一 五年間の賃貸契約を交わしている。
日立物流 がこれほどのリスクをとった背景には、同様 のM&Aが事業拡大の有力な選択肢になると いう確信があるからだ。
同社の山本博巳前社 長は昨年四月、決算説明会の席で「物流子会 社のM&Aで(二〇一〇年に)約七〇〇億円 の売上増を見込んでいる」と語った。
こうした発言の原点に、二〇〇五年六月にクラリオンの子会社の物流部門を人材ごと引 き受けたときの成功体験がある。
資産の買い 取りこそなかったが、基本的な枠組みは資生 堂の案件と同じだった。
「あの一件では不安 もあった。
しかし雇用を受け入れた四、五〇 人の人たちは本当に気持ちよく日立物流グル ープの一員になってくれた。
うちは約束通り の合理化をしながら、それを補填して余りあ る仕事を海外事業で得ることができた。
従業 員は幸せで、お客さんの合理化も進み、うち は売り上げを伸ばした。
いわば一粒で三回お いしかった」と長谷川常務は強調する。
資生堂が二〇〇八年度からSCMに本腰 を入れようとしていることもプラスに働く可 能性が高い。
在庫が減れば既存施設のスペー スが空く。
空きスペースを活用した化粧品の プラットフォーム事業を展開する余地が生ま れる。
仮に思惑通りに事業を展開できなくて も、「物流子会社の外販比率を高めることこ そ日立物流のノウハウ」という自信もある。
ただ懸念材業も少なくない。
日立物流は地 域ごとの現場運営会社をすでに全国に十一社 もっている。
同じように全国展開している資 生堂物流サービスの機能をそのまま引き継ぐ と、いずれ既存のグループ会社の業務領域と バッティングしかねない。
また、高いサービ スレベルに定評のあった資生堂物流サービス の業務を上手く引き継げずに、万一、専門店 から不満の声が噴出するような事態を招けば、 注目度の高い案件だけに3PL事業者として の実力にまで疑問符が付きかねない。
資生堂にとっても、本当の正念場はこれか らだ。
前出の重田氏は「むしろこれからが大 変だ。
アウトソーシングする以上、余計にロ ジスティクスのマネジメントを強化していか なければいけない。
スタッフを充実させて、しっかりとコントロールしていけるかどうか。
これは新しい課題だ」と指摘する。
この点は資生堂も十分に認識している。
「ア ウトソーシングをしたことによって情報の良 し悪しを内部で判断できなくなっていくこと が一番不安だ。
定期的な協議会などを通じて、 計画通りに事態が進行しているのかどうかを チェックする仕組みを立ち上げていく」と資 生堂の森常務は表情を引き締める。
まさにこ うした関係の構築こそ、日本で3PL事業が 飛躍するためのカギでもある。
( フリージャーナリスト・岡山宏之) 55 FEBRUARY 2007 日立物流の長谷川伸也執行 役常務

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