ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2007年1号
値段
上組

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JANUARY 2007 48 自社運営ターミナルを稼働 上組の強みは、日本の港湾運送事業者とし ては稀な全国ネットワークを形成している点、 業務領域の拡大を実現する強固な営業力を備 えている点にある。
日本の指定港湾九四港の うち、同社は二五港について港湾運送事業の 免許・許可を有している。
主力の営業基盤で ある神戸港は阪神・淡路大震災以前からトラ ンシップ(積み替え)機能を低下させつつあ ったが、これに対して同社は地方港へのネッ トワーク拡充でカバーしてきた。
近年のアグレッシブな営業展開を象徴する 設備投資は二〇〇四年二月に稼働した「上組 東京コンテナターミナル」だった。
同施設の 稼働はその後の業績にも大きなインパクトを 与えた。
ROA(総資産利益率)は四・一% から四・五%に、ROIC(投下資本利益 率)は四・五%から五・二%に改善が進んだ (二〇〇四年三月期→二〇〇五年三月期)。
日本の港湾運営形態は、?公共バース(国 または港湾管理者が施設を整備。
利用者は利 用量に応じて港湾管理者に使用料金を支払う)、 ?公社バース(公社が埠頭を整備。
船会社な どに専用的に貸し付けて、その貸付料で整備 資金を回収する)――が主体である。
これに対して上組は日本で初めてとなる自 社専用バース(上組東京コンテナターミナル) を東京港で取得した。
同コンテナターミナル は自社運営であるため、効率的なオペレーシ ョンが可能で、それに伴い寄航船社も増加し た。
二〇〇六年三月期のコンテナ取扱量は二 二・七万TEUを記録。
神戸港や大阪港に匹 敵するボリュームを確保している。
従来通り、内部留保を設備投資に振り向け るサイクルは変わらない。
しかし、後述する 「スーパー中枢港湾構想」が徐々に具現化す る中で、同社は三大港湾(京浜港、伊勢湾、 阪神港)における輸入対応型の港湾施設を増 やしていく可能性が高い。
顧客企業の海外生 産体制が整う一方で、日本の港湾施設では仕 分け・検品・流通加工などの機能を持った施 設が不足気味である。
二〇〇六年七月の交通 政策審議会では臨海部の工場跡地を有効活用 しようという案も出ている。
豊富な資金力を有する同社は今後、輸入型倉庫への投資を強化したり、臨海部の土地再 開発に積極的に関与していくことが予想され る。
借入金はゼロ、株主資本比率は八一%で、 再投資のための資金力は十分にある。
同社の 輸入対応型投資の増加は、取扱量拡大や輸入 貨物向け付加価値サービスの提供など業務拡 大に大きく貢献するであろう。
収益率は物流業界の中でも極めて高い水準 にある。
二〇〇六年三月期の営業利益率は 九・八%。
これに対してメリルリンチ日本証 券では二〇〇七年三月期の営業利益率を一 〇・二%と予想している。
近年の高収益率は 労働集約業務の自動化につながる設備投資の 実施によって従業員一人当たり労働生産性が 第27回 土谷康仁 メリルリンチ日本証券 シニアアナリスト 上組 豊富な資金力背景に設備投資を加速 労働生産性の向上で利益率がアップ 上組の収益率は物流業界の中でも高い水準にあ る。
作業の自動化や省人化につながる設備への投 資を強化してきたことが奏功している。
業績は今 期も好調に推移しており、通期では経常利益を計 画値より八億円上乗せできる見通しだという。
49 JANUARY 2007 高まったことが主因であると見ている。
日本の港湾荷役労働者数は過去一〇年間で 十三%減少したが、上組では無人化や自動化 の設備を増強し、外注費など変動費の上昇を 抑制してきた。
その結果、同業他社を上回る 限界利益率を確保している。
それは数量増に よる増収効果を収益率改善に結びつけやすい 構造になっていることを意味する。
フリーキャッシュフローが倍増 二〇〇七年上期の経常利益一一二億円は、 会社計画である一〇九億円を上回り、通期業 績計画を期初の二一五億円から二二三億円に 増額修正した。
上期決算では港湾事業だけで なく、運輸および運輸関連事業の収益改善も 確認できた点がポジティブに評価できよう。
同社では港湾業務を中心としたビジネスモ デルから、港湾→倉 庫(流通加工)→ト ラック輸送までを含 む一貫物流体制の構 築を進めている。
輸 入貨物を港湾荷揚げ から消費者または工 場まで輸送すること で、顧客側に品質面 での安心感、物流コ スト低減メリットな どを提供。
結果とし て港湾事業の貨物量 が増加するという好 循環を生み出しつつ ある。
同社ではトラック運送への領域拡大を、 港湾運送事業の取扱量拡大に向けた施策と位 置づけている。
上組の内在価値は、内部留保の再投資によ る継続的な収益率改善と、今後のフリーキャ ッシュフロー(FCF)拡大ポテンシャルに あると考えている。
メリルリンチ日本証券で は同社の今後五年間の利益成長率が過去五年 間の年率七%を大きく上回る年率十二%、F CFが二〇〇六年三月期の四一億円から二〇 一一年三月期には八〇億円にほぼ倍増すると 予想する。
今後の利益成長の加速を通じたF CFの拡大は、当社に増配や自社株買いとい った選択肢を与える可能性もある。
成長を支える要因の一つが二〇〇一年に国 土交通大臣の諮問機関である交通政策審議会 が提起した「スーパー中枢港湾育成プログラ ム」である。
主な内容は、港湾コストの三割 削減やリードタイム短縮(現状の三〜四日か ら一日程度に)、これら施策を適用する港湾 の選択と集中など。
日本の港湾施設の現状は ターミナルが小規模であるうえに、ゲートや ガントリークレーンといった施設・機材が共 有化されていないなど非効率な運営が展開さ れており、改善の余地は大きい。
さらにコンテナ貨物の取り扱いが地方港に 分散していることも非効率であると言える。
こ れは阪神・淡路大震災で被害を受けた神戸港 のシェアが著しく低下したことが主因と見ら れるが、最近ではインフラ復旧作業などの進 展によって同港の貨物量減少に歯止めが掛か りつつある。
港湾整備事業自体の予算は年々減少傾向に あるものの、「スーパー中枢港湾」への予算配 分は増加基調にある。
同構想ではスケールメ リットの追求と民間企業の積極的な関与を促 すことによって、指定港湾の効率的な運営を 目指す。
日本全体で二割程度のコンテナ取り 扱いシェアを持つ地方港の貨物が「スーパー 中枢港」にシフトすれば、より効率的な港湾 運営が実現すると見られる。
この構想では「大規模ターミナルの岸壁等 の設備は極力公共で整備し、ターミナルの管 理運営は民間のターミナルオペレーターが民 間の能力を最大限発揮し、一元管理を行う公 設民営方式を導入する」計画である(出所: スーパー中枢港湾選定委員会から抜粋、二〇 〇五年四月)。
二〇〇四年七月に指定特定重 要港湾に選定されたのは京浜港(東京港、横 浜港)、伊勢湾(名古屋港、四日市港)、阪神港(神戸港、大阪港)。
これら三大港湾のも とに設立されたオペレーターは「横浜港メガ ターミナル」、「飛島コンテナ埠頭」、「神戸メ ガコンテナターミナル」、「夢洲コンテナター ミナル」である。
そしてポイントとなるのは港 湾業者の中で唯一、上組だけがすべてのメガ オペレーターに出資している点である。
上組の過去10年間の株価推移

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