ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年11号
特集
調達物流 良いVMI、悪いVMI 3PL主導型在庫管理の台頭

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

NOVEMBER 2006 10 コスト削減から財務改善へ 受注から現金化まで。
「Order to Cash」のリード タイム短縮に多くの企業が躍起になっている。
現金化 が早まれば、それだけ在庫資産は減る。
手持ちのキャ ッシュが増える。
資金調達が楽になり、積極的な投資 が可能になる。
在庫回転率が向上することで、売れ残 りや値崩れのリスクも軽減される。
何より市場の変化 に機敏に反応できるようになる。
ロジスティクスから SCMへ、管理コンセプトが進化したのに伴い、パフ ォーマンスの評価指標が変化している。
これに合わせて3PLも、荷主企業の物流コスト削 減から財務体質の改善へ、その役割を進化させようと している。
日本通運は一〇月、物流業務に付随する 決済・金融サービスを手がける子会社として日通キャ ピタルを設立した。
発荷主の出荷から着荷主に納品さ れるまでの期間の在庫を、日通が資産として所有する ことで、荷主企業の在庫をオフバランス化する。
日通の山田治彦経理部専任部長は「三〜四年前か ら、物流提案に際してバランスシートのスリム化や、 決済・金融サービスの提供を荷主から求められる機会 が増えてきた。
しかし、これまでは各事業部や海外の 現地法人が個別に対応するだけで、決済・金融を含 めた包括的なサービスを担う主体がなかった」と、新 会社設立の狙いを説明する。
動いているのは日通だけではない。
三井物産は昨年 十二月から日系自動車部品メーカーを対象に、物流 から決済まで含めた国際調達の運用を一括して請け 負う新サービスを開始している(本特集一六頁詳細)。
同様にDHLも今年一〇月、GEキャピタルをパート ナーに、日本国内に倉庫を置いて決済まで統合管理 する3PL案件を受託した(同一八頁)。
第1部 3PL主導型在庫管理の台頭 物流とIT、さらに決済機能まで統合したアウトソ ーシングサービスが普及を始めている。
企業間取引 の当事者に代わり、3PLがオペレーションの全てを 担い、サプライチェーンのプロセスを最適化する。
VMIをターゲットにした3PL主導型の在庫管理方式 がスタートしている。
(大矢昌浩) 11 NOVEMBER 2006 いずれも「VMI(Vendor Managed Inventory: ベンダー主導型在庫管理)」と呼ばれる企業間取引が 対象となっている。
欧米の電子部品業界や自動車部 品業界、また大手流通業者の流通センターなどで開 発され、日系企業に普及が広がっている比較的新しい 取引形態だ。
組み立て工場や店舗の近隣に、調達先 のベンダーが共同で倉庫を設置して多頻度納品する。
これによって取引の買い手側の在庫は極小化する。
製 造仕掛品あるいは店頭に陳列する分のほかに在庫は不 要になる。
一方、ベンダーは自らの責任で品切れの起 きないように共同倉庫の在庫水準を維持する。
管理の 負担は増えるが顧客を囲い込める。
サプライチェーン実行系ソフトを開発・販売するア プリソのトム・コムストック米国本社上級副社長は 「従来の調達物流に求められていたのは単なるJIT 納品だった。
しかし伝統的なかんばん方式には、導入 するための条件がある。
一つは、需要の多様性や変動 が少ないこと。
そして全てのサプライヤーが地理的に 近い場所にあることだ。
欧米の自動車業界はそうした 環境にはない。
そのためVMIが基本的なモデルとし て普及している」と説明する。
ただしVMIの導入は、ベンダー側に物流管理の負 担と在庫リスクの増加を招く。
そこに3PLのビジネ スチャンスが生まれている。
メキシコに本社を置く3 PLのサプライヤーシティ(Supplier-City)は、フォ ード向けのVMIの運用で急成長を遂げている。
カー ペットやガスタンクなどの自動車部品をセンターで保 管。
必要に応じて品質管理や組み立て、キッティング などを処理して生産ラインに納品する。
もちろん入荷 後すぐに生産ラインに投入するものもある。
工場と倉庫の垣根を崩し、生産と物流の枠組みを 超えてプロセスを最適化する役割を3PLが担ってい る。
アプリソのコムストック上級副社長は「そのIT プラットホームを当社が提供している。
伝統的なかん ばん方式でITがあまり重要視されてこなかったのと は違って、VMIではプロセスの変更に柔軟に対応で きるITツールが必須となる」とアピールする。
SCMのアウトソーシング 米大手投資会社CMGI傘下のモーダルリンクも またITをVMI事業の武器にしている。
同社のアレ ン深田・太平洋地区バイスプレジデントは「当社がコ ンペでかち合うライバルは、UPSやDHLなどの大 手3PL。
ただし当社は、ロジスティクスの運用だけ でなく、調達先調査や購買、情報システム構築、製 造サポート、顧客管理、需要予測に至るまで、サプラ イチェーンの全てのプロセスを一括して請け負い、運 用している。
3PLではなくグローバルSCMという 市場区分では世界最大手を自負している」という。
顧客にはデルやインテル、ヒューレットパッカードなどの有力欧米企業のほか、キヤノン、ソニー、コニ カミノルタといった日系企業も顔を揃える。
二〇〇五 年十二月期の売上高は約一二〇〇億円。
現在、日本 国内の四カ所を含め、世界一四カ国計四〇カ所に流 通センターを設置し、大手ハイテクメーカーを中心に SCMインフラの運用を請け負っている。
日本国内の調達物流市場は、日通や日立物流など の大手3PLと並び、電子部品業界のアルプス物流、 自動車部品のバンテックなど、分野別の専門業者が 既に盤石な地位を築いている。
しかし荷主企業のビジ ネスのグローバル化が進み、同時に物流コスト削減か ら財務体質の改善に管理の視点がシフトしたことで、 VMIをはじめとした調達物流のソリューションにも 一層の進化が求められている。
アプリソのトム・コ ムストック米国本社 上級副社長 モーダルリンクのアレ ン深田・太平洋地区バ イスプレジデント

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