ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年11号
ケース
SCM住金物産

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

生産から物流、輸出入まで手がける 住金物産の繊維カンパニーは、売り上げの 約九割を中国におけるOEM(相手先ブラン ド製造)事業で稼いでいる。
顧客は大手アパレルメーカーをはじめ、SPA(製造小売業) や自社企画商品の開発に力を入れる量販店な ど。
百貨店の売り場に並ぶ有名ブランド品か ら、全国的な専門店チェーンや渋谷109に 入居するテナントの商品まで、幅広い製品を 手がけている。
その物量は衣料品のほか寝装 具なども含めて年間一億点以上。
日本への輸 入件数は四万件を超える。
アパレル業界では近年、中国への生産移転 が急速に進んでいる。
これに伴い、改めて商 社の役割がクローズアップされるようになっ てきた。
アパレル製品の製造工程は長く複雑 だ。
生地やボタン、ファスナーなどの付属品 をグローバルに調達して、海外の工場で生産 を行いながら、国内並みの品質管理を実現す るのは容易なことではない。
しかも、消費者 の嗜好の変化に合わせて、短いサイクルで海 外から国内市場に供給できる体制を構築する 必要がある。
海外に物流拠点などのインフラを持たない メーカーに代わり、これらの機能を商社が肩 代わりするようになってきている。
商社は品 質管理を含めた中国での生産、物流、輸出入 までのすべてのプロセスの構築運営を担う。
一方、メーカーは商品企画に専念する。
この 役割分担によって、メーカーは海外生産によ る競争力の強化を図り、商社もまた中間流通 業の枠を超えた新たな機能に自らの活路を見 出そうとしている。
住金物産・繊維カンパニーのビジネスモデ ルは、まさしくこの構図のもとに設計されて いる。
そこでは従来、商社が手がけてきた製 品輸入とは異なり、高水準の品質管理に基づ く生産体制と、より短い納期で効率よく日本 国内の市場へ供給する物流機能が求められて いる。
そのために同社はここ数年、中国での 生産体制の強化とSCMの構築に力を注いで きた。
生産体制については、上海や青島に新たに 自社工場を立ち上げるなど能力の拡充を行っ た。
現在、中国には同社の自社工場だけで二 〇カ所が稼動している。
これ以外に多くの現 地工場を委託先として登録し、常時三〇〇〜五〇〇カ所の工場でアパレル製品の生産を行 っている。
さらに、これらの縫製工場を集中管理する 生産管理センターを設置して、品質管理体制 を強化した。
またCADセンターも設けて、 顧客から送られたパターンの修正や、グレー ディング(基本デザインをサイズ別のパター ン・型紙に展開すること)などを現地で処理 できるようにした。
情報共有のプラットフォームを構築 一方、SCMの構築は、情報システムと物 SCM 住金物産 中国から日本へのOEM供給を効率化 最適ルート選択システムを自社開発 NOVEMBER 2006 24 住金物産は中国〜日本間のSCM強化に力を入れ ている。
中国で生産したアパレル製品を日本へ輸入 するまでの情報をチェーン内で共有するプラットフ ォームを構築、値札付けや店舗別仕分けなどの物流 機能も中国側に整備した。
さらに、納期やコスト面 から最適な輸送ルートを選択する情報システムの開 発に取り組んでいる。
流体制の整備を大きな柱として進めてきた。
まず、工場での調達や生産、物流、輸出入な どの情報を一元管理するための情報システム 「WINDS(World wide In formation Network&D ocument System)」を自社開 発した。
インターネットを経由して情報を共 有するためのプラットフォームだ。
受注情報や生産進捗状況、入出荷情報、船 積み・通関情報などを「WINDS」に入力 し、その情報を繊維カンパニーの本社・支店 をはじめ、中国の工場、生産管理センター、 物流センター、通関業者、付属品などの調達 先および一部の顧客を含めたサプライチェー ン内の関係者が、オープンなネットワーク上 で共有してデータ交換を行う。
工場は、「WINDS」によって商品の受 注内容を把握できる。
同様に営業担当者は受 注した商品の生産・出荷状況を随時照会する ことができる。
また通関業者が情報を通関処 理などに活用して業務を効率化することも可 能だ。
同社には生産や物流・販売・経理などの基 幹業務を統合管理する基幹システムが別にあ る。
これに対して「WINDS」では基幹シ ステムよりも細かく品番別や契約(受注)番 号別に情報を管理できるようにした。
これを基幹システムと連動させて運用している。
「W INDS」の稼働は二〇〇二年の秋。
これま でに営業・物流・通関業務などを行うすべて の拠点と、一五〇カ所の工場が「WIND S」によって情報を共有している。
物流拠点の整備も二〇〇二年からスタート した。
上海に繊維専用の一万平方メートル規 模の物流センターを開設したのをはじめ、青 島、天津、香港に相次いで拠点を設置。
周辺 にある工場の流通加工や出荷機能をこれらの 物流センターに集約し、センターで検品・検 針・値札付け、さらに店別仕分け作業までで きるようにした。
「最近では一〜二週間という短期間に生産 して日本へ送るといったクイック体制が求め られる。
しかも品質への要求も厳しくなって いる。
これに応えるには現地にこうした機能 を持ち、我々自身がオペレーションを管理す ることが極めて重要だ」と山内秀樹SCM推 進部長は強調する。
流通加工を中国に移管 昨年からこの物流センターの機能と「WI NDS」を活用して、顧客の大手アパレルメ ーカーと新しい物流システムを運用している。
従来は工場から直接日本向けに出荷して、顧 客の倉庫で値札付けや店別仕分けを行ってい た。
だがこれらの作業には時間とコストがか かり、日本側で行うのは効率が悪い。
そこで、 初回投入する商品については、中国の同社の 物流センターでこれらの作業を事前に済ませ てから出荷することにした。
物流センターでの作業に関する顧客との情 報のやり取りは、「WINDS」経由で行う。
物流センターで入荷・検品・検針などの作業 が終了して日本への出荷数量が確定した後に、 この数量を「WINDS」に入力。
アパレル メーカーはこの情報をもとに商品の店別配分 を行い「WINDS」経由で指示する。
センターではこの指示に従って値札付けや 店別仕分けを行う。
さらに、梱包単位でSC M(Shipping Carton Marking)ラベルを添 付し、ラベルに印字したコード番号とASN (事前出荷明細:Advanced Shipping Notice) の紐付けを行っておく。
日本側のアパレルメ ーカーの倉庫では、入荷した商品を開梱せず、 SCMラベルのコードを読み取り、ASNと 照合して仕入れ計上だけを行い、クロスドッ キングしてそのまま販売店に届ける。
従来、アパレルメーカーの倉庫では、初回 投入時に作業が集中してオーバーフローにな るケースが多かった。
中国側で事前に値札付 けや仕分け作業を済ませておくことで負荷が 軽減され、平準化が進むなどの効果が出てい るという。
25 NOVEMBER 2006 山内秀樹SCM推進部長 NOVEMBER 2006 26 に、CO2の排出量も削減しようという狙い だ。
これは中国側の物流センターで事前に値 札付けや店別仕分けなどの作業を済ませてお くことで可能になる施策であり、今年度のグ リーン物流パートナーシップ推進事業にも認定されている。
課題は仕向け港が分散するために一方面あ たりの出荷単位が小口化してしまう点だ。
船 積みの際に、貨物をコンテナ単位でコントロ ールできるFCL(Full Container Load) で輸送するには、東京や大阪に仕向け地を集 約して数量をまとめるほうが有利だ。
仕向け 地が分散して小口化すると、他社との混載便 であるLCL(Less-than Container Load) を利用しなければならなくなり、コストやリ ードタイム面で好ましくない。
これを避けて地方港向けでもFCLを利用 できるように、物流センターに同一方面向け の貨物を集約して、自社の貨物で混載を行う 仕組みを構築することにした。
同社は中国か ら日本へ年間に四万件もの輸入を行っている。
仕向け地を分散化しても単独で混載を仕立て るだけの物量は十分にある。
ただしオーダー ごとに納期はまちまちで、日によって数量の 変動も大きい。
混載のためにオーダーを組み 合わせる作業を経験や勘だけに頼るわけには いかない。
そこで、輸送計画の立案を自動化するシス テムを新たに開発することにした。
貨物の最 終仕向け地や納期、重量、容積などの出荷情 情報システムや物流拠点の整備とともに重 視してきたのが、輸出入通関手続きなどの法 令遵守だ。
「コンプライアンスを徹底して税 関の信頼を得ることが、結果的に通関時間の 短縮などにつながる」(山内部長)からだ。
こ のため、通関業務を委託するすべての業者の 担当者に、同社の東京や大阪の事務所に駐在 してもらい、直接、法令遵守の指導を行って いる。
山内部長は「IT(情報システム)と 物流インフラ、コンプライアンスは当社のS CM戦略の要で、これがOEM事業を根幹か ら支えてきた」と自負する。
陸送を避け?グリーン物流〞推進 さらに今年からは、四つ目のキーワードと して?グリーン物流〞に取り組んでいる。
中国から輸入するアパレル製品の日本での 陸揚げは、大消費地に近い東京と大阪の港が 圧倒的に多い。
陸揚げした後、東京と大阪に あるメーカーなどの物流拠点にいったん入庫 する物流形態が一般的だ。
最終消費地の小売 店店舗へ商品を納めるためには、そこからさ らにトラック輸送しなければならない。
地域 によってはかなりの長距離輸送になる。
コス トがかかりトラックによるCO2の排出量も 増える。
そこで、国内での輸送距離を短くするため に、東京や大阪を経由せず最終消費地に近い 港に陸揚げする方法に切り替える。
それによ って、トータルの輸送コストを減らすととも 27 NOVEMBER 2006 報をもとに、コストとCO2の排出量を最小 限に抑えることのできる最適な輸送経路を選 択し、経路ごとにコンテナの積載率が最大に なるよう貨物の組み合わせを自動的に算出す るシステムだ。
この計画立案エンジンを「WINDS」に 組み込んで物流センターで運用する。
物流セ ンターでは、メーカーから店別配分の指示を 受けて仕分けを行ったあとで、出荷情報をシ ステムに入力し、輸送ルートや貨物の積み合 わせの計算を行い、この結果をもとにフォワ ーダーに対してスペースブッキングを依頼す る。
フォワーダーはこれに従ってブッキング を行う。
このように荷主である同社が、自社 のシステムのなかに輸送最適化エンジンを持 つのは珍しい。
トータルリードタイムで管理 複数の契約(受注)貨物を混載するには、 船便など輸送のタイムスケジュールに合わせ てダイヤ待ちをするため、リードタイムの調 整が必要なケースも出てくる。
工場で生産し てから顧客の倉庫に届けるまでの納期が短い ため、調整はなかなか容易でない。
だが、物 流のプロセス全体を見直すことで調整は充分 可能になると同社は見ている。
例えば、これまでアパレルメーカーなどの 顧客は、店舗への納品が遅れるのを恐れる余 り、その前段階である自社の倉庫への納期を かなり早めに設定することが多かった。
この ため生産から納品までの期間が短く、これを 守るためにやむなく航空便を使うこともあっ た。
そうまでして商品を倉庫に早く納めても、 結局は店舗への納品予定日まで倉庫で滞留す るというケースがしばしば見られた。
こうした無駄をなくすために、サプライチ ェーン全体の効率を考えてスケジュール計画 を一元化することを顧客に提案していく。
こ れまでのように納期をプロセスごとに設定す るのではなく、最終的な納品先である店舗ま での納期を基準として、全体のスケジューリ ングを行うというアプローチだ。
先の例でいえば、日本国内のアパレルメー カーの倉庫で在庫を滞留させる代わりに、中 国の物流センターで混載を行うためにダイヤ 待ちの調整をする。
この取り組みによって日 本国内での輸送距離の短縮のほか、航空便か ら船便へのシフトや積載率向上などのメリッ トも期待できる。
今年末をめどにシステム開 発を終え、来年の一〜二月頃に実証実験を行 う予定だ。
このほかに今年もう一つの実証実験を計画 している。
ICタグを使った国際物流効率化 の実証実験だ。
中国で個品およびカートン単 位でICタグを添付し、中国と日本国内の物 流拠点さらに店舗での入出荷や検品などに一 貫利用する。
業務の効率化や情報共有による 管理精度向上の検証を行う。
同社は二〇〇三年にも、中国の縫製工場か ら日本の店舗までの物流をICタグで管理す る実験を行っている。
今回はこの実績をベー スに、日本アパレル産業協会をオブザーバー に加えて、世界標準に準拠したアパレル業界 標準の策定を目指す。
山内部長は、「?グリ ーン物流〞もICタグも、SCMを強化する ためのツールとして積極的にアピールしてい きたい」と力を込める。
4PL事業もスタート これらの取り組みはあくまで同社のSCM 戦略の延長線上にある。
さらに「今後は、こ れらを活かして4PL事業にも力を入れてい きたい」と山内部長は意欲をみせる。
すでに SCM推進部内に4PL事業の担当者を配 置して営業活動を開始しており、数件の成約 があるという。
アパレル業界では商品企画力のある中小の メーカーが短期間で急成長を遂げることが珍しくない。
そうした新興メーカーに対して、 同社がサプライチェーン効率化のためのコン サルティングを行い、仕組みやインフラを提 供するビジネスを展開しようというのだ。
こ れを足がかりに生産まで一括受託する事業展 開も視野に入れている。
中国でのOEM生産の拡大は、SCMの裏 付けなしにはあり得ない。
これを推進する機 能を持った商社の存在価値は今後、ますます 強まるだろう。
同時にアパレルの物流形態も 大きな変革を遂げることになる。
(フリージャーナリスト・内田三知代)

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