ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年10号
特集
激安物流 翌日配送の定温路線便――キユーソー流通システム

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

運賃は相対で交渉 小口貨物を対象にしたキユーソー流通システムの翌 日配送サービス「スルー便」は冷凍・冷蔵・常温の 三温度帯に対応している。
実際の取り扱いは冷凍・ 冷蔵が圧倒的に多い。
二〇〇五年度の取り扱い個数 は常温品三五七万ケースに対して、低温品はおよそ五 倍の一七八五万ケースだった。
売上規模を個数で割 ると平均単価は三一九円という計算だ。
スルー便の料金体系は個建て。
一ケース当たりの重 量を三〇キロまでに制限し、七キロ未満、七キロ以上、 一三キロ以上、二〇キロ以上の四つの重量別料金区 分を設けている。
複数個口の出荷に対する割引制度 も用意している。
集荷先も納品先も同一である場合に は五ケース以上、三〇ケース以上と、数が増えるほど 一ケース当たりの単価が安くなる。
一〇〇ケース以上の出荷がある場合は、ロット割引 が適用される。
一〇〇ケース以上で三〇ケース以上の 単価から五%引き、二〇〇ケース以上で一〇%引き、 三〇〇ケース以上で一五%引きだ。
「最も割高となる 五ケース未満の場合でも、一ケース当たりの単価はヤ マト運輸や佐川急便の宅配便よりも二〜三割安くな るよう料金を設定している」と事業本部スルー営業部 の田澤光央部長は説明する。
このように目安となる料金表こそ存在するものの、 実際に取引されている運賃はスルー便の販売窓口とな る全国各地の協力トラック運送会社(キユーソー会の メンバー)と荷主との相対の交渉で決まっている。
各協力会社の営業のテリトリーは決まっていない。
例えば、高知の協力会社が、東京から九州まで運んで ほしいという注文を受けてもいい。
その受注内容を情 報システムに入力すれば、東京の協力会社がその受注 翌日配送の定温路線便 ――キユーソー流通システム 食品メーカーから出荷される小ロットの定温貨物を翌日配 送する「スルー便」事業を展開している。
既存の共同配送ネ ットワークをうまく活用することで、クール宅配便より2、3 割安い料金でのサービス提供を可能にした。
同事業の収入は 今年度75億円にまで拡大する見通しだという。
(森泉友恵) OCTOBER 2006 24 状況を確認して、集荷に出向くという仕組みだ。
協力会社は料金表を下回る運賃で受注しても構わ ない。
ただし、集荷料、幹線輸送料、配達料といった 運賃配分は決まっている。
採算度外視で受注した場 合には手元に一円も残らないこともあり得る。
安い価格でスルー便を販売している協力会社には、 「スルー便そのものは赤字でも、スルー便というメニ ューを用意しておくことで、他の仕事が受注できれば いい。
スルー便と通常業務のトータルで儲けを出して いこう」という思惑がある。
キユーソーではそのよう な協力会社のスルー便活用術も認めている。
スルー便にはいくつか利用上の制約がある。
日曜・ 祝祭日は運休。
配達時間は指定できない。
翌日配送 エリアは六〇〇キロメートル圏内。
内容物は二万円ま でで、それ以上は事故があっても補償されない。
キャ ビアやフォアグラといった高級食材は取り扱いの対象 外だ。
地方の中小零細にターゲットこのうち翌日配送エリアの六〇〇キロという設定は あくまでも目安だ。
地域によってはもっと広く設定し ている。
例えば、鹿児島から大阪までは九五〇キロだ が、翌日配送の対象範囲としている。
荷物の集まりや すい関西商圏への翌日配送を約束することで、営業 拡大につなげている。
従来のネットワークでは九州から関西への貨物はい ったん福岡で積み替え作業が行われていた。
そのため、 翌日配送を約束できなかった。
しかし、協力会社が独 自に鹿児島〜大阪間の定期路線便を開設。
それによ って同区間の翌日配送化を実現した。
一方、配達時間指定についても例外を設けている。
例えば、午前十一時までしか納品を受け付けない卸の 第2部物流アイデア商品の使いみち ` W 25 OCTOBER 2006 物流センターには、その時間に間に合うよう配送する など可能な範囲でユーザーの要望を受け入れている。
スルー便のユーザーは地方の中小零細規模の食品メ ーカーが圧倒的に多い。
卸や小売りの物流センターへ の納品に利用している。
地方の特産物やこだわり商品 などの百貨店や飲食店への供給に利用されるケースも 増えてきているという。
いずれのユーザーも以前は保 冷宅配便を利用して商品を納入していた。
キユーソー流通システムはスルー便のほかに、中ロ ット以上の定温貨物を対象にした共同配送便「キユ ーソー便」も販売している。
同社の中心商品だ。
スル ー便は、キユーソー便と大手宅配会社のクール便の中 間層を狙ったニッチサービスという位置付けだ。
スルー便で使われる全国七八カ所の集配センターと 四三カ所の中継センターも、キユーソー便の施設を使 っている。
既存のインフラを活用することで、運営コ ストを抑えている。
スルー便には翌日配送という時間 的な制約があるため、専用のトラックも走らせている が、幹線輸送でトラック一台に満たない分については キユーソー便のトラックに混載することで積載効率を 高めている。
東西に専用ハブセンターも スルー便の本格発売は二〇〇〇年。
初年度の売上 高は十四億七〇〇〇万円。
それが〇五年十一月には 六八億二七〇〇万円まで拡大した。
今期は七五億円 を見込んでおり、数年以内に一〇〇億円の大台突破 を狙っている。
事業規模は順調に拡大しているが、課 題も少なくない。
一つは小ロット対応を売りにしてはいるものの、小 口化するほど配送効率が悪くなってしまうという点だ。
実際、小口の荷物を自宅兼オフィスとして使っている マンションの一室、個人経営のラーメン店などに配送 するケースが増えている。
トラック一台の一日当たり の納品先は二五軒から三〇軒に達する。
それでいて一 軒あたりの納品数は二、三ケースということも珍しく ない。
ドライバーは配送と集荷を兼務している。
そのため、 配送に時間がかかれば集荷するための時間が短くなる。
「軽と二トン車と四トン車をうまく使い分けるなど配 車の工夫で対応しているが、そもそも営業をかける際 に、実際の集配効率を考慮する必要がある」と佐々 木健二常務取締役事業本部長は言う。
駐車違反の取 締が強化されたこともあり、駐車スペースのない納品 先への対応も課題の一つになっている。
一方で、競合他社の値下げ攻勢も激しい。
「荷物の 集まりにくい地域では、佐川とゆうパックが極端に値 段を下げている。
例えば、札幌では三〇〇円という運 賃が取引されているという話も聞く。
しかも彼らの場 合はB to C。
再配達も含めてその安さだ」と佐々木常務は指摘する。
配車システムに加え、GPSを使った車両追跡シス テム、出荷ラベルを発行できる車載端末の導入など、 効率化の取り組みを進めている。
出荷ラベルを車載端 末から発行できるようになり、従来は集荷センターに 戻ってから行っていたラベル貼付作業を荷受け時にで きるようになったという。
現在、東日本と西日本にスルー便独自のハブセンタ ーを建設する計画が進行中だ。
ハブセンターには自動 仕分け機も導入する。
自動仕分け機導入時に備えて、 車載端末導入を機にリニューアルした出荷ラベルには 行き先の中継センターと集配センターのコード番号を、 数字だけでなくバーコードでも表示するようにした。
物量増に対応する体制を着々と整えている。
佐々木健二常務取締役 事業本部長 食品メーカーから出荷された定温貨物を翌日配送する 事業本部スルー営業部の 田澤光央部長

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