ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年10号
海外Report
オリオン製薬(フィンランド)競争激化でSCMの重要性が高まる全体最適化で利益率七〇%増も可能

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

OCTOBER 2006 42 過去一〇年で業界が激変 オリオン製薬を含めた製薬業界は非常に古 い体質を残しています。
それがここ一〇年で 大きく変わってきました。
それまで研究所と 工場さえしっかりしていれば製薬会社の経営 は安泰でした。
しかし現在ではサプライチェ ーン全体を考えなくては利益を上げることが 難しくなってきたのです。
まずはオリオン製薬とそのサプライチェー ンについての簡単な説明から始めましょう。
オリオン製薬は一九一七年の創業で、本社 はフィンランドのエスポにあります。
二〇〇 五年度の売上高は約六億ユーロ=九〇〇億円 (ただし販売会社を含めたグループ全体の売上 高は一九億ユーロ=二八五〇億円)。
従業員 は三〇〇〇人弱です。
二〇〇五年年度はR& Dに八〇〇〇万ユーロ=一二〇億円を投じま した。
フィンランド国内では一〇%のシェア を握っています。
当社の主力分野は中枢神経や心臓血管に関 する治療薬です。
製品アイテムは三〇〇種類、 五〇〇〇SKUに上ります。
生産工場はフィ ンランドと隣国のデンマークに合計で七カ所。
販売会社は北欧を中心に十一カ国にあり、ヨ ーロッパのその他の国には代理店を置いてい ます。
自社ではロジスティクスのオペレーシ ョン機能を持っておらず、数多くの3PL業 者を使って日々の業務を遂行しています( 図 1 )。
売り上げの一〇%を超えるR&Dの投資額 を回収するには、国際的に事業を展開するこ とが不可欠です。
そのためには当然、サプライチェーンが世界中に広がっていくことにな ります。
製薬業界はおよそ一〇年前まで、安定成長 の産業でした。
競争が少なかったため、高い 利益を約束された業界でもありました。
それ が現在では新薬の特許期間が短くなり、ジェ ネリックと呼ばれる代替薬品が新薬の発売か ら時間をおかずに売り出されることになりま した。
このため、R&Dを回収するための時 間が、それまでと比べて長くかかるようにな りました。
また、競争企業が増えたことと、小 売業者の購買力が強くなったことで、値引き 製薬業界においてR&D(研究開発)にいくら資金をつぎ込むかで優劣が 決まる時代は一昔前に終わりを告げた。
競争激化やM&A、規制緩和などが 進んだ結果、製薬業界では現在、サプライチェーン管理の必要性が叫ばれて いる。
サプライチェーンの効率化に活路を見出そうとしているオリオン製薬 (Orion Pharma)のマーク・フータ・コイビスト副社長が、同社 の取り組みについて語った。
(取材・編集 本誌欧州特派員 横田増生) 欧州SCM会議報告 オリオン製薬(フィンランド) 競争激化でSCMの重要性が高まる 全体最適化で利益率七〇%増も可能 〈第一回〉 43 OCTOBER 2006 販売を余儀なくされています。
各消費者も薬品に精通するようになり、自 分の病症に合致する薬を自分で選ぼうとする ようになりました。
加えて、政府が保険を通 じて支払う医療費に上限を設定したため、病 院はこれまでのようには高価な薬を処方しな くなりました。
その結果、製薬会社は価格のプレッシャー にさらされるようになりました。
様々な事業 領域でコスト見直しが行われた結果、製薬会 社ではサプライチェーンの重要性が強く認識 されるようになってきたのです。
ブランドだけでは通用しない 企業が同業他社との競争に勝つには、サー ビス、品質、俊敏性(アジリティ)の三つの 要素を考えることが必要です。
製薬会社におけるサービスとは、必要な薬 をいつも店頭に並べておくことです。
薬を買 うときに何を重視するかという最新の顧客動 向調査では、ブランドだと答えた人がやはり 一番多くいました。
しかしその中の六五%の 人が、自分の目当てのブランドの製品がなけ れば、他社の製品を買うと答えています。
ど れだけブランド力があっても、製品がなければ意味がないということです。
品質とは、製品が約束した効果を持つこと に尽きます。
次に俊敏性も大切になってきま した。
業界は刻々と変化し続けます。
どれだ け優れた製品や仕組みを作ろうとも、多様な 変化に対応できるようにしておかなければ、す ぐに使い物にならなくなる恐れがあるのです。
製薬業界のサプライチェーンをベンチマー キングした結果があります( 図2)。
製薬業界 の平均と勝ち組を比べると、在庫回転率やオ ン・タイム・デリバリー、誤配率、リードタ イムなどの項目で大きく差がついているのが OCTOBER 2006 44 わかります。
オリオン製薬は、業界の中での 勝ち組に入っていると自負しています。
しか し製薬業界の勝ち組も、自動車産業などの世 界トップクラスの工場と比べると、まだまだ 改善の余地があるのがわかります。
サプライチェーンの優劣は、企業の利益率 につながってきます。
あるコンサルティング 会社の調査によると、縦軸に国際的なサプラ イチェーンを組織できているかどうか、横軸 にサプライチェーンの業務遂行能力を置いた 図で、約半数にあたる四九%の企業は図の左 下の枠に属しており、業界の平均的な利益を 上げています( 図3)。
これが、国際的なサプ ライチェーンを組み上げることで、左上の枠 に上がります。
業界平均より利益率は一七% 増えます。
業界平均の業者が、サプライチェ ーンの能力を高めると、右下の枠に移動して 利益率は一九%増えます。
最も利益率が高いのは、右上の枠です。
国 際的なサプライチェーンを組んで、その能力 も高い。
こうなると業界平均と比べ七三%増 の利益が上がります。
しかしこうした二つの条件をクリアしている企業はまだ全体の七% にすぎないのです。
リスクと利益を共有する仕組み サプライチェーンの能力を高めるには四つ の要素が必要です。
一つは、柔軟性を維持す ること。
これは先に挙げた俊敏性とも重なる 部分がありますが、需要に合わせて、生産す る製品の種類や生産量、スピードを変化させ る能力のことです。
従来の工場中心の考え方 を改め、常に市場の動向にアンテナを張って 行動することです。
もう一つは技術。
これはすでに確立された 品質管理システムや、生産管理システム、J ITシステムなどがあり、どういった技術を どこまで取り入れるのかは企業の置かれた環 境によって異なるでしょう。
どこまでを本業 とみなし、自社で取り組むのか。
また本業以 外と判断したら外部に任せるのかといった点 も判断が分かれます。
三つ目は協力関係です。
サプライチェーン を上手に管理するには社内外の協力を取り付 けることが欠かせません。
社内で協力を取り 付けることと、社外で協力を取り付けること のどちらが難しいかは、その会社によって異 なります。
社内で苦労するのは、社内政治に 時間がとられる大企業の方が多いようです。
社外の協力を取り付けるには、四つ目の要素 となるビジビリティ(可視性)が重要になり ます。
ビジビリティという言葉は通常、各貨物の 現状把握という意味で使われますが、ここで はそれ以上の意味で使っています。
ビジビリ ティとは、生産計画や製品の利益率、生産コ スト、ロジスティクス・コストなどの情報を サプライチェーンにかかわる人に開示するこ とです。
四つの要素の中では、ビジビリティ が最も大切です。
社内外の人間をやる気にさせ、サプライチ ェーン効率化のために時間をかけたり、調整 したりするようになるには、利益とリスクを 共有する仕組みを作ることです。
リスクをと った結果として利益がついてくるのがわかれ ば、モチベーションを高めることは難しいこ とではありません。
需要予測の共有やサプライチェーンの全体 最適を考える上で、その対極にある「ブル・ ウィップ効果」と呼ばれる現象がよく引き合 いに出されます。
需要を予測する上で最も大 切な顧客からの情報が全体に伝わるのに時間 がかかればサプライチェーンの上流になれば なるほど、需要予測の精度が落ちるという現 象です。
なおかつ販売会社、調達部門、生産 工場、ロジスティクス部門などが、それぞれ の部分最適を考えて行動すれば、無駄な動き が増えて、全体で見れば市場の動きからかけ 離れたことをしてしまうことを指しています。
45 OCTOBER 2006 一〇年前までオリオン製薬は顧客の購買情 報がサプライチェーン全体に行き渡るまでに 三カ月かかっていました。
それがコンピュー タやインターネットを使ったシステムを構築 したおかげで、需要予測が二四時間以内に共 有されるようになりました。
当社では、直営の販売会社と代理店とが、 二年先までの需要を予測して、それに従って、 各部門が行動するのですが、需要予測が変わ れば、それがすぐに全体に伝わり、各部門が それにあわせて行動を調整するようにできる ようになりました( 図4)。
以前は、需要の予測がつかないのでその分 在庫を持っていたのです。
要するに、正確な 需要予測を全体で共有できれば、在庫を減ら すことができるのです。
コンサルティング会社の調査によると、需 要予測を全体で共有したならば、平均で一 五%の在庫を削減でき、仕入れ代金が販売に よって回収されるまでの時間も三五%短縮さ れるというのです。
つまり、キャッシュフロ ーが格段によくなるのです。
エキスパートから「プロ」へ しかしここで忘れてならないのは、優れた 現場の業務というのは、お金を積んでも手に 入れることはできないということです。
現場 の業務は日々のルーティンの積み重ねであり、 優れた現場を維持するには優れたスタッフが 必要です。
優れたスタッフを擁するには、「人材こそが 最も大切だ」というようなきれいごとを並べ てもはじまりません。
優れたスタッフを確保 したいのなら、彼らの業務に正しく報いる評 価システムが必要です。
企業の手に残るのは、 その企業が正しく評価したものだけなのです から。
たとえば、情報を使って在庫を減らす ことができたのなら、そうした人材を正しく 評価することです。
売り上げ一辺倒の企業というのは往々にし て、多少損を出しても売り上げを確保する人 材を重宝したりするものです。
しかし、それ では売り上げは増えても肝心の利益は上がら ないこともありえます。
情報の共有化という 一見すると地味な作業が実を結ぶためには、 会社が考えを変えることを迫られることもあ ります。
さらに、社員全員のメンタリティを 変える必要もでてきます。
一言で言えば「エ キスパート」から「プロフェッショナル」へ の転換です。
従来のエキスパートの時代というのは、自 分の専門分野を熟知していればそれでよかっ た時代です。
販売は販売、工場は工場、ロジ スティクスはロジスティクス――というよう に。
自分の狭い分野にタコツボ的に納まって いるのがエキスパートなら、プロフェッショ ナルな人材とは、自分の分野を他のみんなに わかるように説明でき、また自分自身も他の 分野のことを知っているような社員を指しま す。
そういった横の連携ができる人材が増え ることによって、はじめてサプライチェーン 全体が機能するようになるのです。

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