ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年9号
特集
中国&インドの物流 日本流の労務管理では失敗する

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

SEPTEMBER 2006 28 カーストがもらたす弊害 ――日新は九九年という比較的早い時期にインド進出 を果たしています。
「日本でお付き合いさせてもらっている企業の進出 に合わせてインドで商売を始めました。
その後、他の 日系の物流企業が相次いでインド市場に参入していま すが、パターンはみな同じです。
日本でのお客さんを 追いかけるかたちです」 ――インドでの物流ビジネスは儲かりますか? 「高い成長率で推移していることは確かです」 ――インドで物流サービスを展開していくうえでの難 しさは? 「労務管理ですね。
インドは弱者保護が行き届いて いる国で、労働組合の運動も盛んです。
『あなたは生 産性が低いから今日でクビ』といった具合に、簡単に 人を切ることができない。
加えて、ここ数年は労働者 の賃金が年率五〜一〇%のペースで上昇しています。
インド人たちの言いなりになっていると、ビジネスは 採算ベースにのらない。
だからといって日本流のやり 方を押しつけると、労働者たちの反発を招き、ストラ イキを起こされてしまう可能性があります。
そのあた りのバランスを取るのが非常に難しい。
インドに進出 した日系企業は物流業に限らず、各社それなりに労務 管理で苦労している」 ――インド人労働者たちの生産性はそれほど高くない と聞いています。
「否定はしません。
労働者一人当たりの生産性が上 がると、その一方で失業者が増えてしまう。
労働者た ちがそのことを意識しながら仕事をしているわけでは ないでしょうが、個々の作業員の動きが緩慢であるこ とは事実です。
もっとも、比較対象となる日本人が勤 勉すぎるのかもしれませんが」 「インド人労働者の生産性の低さはカースト制度と 無関係ではないという指摘があります。
カーストでは 工業が農業よりも下のランクに位置付けられています。
インド人のカラダには『工業はダメ』という感覚が染 みついている。
できれば工業では働きたくないという 意識があるわけですから、生産性が上がらないのは当 然です」 「実はインドで成功を収めている自動車メーカーな ど日系企業に共通しているのは、機械化や自動化を 進めることによって、できるだけ少ない人数でオペレ ーションを行っているという点です。
安い労働力を大 量に使えることが成功の要因であると説明されている インド関連書籍がありますが、それは誤った認識です。
賃金が安いからといって、インドにおいてマンパワー 中心のオペレーションを展開しようとすると必ず失敗 します。
それだけインド人労働者の管理は難しい」 ――労務管理をうまくやるコツはありますか? 「これは中国でも同じだとされていますが、インド 人はインド人の言うことを聞かない。
コストを低く抑 えるためにも現地化を進めることは大切ですが、要所 要所は外国人がきちんと締めることが肝心です。
これ もカースト制度の弊害であると言えるのですが、イン ド人マネジャーは自分たちよりも階級が低い現場労働 者と話をすることさえ嫌がります。
現場労働者への指 示は『これをやっておけ』の一言だけ。
インドでは日 本のようにマネジャーが手取り足取り現場労働者たち を指導することなどあり得ない」 「日系企業の労務管理は甘いのかもしれない。
イン ド人従業員たちの住居環境などを目の当たりすると、 『そういう生活から早く脱却させるためにも賃金を上 げてやらないと』という気持ちになってしまう。
これ 「日本流の労務管理では失敗する」 インド物流の成否は労務管理で決まる。
コスト抑制の ためには現地化が必要だが、インド人任せの現場運営に はリスクも伴う。
99年にインド進出を果たした日系物流 企業の担当者が現場管理のノウハウを披露する。
(聞き手・刈屋大輔) 日新原口廣営業推進部インド室長 第3部インド市場のロジスティクス 29 SEPTEMBER 2006 に対して、海外で欧米流のマネジメントを学んだ経営 者のいる現地企業はとてもシビアです。
従業員のリス トラなども平気で行います。
それでもストライキなど の反発が起こらない。
労務管理を上手にこなしている 彼らから学ぶべき点は多い」 営業倉庫のニーズが拡大 ――ここ数年、インドにおける物流ニーズに変化は見 られますか? 「工場は敷地内に自社倉庫を用意して完成品を保管す る。
配送用トラックも自分たちで手配する。
インドで は従来、企業が自前で物流を処理するスタイルが基本 でした。
しかし、ここにきて物流をアウトソーシング したいというニーズが急速に高まっています。
具体的 には営業倉庫のニーズです。
生産ラインの増強などに 伴い、工場内に保管スペースを確保できなくなったか ら、代わりに倉庫を用意してくれないか、という依頼 が寄せられるようになりました」 「そもそもインドには営業倉庫業というものが存在 しない。
もしかすると、きちんと探せばあるのかもし れませんが(笑)。
いずれにしても、インドではわれわ れが日本で展開しているような不特定多数のお客さん から荷物を預かって料金をいただくという倉庫業の商 売が成長していません。
商社や卸は倉庫を持っていま すが、彼らの倉庫は商流のためのバックヤードにすぎ ません」 ――現地にはTCIなど有力な物流企業が少なくあり ません。
営業倉庫のニーズが高まっているのであれば、 彼らもこの分野に食指を動かすはずです。
「インドの有力物流企業たちが倉庫業に注目してい るのは確かです。
ただし、彼らの多くはこれまで輸送 をメーンにしたサービスを提供してきたため、倉庫業 のノウハウに乏しい。
それだけにわれわれのような日 系物流企業にとっては大きなビジネスチャンスとなる 可能性が高い」 「トラック運送の分野では、安い運賃で仕事を引き 受けている現地企業に太刀打ちすることができません。
そこで、通関業務などを含めた国際輸送や倉庫、トラ ック輸送までをトータルで提供する総合物流サービス で勝負していこうと考えています。
インドに進出して いる日系物流企業は、総合商社も含めてみな同様の 戦略を検討しているはずです」 ――現地にもトータルロジスティクスに対応できる能 力を持った物流企業が存在するのでは? 「残念ながら、まだいませんね。
現地の物流企業は 日本を含めた海外の物流企業と提携することで、物 流サービスのあらゆる面でノウハウを蓄積しており、 徐々に実力をつけてきているのは事実です。
総合物流 サービスの分野で競合する相手を挙げるとすれば、当 面は日系と欧米系の物流企業になるでしょうね」――日新の今後のインド戦略は? 「営業倉庫を中心にインド国内の物流ネットワーク を充実させることが一つ。
さらに、海上貨物や航空貨 物のフォワーディング業務にも力を入れていきたい。
国際分野でのターゲットはASEAN諸国で生産さ れる部品や製品です。
フォワーディング機能の強化で、 ASEAN諸国からの貨物を輸入して倉庫で保管し た後、工場や流通業者に供給するまでの物流を一括 で受託できる体制を整えていくつもりです」 ――いわゆる3PLですね。
「同業他社との競争が激しくなっており、今後はイ ンド国内で完結する物流のみで採算にのせるのは難し くなっていくでしょう。
国際物流を含めたトータルサ ービスの提供で収益を上げるという戦略です」 二輪車メーカーのDCとして機能するノイダの拠点

購読案内広告案内