ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年8号
特集
ICタグはどこまできたか 差別化手段は物流現場にある

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

AUGUST 2006 22 タグ自体に明細まで書き込む ――ウォルマートをはじめとした欧米のICタグ活用 の動きをどう評価しているか? 「ウォルマートをはじめ、アメリカというのは本当に 進んでいるところは進んでいる。
実際に視察に行って みると、日本の我々が愕然とするほど進んでいる。
た だし、できていないところは全くできていない」 ――進んでいるところとは? 「技術的には、それほどびっくりするようなことはな い。
しかし例えばICタグのコスト。
既に米国では医 薬品向けに一個七セントのUHF帯のインレットが完 成している。
そういうところにアメリカの産業界全体 の推進力が表れている。
日本のように行政が業界を牽 引するのではなく、ウォルマートのような民間企業が 強烈な求心力を持ってどんどん取り組みを進めている。
他のサプライヤーたちも、好むと好まざるとかかわら ず、それに付いて行っている。
その総合力はさすが」 ――逆に、アメリカのできていないところとは? 「ケースやパレットにタグを貼付するレベルでさえ、 現場ではなかなか運用できていない。
彼らがタグの良 さを活かす運用ができているかと言えば、必ずしもそ うとは言えない」 ――日本でもヨドバシをはじめ実用化に向けた取り組 みが始まった。
「しかしメディアで報道されているのと現実とでは、 ずいぶん開きがある。
実態は周りが持ち上げるほどの ことではないと見ている。
いわゆる「響タグ」にして も、開発関係者から洩れ聞こえてくる話は報道とはか なり違う」 ――ウォルマートやヨドバシなどの大手量販店の取り 組みと、Litiのアプローチには、違いはあるか。
「もともと我々の取り組みは、バーコードをICタ グに置き換えるのではなく、モノと情報を一体となっ て動かすためのデータキャリアとしてICタグを使お うというところから始まっている。
そのため具体的に は、我々はタグに明細情報まで書き込ませて使ってい る。
それに対してアメリカではタグ自身にはIDを書 き込むだけで、他はサーバーで処理している」 ――しかし、それについてはアメリカ型が世界標準だ。
Litiのような使い方は少数派だ。
「別に我々も今のやり方に固執しているわけではな い。
しかしサーバーで全部処理してしまおうとしても 現実には難しい。
実際、我々はある病院の院内物流 でその手のネットワークを作ろうとしているのだが、 通信等の動きが遅くて使いものにならない」 ――タグに大量のデータを持たせようとすれば当然、 単価が上がってしまう。
「そのため基本的にはタグを使い捨てるのではなく、 リユースありきでノウハウを蓄積してきた」 ――対象をSPAに絞って事業を開始した理由は? 「様々な商品の物流を研究した結果、日用品は単価の 問題でやはり無理だろうと判断した。
それから定番商 品も、わざわざタグを付けて管理する必要はなさそう だった。
一方でアパレルは、それこそ一週間で商品が 入れ替わる。
商品マスターでは管理しきれない。
実際、 バーコードも付いていない。
これならタグを使って効 率化できるだろうという発想だった」 ――単なるアパレルではなくSPAに的を絞ったのは。
「SPAはサプライチェーンを自分たちで全部コン トロールしている。
百貨店に商品を卸している場合で も販売員はSPAの社員だ。
サプライチェーンが一気 通貫で閉じているので扱いやすい。
顧客側の志向の問 題もある。
老舗のアパレル会社と違って、SPAは役 差別化手段は物流現場にある 先端情報工学研究所粟本繁専務取締役営業本部長 先端情報工学研究所(Liti)は日本の半導体技術者たち が1997年に設立したベンチャー企業だ。
欧米のブームに 先駆け、1999年にICタグの実用化に踏み切った。
アパレ ルの製造小売り(SPA)を対象にしたサプライチェーン 構築支援と3PL事業に収益源を見出し、業績を急拡大 させている。
(聞き手・大矢昌浩) 23 AUGUST 2006 員といっても茶髪に破れたジーパンを履いているよう な若い人が珍しくない。
我々の提案に対して、ノリに 近いかたちで賛同してもらえる傾向があった」 3PL事業を選んだ理由 ――Litiはシステム開発だけでなく、物流の運営 まで請け負う3PLとしての一面を持っている。
実際、 3PL事業が売り上げの三分の一程度を占めている。
なぜ、そのような事業モデルを選んだのか。
「我々も当初はシステムインテグレーターとしてソ フトウエアを開発し、データプロセシングを収益源に しようと考えていた。
しかし実際にはそう簡単には行 かなかった」 ――半導体技術者に物流現場は似合わない。
「しかし、我々が業績を伸ばすことのできた理由は そこにある。
もっとも当初は我々が直接現場を運営す るのではなく、物流企業をパートナーにしてセンター 運営をしていこうと考えていた。
ところが、我々の開 発したツールを協力物流企業の現場のスタッフは使い こなせなかった。
そのため自分で庫内作業までやらざ るを得なかったというのが本当のところ」 ――しかし現在、Litiのセンターで働いている庫 内作業員もほとんどはパートのはず。
物流企業と変わ らないのでは。
「ただし、主婦層ではなく若いスタッフが中心。
そ のためにITに対して違和感がない。
若い人がITを 知っているわけではない。
作業ミスは主婦層よりも多 いくらい。
しかしキーボードや携帯端末に対する拒絶 反応がないので、ITツールで欠点を捕捉することで ミスのないオペレーションができる」 ――タグの読み取り率などの技術的な課題はどう克服 したのか。
「読み取り率が問題にならないような運用を工夫し てきた。
箱の中のタグを一発で読めたら本当に嬉しい。
しかし実際には無理だ。
技術的な問題だけではない。
例えば仮にタグだけが箱に入っている場合でも、箱を 開けないで検品すれば商品があることになってしまう。
棚卸もやはり現品を目で数える必要がある。
そのため 棚卸は一枚ずつ数えるし、箱も開けて数える。
そして 作業の最後にタグで一発で読み取らせている。
この使 い方だと入力の手間が省けるだけだが、それでもタグ を使うことで、検品のスピードは三分の一から五分の 一になる。
それで良しとする、という考え方だ」 ――日本でもUHF帯が解禁になった。
Litiの現 場運営にも影響を与えそうか。
「当然、期待はしている。
しかしアメリカで技術者 に聞いてみたところ、現状ではUHF帯は逆に電波が 飛び過ぎて相互干渉を起こすという。
それでもアメリ カのように、だだっ広いセンターにポツンポツンとリ ーダーを置くというのなら構わないのかも知れないが、日本のような狭いセンターではまだ使えない。
UHF 帯には長距離を望むのではなしに、もっと違う切り口 を考えたほうがいい」 ――標準化問題や周波数帯の解禁などは、あまり意に 介していないのか。
「もちろんウオッチはしているけれど、直接的には 関係ない。
標準化したからといって、お客様に我々が 使ってもらえるわけではない。
それよりも、現場をど れだけ改善できるか。
改革をする人間がいるか。
物流 ノウハウがどれだけあるか。
あるいはお客さんの気持 ちにどれだけなれるか。
そういう泥臭いところのほう が実際のビジネスには効いてくる。
決して世間の動き に背を向けようというわけではないけれど、素直に考 えるとそうなってしまう」 現在、全国9カ所に自社物流センターを 構えている。
タグやリーダー、ピッキ ング/仕分けシステムなど、倉庫内で 使用するマテハン設備も多くは自社開 発したもの。

購読案内広告案内