ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年8号
物流産業論
コンテナ化が進む鉄道貨物輸送

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

AUGUST 2006 72 鉄道貨物輸送の歴史 一八七二年、わが国初の鉄道が新橋 (汐留)〜横浜間で開通しました。
そ して早くも翌年には同区間で一日一往 復の貨物輸送がスタートしています。
さらにその翌年の一八七四年には大阪 〜神戸間でも鉄道貨物輸送がスタート。
一八八九年には東海道線の開通に漕ぎ 着けました。
日本の鉄道は新橋〜横浜間がそうで あったように、政府直営事業として立 ち上がった経緯があります。
明治政府 は富国強兵策の一環として鉄道建設を 進めてきました。
しかしその後、鉄道 網の整備は財政的な問題もあって民間 企業にその役割を委ねるようになりま した。
一八九二年の鉄道敷設法を受けて鉄 道網が全国に拡がっていき、民間資本 による鉄道の割合は全体の七五%を占 めるまでに至りました。
しかし日清、 日露戦争を経験した日本では、鉄道が 軍隊の兵站(ロジスティクス)の重要 な役割を担うことが認識された結果、 一九〇六年の鉄道国有化法の公布を受 けて、鉄道の九〇%が国有化され、鉄 道省の管轄下に置かれることになりま した。
そしてこの体制は第二次世界大 戦が終わるまで続きました。
終戦後の一九四九年、鉄道はGHQ の要請で鉄道省管轄下から日本国有鉄 道(国鉄)に衣替えしました。
ところ がその後、日本の鉄道はエネルギー転 換や産業構造の変化、さらにトラック 輸送の台頭などによって、徐々に輸送 シェアを失っていきました。
続発する 労使紛争を背景にしたストライキなど 輸送の停滞を度々引き起こしたことも シェア低下に拍車を掛けました。
貨物 部門の赤字は膨らむ一方でした。
国鉄は一九八七年に分割・民営化さ れました。
貨物部門と旅客部門が分離 され、このうち旅客は北海道、東日本、 東海、西日本、四国、九州の六つに分 かれました。
一方、貨物は産業と密接 に関連していることや、輸送距離が長 いうえに貨物の流れには往復で不均衡 第5回 荷役作業時間の短縮や列車のスピード化を実現するなど鉄道貨物輸送のサー ビスレベルはここ数年で飛躍的に向上しています。
トラック輸送に比べ環境負 荷の小さい点が評価され、鉄道を中心とした輸送システムに切り替える「モーダ ルシフト」に取り組む企業も増えています。
今回は国内物流の輸送モードの一 つとして再び脚光を浴びている鉄道貨物輸送について解説します。
コンテナ化が進む鉄道貨物輸送 73 AUGUST 2006 があるなど旅客とは性質を異にしてい ることから、全国を網羅する独立した 鉄道会社として日本貨物鉄道(JR貨 物)が発足しました。
JR貨物は各旅 客会社に帰属する線路を使い、その使 用料を支払いながら貨物輸送を行うと いうルールの下、事業を展開していく ことになりました。
輸送量減少に悩むJR貨物 JR貨物は民営化された時点で抜本 的な経営改革に踏み切りました。
石油 やセメントなどの輸送を専用列車(車 扱い)に変更し、コンテナ輸送を従来 の「ヤード継送輸送方式」から「拠点 間直行輸送方式」に改めました。
その 結果、貨物駅の数を八〇〇駅から四六 〇駅にほぼ半減し、さらに従業員の数 も五万四〇〇〇人から一万二〇〇〇人 に減らすことに成功しました。
JR貨物の現状について触れておき ましょう。
同社は二〇〇五年三月時点 のデータによれば、資本金一九〇億円、 従業員数七七三四人、年間売上高は一 六一六億円です。
営業線区は七七で、 営業キロは八六八〇キロメートル。
取 扱駅は三〇三駅で、列車本数は六七二 本。
所有車両は電気機関車五六二両、 ディーゼル機関車二四四両、貨物電車 四二両。
貨車はコンテナ車八〇九三両、 私有貨車五五二二両、その他一〇二九 両となっています。
保有コンテナはJ Rコンテナ七万一四〇四個、私有コン テナ二万二二六二個です。
鉄道事業は第一種、第二種、第三種 事業に分けることができます。
自前の 設備(線路など)を保有して旅客や貨 物を輸送する事業が第一種です。
これに対して、線路などを他から借りて事 業を展開する場合は第二種になります。
そして第三種は設備を貸し出す事業で す。
前述した通り、JR貨物の場合、 自前の線路はほとんど所有しておらず、 各旅客会社に線路使用料を支払い、事 業を運営しています。
つまりJR貨物 の事業の大半は第二種鉄道事業と言え るでしょう。
国土交通省の統計資料によると、鉄 道による貨物輸送は二〇〇三年実績で 輸送トン数五三六〇万トン、輸送トン キロで二五二億六五〇〇万トンキロと なっています。
一〇年前に比べ輸送ト ン数で約三三%、輸送トンキロで約一 〇%減少しています。
JR貨物だけでなく、私鉄も一部で すが、鉄道貨物を輸送しています。
輸 送トン数五三六〇万トンのうち、私鉄 で運ばれているのは約三〇%に相当す る一六〇五万トンです。
しかし、私鉄 は秩父セメントの輸送を担った秩父鉄 道(九六年にセメント輸送は廃止)や、 相模川で採取される砂利を輸送する相 模鉄道のように、特定の鉱山や工業地 域、港湾などとの関連が強く、営業キ ロも短いことから、JR貨物の支線的 な役割を果たしてきたにすぎません。
そのことは輸送トンキロベースで見た 場合、私鉄における鉄道貨物輸送の割 合が一%程度にすぎないという事実か らも窺えます。
コンテナ輸送のスピード化を実現 鉄道貨物輸送は大きく?コンテナ輸 送と?車扱い輸送の二つに分けられま す。
コンテナ輸送とはオンレールと呼 ばれるJR貨物が担当する鉄道輸送部 分と、オフレールと呼ばれるトラック による集荷・配達部分が一体となった 「ドア・ツー・ドア」の複合一貫輸送 サービスです。
オフレール部分は鉄道 利用運送事業者であるトラック運送会 社が担当しています。
JR貨物によるオンレールサービス は北海道から九州までを輸送の対象に しています。
最近では「スーパーレー ルカーゴ」というコンテナ専用特急列 車を運行して輸送のスピードアップを 実現しているほか、高速RORO船で ある「上海エクスプレス」を利用した 日中間のコンテナ輸送サービスや、国 際フェリーを使った日韓間のコンテナ 輸送など複合一貫輸送サービスの提供 AUGUST 2006 74 にも力を注いでいます。
現在、コンテナ輸送を取り扱ってい るのは全国でおよそ一四〇駅です。
コ ンテナ専用列車は定時運行が原則で、 中国など諸外国で運行されている貨物 列車に比べダイヤはとても正確です。
大量一括輸送が可能で、しかも環境負 荷が小さいなど、コンテナ列車は中長 距離輸送においてトラック輸送よりも 優位な点が少なくありません。
二〇〇四年三月に運行を開始した 「スーパーレールカーゴ」は最高速度 が時速一三〇キロで東京〜大阪間を約 六時間で結びます。
同列車は一日一往 復の運行で、出荷から配送までのスピ ードが問われる宅配便の輸送にも活用 されています。
同列車は両端に電動車 二台ずつと貨車十二両の一六両で編成 されており、三一フィートコンテナを 最大で二八個積載できます。
現在、コンテナを扱う貨物駅の多く がE&S(Effective & Speedy Container Handling System)方式を 採用しています。
E&S方式とは、発 着線に隣接するかたちでコンテナ荷役 ホームを設置し、列車が発着線に停車 している間に荷役できるようにする仕 組みです。
列車の発着場所と荷役場所 を一体化することで、従来のような発 着線から荷役線に列車を入れ替える作 業をなくし、荷役時間の大幅短縮を実 現するのが狙いです。
トラック輸送に比べ荷役作業に時間 が掛かりすぎる点が鉄道貨物輸送を利 用するうえでのネックの一つとされて きました。
これに対してE&S方式を 導入している駅では最短約八分の停車 で荷役が可能になったそうです。
E& S方式は一九八六年に開業した岐阜貨 物ターミナルを皮切りに二〇〇四年三 月までに全国二六の貨物駅で導入され ています。
車扱いの輸送量は減少傾向に 一方、車扱い輸送はタンク型など専 用の貨車に貨物を積載して輸送する方 法です。
主に石油やセメントなど産業 物資の輸送に利用されています。
車扱 い輸送は二七三駅(二〇〇二年実績) で提供されていますが、コンテナ輸送 のように全国を網羅しているわけでは ありません。
予め定められた区間で列 車が輸送されています。
これは先述の ように車扱い輸送の対象が産業物資で、 特定の企業と結びついていることが多 いからです。
車扱いで輸送される貨物は石油が圧 倒的に多く、全体の約六四%を占めて います。
次いでセメントの八・六%。
石灰石四・五%、化学工業品三・九%、 紙・パルプ三・二%と続きます。
ここ数年、石油や紙・パルプの業界 では企業再編が加速しています。
それ に伴い、各社は輸送の効率化を進めて 75 AUGUST 2006 おり、その影響を受けて車扱いの輸送 量も年々減少しています。
しかし、海 外から輸入、精製された石油の内陸地 域への輸送には現在でも車扱いがメー ンの輸送モードとして利用されていま す。
例えば、内陸県である長野県向け の石油の約八〇%、群馬県向けの石油 の約九六%が車扱いで輸送されている のが実情です。
九三年時点で車扱い輸送とコンテナ 輸送の比率はトンベースで六九対三一 でした。
それが一〇年後の二〇〇三年 には四二対五八と逆転しています。
ト ンキロベースでも二七対七三から十三 対八七とコンテナ輸送の割合が高まっ ています。
依然として車扱い輸送のニ ーズはあるとはいえ、鉄道貨物輸送の 主役の座はすでにコンテナにシフトし てしまったと言えるでしょう。
もり・たかゆき流通科学大学商学 部教授。
1975年、大阪商船三井 船舶に入社。
97年、MOL Di stribution GmbH 社長。
2006年4月より現職。
著書 は、「外航海運概論」(成山堂)、「外 航海運のABC」(成山堂)、「外航 海運とコンテナ輸送」(鳥影社)、 「豪華客船を愉しむ」(PHP新書)、 「戦後日本客船史」(海事プレス社) など。
日本海運経済学会、日本物流 学会、CSCMP(米)等会員。
東 京海洋大学、青山学院大学非常勤 講師。
国際化の波にどう乗るか 経済のグローバル化の進展に伴い、 貨物輸送の国際化も進んでいます。
と りわけ中国や韓国と日本を結ぶ貨物輸 送は、もはや?準国内輸送〞と位置付 けられるまでに至っています。
こうし た時代と顧客ニーズの変化に応えるか たちで、JR貨物では現在、国際海上 コンテナの輸送や、自社の十二フィートコンテナを利用した中国・韓国間と の輸出入貨物の輸送といった新商品の 開発に力を注いでいます。
二〇〇三年には、博多〜上海間で高 速RORO船を使った「上海スーパー エクスプレス」が営業を開始したのを 受けて、高速RORO船とJR貨物の 高速コンテナ専用列車を組み合わせた 新サービスを投入しました。
博多港・ 福岡貨物ターミナル駅の経由で上海と 日本国内の各駅を結ぶ日中一貫輸送サ ービスです。
また、翌年七月にはカメリアライン の博多・釜山間の国際フェリー航路を 利用して、フェリーと鉄道を組み合わ せた日韓の高速輸送サービスをスター トしました。
同サービスは、JR貨物 十二フィートコンテナを使用すること で、小ロット単位で輸送できる便利さ と航空便に劣らない輸送スピードを売 りにしています。
国際物流に対する荷主企業のニーズ は今後ますます高まっていくでしょう。
これまで国内輸送をメーンにしてきた JR貨物にとって、そうした声にきち んと応えていくことは経営の安定性を 維持していくうえで欠かせない要素と なっています。
国際物流の主流は二〇フィートや四 〇フィートサイズの海上コンテナです。
しかし、JR貨物の現行の輸送インフ ラでは海上コンテナの取り扱いに限界 があります。
産業の空洞化などを背景 に日本国内の貨物輸送量が落ち込む中、 この問題をどうやって克服していくか がJR貨物にとって大きなテーマとな りそうです。

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