ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年7号
特集
クロネコヤマト解剖 新商品で貸切市場を切り崩す

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JULY 2006 16 「宅急便」では処理できない 二〇〇四年十一月、ヤマト運輸は「クロネコボック スチャーター便」を発売した。
法人向けのサービスで、 合計六〇〇キログラムまでの貨物を専用のロールボッ クスパレット(カゴ車)に載せて翌日配達するという ものだ。
七六年に宅配便事業をスタートして以来、ヤ マトは一個三〇キログラム以下の貨物にターゲットを 絞ってきたが、新たに商品化した「六〇〇キロサイズ の宅急便」を投入することで、中ロットサイズの商業 貨物の開拓に再び乗り出した。
荷主企業にとって中ロット貨物は輸送手段の選択 が難しいサイズとされてきた。
出荷から納品までのス ピードや輸送品質を重視すれば、四トン車や一 〇トン 車を仕立てる貸し切り輸送がベストだ。
しかし、中ロ ット貨物はボリュームが小さく積載効率が悪いため、 コスト面で採算が取れない。
一方、特別積み合わせ便 はコストこそ納得できる水準にあるものの、ターミナ ルなどの中継地で積み替え作業が発生する分、貸し切 りに比べ配送スピードや輸送品質が劣る。
これに対して、ボックスチャーター便は貸し切りと 特積みのちょうど中間を狙った商品だ。
運賃は特積み に比べてやや高めに設定され ているが、貸し切り輸送 よりは格段に安い。
例えば、一・二トンの貨物を東京 から大阪まで輸送するとしよう。
特積みを利用する場 合、実勢運賃は三万円を下回る。
そして四トン車を 貸し切るケースがもっとも割高で、運賃は約七万円が 相場とされている。
これに対してボックスチャーター 便の運賃はカゴ車二本分で三万六四〇〇円という計 算になる。
一方、配送スピードは宅急便と同レベルで、配達時 間帯も二時間刻みで指定できる。
宅急便のインフラで 新商品で貸切市場を切り崩す 今年4月、ヤマト運輸は「クロネコボックスチャーター便」 のビジネスモデルを刷新した。
従来は自社単独でサービスを提 供していたが、これを特積み会社数社が共同で販売し、集配や 幹線輸送といった実務も各社で分担する体制に切り替えた。
特 積み業界が連携して貸切市場の開拓を目指すという画期的な試 みだが、成功を収めるためにはクリアすべき課題も多い。
(刈屋大輔) 一貫輸送し、しかも積み替え作業を必要としないカゴ 車単位で運ぶため、複数個口の納品がバラバラになる ?口割れ〞を回避できるなど輸送品質も高い。
主に 組み立て工場からJIT(ジャスト・イン・タイム) 納品を要求される部品メーカーなどの荷主に利用され るケースが多いという想定だった。
実際、ボックスチャーター便に対するユーザーサイ ドの反応は悪くなかった。
先行して販売した都内四区 (大田、品川、港、新宿)と川崎市では二〇〇五年度、 当初の予想を大きく上回 る取扱実績の確保に成功し たという。
さらに、セールスを進めていく段階で、販促品やイ ベント機材、賞味期限の短い食品など、部品以外の 分野の物流でも需要のあることが判明した。
テストマ ーケティング的な意味合いの強かった両エリアでの実 績や想定外のニーズの発生に自信を深めたヤマトは、 ボックスチャーター便の潜在市場が日本国内で千数百 億円規模に達すると推計。
この調査結果を踏まえたうえで、二〇〇六年度からは全国販売に踏み切ることを 決めた。
ヤマトは当初、ボックスチャーター便の全国展開を 自社単独で進 める計画だった。
ところが、その方針は すぐに軌道修正された。
宅急便のネットワークを使っ て、ボックスチャーター便の集荷〜配達までのオペレ ーションを処理していく、というスキームに無理があ ると判断したからだ。
最大のネックは集配業務だ。
ボックスチャーター便 ではカゴ車一台当たりの重さが六〇〇キロに達する。
集配業務にはカゴ車の積み降ろしに使うパワーゲート 付きのトラックが欠かせない。
これに対して、ヤマト が保有する集配トラックは宅急便事業で日々活躍し ているウォークスルー型が大部分を占めている。
ボッ 17 JULY 2006 クスチャーター便をスタートして以降、ヤマトではパ ワーゲート付きトラックの導入を進めてきたものの、 全国展開を視野に入れると、その数は圧倒的に不足 していた。
「ボックスチャーター便を本格化するにあたって宅 急便とはまったく異なる新たな輸配送ネットワークの 構築を迫られることになった。
パワーゲート付きトラ ックを追加で大量購入するだけの投資余力がないわけ ではない。
ただし、ネットワークをゼロから作り込ん でいくとなれば、宅急便の時と同様、完成までには相 当な時間とコストが必要になることを覚悟しなければ ならなかった」とボックスチャーターの長谷川誠社長 は説明する。
他社の追随を許さないためにも一気にネットワーク を整備 する必要がある。
そう判断したヤマトは、最終 的に自前主義の姿勢を捨てて、特積みのネットワーク を有する同業他社と協働するかたちで全国販売への道 を模索することになった。
西濃運輸をパートナーに選ぶ 同業他社とのコラボレーションを実現するために、 ヤマトはボックスチャーター便の事業会社である「ボ ックスチャーター」をフランチャイザーとして位置付 け、その下に特積み各社をフランチャイジーとして組 織するフランチャイズ方式で事業を展開するモデルを 考案した。
ボックスチャーターは事業の企画・運営を担当し、 各加盟フランチャイジーからロイヤリティーを徴収す る。
一方、フランチャイジー各社にはボックスチャー ター便の販売および集荷〜幹線輸送〜配達のオペレ ーションを請け負ってもらい、それぞれ担当した業務 に対して一定のフィーを支払うという枠組みだ。
このフランチャイズ方式の枠組みが固まったところ で、まずヤマトは西濃運輸にプロジェクトへの参加を 呼びかけた。
商業貨物に特化している西濃には 、中ロ ットサイズをカバーできる集配機能が備わっている。
またそれ以上にヤマトにとって魅力的だったのは同社 の運行(幹線輸送)機能の充実ぶりであった。
ハブ・アンド・スポーク方式を採用しているヤマト には、幹線便を走らせているターミナルが全国に七〇 カ所程度しかない。
これに対して西濃は全国約二〇〇 カ所のターミナルで幹線便を発着させている。
西濃の インフラを活用することで、ボックスチャーター便の 集荷や配達を担当するフランチャイジーたちは、幹線 輸送を仕立てるターミナルにアクセスするまでのリー ドタイムを短縮できる。
交渉の結果、西濃は幹線輸送を中心に販売や集配 業務まで を含めた全面的なバックアップを約束してく れた。
当然ながら西濃はヤマトと市場で競合関係にあ る。
それでもヤマトの提案をすんなりと受け入れたのは、西濃にとっても悪い話ではなかったからだ。
日々 動かしている商業貨物に、新たなベースカーゴとして ボックスチャーター便が加われば、幹線便の積載効率 向上が期待できる。
およそ九カ月間に及ぶ協議を経た後、両社は今年 三月にボックスチャーター便事業で業務提携すること を発表した。
西濃運輸の持ち株会社であるセイノーホ ールディングスがボックスチャーターの発行済み株式 の一五%を保有して資本 参加。
同商品を「JITB OXチャーター便」としてリニューアルしたうえで、 今年四月から両社が共同でセールスしていく方針が決 まった。
これと並行してヤマトと西濃は、他の特積み会社に もプロジェクトに加わるよう打診している。
「主要な JITBOXチャーター便の商品規格 商品規格 規格の内容 販売対象 販売単位 販売エリア サービスレベル JIT納品 運賃 補償限度額 集荷・納品 法人発送→法人到着に限定 ロールボックスパレット(RBP)1本単位 【重量600kg,体積約2m3(1,100mm×1,100mm×1,750mm)】 全国(一部離島を除く) 翌日(900km以内)翌々日(900km以遠)配達 ○時○分までの配達指定(10時〜18時の間) 都道府県単位の地帯別運賃(北海道は市区郡単位) 500万円を上限 1箇所で積み付け、1箇所で積み降ろし (RBPが搬入可能な場所に限る) 標準サービス オプション 標準時間外の 集荷・納品 セキュリティ向上 RPBが搬入不可能な 場所での集荷・納品 納品・受領書回収 ○時○分までの配達指定 (8時〜9時59分,18時01分〜20時の間) ボックス全体を覆うフルカバーおよび封印を施した輸送 台車などを利用した集荷・納品(ビル内縦持ちなど) 返送サービスを実施 ボックス帯カバー ボックスフルカバー 特 集 JULY 2006 18 特積み会社がコラボレーションするかたちで企業間物 流における新たな輸送商品を開発・提供しよう。
それ によって貸し切り市場に流出していた中ロットサイズ の貨物を奪い返そう」という口説き文句だった。
この 呼びかけに応じる格好で、三八五流通や第一貨物、西 武運輸といった中堅クラスの特積み会社が相次いでフ ランチャイジーとしてプロジェクトに参加する意向を 表明した。
ただし、ヤマトの最大のライバルである佐川急便だ けは例外だったようだ。
「当社には全く打診はなかっ た。
そもそもあの商品は当社をターゲットにしたもの だと認識している。
しかし、六〇〇キロのボックスパ レット単位 で運びたいなどというニーズがどの程度あ るのか。
特積み各社の足並みはきちんと揃うのか。
当 面はお手並み拝見といったところだ」と同社の幹部は いう。
業務提携を発表した三月の時点で、「JITBOX チャーター便」はセールスをヤマトと西濃の二社(両 社のグループ会社を含めると三五社)で行い、幹線輸 送は西濃が引き受け、配達はヤマトが東日本地区を、 西濃が西日本地区を管轄する役割分担になっていた。
しかし、新たなメンバーが加わったのを受けて、改め て配達の担当エリアを決めた。
東北地区では三八 五 流通が北東北三県を、第一貨物が南東北三県を担当 といった形で、後から参加した中堅の特積み会社にも それぞれ配送担当エリアを振り分けた。
日通のヤマト活用術 さらに五月には業界最大手の日本通運が新たにプ ロジェクトメンバーの一社として名を連ねた。
西濃と 同様、日通もボックスチャーターに出資して株式の一 五%を保有した。
今後は「JITBOXチャーター 便」のセールスに乗り出すほか、配達業務の一部を受 け持つことになる。
日通は商品コンセプトが「JITBOXチャーター 便」と重なる「アローボックス」サービスを九二年に スタートしている。
同サービスはすでに年間二〇万個 強の取扱実績がある。
それでも今回プロジェクトに参 加したのは他社と同様、特積み業界が共同で商品を 開発・販売するという過去に例のない試みを成功 させ たいという思いが強かったからだという。
もっとも、理由はそれだけではない。
日通のアロー ボックスはJITBOXチャーター便に比べ、カゴ車 のサイズが一回り小さい。
カゴ車一台当たりの制限重 量は四五〇キロに設定されている。
「六〇〇キロまで 積めるJITBOXチャーター便とアローボックスの 二つの商品メニューを用意しておくことで、お客さん は選択の幅が拡がる。
ニーズに合わせて両商品を使い 分けてもらうことが可能になる」と営業企画部の渡辺 潤専任部長は説明する。
日通とヤマトもまた宅配便事業や引越事業などの 分野で長年激しいシェア争いを繰り広げ てきたライバ ル企業同士だ。
しかし近年は大型商業施設やオフィス ビルを対象にした共同配送ビジネスでコラボレーショ ンを実現するなど両社の関係も徐々に変化しつつある。
今回、JITBOXチャーター便でヤマトと手を組む ことに関しても何ら抵抗感はなかったという。
実際、日通は「国際物流の分野でJITBOXチ ャーター便の機能をフルに活用した新サービスの開発 に取り組んでいる。
早ければ七月中にもその詳細を発 表できる見通しだ。
お客さんの要望に応えていくため には、他社の機能をうまく組み合わせてサービスを提 供 していくことも辞さない」(渡辺部長)構えだ。
同 社では初年度となる二〇〇六年度に、JITBOX JITBOXチャーター便の集荷〜配達までの流れ 集荷 幹線輸送 配達 発荷主 工場 ?ボックスを集荷 ?西濃のターミナルに持ち込み ?西濃が幹線輸送 ?ボックスを  取りに行く ?ボックスを配達 着荷主 特積みA社 特積みB社 特積みC社 各エリアを 担当する 特積みA社 各エリアを担当 する特積みB社 各エリアを担当 する特積みC社 西濃運輸のターミナル 西濃運輸のターミナル FC FC 19 JULY 2006 チャーター便の販売目標を六万本に設定している。
配達品質をどう担保するか こうしてヤマト、西濃、日通の大手三社が出資する 「ボックスチャーター」に、フランチャイジーとして中 堅クラスの特積み会社数社が加わったことで、特積み 業界初となる企業連合体が形成された。
しかし、この プロジェクトが成功を収めるのかどうかは未知数だ。
プレーヤーの頭数が揃い、全国ネットは完成したもの の、運用面でクリアすべき課題は山積している。
プロジェクトに参加するメンバーたちが口を揃えて 指摘する懸念材料の一つは輸送品質の問題だ。
JI TBOXチャーター便では貨物を集荷・発送する側、 つまりセールスする側と、配達する側が必ずしも一致 しない。
セールスする側は各エ リアの担当会社に配達 業務を委ねる格好になる。
果たしてこのような分業体 制で一定レベルの輸送品質を維持することができるの だろうか。
「カゴ車を使うため積み替え作業が発生しないとは いえ、基本的には特積みの連絡運輸と変わらない。
作 業員やドライバーの荷扱いに対する意識は会社によっ てかなり温度差があるのが実情だ。
協業体制を敷いて いる以上、全国均一の高い輸送品質を保つことには 限界がある。
そもそもヤマトが宅急便で高い輸送品質 を実現できているのは配達などの実務をアウトソーシ ング せず、自社で処理することにこだわり続けてきた からではないか。
今回の取り組みはその考え方と逆行 している気がする」とプロジェクトに参加している特 積み会社の幹部は指摘する。
JITBOXチャーター便はその名の通り、貨物を ジャスト・イン・タイムで目的地に届けることを売り にしている。
仮に荷主企業と約束した時間までに貨物 が到着しなかった場合は誰が責任を取るのか。
納品遅 れで荷主からペナルティーを課せられる発送側だけが 不利な状況に追い込まれないようオペレーションに携 わる集荷、幹 線輸送、配達の各担当会社の責任範囲 を明確にしておく必要があるだろう。
運賃配分に不満の声 運賃の配分ルールについてもボックスチャーター側 とプロジェクトに参画する特積み各社との間で、未だ コンセンサスは得られていないようだ。
ボックスチャ ーター側の説明によると、運賃は販売および集荷の担 当会社に落ちるのが四五%程度(ロイヤリティー含 む)。
残りの五五%程度が幹線輸送と配達に振り分け られる仕組みになっているという。
一方、ある参加会社からは販売および集荷で三〇% 程度、本部にロイヤリティーとして上納するのが七〜 一〇%、配達料はカゴ車一本当たり三〇〇〇円で固 定されており、残りが幹線輸送の費用に充てられているという回答が寄せ られた。
現在、参加会社からは販 売および集荷に配分される運賃の割合が小さいためセ ールスに対するモチベーションが上がらないといった 不満の声や、その割に本部が徴収するロイヤリティー が高すぎると指摘する意見が出ているという。
これに対して、ボックスチャーターでは「将来はも っと集荷側に還元できるような配分に見直していきた い。
作業に掛かる原価が低下していけば、その分各社 に落ちるマージンは増えていく。
そのためには取扱量 のボリュームを拡大していくことが肝心だ」(長谷川 社長)としている。
ヤマトが仕掛けたこの新商品が成 功を収め、 コラボレーションが機能すれば、特積み業 界における同社の位置付けは一変する。
その行方が注 目される。
札幌 宮城 東京 新潟 愛知 大阪 広島 香川 福岡 札幌 宮城 東京 新潟 愛知 大阪 広島 香川 福岡 9,600 28,800 40,300 32,100 48,100 52,600 57,000 60,800 64,800 9,600 15,800 13,500 21,700 26,100 30,500 34,700 42,100 9,600 14,700 14,700 18,200 25,800 29,800 30,500 9,600 13,700 17,900 25,600 26,100 33,600 9,600 11,200 17,800 21,600 25,800 9,600 13,500 17,800 21,600 9,600 13,800 12,600 9,600 21,700 9,600 「JITBOXチャーター便」の料金 1 ボックス当たり 単位:円(税込み) ※上記価格はあくまでも参考情報として示されるものにすぎず、実際の価格は各フランチャイジーにより  個別の事情に応じて設定されている。
特 集 日本通運の渡辺潤 営業企画部専任部長 ボックスチャーター の長谷川誠社長

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