ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年7号
特集
クロネコヤマト解剖 自前主義捨て業界再編を主導

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JULY 2006 12 制約は取り払われた 世論を焚きつけ行政と戦う徹底した規制緩和論者 であり、業界運動とは一線を画す孤高の経営者。
投 資資金は株式市場から調達し、無借金経営を良しと する。
同業社との提携や事業の多角化には慎重で、本 業である『宅急便』の高度化にひたすら邁進する││ そんな小倉昌男社長時代のヤマト運輸は、宅急便の 成功によって世間から賞賛される一方、物流業界内 には独善的との批判もあった。
カリスマ経営者は社内にも圧倒的な存在感をもって 君臨した。
銀座のヤマト本社から歩いて数分の昭 和通 り沿いに、小倉元会長が机を置いていたヤマト福祉財 団の事務所がある。
元会長が経営の第一線から退い た後も、重要案件については「昭和通り」への報告が 慣例だった。
その意向はヤマトの歴代経営陣の意思決 定に少なからず影響を与えていたはずだ。
事実、小倉元会長が他界した昨年六月以降、ヤマトは過去のスタンスとは全く相反する施策を矢継ぎ早 に打ち出している。
ドイツポスト、日本郵船グループ、 西濃運輸、日本通運と、相次いで合弁会社を設立。
こ れまでの自前主義を一変させ同業他社との提携によ っ て事業領域の拡大を急いでいる。
人事面でも大きな波乱があった。
〇五年九月には 当時の山崎篤社長が健康上の理由から代表を辞任。
有 富慶二会長が社長を兼務すると共に、みずほコーポレ ート銀行から招いた木川眞常務が新たに代表権を持 つ人事を発表した。
同十一月の持ち株会社制への移 行では、事業会社のヤマト運輸社長に小倉元会長の 実子である康嗣氏が就任。
これに前後して、康嗣氏と 並んで将来の社長候補と目されていた上沼雄治ヤマト ホームコンビニエンス社長、そして鈴木英男ヤマトロ  小倉昌男元会長の他界から1 年。
クロネコヤマトの舵 取りが様変わりしている。
これまでの自前主義と決別し、 同業他社との提携を相次いで実現。
銀行借入による買 収も辞さない構えを見せる。
ポスト宅配便市場に向けた マーケティング戦略が急発進を始めた。
その勝算と物流 業界に与えるインパクトを探る。
特 集 自前主義捨て業界再編を主導 13 JULY 2006 ジスティクス社長などの幹部が揃ってヤマトを離れて いる。
その後、上沼氏は仇敵の日本郵政公社に席を 移し、現在は郵便事業の幹線輸送を担う日本郵便逓 送で役員を務めている。
今年五月に発表したヤマトHDの社長人事では、任 期満了で退任する有富会長に代わり、当初は木川常 務の昇格が有力視されていたが、実際に後任として指 名されたのは瀬戸薫常務執行役員だった。
本人への 内示は発表のわずか一週間前。
しかも経営の実権を 握っていた有富会長は会長職にはとどまるものの代表 権を返上 するというサプライズ人事だった。
一連の動きをヤマト運輸労働組合の越川利勝中央 執行委員長は「この一年は我々組合が予想していた 以上のスピードで経営が動いた。
有富会長が自分の任 期中に、これまでの総仕上げとして懸案事項を一気に 片づけた。
しかし、これで人事のバタバタもようやく 落ち着いた。
今後は瀬戸・木川・小倉の三人体制で 経営の舵取りが進む。
有富会長が院政を敷くこともな いだろう」と解説する。
労組は瀬戸社長の予想外の就任を基本的に歓迎し ている。
木川常務がみずほからヤマトに移ったのは昨 年四月でまだ日が浅い。
それに対して瀬戸社長は人 事 労務畑の出身者。
労組とは馴染みが深い。
現在、ヤ マトはメール便ドライバー(MD)と呼ぶ契約社員の 組織化を急いでいる。
その労務管理は経営上の大きな テーマ。
社長人事でもそれに配慮した格好だ。
加えて資金需要の変化が社長人事にも影響を与え たと指摘する声もある。
銀行出身の木川常務の社長 就任が有力視されていたのは、大型買収を実現するた めの財務力の強化が背景になっていた。
実際、昨年二 月に発表された三カ年計画では、積極的なM&Aが 基 本戦略に挙がっている。
そのために二〇〇〇億円規 模の銀行借入枠を設定したとも言われる。
しかしその後、今日まで買収は行われていない。
「今 のところ具体的に検討している案件もない。
物流業は 典型的な労働集約産業。
人の問題がからむだけに買 収は難しい。
よけいな摩擦を起こすより提携などで、 他の物流会社と協力関係を築いたほうが賢明だ」とヤ マトHDの瀬戸社長はいう。
買収から業界他社との 提携へ、途中で戦略を変更したフシがある。
業界協調路線に転換 小倉時代のヤマトが本格的な提携を結んだ相手は、 国際宅配便のUPSだけだった。
その提携も〇四年 四月には事実上解消している。
ヤマトの組織には労使 一丸となってサービス強化に愚直に取り組む?小倉イ ズム〞が深く浸透している。
そのカルチャーは宅急便 の高いサービス品質を可能にする一方、協働を容易に 受け入れない。
そのため小倉時代には、提携や業務委 託という手段ではなく、もっぱら買収でリソースを社内に取り込み、ヤマト仕様に染め上げるという手法を とってきた。
しかし事実上の宅配専業からフルライン へ 事業領域を拡大するにあたり従来の方針を転換した。
これに合わせて業界内での位置付けも、既得権に噛み つく業界の鬼っ子から求心力のあるリーダーへ、宅急 便時代とは変化させようとしている。
最近、有富会長は、ヤマトの創業者で小倉昌男元 会長の実父に当たる康臣氏が一九二九年に開始した 路線便「大和便」を例にとり、新商品の開発力こそ がヤマトの遺伝子であり、「宅急便」もその延長線上 にある商品の一つに過ぎないという趣旨の発言を繰り 返している。
創業の原点に立ち返 ることで偉大な中興 の祖を乗り越える。
老舗の新たな挑戦が始まっている。
(大矢昌浩) 2005 年6月30日 小倉昌男前会長死去 同9月22日 山崎篤社長が健康上の理由で社長を退任、有富慶二 会長が社長を兼務する人事を発表 同11月1日 ヤマトホールディングスを設立、持ち株会社制に移行。
ヤマト運輸社長には小倉昌男元会長の実子、康嗣氏が 就任 同10月12日 ヤマトロジスティクスの鈴木英男社長が退任 2006 年2月9日 ヤマトホームコンビニエンスの上沼雄治社長が退任。
そ の後、氏は4 月に郵政公社入りし、現在は日本郵便逓 送役員 同2月27日 セイノーホールディングスとボックスチャーター事業で合弁 会社設立を発表 同3月10日 ドイツポスト・ワールドネットとダイレクトマーケティング事 業で合弁会社設立を発表 同5月10日 日本郵船グループと提携、国際物流事業で合弁会社設 立を発表 同5月15日 有富慶二ヤマトHD 会長兼社長の後任として瀬戸薫 常務執行役員が社長に就任する人事を発表 同5月31日 日本通運がボックスチャーター事業への資本参加に合意 この1年のヤマトグループの動き 国際メール便ではドイツポストと手を握 った。
写真右はDHLグローバルメール・ ジャパンのマイケル・クルメー・セイモア 社長。
左は小倉康嗣ヤマト運輸社長。
有富ヤマトHD会長の後任として、人 事労務畑出身の瀬戸薫常務(写真 左)がヤマトHDの社長に指名された。
国際物流では日本郵船グループと資 本提携を結んだ。
写真は右からヤマト HDの木川常務、有富会長、日本郵船 の宮原社長、石田副社長。
(当時)

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