ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2006年6号
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日本通運

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JUNE 2006 40 設備投資のリターンが見えない 日本通運の株価は昨年後半に上昇基調を 示して、年末には七五〇円前後の値をつけた。
しかし二〇〇六年に入ってからは下落傾向に 転じ、この数カ月間は六〇〇〜六五〇円のボ ックス圏で推移している。
昨年の株価上昇は、景気回復による取扱貨 物量のボリューム増への期待感に加え、管理 職を対象にした「転進支援措置」などリスト ラ策への評価、同社の資産面でのプレミアム を株価に織り込む見方が活発であったという 背景があったようだ。
ただし、業績面におい ては決して投資家たちの?期待通り〞の実 績 はあがっていない。
二〇〇六年三月期業績は、現時点では発 表になっていないが、前第3四半期決算(四 〜十二月)は営業利益が前年同期比一・七% 減の減益だった。
前3Q(一〇〜十二月)の みの単体での自動車事業収入は同二・一%減 と、中間期の同〇・三%減に比べてさらに鈍 化し、下期対計画で七億円の減益影響があら われた模様だ。
同社は通期の営業利益予想を四七〇億円 から四一五億円に下方修正した。
修正幅の大 きさや、貸し切り輸送のみならず、小口の積 み合わせ輸送の単価下落も進んでいる点は来 期以降の懸念材料と言える。
自動車事業収入が鈍化した主な要因は競争 激化による単価下落である。
従来から見られ たトレンドではあるが、前下期に入ってさら にその傾向に拍車が掛かったようだ。
一方、 宅 配便サービスである「ペリカン便」でも単 価下落が続いており、景気回復期待は業績面 に反映されていないと言っていい。
コスト増も悩ましい問題である。
3Q(一 〇〜十二月)の傭車・下請け費は前年同期 比三%増の増加基調で、大雪や燃油費高騰 の影響を受けた。
特に燃油費は想定値を大き く上回っている。
燃油費高騰は外部要因であ り、不可抗力的な要素もあるが、そのような 局面においてコスト吸収策が図れない点につ いてはマイナス評価を下さざるを得ない。
先行きに対する期待感が持ちにくいのも難 点である。
三月末日に発表した二〇〇八年度 までの中期経営計画ではポイントとして、? 多様な事業を抱える同社のビジネスポートフ ォリオは維持し、経営の方向性は転換しない、 ?低迷する国内トラック事業を3PL事業や 海外事業などでサポートしながら増収を図る、 ?コスト面では自然退職やIT化による削減 効果が見込める││点などを挙げているが、 いずれも踏み 込んだ施策とは言えない。
総額 二七六〇億円の設備投資を計画しているが、 それを実行することによる利益面でのリター ンを明示してほしいところである。
懸案の貸し切りトラックとペリカン便のテ コ入れ策については目新しい内容は見られな かった。
前者では値上げ交渉を前進させるこ とと産業貨物の取り扱いを拡大させる。
一方、 第22回 日本通運 日本通運の株価は今年に入って下落傾向に 転じている。
期待通りの業績を確保できてい ないためだ。
トラック運賃水準の低迷で収入 が伸び悩んでいることや、燃料費高騰による コストアップが響いている。
株価回復には国 内物流事業の建て直しが不可欠だ。
中島伸 ゴールドマン・サックス証券  投資調査部  ヴァイス・プレジデント 売上高二兆円目標も利益増は期待できず 国内トラックのテコ入れが急務の課題に 41 JUNE 2006 後者では大型顧客の喪失によるマイナス影響 が一巡することで新規顧客開拓を進めるとい ったもので、現在の施策の延長線上にあると 言える。
計画では「取扱減少等」という項目 で三年間三九〇億円の減収を織り込んでおり、 今後も国内トラック事業では単価下落とシェ ア縮小の傾向が続くと見てよかろう。
これに対して、計画では「3PL事業」で 四九〇億円、「グローバル事業(空運・海運)」 で三七〇億円、「地域・新サービス」で四四 〇億円の増収を見込む。
このうち「3PL事 業」の拡大は流通倉庫を軸と した総合的な物 流サービスのニーズを取り込む意向である。
「地域・新サービス」では同社独自の技術 による差別化を目指し、重機建設関係の輸送 や警備輸送などで二二〇億円、内航やエコビ ジネスなどで一二〇億円の増収を想定してい る。
連結ベースでは計画期間中に海外子会社 の新規連結化で三五〇億円、 海外事業で四六〇億円、日 通商事で五五〇億円などの 増収を見込む。
ゴールドマン・サックス 証券では、低迷する国内ト ラックを収入源の分散化で 補完する同社の戦略をポジ ティブに捉えている。
「3P L事業」では積極的な投資 によるボリュームの拡大、 そして空運や海運事業でも 同社のマーケットシェアや マクロ的な経済環境の追い 風を受けて一定の収入増を実現することは可 能であろう。
しかし「地域・新サービス」や 連結子会社の増収見通しには不透明な点も多 く、〇九年三月期の売上高二兆円という目標 は野心的な数値と見るべきだろう。
資産処分の施策は評価 収入の伸びに対し利益の増加はさほど進ま ないようだ。
連結経常利益は〇六年三月期の 会社計画である四六五億円に対して、同〇九 年三月期は六〇〇億円を想定し、経常利益 率は二・六%から三%へと微増の範疇での増 加である(単体では同三〇〇億円から四一〇 億円で利益率は二・三%から三%へ)。
一方、コスト面では計画期間中にコストの 比較的高い「全国社員」で二三五〇人の定年 退職を見込んでおり、半分は外注費などに置 き換えられるものの、一定の費用削減効果が 期待される。
仮に一人当たりの人件 費を七〇 〇万円で試算すると、八〇億円程度の削減に なり、同社が別途織り込んでいるIT化によ るコストダウン四二億円と合わせて、一二〇 億円程度の削減効果を見込める。
ただし、費用削減効果に比べて実際の利益 増加の見通しは小さく、同社はその点につい て「外注費の単価増や新規投資に伴う下請け 費の増加といった不確定なマイナス要因を織 り込んでいる」としている。
いずれにせよ、 明確な利益成長ストーリーが描けたとの評価 は難しく、顕著な利益増加も予想しにくいと いう印象を受 けた。
もっとも、まったく期待感が持てないわけ ではない。
中期経営計画の中で非効率な資産 三〇〇億円の処分を推進するなど従来見られ なかった資産面での施策に触れた点は注目に 値する。
さらに地域分散している拠点を新規 業務の獲得を前提に大型拠点へ集約したり、 都市部の一部拠点を物流以外の多目的な拠 点として活用していくことも検討するという。
三月中旬には常勤取締役および常勤監査役 (合計一七人)の取締役報酬の一部を株式報 酬に改める新制度を発表した。
同制度では各 役員と監査 役の毎月の報酬の一部を同社役員 持株会に拠出し、取得した株式を一定比率に 応じて配分する(配分比率は未公表)。
これ によって経営陣の業績と株主価値向上への意 識が高まることを期待したい。
日本の物流業界では商船三井&近鉄エクス プレス、日本郵政公社&全日本空輸(AN A)、日本郵船&ヤマト運輸といった陸、海、 空の垣根を越えた大連合の提携が着々と進ん でいる。
業界の「巨人」であった日通ももは や安穏としていられる状況ではない。
得意の 国際物流を伸ばし つつ、打開策が見えにくい 国内物流を抜本的にテコ入れするといった思 い切った施策が同社株の評価を上げるには不 可欠であるといえよう。
なかじま のぼる 九一年早稲 田大学法学部卒。
コロンビア大 学大学院修了(国際関係論)。
NHKに記者として七年間勤務 後、米国留学を経て二〇〇〇年 七月にゴールドマン・サックス 証券に入社。
二〇〇一年四月よ り運輸セクターを担当。
著者プロフィール 日本通運の過去10年間の株価推移 (円)

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