ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年6号
現場改善
素材メーカーK社の協力会社見直し

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JUNE 2006 68 事例で学ぶ 現場改善 日本ロジファクトリー 青木正一 代表 対売上高物流費比率二〇% メーカーK社は北関東に二つの工場を構える 年商約三〇〇億円の化学品素材メーカーだ。
同 社の物流改革を担当する業務課のS氏から、弊 社日本ロジファクトリー(NLF)のホームペ ージを通して問い合わせが入った。
そのメール には「物流費のコストダウンが進まない」と書 かれていた。
とりあえずS氏に電話をしてみることにした。
S氏によると、K社の対売上高支払物流費比率 は二〇%に達しているという。
素材メーカーの 物流費比率としても、とりわけ高い部類に入る。
詳しい話を聞くために、一度K社を訪問するこ とを約束した。
この訪問に合わせて、S氏には 物流費の内訳の分かる資料を作成してもらうよ うお願いしておいた。
K社の業務課は本社工場に隣接していた。
約 束の時間にはまだ余裕があったので、とりあえ ず工場内を一回りして、現場と製品を確認する ことにした。
K社の製品は軽量で容積の大きい、 俗に「空気を運ぶようなもの」とも称されるよ うな、かさばる荷姿品であった。
これを輸送す るには、通常よりも容積率の高い荷台を備えた 車両を使わなければ割が合わないだろう。
その後、業務課の事務所でS氏に面会 した。
会 社案内や製品案内などの資料を見ながら相談を 受けた。
聞けばS氏は業務課に異動になって、ま だ六カ月しか経っていないという。
それまでは 関西地区で営業を担当していた。
そこにトップ ダウンでS氏に直接、物流改善の命令が下った。
つまり社長特命の担当責任者としてS氏に白羽 の矢が立ったのであった。
S氏は三五歳という 若さながら、経営陣から高い評価を得ているこ とがうかがえた。
実際、S氏は就任当初から矢継ぎ早に効率化 を実現していた。
まず製品別に在庫 水準を見直 し、一七〇%の在庫回転率の向上を成功させた。
また不良品の引き上げでも一定の成果が上がっ ていた。
さらにストックポイントの見直しにも着手中とのことであった。
就任から四カ月目のこと。
そんなS氏に月一 回のトップへの定例報告の場で新たなテーマが 与えられることになった。
「こまごました改善は 後にして、もっと思い切ったアウトソーシングに よる改革を実施しろ。
そうしないと抜本的にコ ストを下げることなどできない」というトップの 指令だった。
これによって、S氏のそれまでの改善計画は 白紙に戻された。
この日からS氏はアウトソー シング先の見直しを 含めた支払物流費の削減に 注力することになったのだ。
K社の支払物流費比率が高い原因は、我々と の話し合いが進むにつれて、徐々に判明してい 第41回 安い運賃を追求するあまり、必要以上に協力会社数が増加し ていた。
その結果、支払い運賃の水準は抑えられていたが、配車 にはムダが多く、協力会社側の工夫を引き出すこともできずにい た。
コストダウンを進めるには、協力会社との関係を抜本的に見 直す必要があった。
素材メーカーK社の協力会社見直し 69 JUNE 2006 にはその両方が当てはまった。
主要四社に支払っている費用はA社が突出し ており、年間約一〇億円だった。
その他三社が それぞれ三億円前後という状況であった。
この 四社のうち一社は中堅物流会社で、他の三社は 中小あるいは零細会社だった。
また支払額第一 位のA社は実質的なK社の専属物流会社と呼ぶ べき存在だった。
幹事会社の顔ぶれを見ても困 った時に頼れる、融通の利く協力物流会社は見 当たらなかった。
メーンバンク不在の会社経営 のようなものであった。
次に我々は契約運賃に目を向けた。
K社は団 体独自の運 賃タリフを作成していた。
そこから 短、中、長の距離別に三経路を抜き出し、キロ メートル当たりの運賃を算出してみた。
平均は 一一三円/ km であった。
現在の運賃相場は一四 〇円/ km 〜一六〇円/ km である。
一一三円/ km は協力物流会社にとってかなり厳しい水準だ。
しかもK社は配車業務を荷主自身で処理して いた。
協力会社側では、自社の配送インフラに った。
まずは物流会社別・方面別の支払物流費 一覧表を見せてもらった。
売上高の二〇%、約 六〇億円に上る支払い物流費が、一覧表の中に 無作為に散らばっていた。
数えてみると取引物流会社が四六社もあった。
これではボリュームディスカウントも効力を発 揮しない。
聞けば元々は主要四社を幹事会社と して設定していたのだが、現在では四社のシェ アは四〇%ほどまで下がっているという。
幹事 会社とは名ばかりで、機能していないことは明 ら かだった。
元受け会社の不在 このような現象は一般に、?過去に物流会社 から輸送を断られた経験があり、それがトラウ マとなって幹事会社を通さず、随時対応できる 多くの物流会社と取引を行った、?安い運賃を 求め続け、出荷や配車の際、常に安い便を使用 したため、取引会社が自然に増えていった、こ となどが原因になっているケースが多い。
K社 K社の荷物を積み合わせるといったコストダウ ンの工夫ができない。
そのために協力会社も自 社では走れず、孫請け・ひ孫請けの零細企業に 外注しているところが少な くなかった。
どの業務からアウトソーシングすれば良いの か。
どのようなフォーメーションが良いのか。
新 たに3PL会社をパートナーに選ぶのか。
それ とも既存の協力物流会社を中心に据えるのか。
さ らには3PL子会社の設立までがK社の検討課 題に上っていた。
このうち3PL子会社設立に関しては、アウ トソーシングによるスリム化という方向性に反す るとアドバイスしたものの、特命担当責任者の S氏は「現時点では、このようにしたいという絵 が描けていない」と、我々に本音をもらした。
我々が訪問した時点でS氏は既に数社のア セット型3PLと接触していた。
そのうち大 手二社だけは受託に乗り気だが、他の会社は 逃げ腰になっているという。
K社の製品がか さばるため、特殊車両を揃えなければならな JUNE 2006 70 いことが主たる原因のようだと、S氏は説明 した。
これに対して我々からも一つ付け加えた。
す なわち協力物流会社にとって、K社の運賃は安 過ぎて、物量があっても旨味がない。
それどこ ろか利益を残せるのか不安になるような水準で あることを指摘した。
3PLが逃げ腰になるの も当然だと私には思えた。
このようにしてS氏からK社の物流の概要と これまでの経緯、支払物流費データの説明を受 けた後、私は以下のような四つの切り口からの 改善策を示した。
1 物流幹事会社を一社ないしは二社に絞 り込 む。
それによってボリュームディスカウント によるコストダウンを図る 2 現状の配送ルートおよび内容をチェックし て、ルート別・内容別に協力物流会社を再 編する 3 支払物流費の削減ではなくトータル物流コ ストの範囲で改善とコストダウンを図る 4 受注業務以降の出荷指示、配車業務まで含 めた広範囲なアウトソーシングの実施 このうち「1 幹事会社の絞り込み」では、現 在の主要四社のうち中堅物流会社のB社は、本 格的な3PLとまではいかなくても、元請け的 な機能を果たすだけの実力があった。
このB社 を中心に新たな仕組みを作ることは可能である。
ただし、案件が大きくなるため、担当者レベル で はなく、B社のT社長と直接話し合いを行う 必要がある、とアドバイスした。
「2 協力物流会社の組み替え」でも効果は期 待できそうだった。
物流会社別・方面別の支払 物流費一覧を見ると、各物流会社の得意とする 方面、つまりK社の荷物のほかにベースカーゴがあったり、発荷もしくは帰荷がある方面を活 かしていないケースが散見できた。
また同一エ リアに何社もの物流会社が入ることで、効率化 の図れないエリアもあった。
協力物流会社に競争意識を持ってもらうとい う狙いならまだ分かるが、これは前述の通り輸 送依頼を断られたトラウマから生じたリスクヘ ッジであった。
恐らくバブル時代 のことだろう。
かなりの古株社員がいるものだ。
今はもうそん な時代ではない。
嫌われ役に徹する 「3 トータル物流費のコストダウン」は教科書 通りの正攻法と言える。
既に訪問前の電話のや り取りの段階で、私は「支払物流費の削減が限 界なのであればトータル物流コストの範囲で考 える必要がある」と伝えていた。
その後、S氏は私の著書を購入し、その内容 をトップに報告していた。
すなわち物流費には 支払物流費と社内物流費がある。
これら二つで トータル物流費は構成されている。
そのことに トップは理解を示した。
そして最終目標は必ず しも支払い物流費の削減ではなく、トータル物 流コストを一〇%ダウンさせることにあると、S 氏に 明言したのであった。
「4 広範囲なアウトソーシングの実施」に関し て、本来であれば物流業務の前工程となる受注 業務からのプロセスを対象にしたいところであ るが、K社では昨年、社内で受注センターを設 置したばかりであり、受注プロセスから手をつ けるのは難しいということだった。
となるとアウ トソーシングの対象業務は、配車、構内作業、輸 配送に絞られる。
このうち傭車に関しては、協力物流会社にと って利益の源泉となり得る配車業務を主要物流 会社および幹事会社に委託することにした、そ の代わり車両管理、運行管理そして物流会社の 管理と集約化を担ってもらうのである。
それに よっ てK社では社員四名を他部署へ異動させる ことが可能になる。
その異動先は受注センター が最適である。
そのための社内的な根回しをS氏は既に開始 している。
S氏が物流改善の特命を受けてから 間もなく九カ月を迎えようとしている。
取り組 みはまだ途上にあるが、今ではS氏も協力物流 会社と自社社員の嫌われ役に徹する覚悟をすっかり固めたようだ。
しかし我々の提案した改善 シナリオに対してはS氏自身、必ずしも納得し ていない部分もあるという。
さて、K社は最 終的にトータル物流コスト一 〇%ダウンを達成できるであろうか。
また本誌 の読者の皆さんなら、どんな改善シナリオを描 くであろうか。
あおき・しょういち  1964年生まれ。
京都産 業大学経済学部卒業。
大手 運送業者のセールスドライ バーを経て、89年に船井 総合研究所入社。
物流開発 チーム・トラックチームチ ーフを務める。
96年、独立。
日本ロジファクトリーを設 立し代表に就任。
現在に至る。
HP:http://www.nlf.co.jp/ e-mail:info@nlf.co.jp

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