ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2006年3号
判断学
ライブドア・ショックが意味するもの

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

奥村宏 経済評論家 ライブドア・ショックが意味するもの 第46回 MARCH 2006 66 ライブドア退治 一月一六日、ライブドア本社に東京地検が強制捜査に入 ったところから、ライブドア株が暴落したばかりか、東証株 全体が暴落し、一八日には東証が全上場株の取引を途中で 全面停止するという、取引所始まって以来の異常事態が発 生した。
マスコミは連日この事件を報道し、国会でもこの問 題が取り上げられた。
昨年二月、ライブドアがニッポン放送株の三五%を取得 したと発表して?ライブドア騒動〞が大きく報道されてから 一年、その間?ホリエモン〞は衆議院選挙に出るなど日本 中を湧かしたが、その人気者は逮捕され、ライブドアは経営 危機 に陥っている。
昨年、ライブドア騒動が起こった時、私は本シリーズの第 三五回でこの問題を取り上げ、次のように書いた。
「(ライブドアの)このような一連の動きをみていて『いか にも危なっかしい』という印象を受ける。
『ライブドアはい い線を突いているのだが、いかにも危なっかしい』――連日 のように私にかかってくる新聞社や週刊誌、さらにテレビか らの取材電話に対して私はそう答えた。
『へたするとライブ ドアはつぶされるのではないか、という懸念さえある』とも 言ったのだが、それではせっかくの株買占め劇も駄目になっ てしまう」 ライブドアがニッポン放送の株を買占めたことが、日本 の 大企業、そして財界に大きなショックを与えた。
そしてフジ テレビがこの株を買取ることでライブドアは大儲けしたが、 この「日本的買占め」が財界に打撃を与えたことから、いず れライブドア退治が起こってくるのではないかと私は予想し た。
果たせるかな一年後に検察が乗り出して?ライブドア退 治〞が始まったのである。
そのことがわかっていなかったのがホリエモンを選挙にか つぎ出した小泉首相や武部幹事長、竹中大臣であった。
エンロン、ワールドコムとの比較 ライブドア騒動が何を意味するか、ということを考えるた めには、アメリカのエンロン事件と比較する必要がある。
そのエンロンのレイ会長などに対する裁判が一月二九日の 週から始まり、いまアメリカでこの事件が大きく報道されて いる。
アメリカで売上高七位の巨大企業だったエンロンが倒産 したのは二〇〇一年十二月であったが、翌二〇〇二年には 売上高五位のワールドコムが倒産し、世界中に大きなショ ックを与えた。
両社とも株価をつり上げるために粉飾決算をしていたが、 それが発覚したことによって倒産に追い込まれた。
両社が自社の株価をつり上げたのは、株式交換によって他の会社を合併するためである。
この株式交換による合併 によってエンロンもワールドコムも一挙に巨大企業にのし上 がったのである。
ライブドアがやったこともその点では同じであった。
その 株価つり上げ工作のためにライブドアも粉飾決算や株式分 割をし、それによって株価が高騰したところで株式交換によ って他の会社を乗っ取る、あるいは合併するというやり方を していたのである。
株価つり上げのやり口はアメリカと日本で異なるが、株価 をつり上げて、それを利用して会社を合併して大きくなると いうやり方でライブドアとエンロンやワールドコムは共通し ている。
というよりも、エンロンやワールドコムのやったこ とをライブドアはまねしているだけだともいえる。
もっともエンロンもワールドコムも粉飾決算がばれて倒産 したが、ライブドアはまだ倒産していない。
ライブドアの粉 飾決 算はこれから裁判の過程で明らかなるだろうが、株価つ り上げ工作のやり方がいかにも危なっかしいものであったこ とは私が指摘した通りである。
“想定内”のライブドア退治である。
本連載の第35回で予想し たとおりだ。
しかし大企業は安心してはいけない。
投機家をあ おってつり上げた株価をもとにして買収を図る。
今後も第二、第 三のライブドアは続々と現れるだろう。
67 MARCH 2006 虚業――「紙の城」 こうしてライブドアは株価つり上げ工作を利用して急速に 大きくなったようにみえたが、しかしそれは実体のない、「紙 の城」でしかなかった。
それはIT産業というよりも合併という形をとった会計 操作であり、実業ではなく虚業でしかない。
実際に事業によ って得ている利益はごくわずかで、あとは紙の上だけの利益 であった。
それはいかにも「危なっかしい」もので、いずれこれはつ ぶされるのではないか、と私が予想していたのもこのためで ある。
これに対しエンロンやワールドコムは、会計操作をしてい たけれどもちゃんとした事業を行っており、虚業ではなかった。
しかもアメリカの大企業体制の中核部分になっており、 それだけにこの倒産がアメリカ経済に与えたショックは大き かった。
ライ ブドアはマスコミで大きな話題になった。
しかしこれ が倒産したとしても日本経済全体に与える影響はあまりない。
現にライブドア・ショックで東証の平均株価は暴落したが、 すぐに回復してショック以前よりも高くなっている。
ではいったいライブドア騒動とは何であったのか。
ライブドアは株式を買占め、それを会社側に引き取らせる という「日本的買占め」で大企業体制に挑戦し、それを壊 していった。
言わば解体屋であるが、それは単にライブドア にとどまらず、続々とあとに続くものがある。
それこそが大 企業体制にとって恐ろしいのである。
そして株価つり上げのために個人的投機家にアピールした のだが、その個人投機家はライブドア・ショックが終わって も、なお投機を続ける だろう。
そうだとすればライブドアは つぶれても、次にまた同じようなことをするものが現れてく るだろう。
問題の本質はここにある。
おくむら・ひろし 1930年生まれ。
新聞記者、経済研究所員を経て、龍谷 大学教授、中央大学教授を歴任。
日本 は世界にも希な「法人資本主義」であ るという視点から独自の企業論、証券 市場論を展開。
日本の大企業の株式の 持ち合いと企業系列の矛盾を鋭く批判 してきた。
近著に『会社は誰のもので もない』(ビジネス社)。
個人投資家を利用した株価操作 アメリカの株式市場で売買の圧倒的部分を占めているの は年金基金や投資信託、生命保険などの機関投資家である。
そこでエンロンやワールドコムが自社株のつり上げ工作をす るという場合も、この機関投資家、正確に言えば機関投資 家のファンド・マネジャーを相手に行う。
粉飾決算をしたり、 あるいは特別目的会社(SPE)を使って会計操作をした りするのもこのためである。
これに対し、いま日本の株式市場で売買の大きな部分を 占めているのは、外国機関投資家と国内の個人投資家であ る。
特に最近は個人投資家の売買が非常に増加している。
インターネットで一日 に何回も株を売ったり買ったりする 投資家で、投資家と言うよりも投機家と言った方がよい。
み ずほ証券の誤発注で、一〇分間で二二億円も儲けた若者が いると伝えられているが、このようなネット取引の投機家が 急増しているのだ。
ライブドアの株を買っているのもそういう個人投機家であ り、これを対象にして株価操作をしているのがライブドアで ある。
その点では楽天や村上ファンドのやっていることもよ く似ている。
株式分割を何回もすることで株券が品薄にな ることを利用し、株価をつり上げるというやり方はその典型 である。
ネット取引をしている投機家はホリエモンの一挙手一投 足 に注目して株を売ったり買ったりしている。
連日、テレビ や新聞、週刊誌にホリエモンが取り上げられ、あげくの果て に選挙にまで出る。
これがすべて株価つり上げ工作につながっているのである。
ホリエモンは単に有名になるためだけではなく、自社の株価 を高くするために名前を売っていたのである。
そこには個人 投資家が投機化している構造が基礎にあり、ホリエモンはそ の上で金儲けのためにそれを利用したのである。

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