ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年3号
ケース
タカラ物流システム――現場改善

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MARCH 2006 36 コンサルタントに頼らない 宝酒造の物流子会社であるタカラ物流シス テムは二〇〇三年十二月、「西日本通販・販 促品センター」(京都市)でトヨタ生産方式 を参考にした改善活動をスタートした。
「と にかくやってみてくれ」という大谷將夫社長 の一声で決まったプロジェクトだ。
およそ二 年が経過した現在も、同センターでは「一秒、 一歩、一円のムダを現場から排除するための 努力を継続している」(鳥羽俊和所長)とい う。
ここ数年、物流業界ではトヨタ流のカイゼ ン手法を物流現場に採り入れる試みがブーム となっている。
日本郵政公社の越谷郵便局をはじめ、ダイエーの物流子会社であるロジワ ンなど、本誌もこ れまでにトヨタ式の導入で 大きな成果を上げている物流会社の改善事例 を数多く紹介してきた。
各社に共通している のはカイゼンに詳しいトヨタグループ出身の 伝道師をコンサルタントとして招聘し、ノウ ハウを教えてもらうというスタイルで活動を 展開している点だ。
これに対して、タカラ物流システムのアプ ローチは異なる。
大谷社長は同センターの物 流改革プロジェクトのメンバーたちに「独学 でトヨタのカイゼン手法を習得するように」 と指示した。
大谷社長の意図するところは定 かではないが、恐らく、伝道師に現場改善を 丸投げするのではなく、自分たちで試行錯誤 「トヨタ式」改善手法を導入して 物流センターの作業効率をアップ 宝酒造の物流子会社。
「西日本通販・販 促品センター」でトヨタ流の改善活動を展 開している。
作業の「見える化」や現場レ イアウトの見直しなどに取り組むことで、 作業員の生産性向上や保管スペースの削減 に成功した。
今後は“現場力”を武器に外 販の拡大を目指していく。
タカラ物流システム ――現場改善 37 MARCH 2006 することによって、真の「現場力」を身につ けてほしいという願いが込められているに違 いない。
もっとも、プロジェクトのメンバーたちは この方針に困惑した。
無理もない。
メンバーの大半は「トヨタのカイゼン」という言葉を 耳にしたことはあっても、それが具体的にど ういう取り組みを指すのか。
予備知識はほぼ ゼロに等しかったからだ。
営業部の石田眞一副部長は「まず書店に足 を運んで『トヨタ本』を買い込んで、それら をひたすら読み漁ることから始めた。
次に現 場の視察。
トヨタ式のカイゼンを参考に現場 改善を実践し、成功を収めている物流センタ ーを数カ 所見学して回った」と当時の様子を 振り返る。
このように「西日本通販・販促品センタ ー」を舞台にしたタカラ物流システムの「ト ヨタ式」への挑戦は、まさに?見よう見ま ね〞でスタートしたわけだが、侮ることなか れ。
莫大なコンサルフィーを支払って成功に 漕ぎ着けた先駆者たちにひけを取らないだけ の成果を上げている。
作業員の動線にメス 本題に入る前に「西日本通販・販促品セン ター」の概要について触れておこう。
同セン ターが扱っているのは、詰め合わせギフトな どの通販品や、ポスターやグラスといった販 促品だ。
宝酒造の生産拠点から送られてくる 製品(清酒や焼酎など)や、印刷会社などか ら納品される製品(販促品)を荷受けして一 時保管し、宝酒造の営業部隊からの注文に従 って製品をピッキング、流通加工、梱包して 得意先に出荷するまでの一連の物流業務を請 け負っている。
年間出荷量は約一三万五〇〇 〇ケースに達するという。
従来、宝酒造では全国 計五〇カ所の配送デ ポに販促品の在庫を置き、そこから各得意先 に供給してきた。
しかし、これを二〇〇三年 四月に東西二カ所の物流センターから出荷す る体制に改めた。
全国各地に点在していた販 促品の在庫を東西二カ所に集約して一元管理 するとともに、販促品のアイテム数を一八〇 〇から一二〇〇に絞り込むことで、全社的な 在庫量の削減に成功した。
そして、このタイ ミングで新たに用意された物流センター二カ 所のうち、静岡県以西をカバーしているのが 「西日本通販・販促品センター」だ。
話を元に戻そう。
「 西日本通販・販促品センター」における 改善活動では最初に現場のレイアウトにメス を入れた。
改善前のレイアウトは 図1 の通り。
従来、製品はポスターならAゾーン、グラス であればBゾーンといった具合に、品種品目 別に保管場所が決められていた。
そのため、 ピッカーの動線が錯綜してしまい、その分ム 鳥羽俊和所長 A B C 改善前 図1 「西日本通販・販促品センター」の現場レイアウト 作業員の動線が錯綜している EV EV EV 事務所 EV 事務所 作業場 作業場 階段 階段 改善後 一筆書きの動線に 出荷頻度 ダな作業時間を要していた。
そこで過去の出荷実績をベースに製品を出 荷頻度ごとにA、B、Cとランク付けした。
そのうえで出荷頻度の高い製品を流通加工や 梱包を施す作業場により近い場所に置くとい うルールを新たに設けた。
その結果、現場で は「電車の折り返し運転」のようなムダな動 きが解消され、作業は「一筆書き」のような 効率のいい動線で進んでいくようになった。
続いて、物流現場の「見える化」に取り組 んだ。
具体的には「どの製品がどこにあるの か」を誰が 見ても分かるようにするため、ラ ックに 写真? のような「のれん」をぶら下げ たり、ラックには間仕切り板を設置し、一ア イテムにつき一スペースで製品を保管するよ うにした( 写真? )。
いずれのアイデアも作 業員の経験や勘に頼らない仕組みに改良する ことで、ピッキングミスの発生を防ぐことを 目的としている。
センター内に訓練スペース センターの天井部分から吊しているボード ( 写真? )も「見える化」の一例だ。
本来は 作業マニュアルなどに記載すべき作業上の注 意点を敢えてボードで表示している。
「作業 員は慣れてくるとマニュアルを開く機会が減 る。
常に目に入る位置にあるボードの注意書 きを指差呼称で照合させることで、作業品質 を維持している」(鳥羽所長)という。
作業の進め方も見直した。
従来は作業員全 員で製品をピッキングした後、 全員で流通加 工、さらに全員 で梱包を行う という手順だっ た。
そのため、 例えばピッキン グ用のオリコン が作業員の人 数分だけ必要 だったり、全員 が一斉に流通 加工や梱包を 行えるだけの作 業スペースを確 保しなければな らなかった。
センターでは これをピッキン グ、流通加工、梱包といった作業ごとに専属 の作業員を配置して、分業で処理する体制に 改めた。
それによって作業員の移動歩数や手 待ち時間が減ったほか、作業場の省スペース 化を実現した。
作業負担を軽減するための工夫も随所に凝 らしている。
例えば、梱包作業が済んで空に なったピッキング用オリコンを再びピ ッカー に戻す工程で活用しているローラーコンベア の高さは作業員の腰の位置に設定している ( 写真? )。
作業員の腰曲げ動作をなくすのが 狙いだ。
ユニークなのはセンター内には「トレーニ ングコア」と呼ぶ施設を設けている点だ( 写 真? )。
一〇畳ほどの広さを確保した同施設 は作業訓練用のスペースで、センターで働く 作業員たちはここでピッキングや梱包などの 作業スキルを磨いている。
まず「トレーニングコア」に入った作業員 は、作業ごとに用意されている訓練メニュー MARCH 2006 38 ?腰曲げ防止 ローラーコンベアの高さを作業員の腰の 位置に設定して作業負担を軽減している ?のれん ロケーション番号や製品名を大きな文字 で「のれん」に表示することで、ピッキ ングミスを防いでいる ?間仕切り板 間仕切り板を使って1アイテム、1スペ ースで製品を保管している ?ボード 天井から吊しているボードには作業上の 注意点などを記載している 「西日本通販・販促品センター」での改善事例 39 MARCH 2006 に沿って実技を行う。
作業にはそれぞれ基準 終了時間が設定されており、作業員はストッ プウォッチを使って作業タイムを測定する。
そして、その結果を「個人カルテ」に記入す る。
コアでの実技を通じて自らのウィークポ イント(弱点)を把握した作業員は、それを 克服するために訓練を繰り返し行うという仕 組みだ。
「新人はもちろん、ベテランの作業員にも 定期的に『トレーニングコア』に足を運んで もらい、自分の作業レベルを再確認してもら うようにしている。
この仕組みを採り入れた ことで、作業によって得意不得意がない多能 工化した作業員を育成できるようになった」と鳥羽所長は説明する。
こうした一連の改善活動を通じて「西日本 通販・販促品センター」の作業生産性は飛躍 的に向上した。
改善前の作業員一人当たりの 出荷量は一時間につき二〇・七ケースだった が、改善実施後には二三・七ケースに高まっ た。
その結果、従来は出荷作業の終了時間が 午後五時となっていたが、現在では約一時間 半前倒しで終了できるようになった。
B2C物流を外販の軸に タカラ物流システムは二〇〇〇年四月に 「タカラ貨物」と「宝岡物流」の合併によっ て発足して以来、外販の開拓に力を注いでき た。
具体的な成果として、二〇〇〇年にサッ ポロビール、そしてその翌年に清酒メーカー 六社、さらに二〇〇二年には大塚製薬をパー トナーにした共同配送を立ち上げている。
ただし、肝心の外販比率は現在二〇%強に とどまっている。
日立物流やアルプス物流の ような「親会社からの業務に依存しない自立 した物流子会社」と言えるレベルにはまだ達 していないのが実情だ。
そこで、ここ数年は酒類メーカーや飲料メ ーカーを対象にした同業種共配の輪を 拡げて いく一方で、新たな領域への進出も模索して きた。
外販のターゲットとして期待するのは、 マーケットが急成長し、それに伴い物流需要 の拡大が続いている通販品の分野だ。
経営規 模が小さく、自前で物流機能を持てない通販 会社から物流センターの運営や配送、代金決 済などの業務を一括でアウトソーシングして もらうというモデルを想定している。
タカラ物流システムはこれまで単品大量出 荷が基本であるメーカー物流の受け皿として 機能してきた。
それだけに、B2B(企業→ 企業)に比べ、より細かいオペレーションが 要求される通販品のようなB2C(企業→一 般消費者)物流のノウハウに乏しい。
実は今 回、同社が「西日本通販・販促品センター」 でトヨタ式のカイゼンに挑んだのは、高レベ ルのサービスを提供できる現場力を身につけ ることで、B2C物流の受け入れ体制を整え たいという思惑もあった。
「流通構造の変化などに伴い、B2Bの物 流需要は着実に減少している。
これに対して B2Cの物流は伸びている。
外販比率の拡大 を実現するためにはB2Cに新たな活路を見 出す必要があった。
処理が細かく、作業ミス 発生のリ スクが高いB2Cの物流を取り込め るかどうかは物流現場の能力で決まる」と石 田副部長は力説する。
タカラ物流システムでは現在、「西日本通 販・販促品センター」で蓄積した改善ノウハ ウを他センターに横展開する取り組みをスタ ートしている。
そのノウハウがきちんと浸透 し、物流現場の競争力が高まれば、同社の外 販比率はおのずと拡大していくはずだ。
( 刈屋大輔 ) ?訓練スペース 作業員は定期的にトレーニングコアに入り、作業スキルを磨いている トレーニングコアは10畳程度の広さ ストップウォ ッチで作業時 間を測定する

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