ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年3号
ケース
スズケン――拠点政策

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MARCH 2006 32 商物一体による物流管理の限界 名古屋を本拠地とする大手医薬品卸のスズ ケンは昨年一〇月、埼玉県内に「戸田物流セ ンター」をオープンした。
投資額は五三億円 (土地代やマテハン機器などの設備費を含む)。
センターの延べ床面積は二万平方メートルで、 最大二万八〇〇〇アイテムを保管できる。
年 間売上金額にして二五〇〇億円の処理能力 を持ち、稼働後は都内全域をカバーする出荷 拠点として機能している。
医薬品の卸業界では近年、再編による寡占 化が急速に進んだ。
スズケンも再編劇を先導 した会社の一つで、吸収合併などによって、 いくつかの中堅卸を傘下におさめた。
グループの売り上 げはすでに一兆円を超えた。
次の ステップとして二〇一〇年度に連結売上高二 兆円という経営目標を掲げて、マーケットシ ェアをさらに拡大しようとしている。
この経営目標の達成に向けて、同社は物流 分野でも新たな構想を打ち出した。
前述した 「戸田物流センター」と同規模の拠点を、二 〇一〇年までに全国の主要都市に九カ所設け るというものだ。
この九拠点に従来の物流機 能を集約し、商物分離を断行する。
医薬品の卸売業界では、最近に至るまで商 物一体の慣習が色濃く残っていた。
MS(マ ー ケティング・スペシャリスト)と呼ばれる 営業担当者が、医療機関などを回って販売活 動をしながら、同時に商品の配送も行うとい 全国9カ所にフルライン拠点を整備 品切れの防止と当日配送を推進 大手医薬品卸のスズケンが全国9カ所に 物流センターを整備する構想を進めている。
医薬分業の進展に伴って調剤薬局向けの販 売比率が高まるにつれて、卸には品揃えの 一層の充実と短時間納品が求められるよう になってきた。
これを実現するため、当日 配送を念頭に置く中規模拠点ネットワーク の全国整備に乗り出した。
スズケン ――拠点政策 33 MARCH 2006 う昔ながらの営業スタイルである。
なかでもスズケンは?地域密着型〞の営業 戦略を特徴としており、商物一体でこれを推 し進めてきた。
同社の営業組織は、ほぼ都道 府県単位に設けられた三二の営業部と、その 管轄下にある一八四カ所の支店からなる。
従来の同社は、これらすべての営業拠点に 在庫を置いていた。
メーカーからの納品を営 業部にあたる母店で受け、各支店の倉庫に在 庫補充する形態である。
顧客の近くに在庫を 持てば、緊急配送などの要請にきめ細かく対 応できる。
これによって競争上有利になると 考えてきた。
しかし最近では、取引環境の変 化 によって、逆にこの物流形態の弱点がクロ ーズアップされるようになってしまった。
医薬分業化で環境が急変 医療分野では昨今、医療費の抑制を目的と する制度改革が進んでいる。
その成果の一つ として、ここ数年で医薬分業率が急速に高ま ってきた。
医薬分業とは、患者が医療機関で診察を受けた際に、医師から処方された薬を 診察先とは別の調剤薬局で受け取る制度のこ とだ。
日本薬剤師会の調査によれば、二〇〇 四年度の医薬分業率は全国平均で五三・八% になっている。
地域によってはすでに七割を 超えているところもある。
医薬分業が進むということは、医薬品卸に とって販売先の比重が医療機関から調剤薬局 へとシフトすることを意味 している。
実際、 卸の取引環境も大きく変わった。
簡単に言ってしまえば、調剤薬局との取引 では、医療機関と比べて受注の単位が細かく なり、品切れを起こさずに商品を短時間で納 品することへのニーズがより強くなる。
調剤 薬局では医師の発行する処方箋のとおりに薬 を処方しなければならない。
在庫がないから といって、同じ効能を持った別の薬を処方す ることは認められていない。
従って、どんな 処方箋にも対応できるように品揃えをしてお く必要がある。
医薬分業が始まった当初は、医院 の門前の 薬局で薬を受け取るケースが多かった。
だが、 患者の薬歴や重複投与などをきちんと管理す ることを目的とした?かかりつけ薬局〞の制 度が普及するにつれて、患者が複数の病院で 処方された薬を特定の薬局で受け取るという 形に変わりつつある。
その分、薬局ではます ます品揃えの強化が重要になった。
もっとも薬局には充分な在庫スペースがな いことが多く、在庫を最小限に抑えて必要な 分だけ発注する傾向が強い。
結果として卸に は、品揃えへ強化や、在庫の肩代わりといっ た機能が求められるようになった。
だが、従来のスズケンの物流体制では、こ うした要望に充分に応えることができなかっ た。
支店の倉庫では品揃えに限界があるため、 どうしても品切れが起こる。
その都度、母店 やメーカーから商品を取り寄せなければなら ず、せっかく顧客の近くに拠点を構えていな がら納品に時間がかかるという事態を招いて しまっていた。
そこでスズケンは、物流ネットワークの再 構築を決めた。
まず、月間の取り扱い金額が 二〇〇億円規模(年間 二千数百億円)の物流 センターを主要都市を中心に配置して、フル ラインで商品を品揃えする。
ここで言う?フ ルライン〞とは、従来のスズケンでは品揃えの 弱かったメーカーの商品や、年間を通じてほ とんど受注のない商品も含めて品揃えするこ とを意味している。
かつては医薬品卸の大半がメーカーによっ て系列化されていたため、扱う商品も限られ 【施設概要】所在地・埼玉県戸田市、敷地面積・ 9,996m、構造規模・鉄骨造り5階建て、延べ 床面積・19,992m、取扱アイテム・33,000 品目/ロット、保管アイテム・28,000品目/ ロット、入荷車両台数・60台/1日当たり、入 出荷ケース数・9,000ケース/1日当たり、主 なマテハン設備・立体自動倉庫(2,350棚)、デ ジタルピッキングシステム(1,152間口)、設備 の設計と施工・村田機械、日本電気 戸田物流センター スズケンの井間雅彦物流部長 ていた。
だが流通再編とともに系列化は過去 のものとなり、いまや大手卸はどのメーカー の商品でも扱うようになった。
効率化の一環 として医療機関が仕入先を集約する傾向にあ ることも、卸のフルライン化を促した。
スズケンの場合、フルラインのアイテム数 は二万五〇〇〇〜二万八〇〇〇にのぼる。
整 備中の各物流センターにはその全アイテムを 在庫して、顧客からの注文に応じられるよう にする。
一方で、支店の在庫はセンターに集 約し、支店では緊急対応の必要なものや、特 殊な顧客向けの商品など最小限の在庫だけを 持つように変える。
センターでピッキングし た商品は支店経由で顧 客へ配送するが、この 際の配送業務はMSから切り離し、センター 内作業などとともに物流子会社へと移管する。
新たな物流ネットワーク整備のもう一つの 重要なポイントは、顧客へ当日配送できる条 件で各拠点を設置していこうとしている点だ。
同社では、各地の物流センター設置の目安を ?支店まで二時間以内に届けられる範囲〞と している。
この条件から、物流センターの数 は全国で九カ所ということになった。
個々のセンターの規模はかなり大きいが、 この拠点政策をスズケンはあえて「中規模型」 と称している。
この表現こそ?地域密着型 卸〞 を標榜する特有の物流戦略を象徴するも のだ。
同社の井間雅彦物流部長は、「顧客へ のサービスを第一に考えると、当日納品がで きることは物流の重要な要件になる。
一方で 品揃えの強化も必要だ。
この二つを満たすために、集約を行いながらも顧客に近い距離に 拠点を置く考え方をとった」と説明する。
同社の構想では、札幌・仙台・千葉・戸 田・横浜・江南(名古屋)・奈良・阪神・ 福岡の九カ所に物流センターを設ける計画だ。
このうち「戸田」がすでに完成、札幌 と名古 屋では既存施設を使うが、これ以外の六カ所 は二〇一〇年までに順次整備していく。
さら にこれらの物流センターから当日配送できな い地方都市には、これよりも小規模で保管能 力が一万五〇〇〇アイテム程度の「商品セン ター」をニーズに応じて設ける考えだ。
品切れが大幅に改善 一〇月末に稼動した「戸田物流センター」 には、都内の十九支店の在庫を集約した。
庫 内にはデジタルピッキングシステムやバーコ ードを使った入出荷検品システムなどを導入 し、作業の効率化を図っている。
入荷と棚入 れ、出荷検品時の三度にわたるチェックで、 オペレーションの精度も高めている。
午前十 一時までに貰ったオーダーに対しては、支店 経由で当日配送する。
医療機関向けにはセン ターからの直送も実施している。
顧客からの緊急オーダーに備えて、支店に は一部の商品在庫をまだ置いている。
ただし、 センターへの集約によって、発注頻度が著し く低い不動 在庫が減るなどの効果は徐々に出 てきている。
従来、同社では全国平均で、売り上げ金額 に対し〇・九カ月分に近い在庫を持っていた。
現在、「戸田物流センター」の在庫は〇・三 六カ月で目標に近いレベルまできている。
今 後、支店の緊急品の在庫を〇・二カ月まで絞 り込んでいくことにより、当面、トータル在 庫を〇・五〜〇・六カ月まで圧縮していきた MARCH 2006 34 「戸田物流センター」の商品の流れ 出荷検品 積込作業 POS検品場 リジェクト検品 自動倉庫 パレット入荷 梱包棚 補充 補充 危険物倉庫 台車積込 バラ棚 DPSシステム HTシステム 少量危険物庫 冷所保存 特殊品庫 搬送不適格品 ソーターライン エレベーター 着荷検品・入荷入力・保管ラベル貼付け 出荷検品 コンベヤ搬送 流通加工 バラ入荷検品 2F 2F 3F 4F 4F 35 MARCH 2006 い考えだ。
そのために、緊急品などの在庫も 全支店が持つのではなく、エリアごとに在庫 拠点を統廃合することを検討している。
今回の物流ネットワーク構築でスズケンが 最も重視している品切れの解消については、 早くも効果が出ている。
もともと東京は全国 平均と比べて品切れ率が低かったのだが、そ れでも集約前の昨年九月の時点で一・九三% の受注時欠品があった。
これがセンター稼動 の約一カ月後には一・一%まで改善された。
わずかの期間で二分の一近くまで減ったこと に、同社としても「予想以上に早く成果が出 た」(井間部長)と喜びを隠さない。
一方、顧客の注文に対する当日配送は二月 から本格的に開始したばかり。
オーダーの締 め切りを午前十一時に設定しているため、当 日配送できるのは全体の五割程度になる見込 みだ。
「今後、センターの業務が軌道に乗っ てきたら、支店の要望に合わせて締め切り時 間を延長するなど柔軟に対応し、六〜七割程 度まで上げていきたい」と井間部長は意欲を 見せる。
戸田に続いて、年内にも阪神の物流センタ ーを 着工し、二〇〇七年秋の稼動をめざす予 定だ。
近年のスズケンの物流施設への目立っ た投資は、八年前に完成した「江南物流セン ター」くらいだった。
二〇一〇年までに六カ 所を新規に整備するというのは、同社にとっ てかなり突出した物流投資となる。
だが集約 による在庫削減などから、それを上回るコス ト削減が可能と見ている。
前述した通り、従来の同社は商物一体だっ た。
MSが配送業務を兼ねていたため、物流 コストの算出が難しかった。
それでも営業部 ごとの出荷量の変動と人員構成を掌握したう えで、販売と物流との按分比率を割り出し、 比較的精度の高いコスト算出を行ってきた。
今後は商物分離の実施状況にあわせて、この 按分比率の見直しも進めていく方針だ。
同社の二〇〇四年度の物流コストは売り上 げ構成比で二・九%という数字だった。
物流 セン ターの整備とともに、トータル在庫の圧 縮や支店における物流業務のセンターへの集 約、子会社への業務移管などを並行して進め、 この比率を引き下げていく考えだ。
トレーサビリティー管理も実現 この拠点ネットワーク構想とともに、スズ ケンが物流戦略のもう一つの目玉として掲げ ているのが「新庫内物流システム」だ。
二〇〇三年に施行された改正薬事法で、動 物に由来する原料や材料を用いた「生物由来 製品」については、製造ロット番号や使用期 限、販売先などの履歴管理を行うことが卸に 義務付けられている。
スズケンではこれより 前から「江南物流センター」で、生物由来製 品に限らず、すべての商品について製造ロッ トや使用期限の管理を行ってきた。
今回、これをバージョンアップした「新庫 内物流システム」を構築し、昨年五月から営 業部単位で全国に導入しはじめた。
メーカー から商品が入荷した時に、製造ロット、使用 期限をチェックして、データが不備なものに ついては同社が入力を行う。
このシステムに よって、商品が流通した後も全商品について トレーサビリティー(履歴追跡)の確保が可 能になる。
これまでに二〇以上の営業部でシ ステム導入が終わった。
今年中に全国への導 入を完了する予定だ。
現在はまだメーカーからの入荷をほとんど 母店で受けているため、営業現場に作業負荷 がかかっているが、物流センターへの集約に よって負荷は軽減される。
この点からも物流 センターの整備 を急ぐ考えだ。
「市場での競 争はますます厳しくなるが、価格ではなく物 流のサービスや品質で優位に立てるようにし ていきたい」と井間部長は強調する。
ここ数年で医薬品卸の経営環境は急速に変 わりつつある。
さらに今後も、先発医薬品に 比べて安価で提供されるジェネリック医薬品 の普及など、卸の利益構造を揺るがしかねな いさまざまな環境の変化が予想されている。
同社がネットワークの完成をめざす五年後 には、状況がまた大きく変わっている可能性 も否定できない。
それでも拠点集約や商物分 離によって、ローコスト化への道筋 が開ける ことは間違いない。
医薬分業化の流れが変わ らない限り、今回の拠点政策は、同社の地域 密着型営業戦略を有利に導くことになるはず だ。
( フリージャーナリスト・内田三知代 )

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