ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2005年6号
道場
物流ABC――荷主編

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JUNE 2005 48 もし私が本当に本連載中の「体力弟子」だ ったなら、どのような質問を受けても、意を尽 くした回答で相手を満足させられることでし ょう。
もし「美人弟子」だったなら、当意即妙 なやりとりや逆質問で議論を盛り上げられる はずです。
しかし現実の私は、クライアントと の検討会や講習会が終わった後で、いつも「も っと違う言い方をすればよかった」とか「こう 言ったほうが分かりやすかったかな」などと反 省してばかり。
そこで今回の番外編では、「あのときこう説 明すればよかった」という私のほろ苦い経験も 踏まえて、「物流ABC(Activity Based Costing )」に関して、皆さんに本当に知って おいてもらいたいことを文章にまとめてみまし た。
二回掲載の前編となる今回は、荷主企業 が物流ABCを導入しようとするときに必ず 出てくる疑問点について、まず解説します。
こ れを読んでいただけば、物流ABCに対する 批判の多くが誤解だということを、必ずご理 解いただけるはずです。
物流ABCの導入には膨大な手間が かかるというイメージがあります。
「作 業時間」と「処理量(アクティビティごと に、どれだけ処理したか)」の実態調査には、 どれくらいの日数が必要なのでしょうか? 物流ABCによってコスト算定をするときに行う実態調査の最大の目的は、「活動別」 (アクティビティ別)に、月間でコストがいく らかかっているのかを正確につかむことです。
正確につかむという意味では、毎日調査する のが一番いいと言えます。
実際、物流ABC の活用で成果をあげている企業の多くは、毎 日データを取ることをルーチンワークとしてい ます。
しかし、試しに算定してみようという場合 には、調査になるべく手間をかけたくないとい うのが人情です。
こうしたケースでは、簡便法 として、何日か調査をしてサンプルデータを取 り、これを月間にひきのばすという方法をとり 《この連載について》 「物流コンサル道場」では、物流マンに「ものの見方・考 え方」を学んでもらうことを目的に、湯浅コンサルティング の湯浅和夫社長に連載記事を執筆してもらっている。
いつも は湯浅氏の長年の経験に基づくエピソードを小説形式のフィ クションで綴ってもらっているが、今月号から4回は〈番外 編〉と題して、湯浅コンサルティングの若手コンサルタント に実務に関する解説記事を執筆してもらう。
テーマは「物流 ABC」と「在庫管理」について、それぞれ2回ずつ。
コン サル道場の実技編としてお楽しみいただきたい。
湯浅コンサルティング 内田明美子 湯浅和夫の 《第 38 回》 .番外編. 〈物流ABC――荷主編〉 フィクションであるはずの本連載のなかで、著者の湯浅氏に?見習い中の弟子.のモ デルにされてしまい、あらぬ誤解に悩まされている湯浅コンサルティングの若手たち。
実際には、とうに見習い期間を終えてコンサル現場で活躍中だ。
誤解を払拭するために も、今号から四回(六.九月号)は、同社の若手コンサルタント二人に、すぐに使える 実践的な知恵を披露してもらうことにした。
まずは内田明美子氏に「物流ABC」につ いてQ&A形式で解説してもらう。
なお、内田氏が本編中で体力弟子と美人弟子のどち らのモデルになっているのかは、皆さんのご想像にお任せしたい。
(本誌編集部) 49 JUNE 2005 ます。
つまり、調査した一日あたりの処理量 に稼働日数をかけて月間処理量を推定したり、 一処理あたりの作業時間に月間処理量をかけ て月間作業時間を推定するわけです。
ただしサンプルデータを正確にひきのばすた めには、調査した数字が月間の平均値である ことが要件になります。
このため実際の調査 日の選定は、まずは月間の平均(に近い)と 思われる日を一日だけ選ぶ必要があります。
そ のうえで、次の段階では、データをとる日数を 増やして精度を上げていく、という手順がお すすめです。
当社の物流センターでは物量の繁閑 差が激しく、繁忙日には通常日の三 倍くらいになります。
物量によって作業効 率が変わってしまうため、処理あたり作業 時間も日々変化していると思われます。
こ のため平均的な日を調査するだけでは正確 な値が出ないと思うのですが、どうすれば いいのでしょうか? 正確な値という意味では、波動による変 化を織り込んだ平均値を得る必要があるため、 週間波動なら一週間、月間波動なら一カ月間 のデータをとったうえで平均する必要がありま す。
とはいえ、このような調査を、単に正確な データを得るためだけにやるのは、あまりにも 労力に見合いません。
多忙な日常業務の合間 をぬって、わざわざ調査をする甲斐もありませ ん。
ですから、こうした調査は、「実態を把握 した後で何をするのか」という方針まで考えたうえで実施するのでなければ、おすすめできま せん。
そもそも作業効率というのは、閑散日でも 繁忙日でも同じというのが?あるべき姿.です。
物量が三倍になれば作業時間もそのまま三倍 になり、一処理あたりの時間は変わらないとい うのが本来の望ましいあり方です。
これが物量 によって変化してしまうとすれば、あるべき姿 と実態の間にギャップがあることを示しており、 管理のあり方が間違っていると受けとめるべき です。
もちろん、忙しい日は急いで作業をするか ら効率が上がるとか、忙しかろうがヒマだろう が作業者の人数は変えられないといった、制 約条件があるのが実務の世界です。
だからこ そ、こうした実態まで踏まえたうえで、あるべ き姿と現実のギャップをぎりぎりまで埋めるた めの工夫を施す必要があるのです。
これが適 切な管理をするための第一歩になります。
そのためには、アクティビティごとにあるべ き姿と現実のギャップをつかみ、あわせて、ど のような要因がギャップを生み出す原因にな っているのかを具体的に把握しなければなりま せん。
そのために実態調査を行うのだという 認識があってこそ、はじめて手数をかけた調 査が意味を持つことになるのです。
物流ABCで商品別の物流コストを 算定し、商品別の採算を正確に把握 したいと考えています。
アクティビティの 数は三〇.五〇個くらいが適切という説明を受けましたが、商品による作業効率の違 いを正しく反映させるためには不十分のよ うに思えます。
この場合、すべてのアクテ ィビティを商品別に設定すべきなのでしょ うか? 結論から言ってしまうと、明らかに作業 形態が違うもの、特別の手間を要するものだ けを別アクティビティとする、通常のアクティ ビティ設定で十分だと思います。
つまり、商 品別の「アクティビティ単価」(一処理あたり 作業コスト)を設定する必要はありません。
 物流ABC(Activity-Based Costing)は、物 流コストを「ピッキング」とか「検品」といったアク ティビティ(活動)ごとに計算するコスト算定手法 です。
この手法では、すべてのアクティビティのコ ストを「単価」×「処理量」に分解して把握します。
このように分解することで、“物流コスト責任”の 帰属を明確にすることができ、また物流サービス について、採算という切り口からその妥当性を検 討することができます。
 さらに、物流ABC算定の過程で、物流活動のど のアクティビティ(活動)に、どのような問題がある かということが明らかになるため、物流効率化の ための具体的な策を立てることができます。
■物流ABCとは何か JUNE 2005 50 その理由を説明する前に確認しておきたい のですが、物流ABCでは、商品別の物流コ ストを「アクティビティ単価」に商品別の処 理量をかけて算出します。
基本的に、商品に よる違いは処理量の違いとして反映され、た とえばシールを貼る必要のある商品についての み「シール貼り」というアクティビティの処理 量がカウントされることになります。
また、あ る商品はまとまったロットで出て行くが、別の 商品はバラで出て行くため手間がかかるとい った場合であれば、バラ出荷分についてのみ 「バラピッキング」、「バラ検品」といった処理 量が加算されるわけです。
あえて商品別にアクティビティを設定する 必要があるとすれば、同じ作業であるにもかか わらず商品によって作業負荷が大きく異なる ため、これを反映するための商品別アクティビ ティ単価を設定するといったケースです。
ただ し、ここで作業負荷の違いをどこまで正確に 反映すべきかは、前項でも書いた通り?商品 別コストを使って何をどう管理するつもりなの か.によって決まります。
物流コストがかさむために利益が出ない商 品を廃止するとか、なるべく売らないようにす るといった管理に使いたいのであれば、たしか に精緻な単価が必要かもしれません。
しかし、 このような管理をしている企業が現実にどれ だけあるのでしょうか。
一般の企業は、商品 の改廃を、物流コストの多寡とは別次元で判 断しているはずです。
商品ごとの採算性を物 流コストも踏まえて把握したいというだけの話 なのであれば、作業形態で区分したアクティビティ単価を用い、どれだけ通過するか(処 理量)を積算するという計算方法で十分なは ずです。
しかし、商品ごとに物流コストの負 担力を知り、商品価格に応じた許容 範囲内に物流コストを納めるように管理す るという使い方もあるはずです。
そうなる と商品ごとに精緻なデータが必要になるの では? そういう管理を実際にやっていらっしゃ るのですか? 恐らくやっていないはずです。
それが答です。
実際の物流管理で、許容範囲 内であれば最大限にコストを掛けてもよいとい う管理はありえません。
物流は本来、やらな いのが一番いいもの、物流コストは低ければ 低いほどいいものです。
現に物流コストをかけ ることで売り上げが伸びたという事例は、私 の知る限り存在しません。
コスト負担力があ ろうとなかろうと、物流コストはゼロを目指し て低減するつもりでいればいいのです。
さらに言えば、物流コストを下げようという 場合に、これを商品別に行うということも、よ ほど特殊なケースを除けば考えられません。
コ スト低減の取り組みは、あくまでも作業区分 ごとになります。
もし仮に、商品別に物流コ ストの削減目標を設定したとしても、現場で は使えない指標になってしまうはずです。
物流ABCは、倉庫内作業を算定 対象として行うことが多いようです。
しかし、当社の物流コストは倉庫内作業よ りも輸送費のほうが高くなっています。
む しろ輸配送活動こそ物流ABCで管理すべ きではないかと思うのですが、いかがでし ょうか? 物流ABCが主たる管理領域として倉庫 内活動を対象としている理由は、?管理の可能 性.を考慮しているからです。
倉庫内の活動  従来の物流コスト算定手法は、物流コストをもれなく正確 につかむところに焦点があてられてきました。
算定結果か ら物流活動にどれだけコストがかかったかという総額はわ かりますが、物流コストとそれを発生させた物流活動との 因果関係を明確につかむことはできませんでした。
つまり、 物流コストを管理に使うことはできなかったのです。
 これに対して、物流ABCは、物流管理に使えるようにコス トを把握することを目的に開発された原価計算手法です。
その特徴は、どのような物流活動を、どれだけ行った結果と してコストが発生したのかがわかる点です。
すなわち、物流 ABCでは、発生のメカニズムがみえるようにコストを算定 します。
ここから、全く新しい物流マネジメントの世界がひ らけてくるといえます。
■従来の物流コスト算定手法との違い 51 JUNE 2005 はたいてい自社で作業の仕組みをつくってい るため、活動のやり方を自在にコントロールで きる裁量も大きくなります。
つまり活動とコス トの因果関係をつかめば、コストがかかってい る活動を自助努力で変えていける可能性が大 きいということです。
一方、輸配送活動は違います。
仮に配送コ ストをアクティビティごとに計算し、納品で一 件立ち寄るごとにいくらかかっているとか、顧 客都合の待ち時間でこれだけコストがかかっ ていると厳密に把握できたとしても、これらの 活動そのものが顧客の要請によって規定され ている部分が大きく、自助努力で変えられる 余地は限られています。
例えば顧客別配送コストを出して、もし遠い顧客は「運転」というアクティビティのコス トが高かったとしても、顧客にその分の費用 を負担してもらうのは現実的ではありません。
顧客のなかには、おたくの物流センターが遠い だけじゃないかと思う人たちだって少なくない はずです。
しかし、そうはいっても、待ち時間や納品 回数の違いによるコストの違いを正確につか み、これらの条件が変わった場合のコスト変 化をシミュレーションできるようにしておくこ とには大きな意味があります。
ことにあなたの 会社が小売業で、自社の店舗への納品条件を 決定できる立場にあるとしたら、すぐにでも輸 配送活動のABCをやってみることをおすす めします。
物流ABCを導入すれば、コスト低 減だけでなく、作業品質も向上させ られるのでしょうか。
物流管理においては コストだけでなく品質を管理することも重 要なので、コスト低減だけを追及する管理 技法では不十分だと思うのですが? 物流ABCは品質管理のための技法では ありませんが、これを導入すれば、結果として 作業品質も向上するはずです。
物流ABCではアクティビティごとに理想 的な標準動作を解明して、標準時間を設定し ます。
このため、作業時間の短縮を目指す管 理を導入し、全員が標準動作を意識するよう になると、結果として作業品質も上がります。
作業のやり方を理想型に近づけていくことに よって、作業者個々人の資質に起因するミス や事故が発生しにくくなるからです。
しかも作 業者にとってはムダな動きが減るため、同じ 処理をするための労力が軽減されるはずです。
また、なぜ標準時間で作業ができないのか という理由を、アクティビティごとに追求して いくなかで作業品質が向上することも考えら れます。
作業の仕組みや、作業者の配置など に関わる問題点があきらかになれば、こうした 問題点を除去していく過程で、同時にミスや 事故の発生原因を取り除いていくことになる ためです。
物流ABCで言うところの効率化と は、アクティビティごとに投入要素 の単価を下げ、投入量を最小限まで減らす ことだとされています。
でも人件費の単価 を下げるためにアルバイトを使い、一処理 あたりの作業時間を縮めるように管理しよ うとすれば、作業品質は劣化してしまうの では? 作業品質の保持は、コスト以前の管理テ 物流ABCの計算手順 アクティビティを設定する 作業を区分しフローを整理する 投入要素別原価を把握する 経理データから「人件費」「機械設備費」 などの投入要素別に原価を把握する 配賦基準を把握する 作業時間比率、スペース使用面 積比率など、それぞれの投入要素 を各アクティビティがどれだけ使っ ているかを調査する アクティビティ原価を算定する 投入要素別原価をアクティビティに使 用比率に応じて配分する 処理量を把握する 「段ボール梱包数」のように各アク ティビティの処理量を調査する アクティビティ単価を算定する 各アクティビティの一処理あたりコスト を求める:アクティビティ単価=アクティ ビティ原価÷処理量 の程度」という発言が飛び出すということは、 ハッキリ申し上げて、あなたは物流管理の何たるかをわかっていない方なのでしょう。
言うまでもなく、物流管理の目標はコスト を下げることです。
そして実際に物流管理に 携わっている方であれば、日々、物流改善活 動の実践に苦労し、改善活動を継続していく ことの難しさをよく理解しているはずです。
物流ABCで得られるデータの良いところ は、活動を少しでも改善すると、そのぶんの 改善効果がストレートにコストにあらわれる点 です。
梱包作業時間を一処理あたり一〇秒縮 めると単価がいくら下がり、一日のコストはい くら下がるといったことが計算できます。
返品 が減ったらど うなる、注文 行数が一行減 るとどうなると いった試算も 可能です。
実 際に人件費を 減らせるかど うかは次の段 階の話ですが、 効果をすぐに コストで確か められることに 大きな意味が あるのです。
こ うした効果測 定のためのデータがなければ、営業部など他部 門を巻き込んだ改善は継続できないでしょう。
評価を伴わない改善は、かけ声だけで単発で終 わってしまう場合が多いというのが、現実の物 流管理の世界です。
コストに関するデータから以前は気づかなか ったムダを発見し、コストを下げられる可能性 もないわけではありません。
しかし、そこにだけ 期待して物流ABCに取り組めば、あなたのよ うに失望するのは当然です。
それよりも、改善 に関係する人々の貢献度合いを目に見えるかた ちで数値化できることによって、従来からわか ってはいたけれど改善できなかった部分の改善 が可能になる、という点にこそ注目すべきなの です。
JUNE 2005 52 ーマです。
作業品質に不安があるような状態 では、コスト低減などやれません。
つまり、品 質はいかにコストがかかろうとも保持しなけれ ばならないもので、コスト低減は品質が下がら ないことを前提として初めてできるものです。
人件費の安いアルバイトに切り替えるとい うのであれば、その前提として、誰が作業をや っても同じ品質でできる体制になっている必 要があります。
作業時間の短縮も同様で、品 質の落ちる恐れのある時間短縮などやるべき ではありません。
もっとも、理想的な標準動 作を目指して作業のムリ・ムラ・ムダを徹底 的になくしていけば、前項でも説明した通り、 作業品質は結果的に向上するのが普通です。
これは質問ではなく意見ですが、物 流ABCの算定結果から、どの作業 にどれだけのムダがあるのかは計算できま した。
しかし、これらの作業にムダがある ことは以前からわかっており、それを確認 しただけという徒労感があります。
もっと 新しい発見があるのかと期待していたので すが、この程度なのでしょうか。
率直なご意見なので、私も率直にお答え しましょう。
あなたが物流管理の何たるかを 理解している方なのであれば、物流ABCに よって活動とコストの因果関係が分かったこ とに対して、もっと評価しているはずです。
「こ うちだ・はるこ1987年慶應義塾大学経済学部 卒業。
日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)を経て 98年日通総合研究所に入社。
物流ABC導入コンサ ルティング等に携わる。
2004年5月湯浅コンサル ティングに入社し、現在に至る。
著書に『手にとる ようにIT物流がわかる本』(共著、かんき出版)ほ か。
湯浅コンサルティングhttp://yuasa-c.co.jp PROFILE 物流コストの責任区分 営業部門、生産・仕入部門 (物流発生源)の責任 無駄な活動の量を 効率を上げる 減らす、なくす 物流部門の責任 コスト = 単 価 × 量

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