ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年2号
ケース
日本通運――ビジネスモデル

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

FEBRUARY 2006 50 ペリカン当日便が大人気 大手家電量販店のヨドバシカメラが昨年九 月、JR秋葉原駅前にオープンした「ヨドバ シカメラ マルチメディアAkiba 」。
家電売り 場のほかにレストランや書店などのテナント が入居する地上九階、地下六階建ての大型複 合施設に、日本通運が?コンビニ〞を構えて いる。
コンビニといっても弁当や飲料、雑誌など を販売している街のコンビニとは大きく異な る。
日通が同施設内にオープンしたのは?運 びのコンビニ〞だ。
宅配便(ペリカン便)や 引っ越し、旅行といった日通グループの各種 商品・サービスを提供している。
店舗には長テーブルと椅子を並べた営業カ ウンターを用意。
来店すると、常駐の日通ス タッフが対面式で商 品・サービスの内容や料 金などを詳しく説明してくれる。
もちろん、 その場でペリカン便での輸送を依頼したり、 パッケージツアーへの参加を申し込むことも 可能だ。
同店でとりわけ人気を博しているのはオリ ジナル商品である「当日便」だ。
正午までに 店舗に荷物を持ち込めば、その日のうちにペ リカン便で自宅など目的地まで配送する(た だし対象は東京二三区内)というもので、販 売をスタートして以来、取扱個数が順調に伸 びているという。
秋葉原の電気街で購入した商品を宅配便で 都内50カ所に“運びのコンビニ” 地域密着型営業で物流需要を開拓 ペリカン便や引っ越し、旅行などの販売窓 口としてIBD(インテグレーテッド・ビジネ ス・デポ)の設置を進めている。
デポの周辺 地域にオフィスを構える企業や一般消費者が 日通の物流サービスを気軽に利用できるよう にするのが狙い。
今後はインターネットで購 入した商品の受け取り窓口としての機能を持 たせるなど、デポの利便性をさらに高めてい くことで集客力アップを目指すという。
日本通運 ――ビジネスモデル 51 FEBRUARY 2006 配送するサービスはすでに存在していたもの の、そのほとんどは配送日が「翌日以降」に 設定されていた。
そのため、すぐに商品を使 用したい場合、購入者は自ら商品を持ち帰る 必要があった。
これに対して「当日便」は購 入したその日から商品を使いたい、しかも購 入後には手ぶらで帰宅したい、というニーズ に応えることができる画期的なサービスだ。
「ノートパソコンやプリンターなどは持ち運 べる大きさだが、いざ電車で持ち帰るとなる と結構な重労働だった。
これまではすぐに使 いたい時には無理して持ち帰っていたが、『当 日便』を利用するようになって、ずいぶんと 楽になった。
商品のま とめ買いもできる。
当日配送でもペリカン便の追加料金が一切かか らない点が魅力だ」と、あるユーザーは当日 便の利便性を評価する。
ブランド力を復活させる 現在、日通ではこうした?運びのコンビ ニ〞を都内各地(一部山梨県内を含む)に出 店している。
二〇〇四年十一月に第一号店を 中央区・日本橋人形町に設置したのを皮切り に、およそ一週間に一店舗のペースで出店を 続けてきた。
二〇〇五年末時点で計四九店舗 をオープン。
今年二月末には世田谷区・用賀 に五〇店舗目となるコンビニを開設する予定 だ( 図1 参照)。
日通では?運びのコンビニ〞をIBDとネ ーミングしている。
IBDとは「インテグレ ーテッド・ビジネス・デポ」の略称で、日通 グループのビジネス(商品やサービス)を統 合(インテグレート)して販売する窓口を意 味する。
顧客は店舗に足 を運べば、宅配便や 引っ越しといった日通の商品をワンストップ で購入できて便利(コンビニエンス)だから、 ?運びのコンビニ〞というわけだ。
「コンビニのように気軽に立ち寄ってもらっ て、もっと日通のサービスを利用してもらお うというコンセプトでスタートした事業。
単 なるペリカン便の取次店ではなく、お客さん の物流に対するどんなニーズにも応えられる 店舗を目指している」とIBDの運営を担当 する日通の子会社、日通コンシューマーサー ビスの入江浩社長は説明する。
日通がIBDの設置に乗り出したのは各種 商品・サービスの拡販だけが目的では ない。
IBDには、広告塔の一つとして一般消費者 に日通ブランドを広く浸透させるというミッ ションが課せられている。
日通とはどんな会 社で、どのようなサービスを提供しているの か。
それを一般消費者にきちんと知ってもら うことにも重点が置かれている。
改めて触れるまでもないだろうが、日通は 売上高一兆七〇〇〇億円超の日本最大の物 流企業だ。
陸・海・空すべての輸送モードを 網羅し、日本国内だけでなく、世界各国に物 流ネットワークを張り巡らせている。
輸送に 限らず、日本最大の保有面積を誇る倉庫業者 としての顔も持つ。
日通はあらゆる物流ニー ズに対応できる商品・サービスを取り揃 えた 日本で数少ない総合物流企業として知られて いる。
もっとも、日通という物流ブランドの認知 度が高いのは今やビジネスの世界に限った話 日通コンシューマーサービス 入江浩社長 図1 運びのコンビニIBDの店舗分布 人形町 渋谷 池袋 中野 永代 立川 大森 和泉町 金町 杉並 大手町 北千住 東久留米 江戸川 八王子 汐留 国領 砂町 多摩 大橋 上野 御茶ノ水 新砂 南千住 小平 品川 小金井 三鷹 石川町 碑文谷 尾久 王子 亀戸 志村 築地 経堂 業平橋 小石川 甲府酒折 ヨドバシアキバ 羽村 田端 青梅 木場 港 甲府丸の内 霞ヶ関 大田市場 銀座 ※用賀(2月末オープン) IBD50店舗 ※山梨県に2カ所 と言える。
鉄道輸送が全盛だった時代には、 国鉄の主要駅に営業拠点を構えていたことも あって、社章にちなんで「マルツーさん」と 呼ばれるなど一般消費者にとっても馴染みの 深いブランドの一つだった。
しかし、年を追 うごとに日通と一般消費者との距離は徐々に 広がっていき、いつしか日通には「商流貨物 の扱いをメーンにした物流会社」というイメ ージがすっかり定着してしまった。
一般消費者を意識した物流商品・サービス の開発の手を緩めてきたわけではない。
むし ろ日通は他社に先駆けて宅配便や引っ越しサ ービスの提供を始めたほか、発売後もサービ スの 改良に力を注ぎ、利便性の向上を図って きたという経緯がある。
にもかかわらず、日通のブランド力が低下 してしまったのはほかでもない。
宅配便の分 野ではヤマト運輸や佐川急便、引っ越しの分 野ではアートコーポレーションやサカイ引越 センターといった具合に、ブランドイメージ 戦略に長けた強力なライバル企業が出現した ため、マーケットにおける存在感が相対的に 薄れていってしまったのだ。
好例は引っ越しだ。
日通は日本一の売り上 げ実績を誇る引っ越し業者という顔を持つが、 そのことを認識している一般消費者はご く一 部にすぎない。
芸人が「サカイ、安い、仕事 きっちり」と口ずさみながら踊るインパクト の強いテレビコマーシャルを流し続けるなど メディアへの露出度が高いサカイ引越センタ ーが、引っ越し業者ナンバーワンだと誤解している一般消費者も少なくないというのが実 情だ。
宣伝活動だけではない。
一般消費者を囲い 込むための営業体制の整備が不十分だったこ とも日通にとってはマイナスだった。
例えば、 日通の東京支店では大小合わせて約六〇〇の 支店・営業所を傘下に収めているが、拠点ご とに商品・サービスの品揃えにバラツキがあ ったり、そもそも拠点はオフィスとして活用 するだけで来客者用に営 業カウンターを設け ていないなど「一般消費者との接点」として の機能を果たしているとは言えなかった。
「日通のサービスを利用したいが、どこに行 って相談すればいいのか分からない」――。
それが一般消費者たちの本音だ。
「日通がこ れまでどちらかといえば大口荷主の開拓に軸 足を置いてきたという指摘は否定できない。
果たしてこのままでいいのか。
個人や小さな 商店といった?地域〞との距離を縮めていか なければ、いずれ物流の商売ができなくなっ てしまうのではないか。
そんな危機感からI BDの設置に踏み切った」と林勝利取締役常 務執行役員東京支店長は説明する。
顧客ニーズを商品化する IBDではペリカン便や引っ越しのほかに、 ユニークな商品・サービスを開発、販売して いる。
例えば、「人形供養サービス」は一般 消費者宅からペリカン便で人形を回収し、人 形供養で有名な東京・上野の寛永寺清水観 音堂で法要した後、供養証明書を発行して利 用者に提供するというものだ。
このサービス は「遠隔地に住んでいるため、清水観音堂に 足を運ぶことができない一般消費者から好評 で、取り扱い件数が伸びている」(入江社長) という。
このほかにもIBDでは開店・開業祝いと して胡蝶蘭などの花を送 る「フラワーサービ ス」や、新車・中古車の販売や車検・法定点 検などを斡旋する「カーライフサービス」、煎 餅や和菓子といった東京の名産品の販売など も手掛けている。
FEBRUARY 2006 52 かつての日通の支店・営業所は「暗 い、汚い」というイメージがあった という。
これに対してIBDは「きれ いで明るい」。
街のコンビニのように、 ぶらりと立ち寄りやすい 53 FEBRUARY 2006 特筆すべきはこうしたパッケージ化された 商品・サービスだけでなく、?御用聞き〞に 近いサービスも請け負っている点だ。
例えば、 引っ越しサービスを利用するまでには至らな い「本棚の位置を動かして自宅のレイアウト を変更するのを手伝ってほしい」という依頼 や、「段ボールに入らないモノを送りたいが、 梱包方法を教えてもらいたい」といったニー ズにも柔軟に対応している。
「新しい商品やサービスの企画・アイデア が各店舗からどんどん生まれている。
物流サ ービスに対するニーズは地域によってさまざ まだ。
各店舗には、日通のインフラやネット ワークを利用する ことにこだわる必要はない。
お客さんが満足するなら他社に輸送を委託す るかたちの商品でも構わないと伝えている」 と林常務は力説する。
中規模ビルで館内物流 現在、IBDの一カ月当たりの販売実績 (二〇〇五年十二月)は全店合計でペリカン 便が約十一万個。
引っ越しや旅行などを含め ると約一九万件となっている。
これをペリカ ン便だけで一店舗当たりに月間約一万個、全 体で年間約六〇〇万個まで引き上げることを 当面の目標に掲げている。
二月末にオープンする用賀店を含め、これ までに出店してきたIBD全五〇店舗の大半 は日通の支店・営業所内に開設されている。
今後もしばらくは既存拠点の遊休スペースを 活用するかたちでの出店を続けていく計画だが、それと並行して中規模クラスのオフィス ビル内への出店にも乗り出す。
自社拠点以外 への出店によってテナント賃料の負担増を余 儀なくされることから、採算ラインに乗せる ためにも一店舗当たりの取扱量の拡大が不可 欠だという。
拡販のカギとなる集客力アップに向けた対 策も講じている。
一つはIBD内への自販機 の設置だ。
飲料メーカーと協力して店内に自 販機を置くことで、昼休みなど休憩時間にI BDにぶらりと立ち寄ってもらうのが狙いだ。
さらにオフィス家具メー カーと組んで店舗内 で机や椅子などの展示販売を企画・実施する などIBDに足を向けさせるための工夫を凝 らしている。
IBDの存在そのものを知ってもらうため のPR活動にも力を入れている。
各店舗はオ リジナルのチラシを作成。
近隣住民やオフィ スに配布しているほか、商店街の会合に積極 的に参加したり、店舗周辺を自主的に毎朝清 掃するなど地域に溶け込むための努力を続け ている。
新商品の開発にも余念がない。
今後、オフ ィスビル内の店舗では館内物流の受託を強化 していく方針だ。
館内物流とはビルに入居す る各テナント宛の貨物の配達を、IBDが物 流業者に代わって一括で請け負うサービス。
物流業者はIBDに配達を委託することで、 各テナ ントを巡回する手間が省ける。
実は、 冒頭で紹介した「ヨドバシAkiba 」の店舗で はすでに館内物流サービスを開始している。
「セキュリティーの観点から外部業者の出 入りを減らす目的で館内物流の一括管理を義 務化するオフィスビルが増えつつある。
館内 物流はIBDの新たな収益源として成長が見 込まれるサービスの一つ」と入江社長は期待 を寄せる。
とりわけユーザーからの要請が多いのはI BDがネット通販で購入した商品の受け取り 窓口として機能することだ。
帰宅が深夜にな る多忙なビジネスマンは平日に自宅で宅配便 を荷受けできない。
プレゼントなど家族に知 られることなく荷受けしたい購入 品もある。
IBDではこうしたニーズに応えるための準 備を進めていくとともに、カウンターで購入 代金の決済サービスを提供することも検討し ていく方針だという。
( 刈屋大輔 ) チラシは全社共通ではなく、各店がオリジナル で作成。
地域密着型営業のツールとして活用し ている PR用のチラシ

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