ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年1号
特集
物流の「見える化」 米マニュジスティックス――荷主と輸送業者の協働

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JANUARY 2006 18 逼迫する輸送市場 今日のマーケットには克服すべき数々の課題がある。
経済面では、燃料費や運営コストの上昇、労働力を 巡る給与競争、権利を剥奪された労働組合、海外生 産、金利上昇、低い失業率――といったキーワードが 挙げられる。
顧客に目を向ければ、注文の小口化、配 達の多頻度化、RFIDの義務づけ、より厳しいサー ビス要求、より正確なコスト・納品・ステータス情報 の要求、コスト引き下げ圧力などがある。
この不確実な時代に、荷主企業が直面している最 大の課題とは何か 。
アイ・フォー・トランスポート社 は、3PL、製造、小売り、フォワーダーなどロジス ティクスのプロ二〇〇人(うち荷主企業は約四〇%) を対象にしたアンケート調査を行い、その結果を「サ プライチェーン・ディレクションズ・レポート」(二 〇〇五年六月)にまとめている。
同レポートによると「サプライチェーンの最大の課 題は何か?」という問いに対し、回答者の八四%が 「輸送業者のキャパシティー」と「事件や混乱」を「最 も当てはまる」もしくは「当てはまる」と答えている。
また八〇%が「輸送業者の高額化」を、「当てはまる」 もしくは「最も当てはまる」と答えている。
その他、 「安全 保障や政府の規制」、「データの統合」、「可視性 の欠如」、「パートナーとの協力の欠如」、「ドライバー 不足」、「混雑」が課題として挙げられた(図参照)。
それでは克服すべき課題にはどのように対処すべき か。
同じレポートの「サプライチェーンの課題をどの ように克服しようと考えているか?」という設問に対 する輸送の課題への対応策としては、「よりよいテク ノロジー」、「データ共有の環境」、「輸送業者とのより よい関係」が上位三位を占めた。
「新しい港や路線」、 「サプライチェーン運営のアウトソーシング」が、そ れに続い た。
荷主企業の取るべきアクションとしてアナリストが 提案する、課題に対する「ベスト・イン・クラス(最 良)」の対処法は次の通りである。
まずは業務プロセスの改造だ。
新しいワークフロー を作り、確実な輸送情報とプロセスを組織の他部門と 同期化させるのである。
そこで必要になるのが、ベン ダーや輸送業者、そして社内の電子的なコミュニケー ションと「KPI(Key Performance Indicator: 主 要業績評価指標)」だ。
輸送業者との関係も再構築する必要がある。
自社 のオペレーション比率を下げ、オペレーションを輸送 業者に移行するプログラムを作るのである。
そして、 テクノロジーをさらに活用する。
これには電子調達や オンラインのオーダー経路指定、可視化と例外管理な どが含まれる。
同期化されたサプライチェーンでは、消費者を中心 に小売り、メーカー、サプライヤーと広がる輪におい て、分析→戦略→運用→戦術が効果的に循環する。
パフォーマンス評価や取引先との接続性を分析し、 「CPFR(Collaborative Planning Forecasting and Replenishment: 協働による生産計画・需要予測およ び補充活動)」や販促計画といった戦略を立てる。
デ ータの共有を行い、「VMI(Vendor Managed Inventory: ベンダー主導型在庫管理)」や、入庫す るサプライヤーとの協力などの戦術につなげる。
さら にそれを分析し、戦略を立てる、という具合だ。
こうしたコラボレーション(協働)の概念は何も新 しいものではない。
コラボレーションという言葉がキ ーワードとして持ち上げられるようになって既に一〇 年近くが経つ。
つまり、言葉としては認知されていな 米マニュジスティックス ――荷主と輸送業者の協働 ロリ・ミッチェル・ケラー米マニュジスティックスシニアバイスプレジデント 今や米国市場においては安定した輸送力の確保が、 ロジスティクス管理における最大の課題になっている。
その打開策となるのが「CTM( Collaborative Transportation Management)」と呼ばれる輸送業者 とのコラボレーションだ。
第3部輸送の見える化《CSCMP報告2005》 19 JANUARY 2006 特集 がら、実際にはほとんど具体化していなかったという わけだ。
生産計画から着手する 同期化されたサプライチェーンに取り組む際に、最 初に手をつけるべきは、フォーキャスト(予測)だ。
輸送予測でも在庫予測でもなく、そもそもの生産予測 から着手すべきなのである。
同期化されたサプライチェーン計画では、消費者、 イベントの影響や季節性、トレンドを考慮したメーカ ーの生産予測が、サプライヤーからの出荷計画、マー ケティング、サプライヤーの生産予測、物流センター の作業計画、輸送業者の輸送計画に反映される。
ある大手小売業者は、同期化された在庫補充を次 の手順で行っている。
・予測と補充:二六週間のSKU(Stock Keeping Unit: 最小在庫管理単位)レベルの予測、サプラ イヤーが注文を計画 ・キャパシティー計画:二六週間の物量予算、季 節計画、輸送計画、物流センターのキャパシティ ー計画 ・確定に近いキャパシティー計画:三週間の作 業計画(この小売業者は、実際にこの時点で輸 送業者のキャパシティーを購入している) ・日次計画:日次レベルの最終的な微調整 ・実行:計画実行とモニタリング この大手小売業者は、右の方法で輸送コストを三% 削減し、輸送業者のサービスレベルも向上させた。
輸送管理のコラボレーション サプライチェーンの同期化において、輸送の果たす べ き 役 割 は 何 か 。
「 C T M ( C o l l a b o r a t i v e Transportation Management: 協働的な輸送管理)」 という言葉をご存じだろうか。
VICS(米国の流通 業界標準化機構)のロジスティクス委員会は、「協働 的輸送管理白書」(二〇〇四年四月)で、次のように 述べている。
「CTMは総合的なプロセスだ。
サプライチェーン における取引相手とサービス業者は、CTMにより輸 送計画や実行プロセスから非効率性を取り除けるよう になる。
CTMの目的は、関係する全てのプレイヤー の業績を向上させることであり、それはコラボレーシ ョンを通じサプライチェーンにおける輸送の非効率性 を取り除くことで可能となる」 CPFRがカバーするのは注文の予測までであり、 注文を実 行するための要素やプロセス、ステップは含 まれない。
そこでCTMの登場だ。
CTMの原理は次 の三段階で示される。
第一段階は、初期の段階で合意を結び、関係を明 確にすることだ。
ベンダーとしては、領域、プロセス、データ、目標、運賃条件、地理、パフォーマンス評価 の数的指標について、輸送業者としては、運賃レート、 定期航路、サービス、キャパシティーのコミットメン ト、パフォーマンス評価の数的指標、通信プロトコル について合意しておくべきである。
第二段階は、協働で行う予測だ。
協働で行う予測 に含まれるのは、生産予測の出荷予測への転換、適 切な業者との予測 共有、キャパシティー(輸送業者、 倉庫、3PLなど)に合わせた予測調整、キャパシテ ィーの例外解決である。
第三段階は、計画および実行であり、積載量の最 適化(集約、継続的な動き、コンソリデーション)、輸 送業者の指定、入札、スケジューリング、追跡、例外 管理、監査と支払いが含まれる。
0% 輸送業者のキャパシティー 事件や混乱 輸送業者の高額化 安全保障や政府の規制 データの統合 可視性の欠如 パートナーとの協力の欠如 ドライバー不足 混雑 サプライチェーンの最大の課題は何か? 20% 40% 60% 80% 100% 最も当てはまる 当てはまる 当てはまらない 出典:アイ・フォー・トランスポート社 マニュジスティックス社 のロリ・ミッチェル・ケ ラーシニアバイスプレ ジデント JANUARY 2006 20 VICSは「CTMで得られる効果は、荷主のネ ットワークが統合され、輸送業者が連結し、コミュニ ケーション能力と実行能力が上がるほど高まる」とし、 コラボレーションのレベルとCTMの価値を次のよう に示した(図参照)。
最も初歩的な段階では、コラボレーションのレベル はゼロであり、お互いの関係は商取引だけで可視性は ない。
次の段階は取引先とのコラボレーションであり、 輸送ルートごとの予測が共有され、取引処理が自動 化されるようになる。
その次の段階はパートナーシップ・コラボレーショ ンである。
荷主、荷受人、輸送業者間で予測が共有 され 、キャパシティーのコミットメント、可視性と安 全性が得られるようになる。
コラボレーションのレベルが最も高いのは、連合体 的なコラボレーションである。
この段階では、複数の 荷主と輸送業者間において3PLの活用促進、情報 ハブ化、関係性のマネジメントが見られるようになる。
典型的な輸送業者のポートフォリオ管理は、「高コ スト低サービス」、「低コスト高サービス」という図式 で表せる。
成り行き上や、ほかに方法がなく行き詰まった場合 の輸送力の確保、例えばスポットマーケットやブロー カーの利用は、コストが最も高くサービスレベルは最 も低い。
代替輸送業者利用もコストは高め でサービス レベルは低めである。
コアとなる輸送業者の利用は、 この図式の中心に位置し、コスト、サービスレベルと もに中間的だと言える。
一方で、安定的で予測可能な度合いが高いなかで の利用、例えば専用車両や自家用車両の利用は、コ ストが最も低く、サービスレベルが最も高い傾向にあ ると言える。
貨物受け入れ却下のリスクと損失 輸送業者との関係が変わりつつある現在、我々はど こから変わればよいのか。
第一に不確実性を抑えるべきである。
事前の策を講 じた輸送業者管理、キャパシティーの割り当て、「A SN(Advanced Shipping Notice: 事前出荷明細通 知)」や予測など、より一層のコラボレーションが求 められる。
第二に強固な体制を築くべきである。
保険 としての余分なキャパシティー購入、ダイナミックな キャパシティー予測、需要と供給を考慮した計画立案 が必要となる。
第三に柔軟性を生み出すべきである。
最低利用保 証と変動部分から成る二段式のコミットメント、利用 しなかったキャパシティーに対するペナルティー、要 求のモニタリングと管理のためのリアルタイムのシス テム、輸送業者・荷主間でのコミットメント遵守の測 定が必要となる。
輸送業者とのつながりが十分でないと、コスト面で 影響が出てくる。
とりわけ輸送業者による貨物の受け 入れ拒否 という形でそれが顕著になる。
ある企業の一 施設当たりの出荷用利用車両数を週単位で示した例 がある。
この企業はコア輸送業者に二九四八件の輸 送を依頼したうち、八二二件は受け入れを却下された。
二七・八%、約四分の一が却下された計算だ。
コア輸送業者に受け入れを却下された貨物は、より 高コストの代替輸送業者やスポットマーケットに頼る ことになる。
しかも、その貨物は必ずしも希望の日時 で引き受けられるわけではない。
予定された日時に貨 物が届かなければ、オーダーのサイクル時間や在庫管 理にも影響が出てく る。
輸送はサプライチェーンの中 でもっと注目されるべきなのである。
従 来 ・商取引のみ ・可視性なし 取引先とのコラボレーション ・輸送ルートごとの予測共有 ・取引処理の自動化 コラボレーションのレベル 出典:VICS 価 値 コラボレーションのレベルが高いほどCTMの価値は高まる パートナーシップ・コラボレーション ・荷主、荷受人、輸送業者間 ・予測の共有 ・キャパシティーのコミットメント ・可視性と安全性 連合体的なコラボレーション ・複数の荷主と輸送業者間 ・3PLの活用促進 ・情報ハブ ・関係性のマネジメント 21 JANUARY 2006 輸送業者フレンドリーという発想 ベスト・イン・クラスの企業は、輸送業者と運賃水 準によって左右される対立的な関係を持つことの悪影 響を危惧している。
輸送業者との安定した関係が結 果として低コストをもたらすことは、先に述べた。
これからは、「輸送業者フレンドリー(輸送業者に やさしい)」なプログラムが求められるようになる。
例 えば、戦略的な調達、キャパシティーの予測、電子的 コミュニケーション、送り状の自己作成、パフォーマ ンス管理、予約のセルフサービス、支払いサイトの短 縮、インセンティブベースの契約、輸送業者フレンド リーな入出庫、待ち時間の最短化、ドライバーの補助 作業 の最小化、ハンドリングの容易化、積荷および荷 受時間の延長などである。
ベスト・イン・クラスの企業は既に輸送業者フレン ドリー度が高い。
電子入札とキャパシティー予測の共 有は四〇%を超え、セルフサービスの予約とインセン ティブベースの契約は二五%を超えている。
業界平均 はそれぞれ一〇%から二〇%、五%から一〇%であり、 その差は二倍、あるいは三倍以上に上る。
輸送業者は、運賃レートの上昇をどの企業にも平 等に適用しているわけではない。
より輸送業者フレン ドリーになることは、運賃レートの上昇を低く抑える こと も意味するのである。
輸送業者のキャパシティー管理を行う際の手順は、 ?輸送要求の長期(六カ月かそれ以上)予測を立て、 ?専用フリートを公募し、?入札を経て長期契約を 結び、?近々の輸送予測を調整し、?近々のコミッ トメントを協働で決定し、?日次計画を立て実行し、 ?パフォーマンスを測定し分析する――という流れの 繰り返しである。
ここで重要なのは、各ステップの評価基準を適切に 定め、その都度確認していくことだ。
輸送業者に評価 基準を示し理 解を得ることで、ビジネスパートナーと してのよりよい関係が構築されるようになる。
輸送業者のキャパシティー管理が目指すゴールは、 協働的な輸送キャパシティーの計画立案である。
それ はサプライチェーン計画の統合されたプロセスであり、 需要の変化に適応するものである。
具体的な取り組みとしては、実際の製品需要と補 充で決定される輸送キャパシティー要求の予測、輸送 ネットワークの評価、コストとキャパシティーのため の契約輸送業者を対象にした入札の実施、キャパシテ ィーの割り当てと日々の輸送活動、需要の変化に基 づいたキャパシティーの割り当て調整、自身と輸送業 者 のパフォーマンス分析が挙げられる。
輸送業者のキャパシティー管理であがる疑問には、 自分のネットワークにおける自家用車両と契約輸送業 者の車両の最良の組み合わせは何か、自家用/専属車両はどこに配置すべきか、自分のビジネスには何社 の契約輸送業者がサービスを行う必要があるのか、実 際の需要がキャパシティーにどのように影響を与える のかといったものがある。
輸送業者のキャパシティー管理を行う目的は、同期 化された計画と実行を通して全体的なサプライチェー ンコストを低減させることだ。
協働的なキャパシティ ー管理で得られる利益は、サービスレベルの二五%ア ップ、在庫コストの削減 、在庫回転率向上、注文サ イクル時間の短縮、売り上げ増、あるべき場所でのタ イムリーな輸送キャパシティー確保、運賃レート上昇 のリスク最小化、輸送業者の受け入れ拒否抑制、運 賃コストの引き下げ、輸送業者との関係向上など、多 岐にわたっているのである。
特集 ベスト・イン・クラスの企業は既に運送業者フレンドリー度が高い 0% 電子入札 キャパシティー予測の共有 セルフサービスの予約 インセンティブベースの契約 10% 20% 30% 40% 50% ベスト・イン・クラスの企業 業界平均 出典:アバディーングループ ※このレポートは米CSCMP年次総会での 講義内容を本誌編集部がまとめたものです。

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