ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年1号
再入門
アウトソーシングの進化論

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

過去一〇年以上にわたって、物流アウトソ ーシングの業務領域は急速な拡大を続けてい る。
3PLやLLPと呼ばれる物流ビジネス の新業態が、その受け皿となっている。
これ に伴い事業の遂行に必要なロジスティクス機 能のリソースのうち、何を社内に残すのか。
荷主企業は判断を問われている。
ロジスティクスの分業が加速 図1は物流アウトソーシングの業務領域の 歴史的な拡大を図式化したものだ。
荷主企業 のロジスティクス管理を「?戦略」、「?計画/ 統制」、「?管理」、「?処理」の四つの階層に 分け、それぞれの階層を誰が担っているかによ って、アウトソーシングのレベルを四種類に区 分した。
「?戦略」は向こう三年から五年の中長期の ロジスティクス戦略を立案する階層だ。
通常 は経営層が担当する。
「?計画/統制」は経営 レベルで意思決定された中長期戦略を、年間/ 月間の具体的な行動計画に落とし込み、その 進捗を管理する階層で、部課長クラスが担う。
ここまでが本社スタッフ部門と呼ばれる管理 職に当たる。
「?管理」は週次日次レベルのオペレーショ ンの運用管理で、上は物流センター長から下 はラインの現場主任までの仕事を想定してい る。
そして「?処理」は、ドライバーやピッカ ーなど、配送や庫内作業に直接従事する作業 スタッフという位置付けだ。
「自家物流型」は、この四つの階層の 全ての職務を荷主企業が社内で処理す るスタイルだ。
営業マンが商品のピッ キングから納品まで行う?商物一体〞 型をとっている荷主はこれに当たる。
現 場の作業スタッフにパート・アルバイ トを使っている場合でも、雇用主が荷 主企業である場合には「自家物流型」 として分類できるだろう。
「物流会社型」は、「?処理」だけを アウトソーシングしているケースだ。
庫 内作業、配送、輸出通関といった物流 機能別にそれぞれの専門業者を利用し、 荷主企業の正社員の現場長がオペレー ション全体を管理する。
現状では日本 企業の過半数が、この「物流会社型」 をとっている。
「3PL(Third Party Logistics)型」 は、「?管理」階層までをアウトソーシ ングする形態だ。
基本的に荷主企業の 担当者は本社スタッフ部門だけで、現 場に常勤の正社員は置かない。
これに よって荷主企業は物流部門をスリム化して、ヒ ト・モノ・カネなどの経営資源をコア・コン ピタンス(競争力の核)に集中することがで きる。
荷主企業に代わって「?管理」業務を 請け負う3PLの登場が、それを可能にした。
「LLP(Lead Logistics Provider) /4P L(Fourth Party Logistics)型」は、実行 計画の策定も含めて荷主企業の物流部門が持 つ全ての機能をアウトソーシングする形だ。
荷 主企業の経営層が意思決定したロジスティク ス戦略に基づき、パートナーのLLPが計画 を立て、それを実行する。
荷主企業はLLP のカウンターパートになる担当役員以外にロ ジスティクス担当者を置く必要がなくなる。
第9回アウトソーシングの進化論 JANUARY 2006 72 73 JANUARY 2006 荷主企業のロジスティクスは今やグローバ ルに拡大している。
しかし、大手と言われる 3PLでも従来は一社でその全てを管理する だけのインフラと能力を持ってはいなかった。
その結果、荷主企業は地域別・機能別に複数 の3PLを使いわける必要があった。
それだ け管理に人手と手間がかかった。
これに対してLLPは一社で荷主企業の全 てのロジスティクス活動を管理する。
3PL の進化形とされる形態だ。
(ちなみに4PLは、 コンサルティング会社のアクセンチュアの登録 商標で、複数の3PLを管理する元請け会社 を指しているが、業態としてはLLPとほぼ 等しいため、本稿では総称してLLPと呼ぶ ことにする) もっともLLPは、現状では実例に乏しい。
大手荷主でアウトソーシング先を一社に集約 しているケースはまだ限られている。
それでも 米GMが二〇〇〇年一〇月にロジスティクス 部門を分社化し、大手物流会社のCNFとの 合弁でベクターSCMを設立、LLPとして 活動を開始したのを皮切りに、UPSやフェ デックス、DHLといった国際インテグレータ ーなどを中心に、LLPを目指した取り組み は本格化している。
こうした物流アウトソーシングの革新と平 行して、物流資産の所有と利用の分離も進ん でいる。
プロロジスやAMBブラックパインな ど、物流施設に特化した不動産開発会社が登 場し、荷主企業や物流企業に対して、物流不 動産のオフバランス化という新たな選択肢を 提案している。
こうした物流不動産開発会社は、資金調達 のために物流不動産を証券化したファンドを 設立するため、俗に?物流ファンド〞とも呼 ばれる。
物流ファンドは利用主に代わって土 地を取得し建物を建設するだけでなく、荷主 企業や物流企業が所有する既存の物流施設を 買い取って、そのまま賃貸するといったスキー ムを展開している。
物流ファンドの施設を利用することで、荷 主や物流企業には賃貸料が発生するが、財務 諸表上から物流資産を除外することができる。
収益効率を示すROA(資産収益率)がそれ だけ高まる。
倉庫会社や一般地主と比較して、 利用者のニーズに対する柔軟性も高い。
欧米 では従来から普及していたスキームだが、日 本でも二〇〇〇年に不動産の証券化が解禁に なったことを受けて、近年活動が本格化して いる。
何を社内に残すのか こうしてロジスティクスの機能分化と分業 が加速している。
これに伴い荷主企業には、ど こまでの機能をアウトソーシングし、社内に何 を残すのかという選択が求められるようになっ ている。
一般に物流を本業としない荷主企業 は、可能な限りアウトソーシングを徹底し、コ ア・コンピタンスにリソースを集中したほうが 有利とされる。
実際、マクロ的に見るとアウ トソーシングの利用は一貫して拡大する傾向 にある。
ただし、荷主企業であっても他社よりも優 れたロジスティクスが差別化の武器となってい る場合には、アウトソーシングによって競争力 が低下してしまう恐れがある。
現状ではロジス ティクスが差別化要因となっていないケースで も、将来市場環境が変化する可能性は否定で きない。
事実、今日の大きな経営課題となっている SCMでは、ロジスティクスが中核的な要素 を占めている。
ロジスティクスをアウトソーシ ングしている場合には、改革の実行に当たっ て、目的意識の共有やコミュニケーションに、 社内組織に対する以上の配慮が必要になる。
S CMの実行のために、当初予定していた物流 子会社の売却や株式公開を取りやめたという ケースも出てきている。
アウトソーシングにはデメリットもある。
そのため?出口戦略〞の担保が重要とされる。
市 場環境の変化に応じて柔軟にアウトソーシン グの領域を変更できる体制を構築しておかな ければならないという考え方だ。
しかし現実に はいったん外部化した機能を再び社内に取り 込むのは容易ではない。
アウトソーシングの有効活用には、自社の 置かれている市場環境、社内の組織体制、パ ートナーの能力など、複雑な要素を総合的に 判断する難しい意思決定が求められるのであ る。

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