ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2001年12号
特集
リサイクル物流の真実 物流業者のISO14001

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

DECEMBER 2001 38 近年、物流業界でも、環境マネジメントシステムの 国際規格であるISO14001を取得する動きが 活発化している。
しかし、いまだに経営者の間に、「環 境ISOの認証取得は大変だ」とか、「ウチは環境負 荷が高いから取得は無理」と否定的な見方があるのも 事実である。
「この不景気なときに、なぜ環境に取り 組まねばならないのか」といった声も少なくない。
ビジネスにとって認証取得を有効なものにするため には、ISO14001を「経営に役立つツール」と して捉えることが欠かせない。
この出発点での認識を 誤ると、苦労して認証を取得した挙げ句、「文書や記 録がやたらに増えた」とか「ルールが複雑になった」 と、デメリットばかりが目立つことになりかねない。
そこで本稿では、物流事業者がISO14001 を有効活用するための方法について解説する。
まず初 めに物流業界だけでなく、産業界全体におけるISO 14001の取得動向を整理する。
続いて取得にま つわる失敗パターンやメリットを検証し、最後に認証 取得を有効なものにするためのポイントについて述べ る。
急速に増える取得件数 一九九六年に発効されて以来、ISO14001 の認証取得は世界中で進められてきた。
この規格を端 的に説明すると、「地球環境に貢献するための目標を 設定し、その目標を全社員で達成するための仕組み」 となる。
いわば「環境版目標管理制度」といえる。
認証を取得するためには、まず組織のトップの定め た方針(環境方針)の下で、自社と環境との関わりの うち影響が大きい項目を抽出する。
そして、この中か ら目標を設定し(P:プラン)、ルールを作って遵守 し(D:ドゥ)、目標の達成度などを把握・評価し (C:チェック)、見直しをしていく(A:アクト)。
も ちろん、環境法規制の遵守も欠かせない条件である。
こうして設定した仕組みが正しく運用されているかど うかを、第三者である審査機関が判断し、適合が認め られればISO14001の認証取得となる。
二〇〇一年三月の時点でのグローバルベースの取得 件数は約二万七〇〇〇件。
一方、日本における同じ 時期の取得件数は六二六一件で、世界トップの実績 を残している(図1参照)。
その後も日本での認証取 得は増え続けており、二〇〇一年六月現在の認証取 得件数は六六四八件。
毎月、一〇〇〜三〇〇件のペ ースで増加している。
九六年に規格が発効された当初は、電機や機械と いった輸出産業や、環境負荷が比較的高い化学業界 などによる取得が多かった。
しかし最近では、建設業 や商社、あるいはビルメンテナンス業といったサービ ス業の取得が目立つ。
取得企業の規模についても、従 来の大企業から中堅・中小企業へと広がりをみせてい る(図2参照)。
物流業界における取得件数は、二〇〇一年六月末 現在で約八〇件に上る。
最近では大手企業のみなら ず、中堅の運輸会社にも取得の動きが波及している。
物流業者がISO14001の認証取得を目指す理 由としては、主に次の二つのパターンがある。
一つは、 そもそも物流業は環境負荷が高いため、企業の社会 的責任から取得を進めるというケース。
これは物流業 界だけの話ではなく、社会的な影響力の大きい大企業 一般に当てはまる理由である。
もう一つは、取引先からの要請というパターンがあ る。
多くの企業や自治体が環境配慮活動を進めるな かで、環境に優しい商品を優先的に調達するグリーン 購入(またはグリーン調達)が増えている。
その結果、 「物流業者のISO14001」 トラックなど環境負荷の大きな輸送手段を使っている物流業者が、環 境対応を避けて通ることはできない。
ISO14001を“経営ツール” として使いこなすことで、コスト増になりかねない環境対応をビジネス チャンスに変えることができる。
認証取得のメリットとデメリットを正 しく理解することが、その出発点になる。
トーマツ環境品質研究所 取締役白潟敏朗 マネージャー北島隆次 寄稿 39 DECEMBER 2001 リサイクル物流の真実 特集  グループ会社や取引先企業に対しても、環境配慮活 動やISO14001の認証取得を求めるケースが 相次いでいる。
自動車会メーカーや電機・機械メーカ ーのなかには、具体的に「○○年までにISO140 01を取得しなければ取引を打ち切る」と明言する企 業すらある。
実際、これまでに何らかの形で、取引先から環境配 慮活動の要請を受けてきた物流業者は多いのではない だろうか。
こうした動きはすでに全業界に広がってい る。
最近のISO14001の取得が、特にサービ ス業の間で飛躍的に増えているのは、その影響と思わ れる。
陥りやすい失敗パターン 注目度こそ高まったISO14001だが、認証 を取得した後に手にする効果については、取得企業に よって大きな差がある。
大変な労力をかけ、コンサル タントに多くの報酬を支払って取得したにもかかわら ず、ほとんど意味がなかったという声もある。
以下に 典型的な失敗パターンを紹介する。
(1) 経営へのメリットがあまりない 苦労した割に効果が少なかったという失敗ケースで は、認証取得の目的を、経営者もしくはプロジェクト リーダーが事前に明確にしてこなかった(もしくは担 当者に認識させなかった)という原因が多い。
とりあ えずとか、なんとなくといった姿勢のままISO14 001を導入してしまうと、こうした結果を招く。
また、「とにかく早く安く取得できればいい」とか、 「まずは認証を取得して、細かいことは後で決めよう」 といった発想で取り組んだケースも要注意だ。
こうし たシステムの導入は、作りはじめが肝心でありモチベ ーションも高い。
いったん動き出してしまったシステ ムの変更が困難なのは、現在の日本の政治や経済の 状況を見れば明らかだろう。
上記以外にも、事前に効果の測定方法を考慮しな かったために導入後の効果が目に見えてこなかったり、 認証取得を名刺に刷り込むといった程度のPRもしな かったため、顧客に理解されなかったというケースが ある。
いずれも、ISO14001を経営のツールと して捉えていないために陥った失敗といえるだろう。
(2) 文書が増えて手続きが煩雑になった ISO9001の認証取得でもよく耳にする失敗 パターンがこれだ。
参考書やコンサルタントの話を鵜 呑みにしてしまうと、こうした事態に陥るケースが多 い。
最初にハッキリさせておくべきなのだが、ISO 14001で文書化を要求されているのは、たったの 三項目でしかない。
それ以外の文書化については、す べて取得する側の判断に委ねられている。
ISO14001は「〜をしなければならない(W HAT)」とは要求しても、「どうしなければならない (HOW)」とは言ってはいない。
つまり、仕組みを実 現する方法は自由で、文字が多ければレベルが高いと いうわけではない。
それを「A社はこれで合格しまし た」といったマニュアルを、丸ごと適用するから失敗 する。
大切なのは、何をどう適用すれば有効な仕組み になるのかを、きちんと吟味することである。
(3) 二年目以降のテーマが見つからない 初年度は一生懸命に取り組んで、それなりの結果が 出た。
しかし、二年目以降に取り組むべきテーマがな くなってしまった、という話もよく聞く。
これは「コ ピー用紙の削減」「電気使用量の低減」といった目標 © 図1 世界のISO14001/EMAS(※Eco-Management And Audit Scheme)認証登録状況(平成13年3月現在) ※EMAS(EU環境管理・監査規則)はEU域内で適用される規則 アルゼンチン 香港 南アフリカ チェコ ベルギー メキシコハンガリー アイルランド オーストリア ノルウェー シンガポール ポーランド マレーシア ブラジル インド タイ フィンランド 韓国 スイス 中国 カナダ イタリア デンマーク オランダ 台湾 フランス オーストラリア スウェーデン 米国 スペイン 英国 ドイツ 日本 フィリピン=83、インドネシア=77、エジプト=72、トルコ=65、ニュー ジーランド=60、ギリシャ=57、UAE=36、スロバキア=36、イスラエ ル=36、ポルトガル=28、スロベニア=23、コロンビア=20、コスタリカ =20、リヒテンシュタイン=19、エストニア=14、イラン=13、ペルー・ ウルグアイ=各10、チリ・ルクセンブルグ・リトアニア・ベトナム=各9、 クロアチア・ヨルダン=各8、ベネズエラ=7、サウジアラビア=6、レバノン・ モロッコ・ロシア・ナイジェリア=各5、ラトビア・プエルトリコ・ジンバブエ= 各4、バルバドス・キプロス・モーリシャス・オマーン・モナコ・チュニジア=各 3、グリーンランド・バーレーン・バングラデシュ・ホンジュラス・アイスラン ド・パキスタン・スリランカ・ユーゴスラビア・ザンビア・シリア・カタール=各2、 マカオ・アフガニスタン・ドミニカ・エクアドル・マケドニア・グァテマラ・マル タ・ナミビア・パラグアイ・ルーマニア・セントルシア・トリニダードトバゴ・ウ クライナ・ミヤンマ=各1 登録件数 EMAS Total:3829 DECEMBER 2001 40 を掲げた会社が陥りがちな失敗パターンである。
「紙・ゴミ・エネルギー」などについては、設備投 資などよほど特殊な事情がなければ、たいていは一〜 二年で取り組み余地が激減してしまう。
業態がサービ ス業だったり、認証の対象が本社ビルだけといった場 合には、とくに注意が必要だろう。
ISO14001で要求されるのは、自分たちに できることから少しずつ改善していく「継続的改善」 である。
仮に「紙・ゴミ・エネルギー」への取り組み が重点管理項目ではなくなってしまったのであれば、 次の目標を考えればよいのである。
認証を取得するメリット では、ISO14001を認証取得するメリット としては、どのようなものがあるのだろうか。
ここで は特に物流業者を対象にして考えてみる。
(1) 企業イメージの向上 「環境に配慮する企業」というイメージは、特に一 般消費者への好感度アップにつながる。
環境への関心 が高い主婦層へのアピールには特に有効で、認証を取 得した企業は積極的なPR作戦を考えるべきだろう。
(2) 売り上げの拡大(図3参照) ある地域で消費者向けサービスを展開している運輸 業者が、営業エリア内の同業者のなかで最初に認証を 取得できれば、企業イメージと知名度の向上につなが る可能性が大きい。
当然、業績への好影響も期待で きる。
また取引先企業が環境配慮経営を指向してい る場合にも、取得後の「売り上げの増加」が見込める。
ISO14001の目標に「帰り便」の有効活用を 掲げるといった工夫によって、社内で継続的に「帰り 便」を利用するための新企画の開発に取り組むという 使い方もある。
こうした取り組みが新サービスの立ち 上げにつながれば、結果的に業績も向上するはずだ。
(3) コストダウン ISO14001の認証取得は「コストダウン」に つながる。
これは認証を取得した全ての企業が、何ら かの形で享受できるメリットでもある。
運送業者の多 くが取り組んでいる、「アイドリングストップの実施」 や「燃費効率の良い燃料や機器の導入」などは環境 負荷の低減と同時に、コストダウンにつながる取り組 みでもあることが多い。
最近、流行りのSCMや配送 効率の改善といった物流効率化も、環境対応と配送 コスト削減を両立するものだ。
一般的な運送事業者が、日常的に取り組んでいた り、取り組みたいと考えているテーマは、ほとんどが 環境保全につながると言っても過言ではない。
燃費走 行の実現などはその際たるものだろう。
見方を変えれ ば、こうした取り組みを日常的に行っていれば、スム ーズにISO14001の認証を取得できることにな る。
(4) 目標必達会社への変身 ISO14001は、「トップが設定した環境に関 する経営目標」を全社員で達成する仕組みがなければ 取得できない。
そのため認証の取得は、目標を必達す る会社に生まれかわるためのツールとして有効である。
(5) 新規ビジネスのチャンス拡大 サービス業全般にいえることだが、業務に関する法 規制の動向を、日常的に調査・更新していく作業は 簡単ではない。
ただでさえ環境分野の法律は年々強化 © リサイクル物流の真実 特集  41 DECEMBER 2001 されている。
これをつぶさに読み、どういった業務に 適用されるのかを調査するのは極めて手間のかかる作 業である。
その点、ISO14001では「環境法 規制の遵守」が求められるため、否応なく更新作業に 取り組まなくてはならない。
この際、こうした法規制の強化が、ビジネス機会の 創出につながることを見逃してはいけない。
家電リサ イクル法の施行によって、廃家電を量販店から指定引 取場所まで輸送する業務が生まれたのは典型的なケー スである。
ISO14001の認証取得は、こうした ビジネスチャンスに敏感に反応できるという副次的な 効果ももたらすのである。
環境ISOを有効活用するコツ 最後に、ISO14001を有効活用するための ポイントについて四点述べる。
(1) 何のための認証取得かを明確にせよ まずトップが認証取得の目的を明確にする必要があ る。
たとえば経営的なメリットを重視するのか、取得 のスピードを重視するのかによって、取得の際のアプ ローチ方法も異なってくるはずだ。
「環境という視点を無視し続けていても、五年後も 現状の売上高を確保できるか」と自ら問いかけてみる ことも有効だろう。
その答えが「NO」であれば、I SOISO14001の取得は無駄にはならないは ずだ。
場合によっては、他社より早く取得することが 先行利益につながる可能性もある。
すでに取引先から の要請などがある、もしくは将来的に要請される可能 性が大きい企業は、積極的に取得を検討すべきだろう。
(2) システムはシンプルで分かり易く 取得を決めたら次は具体的なシステム作りに入るわ けだが、その際、できる限りシンプルで分かりやすい ものを目指すべきである。
少なくとも参考書の記載内 容や、コンサルタントの持参する文書例をそのまま受 け入れることだけは止めるべきである。
物流業界には 分厚いマニュアルはそぐわない。
自社に相応しいシス テムを構築する必要がある。
(3) 効果を測定できるよう心がける 具体的な効果が見えると、目標達成に取り組む際 のモチベーションが高まる。
そのため「○○の検討」 といったあいまいな目標ではなく、具体的(測定可能 な)な目標を設定することが望ましい。
そうすれば仮 に将来、消費者や取引先から「環境配慮活動でどん な効果が出たか?」という問い合わせがあっても、的 確に答えることができ、さらなるPR効果につながる はずだ。
(4) PRは効果的に企業の環境配慮活動は積極的にPRしていくべき である。
せっかく一生懸命に環境保全活動に取り組ん でいるのに、外部から評価されないのでは効果は半減 してしまう。
最近では、環境報告書や環境会計といっ た外部公開ツールも普及してきており、中堅・中小企 業にも導入の動きが高まっている。
ISO1400 1での取り組みがしっかりしていれば、それを公表す るだけで立派な環境報告書ができる。
以上、物流業の方々を意識しながらISO140 01について述べてきた。
これを機会に、ISOを 「経営のツール」としてご理解いただき、有効に活用 していただければ幸いである。
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