ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2005年6号
ロジビズ再入門
マネジメントの正しい手順

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

《マネジメント編》 本誌編集発行人 大矢昌浩 JUNE 2005 64 SCMとロジスティクスと物流。
隣接する 三つの言葉の境界線は曖昧だ。
学問的な定義 を読んでも、その違いははっきりしない。
さ れど、たかがコンセプトと侮るなかれ。
ロジ スティクスの曖昧な理解が、多くの企業で間 違ったマネジメントを招いている。
物流上手のロジスティクス下手 「ロジスティクスはマーケティングの半分だ」 と言われる。
実際、「マーケティングの4P(プ ロダクト、プライス、プレイス、プロモーショ ン)」のうち、プレイスはロジスティクスが決定 的な役割を果たす。
そしてプロダクトによる差 別化が難しくなっている今日の市場環境におい ては、残るプライスとプロモーションの面でも、 ロジスティクスの重要性は日を追うごとに大き くなっている。
同時にロジスティクスはSCMの中心的要素 でもある。
学問的には、ロジスティクスとは 「SCMの一部であり、顧客の要求に応えるた めに、商品、サービスとそれに関連する情報の、 効率的、効果的な供給/回収のフローと保管 を、発生から消費に至るまで計画、実行、統制 することである(米CSCMP)」と定義され る。
そしてロジスティクスは物流を含むとされ ている。
しかし、「物流」の語源である「物的流通 ( Physical Distribution )」もまた、「商品の供給 者から需要者・消費者への供給についての組織 とその管理方法およびそのために必要な包装、 保管、荷役、輸配送と流通加工、ならびに情報 の諸機能を統合した機能をいう(『基本ロジス ティクス用語辞典』JILS)」という定義を 持ち、それが日本に紹介された昭和四〇年代当 初から、単なる輸送や保管の寄せ集めではなく、 モノの流れの全体を一つのシステムとして管理 すべきことが強調されていた。
さらに「SCMは調達/購買、付加価値業 務、そしてロジスティクス管理に伴う、全ての 活動の計画とマネジメントを網羅する。
重要な のはサプライヤー、仲介業者、サードパーテ ィ・サービスプロバイダー、そして顧客などの チャネルパートナーとの調整とコラボレーショ ン(協働)を含んでいることであり、その本質 は企業を横断して需要と供給のマネジメントを 統合することにある(米CSCMP)」という。
物流とロジスティクス、そしてSCMという 隣接する三つの言葉は、その学問的定義を比較 しても明確な違いがよく分からない。
そのため 物流とロジスティクスは、多くの場合、全く同 じ意味で使われている。
さらにロジスティクス とSCMの境界線も、曖昧なまま場当たり的に 使い分けられているのが現状だ。
隣接する言葉との境界線を明確にしない定義 は本来、機能しない。
役に立たないだけでなく、 むしろ混乱を招く。
とりわけSCM、ロジステ ィクス、物流は、それぞれ含む・含まれるとい う関係にあるため、言葉を取り替えても文意の 成り立ってしまうことが多い。
たかが定義と放 置しておくと、これが後でマネジメントの誤算 の原因になることがある。
実際、日本の企業の多くは「マーケティング ∪SCM∪ロジスティクス∪物流」と連なるマ ネジメントの階層のうち、物流階層では世界で も有数の管理レベルを誇りながら、SCMやロ ジスティクス階層では後手に回っている。
日本 市場の特徴とされる、多頻度小口化の極端に進 んだ物流を、日本企業は停滞させることなくス ムーズに処理している。
現場のオペレーション では他の先進国にひけをとらない。
しかしSCMやロジスティクスの階層では課 題が目立っている。
メーカーの指定する特約卸 第2回マネジメントの正しい手順 図1 物流/ロジスティクス/SCM/    マーケティングの境界線 マーケティング 売れる仕組み作り 取引先との調整 注文充足の管理 SCM ロジスティクス 物 流 情報 流通加工 輸配送 荷役 包装 保管 65 JUNE 2005 店を経由して二次卸、三次卸と枝分かれする多 段階のサプライチェーンは、在庫の分散と物流 コストの増大を招いている。
その上、納品のリ ードタイムや欠品率などの物流サービスレベル は、サプライチェーン全体の効率を悪化させる 過度な水準が常態化している。
適正な在庫水準は本来、許容される欠品率 を元にして弾き出される。
欠品率をゼロに設定 すれば在庫水準は跳ね上がってしまう。
同様に 納品リードタイムは、販売機会損失と関連コス トのトレードオフから判断しなければならない。
買い手側の都合だけでサービスレベルを設定す れば、そのしわ寄せが売り手側に波及する。
結 果としてサプライチェーン全体の効率は悪化す る。
意思決定のプロセス マネジメントの各階層の重要性は、それぞれ の企業や製品が置かれた環境によって異なる。
しかしマネジメントの手順は別だ。
下位にある 階層にとって上位階層の意思決定は常に所与 の条件になる。
そのため意思決定は各階層の重 要性とは関係なく、上位の階層から下位の階層 へと順序立てて処理する必要がある。
SCMやロジスティクス階層のマネジメント はマーケティング階層で設定されたサービスレ ベルを所与の条件として、その実現を目指す。
そしてロジスティクス階層で設計された注文充 足のフローが、物流階層では前提条件となる。
ところが多くの日本企業は上位階層の意思決定 がない状態で、下位の階層の精度を高めること ばかりに躍起になっている。
その結果、個別最適が極端に進み、逆にサプ ライチェーン全体の効率が悪化するという皮肉 な状況に陥っている。
マネジメントの手順を誤 っている。
それを避けるためには、ロジスティ クスに隣接する言葉の定義を、実務に反映でき る形で整理しておく必要がある。
それを 図2 にまとめた。
企業は事業の目的で ある「顧客の創造」を実現するため、まずマー ケティング階層で「4P」を検討して、売れる 仕組みの全体像をデザインする。
そこでは製品 仕様や価格と並んで、後の階層で所与の条件と なる販売チャネルや各種のサービスレベルが意 思決定される。
次のSCMの階層では、マーケティング階層 で選択した販売チャネルを共に構成する調達先 や顧客などの取引先と、役割分担や取引条件 を調整する。
これに対して従来のロジスティク スの概念には取引先との調整が基本的に含まれ ていなかった。
SCMとロジスティクスという 二つの言葉の境界線はそこにある。
SCM階層の決定を受けて、ロジスティクス 階層では注文充足のフローを設計し、目標とさ れるサービスレベルの実現を目指す。
ロジステ ィクスと物流の境界線は、顧客対応にある。
物 流が「包装」、「保管」、「荷役」、「輸配送」、「流 通加工」、「情報」という六つの機能の統合管理に主眼を置いているのに対し、ロジスティクス はマーケティング上要求される顧客サービスか らスタートして、それを充足させるというアプ ローチをとり、フロー自体のパフォーマンスが 検討される。
以上の三つの階層の意思決定が済んだ後で、 初めて物流階層のマネジメントに着手できる。
逆はあり得ない。
下位の階層で目標が実現でき ないと分かった場合に、改めて上位階層に戻っ て判断を検討し直すということはあっても、下 位の階層の意思決定が先に立つことはない。
図2 マネジメントの正しい手順 注文充足の管理 包装、保管、荷役、輸配送、 流通加工、情報の統合管理 取引先との調整 売れる 仕組み作り = 顧客の創造 = = = = 事業目的 マーケティング SCM ロジスティクス 物  流 意思決定の順序

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