ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2005年6号
ケース
シーエス薬品――3PL

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

41 JUNE 2005 大衆薬の分野で全国展開へ 一言で医薬品といっても、「医療用」(病 院・開業医向け)と「一般用」(大衆薬)で は、流通ルートや商慣行が大きく異なる。
「医 療用」の薬が文字通り医師によって処方され るのに対し、大衆薬はドラッグストアなどで 販売され消費者が自ら選ぶ。
こうした違いか ら、近年、大衆薬には加工食品や日用品と同 様のローコスト・オペレーションへの圧力が 強まっている。
そして、これが医薬品卸の流 通再編を左右する要因にもなっている。
今年四月に発表された、医薬品卸最大手の メディセオホールディングスと、日用雑貨卸 二位のパルタックの経営統合の背景には、メ ディセオにとって総売上の約四%(約八〇〇 億円)に過ぎない大衆薬事業のテコ入れがあ ったと伝えられている。
この合併劇は、業種 を超えた卸の再編として、また売上高二兆円 規模の巨大卸の誕生として世の中の耳目を集 めたが、背景を知る関連業界では意外性はな かったという。
急速に進んだ医薬品卸のグループ化が、よ うやく一段落しそうだ。
業界首位のメディセ オホールディングス、二位のスズケン、三位 のアルフレッサホールディングス(旧福神と 旧アズウェルの統合会社)、四位の東邦薬品 グループという、四つの全国卸グループが生 まれた。
五位以下の企業は早晩、いずれかの グループに入らざるを得ない流れになりつつ 物流の外注化に成功した医薬品卸 トヨタ系業者と組み競合と差別化 東海地方の中堅医薬品卸・シーエス薬 品は、卸の主要機能である物流をアウト ソーシングして売上高物流費比率を4% から2.5%に改善した。
パートナーはト ヨタ流の物流管理で知られるホンダロジ コム。
今後は、低コスト物流を武器に、 オペレーション競争の激しい大衆薬の分 野で全国展開に打って出る。
シーエス薬品 ――3PL ある。
東海地方を地盤とする中堅卸、シーエス薬 品も業界再編の荒波から無縁ではいられない。
同社は年商一一七八億円(二〇〇四年三月 期)の有力地方卸だが、約一〇倍の売上規模 を持つスズケンの地元が商圏という厳しい立 場におかれていた。
だからこそ二〇〇〇年に アルフレッサ(旧福神)と手を結び、今年四 月には、さらに踏み込んだ業務提携を交わし て、明確に業界三位のアルフレッサグループ の一角を担っていくことを決断した。
ただし、単にアルフ レッサグループに飲み 込まれたという構図で はない。
四月の業務提 携でシーエス薬品は、 アルフレッサ傘下の三 つの企業が抱える合計 五三〇億円の大衆薬 事業の営業権譲渡を受 けている。
これによっ てシーエス薬品の大衆 薬事業の売上規模は九 〇〇億円弱となり、同 分野で首位のコバショ ー(小林製薬グループ の大衆薬卸売事業子 会社)などと並ぶ大手 に躍り出た。
卸売り段階での大衆 薬の市場規模は約九〇〇〇億円と目されており、シーエス薬品はここでそれなりの存在感 を発揮できるシェアを確保した。
今後は、ア ルフレッサグループの大衆薬部門として全国 展開を図っていくことが、事業の柱の一つに なる。
医薬品物流の高コスト体質 東海地区の地方卸に過ぎなかったシーエス 薬品が、アルフレッサグループの大衆薬部門 を任された背景には、同社の「物流」に対す る高い評価がある。
メーカーごとの販売代理 店制度の影響が色濃く残る医薬品業界では、 大衆薬を総合的に品揃えできる卸は少ない。
しかも、そのための物流を効率的にこなせる 卸となるとなおさら稀少だ。
現状ではシーエ ス薬品は、その有力な一社といえる。
医薬品の物流、とりわけ病院向けを中心と する医療用医薬品の物流では、緊急対応や欠 品防止などが当然のように求められる。
加え て、医薬品は相対的に単価が高く、物流コス トの負担力が大きいため、この分野の物流に はコスト意識の希薄なものが目立つ。
メーカーを出荷する段階では、自動化機器 を不必要に思えるほど多用したオペレーショ ンが少なくない。
医薬品卸の段階では、営業 マンが商品配送を兼ねる?商物一体〞が一般 的で、しかも各地の支店レベルで在庫を持っ て医療機関の緊急要請に応えるのが当たり前 になっている。
大衆薬についても、販売店の 大半が個人経営の薬局で、なおかつ定価ベー スで売っていた時代には、似たような高コス ト体質だった。
これが近年のドラッグストアチェーンの成 長に後押しされて見直されてきた。
大型化し たドラッグストアは、集客力を高めようと値 引きに走り、さらに従来の薬局では扱ってい なかった日用品や加工食品の品揃えを拡充し た。
これにともなって医薬品のオペレーショ ンの強化が、ドラッグストアチェーンの課題 として浮上してきた。
そして総合量販店やコンビニエンスストア を後追いするように、ドラッグストアチェー ンが自前の物流センターで店舗納品をコント ロールしはじめた。
規模の小さいドラッグス トアも、物流業者の共配サービスを利用する などして効率化を図るようになった。
こうし た小売り側のニーズの変化に対応しようと、 医薬品卸の物流も少しずつ進化してきた。
それでも現状の一般的な医薬品卸の物流管 理が、日雑卸や加食卸に比べて高コスト体質 なのは相変わらずだ。
医薬品卸の物流にとっ ては本来、「医療用」と「大衆薬」の物流管 理はまったく別物だ。
にもかかわらず、コス ト意識の希薄な医療用のボリュームが圧倒的 なことから、大衆薬の物流も依然として非効 率なままというケースが少なくない。
そうした医薬品卸の一社に過ぎなかったシ ーエス薬品にとって、転機は八年前に訪れた。
それ以前の同社は、自ら物流現場を管理し、 JUNE 2005 42 事業体 売上規模 大衆薬事業を巡る動き 1 メディセオHD 12,839億 → 日雑卸2位のパルタックと経営統合 2 スズケン 13,300億 → 大衆薬大手卸のコバショーに同事業を移管 3 アルフレッサHD 11,953億 → シーエス薬品にグループの大衆薬事業を集約 4 東邦薬品グループ 6,035億 → 大衆薬大手卸の大木と業務提携 大衆薬事業を巡る医薬品全国卸の動向 43 JUNE 2005 現場作業者も自社で抱えていた。
ところが物 流センターが物量的にパンクしてしまい、商 品金額にして約六億円分を分離せざるを得な くなった。
このとき分離する物流管理を委託 したのが、経営トップのレベルで親交のあっ たホンダロジコムだった。
卸の心臓部をアウトソーシング 東海地区の中堅物流業者、ホンダロジコム は、トヨタ自動車の協力物流業者として約四 〇年の経験を持つ。
医薬品業界に根強い高コ スト物流とは対極の、トヨタ流・低コスト物 流のスペシャリストである。
ホンダロジコム によって新風を吹き込まれたことが、現在の シーエス薬品の「物流力」を形づくった。
同社・春日井物流センターの筆島健三所長 は「東海エリアの医薬品卸としては、初めて 当社が卸の心臓部である物流機能をアウトソ ーシングした。
この体制が、品質と効率の両 面で得意先の信頼を得られたことによって、 他の卸もアウトソーシングに踏み切るように なった。
そういう意味では、うちの経営陣は 凄い決断をしたと思う」と述懐する。
現在の物流管理は、「資産管理はシーエス 薬品、業務運営はホンダロジコムという明確 な役割分担がなされている」という。
この体 制が上手く機能しているからこそ、医薬品卸 の間で一目置かれるローコスト・オペレーシ ョンを実現することができた。
ホンダロジコムの現場管理の強みの一つは、 ハンディターミナルを使った現場管理システ ムだ。
自動車の補修部品の物流現場を管理す るために自社開発し、結果としてトヨタにも 認められことから、現在ではトヨタの協力物 流業者の間で広く利用されている。
このシス テムをトヨタ以外の物流管理に応用すること で、ホンダロジコムは3PL事業を伸ばして きた(二〇〇四年九月号特集参照)。
もっとも、八年前にシーエス薬品の物流管 理の一部を受託した当初は、まったく未経験 の医薬品物流にかなり苦労したようだ。
慣れ親しんだ自動車部品の管理では、一つ の部品で一つのバーコードを使うのが普通だ。
一方、医薬品卸の物流現場では、たとえば同 じ栄養ドリンクであっても、一本に対応する バーコード、一〇本の中箱に対応するバーコ ード、五〇本のケースに対応するバーコード など複数のコードがある。
しかも出荷形態は、 一本や三本のバラで出すこともあれば、一〇 本×五梱包で出荷したり、五〇本を一ケース で出すなど顧客の要望次第で変わる。
従来のシーエス薬品が物流管理にバーコー ドを使っていなかったこともあって、ホンダ ロジコムの現場管理はかなり混乱した。
バー コードを使えるように、シーエス薬品と一緒 になって商品マスターを整備するといった地 道な作業に取り組む必要があった。
そして、 このような活動を通じて医薬品物流のノウハ ウを学び、できるところからトヨタ流の現場 改善を施していった。
その後の二年間で、ホンダロジコムはロー コスト化と高品質を実績で証明。
これを評価 したシーエス薬品は、大衆薬事業の物流管理 の全面的なホンダロジコムへのアウトソーシ ングを決定し、現在の物流センターへの移管 に踏み切った。
このとき、過去に物流現場で使っていたデ ジタルピッキングなどのマテハンはすべて廃 棄し、物量に応じて作業コストを変動させら れるオーソドックスな仕組みに変えた。
「当 社の物量は週間波動が三倍ある。
夏場に殺虫 剤が急増するといった季節波動も大きい。
と ころが従来のマテハンを使った仕組みは、作 業者の固定化や待ち時間の増加につながって いた。
物量に応じて柔軟に作業の内容を変え られるようにした」と筆島所長は振り返る。
トヨタ系物流業者の3PL 現場管理の合理化に取り組む一方で、シー エス薬品とホンダロジコムの関係も変わった。
現在の両社は、たとえば改善活動によって 五%のコストを削減できたら、シーエス薬品 シーエス薬品・春日井物流セ ンターの筆島健三所長 JUNE 2005 44 とホンダロジコムがそれぞれ二・五%ずつメ リット享受するゲインシェアリング(成果配 分)を徹底している。
これもトヨタ譲りの考 え方である。
過去の興味深い改善事例をいくつか紹介す ると、約六年前に新センターに移管した直後、 センター二階の床に穴を開けてしまうという 改善を行った。
五階にホンダロジコムの本社が入居する建物の四階までを占める物流セン ターなのだが、いざ稼働してみると、垂直搬 送機の能力が足りず、商品が滞留してしまう ことが分かった。
そこでホンダロジコムは、二階の床に五メ ートル四方ほどの開口部を作り、その穴を通 して一階からフォークリフトでパレット積み 商品を上げるようにしてしまった。
コストを 掛けないために既存の物流施設を流用し、し かも垂直搬送機の増設などといった投資を発 生させないための苦肉の策だった(写真)。
また、バラピッキング作業の見直しも、改 善の手本のような取り組みだ。
このセンター では八〇〇〇品目余りの商品を扱っている。
バラピッキングでは、紙箱で仕切った固定ロ ケーションから、台車とハンディ端末を使っ て「摘み取り式」で商品を集めてくる。
しか し、極端に小口の顧客向けのピッキングを店 舗ごとに行うと、作業者の動線ばかりが長く なってしまいムダが多いことに気づいた。
そこで、こうした作業だけを集約し、別に 処理するように変えた。
まず最初に、対象店 舗分のまとまった量を「摘み取り式」でピッ キングする。
これを改めて顧客ごとに「種ま き式」で仕分けるという手順である。
この作 業変更によって、新たに「種まき式」のピッ キングエリアが必要になったが、ホンダロジ コムは出荷エリアの一角に小型ラックを用意 するだけで済ませてしまった(写真)。
八四店舗分まで折り畳みコンテナを並べら れるこの小型ラックは、いつもはコンパクト にまとまっていて、使うときだけ拡げてセッ トする。
まず注文に応じて店舗別のラベルを 発行し、順番通りに折りコンに貼る。
そのラ ベルにあるバーコードを順番通りにスキャン していくと、商品の投入指示が端末に示され、 センター2階の床の開口部開口部から1階の作業を覗く 台車を使うバラピッキング質素だが工夫を施した台車 種まき仕分けで使うラック(格納時) ケース出荷にも同じ台車を使う シーエス薬品の春日井物流センター 45 JUNE 2005 作業者はその通りに仕分けていく。
作業状況 はシステムで管理しているため、間違えれば 警告音が鳴るようになっている。
コスト比率を一・五ポイント改善 ホンダロジコムにとって、コスト削減や品 質向上のための改善活動は当たり前だ。
実際、 毎年のように生産性を向上させてきた。
今年 三月には一カ月間のミス率が三十二PPM (百万分の三十二)という過去最高の精度を 記録した。
かつてデジタルピッキングなどを 多用していた時代には、人手による二重チェ ックなどを施しても九七%の納品率を死守す るのがやっとだった。
これを考えれば、想像 もできなかったほどミスは減った。
しかも売 上高に占める物流費の比率は、当時の約四% から二・五%に改善している。
今年三月に過去最高の精度を実現できた理 由を、ホンダロジコムの塩田稔副参事はこう 説明する。
「すでに五〇PPM前後は安定し て出せるようになっていた。
習熟したパート さんの作業精度はもともと高いのだが、作業 が夕刻にずれ込んでアルバイトによる作業が 多くなると数値は悪化する。
シーエス薬品さ んから作業データを早めにもらうといった改 善を重ねた結果、過去最高の精度を出すこと ができた」 このような成果を積み上げてきたことで、 シーエス薬品の社員の物流部門に注ぐ視線も 様変わりした。
「一番変わったのは、営業マ ンが胸を張って得意先を物流センターに連れ てくるようになったこと」と筆島所長。
他社 との差別化要因として、物流センターが社内 でも一目置かれる存在になったことを物語る エピソードである。
シーエス薬品は今後、アルフレッサグルー プから営業譲渡を受けた大衆薬事業を高度化 するため、関東や関西に進出して物流管理を 手掛けていく。
その際にはホンダロジコムも 一緒に進出し、改善活動に取り組む。
シーエ ス薬品とホンダロジコムの関係は、補完し合 いながら互いに事業拡大を模索する3PLの 理想形に近づきつつある。
(岡山宏之) ホンダロジコムの塩田稔副参事

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