ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2001年10号
ケース
シスコシステムズ――3PL

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

OCTOBER 2001 46 ルーター、スイッチングハブといったネッ トワーク機器を提供するシスコシステムズ (以下シスコ)では大きく分けて二つのメン テナンスサポートサービスを用意している。
一つは販売パートナー向けのサービスプログ ラム「SMARTspares 」。
原則としてオーダー の翌日に代替品やスペアパーツをパートナー の拠点に供給するサービスで、在庫補充とい う意味合いが強い。
もう一つはエンドユーザー向けの「SMART net 」。
オーダーから四時間以内に直接スペア パーツを届ける緊急サービスだ。
部品交換の できる技術者を社内に抱えていないユーザー 向けには、スペアパーツとともにフィールドエンジニアを派遣するオプションサービス 「 SMART net Onsite 」というメニューも揃 えている。
企業ユーザーにとってネットワーク機器の 故障による日常業務の滞りは大きな損失につ ながりかねない。
それだけに機器ベンダーに は短時間で復旧できる技術力とスピードが求 められている。
実際、製品そのものの性能も さることながら、トラブル発生時にいかに迅 速に対応できるか、そのサポート体制を重視 してベンダーを選ぶユーザーも少なくない。
その点、シスコのサポートサービスはユー ザーから高い評価を受けている。
オーダーか ら四時間でスペアパーツを供給する圧倒的な スピード。
そして、二四時間三六五日問い合 スペアパーツを4時間で全国配送 オペレーションはTNTに一括委託 配送デポを日本国内に新たに7カ所開設。
オー ダー後4時間以内にスペアパーツを届けるサポー トサービスのエリアを全国に拡大した。
これに伴 い、ロジスティクス・オペレーションの委託先を フェデックスからTNTエクスプレスに切り替えた。
TNTが自社開発した部品配送用物流パッケージシ ステム「ストラパート」を活用して、リアルタイ ムの情報管理を実現している。
シスコシステムズ ――3PL きる地域がどうしても限定される。
人口カバー率は七五%前後に留まっていた」(重松幸 恵カスタマーアドボカシー事業本部グローバ ルプロダクトサービス部サービスオペレーシ ョンズレプレゼンタティブ)のが実情だった。
通常、経営規模の大きい企業ユーザーは自 社が展開する営業所をすべてカバーするとい うことを条件に、情報システムやネットワー ク機器に関する保守契約を交わす。
各営業所 のバックアップ体制を均一化すると同時に、 一括契約による保守料金の値引きを実現する ためだ。
実際、シスコにもそうしたオファーが多数 寄せられていた。
ところが、それまでの国内 四拠点体制ではとても対応できなかった。
大 手クライアントが全国に展開する数十拠点の うち、わずか数カ所をカバーできないために 契約を逃すといった苦い経験もあり、社内で はサービス立ち上げ当初から国内のRFD増 設を求める声が絶えなかったという。
将来は受注後二時間配送 しかし現在では、目標であった四時間配送 サービスの「人口カバー率一〇〇%」をほぼ 達成しつつある。
今年八月、シスコは既存の 四拠点のほかに、新たに札幌、郡山、岡山、 盛岡、金沢、南九州、那覇にRFDを設置し た。
これによって、日本全土を網羅するサポ ート体制が整った。
四時間以内配送はもちろ 47 OCTOBER 2001 わせができるという使いやすさ。
こうした利 便性の高さが同社製品の支持層を拡げる一因 にもなっている。
しかも、これらのサービス は全世界共通メニュー。
グローバル展開する 企業にとっては好都合だ。
ただし、日本の場合これまで、顧客が十分 に満足するサポートサービスを提供できてい るとは言い切れなかった。
「スペアパーツの供 給拠点であるRFD(Rapid Fulfillment Depot )は東京、大阪、名古屋、福岡の四カ 所。
各拠点から四時間以内となると、配送で ん、「将来は二時間配送も 実現したい」(重松氏)と 意気込んでいる。
スペアパーツがエンドユ ーザーに届くまでの、情報 とモノの流れは以下の通り。
ユーザーはまず、ベルシ ステムズが運営しているコ ールセンターにアクセスし、パーツを注文す る。
続いてコールセンターがその注文を米国、 オーストラリア、欧州の輪番制で二四時間稼 働している「シスコ・ロジスティクス・サポ ート・センター(LSC)」に報告。
LSC に常駐するエンジニアがトラブルの解決方法やパーツ在庫の所在といった情報をコールセ ンターにフィードバックする。
この情報を基に、コールセンターは東京の ロジスティクス用コールセンターに出荷指示 を出す。
さらにロジスティクス用コールセン ターが全国のRFDに出荷指示を送信。
RF Dでピッキング、梱包などの作業を経て、ユ ーザーに届けられる仕組みになっている。
ユーザーからの問い合わせを受けるベルシ ステムズ運営のコールセンターは、主に日本 語を英語に翻訳する機能を担っている。
こう したコールセンターを設けているのは日本だ け。
諸外国にはない。
例えば、米国やオース トラリアではユーザーからの問い合わせを直 接LSCで対応している。
スペアパーツ供給と情報の流れ エンドユーザー (運営・ベルシステムズ) コールセンター (運営・TNTエクスプレス) コールセンター ロジスティクス用 エンドユーザー RFD RFD RFD スペアパーツ 注文 出荷指示 受注後30分以内 に到達予定 時間を報告 作業状況 作業状況 作業状況 出荷指示 出荷指示 出荷指示 ・注文の英訳 ・問題解決方法 ・パーツ在庫の所在 ・出荷指示 Webを通じて リアルタイムで 貨物追跡 ?米国 ?オーストラリア ?欧州 の輸番制で 24時間対応 LSC (ロジスティクス・ サポート・ センター) 配送 配送完了 情報 ストラパート 配送 配送完了 情報 配送 配送完了 情報 重松幸恵カスタマーアドボカシー事業本部 グローバルプロダクトサービス部サービス オペレーションズレプレゼンタティブ OCTOBER 2001 48 一方、RFDへのスペアパーツの供給は次 のようなフローで進んでいく。
世界各国のベ ンダーから提供されるパーツはいったん、米 国のCSD(Central Supply Depot )に集 められ、その後各国のCD(Country Depot ) に送られる。
日本の場合は東京・葛西のトラ ックターミナル内にある日本CDがそれに相 当する。
そこから必要に応じて全国十一カ所 のRFDにパーツが在庫補充される仕組みだ。
コンペは情報システム重視 シスコは機器生産のEMS(Electronics Manufacturing Service: 電子機器の製造委 託サービス)の利用をはじめ、あらゆる業務 でアウトソーシングを徹底して、自らはでき る限り資産を持たないビジネスモデルで成長 を遂げてきた。
その方向性はロジスティクス でも同様で、「米国、オーストラリア、欧州 のいずれの地域でも3PLを利用している。
ロジスティクスをコントロールする機能こそ 社内に有しているが、倉庫やトラックといっ たアセットは原則として持たない」(重松氏) 姿勢を貫いている。
従来、日本でのスペアパーツの3PLはフ ェデラルエクスプレス(フェデックス)だっ た。
しかし、今回のRFD増設を機に物流コ ンペを開き、TNTエクスプレスに切り替え ている。
TNTの業務範囲はベルシステムズ からの出荷指示を受けるコールセンターの運 営とRFDでのオペレーションやユーザーへ の配送まで。
RFDにパーツを供給する日本 CDは契約期限の関係上、これまで通りフェ デックスが運営するという変則的な体制を現 段階では敷いている。
物流コンペは昨年末に開かれた。
声を掛け たのは国内外の物流企業十数社。
その際、シ スコ側が設けた選定基準は主に?ロジスティ クスインフラの整備状況、?情報システムへ の対応能力、?コスト、?ワールドワイドで のシスコとの関係――の四点だった。
二次コンペには四社が進んだが、その中に フェデックスは含まれていなかった。
会社創 業以来、シスコとパートナー関係にあったフ ェデックスが落選したのは、情報システムと コストの面で折り合いがつかなかったためだ。
とりわけ情報システムに対する考え方の両 者の溝は深かった。
シスコが自社用にカスタ マイズした情報システムの整備を求めたのに 対し、フェデックスはあくまでも既存のシス テム上での運用にこだわった。
「フェデックス の情報システムの機能が劣っているとは決し て思わない。
ただし、今回はどうしても当社 の目指すビジネスモデルに合うロジスティク スの情報システムが欲しかった」と重松氏は 振り返る。
シスコが五月末の二次コンペに残った四社 に課した条件は厳しいものだった。
業務委託 契約後、約三〇日以内で情報システムを完成 させて、なおかつ全国四時間 配送サービスを開始するとい う内容だ。
この常識外れともとれる要 求に応じることができたのが TNTだった。
決め手は自社 開発した部品配送用物流パッ ケージシステムの存在だ。
「ス トラパート」と呼ばれる同シス テムは保管、ピッキング、梱 包といった倉庫業務と末端へ の配送業務を組み合わせたも ので、主にオーダー後〇〜六 時間以内での配送が必要な緊急性の高い各種部品が対象と なっている。
これをシスコ用にカスタマイ ズすれば、すぐにでもサービスを開始できる というのがTNTのセールスポイントだった。
実際、TNTはシスコの要求通り三〇日以内 でのカスタマイズに成功している。
「TNTグループの中で3PL事業を担当 するTNTロジスティクスには全世界で約一 〇〇〇件の契約実績がある。
様々な業態に対 応しているが、伊フィアットグループ向けの 全世界での3PLに代表されるように、その 中でも特にスペアパーツ関連の案件が多い。
『ストラパート』は自動車をはじめ、エレクト ロニクス業界などで培ったノウハウが凝縮さ スペアパーツの供給体制 部品ベンダー 米国CSD 日本CD 世界各国に設置 全国11カ所 オーストラリア CD RFD RFD RFD 阪急交通社 が運営 東京・葛西・T・T内 フェデックスが運営 ユーザー ユーザー ユーザー ユーザー ユーザー ユーザー ユーザー ユーザー ユーザー ・・・・・・ 49 OCTOBER 2001 れているTNTグループの自信作」(TNT エクスプレスの愛敬澄雄営業本部ロジスティ クス&メジャーアカウント部長)だという。
「ストラパート」の情報システムは倉庫での 入出荷をコントロールするWMS(Warehouse Management System )と貨物追跡機能である Tracking System を中心に構成されている。
このうち特にシスコが着目したのはTracking System の機能の充実ぶりだった。
具体的にはオーダーを受けてから三〇分以 内に到着予定時刻をクライアントにフィード バックする機能のほか、配達までの途中経過 情報をリアルタイムで確認できる機能も持つ。
さらに、受注から配達までどのようなオペレ ーションが行われたのかをチェックするため のパフォーマンスレポートも提出可能だ。
す べての情報はウェブを通じてクライアントで も確認できる仕組みになっている。
もっとも、今回のコンペでTNTにとって 「ストラパート」以上に強力な武器となった のは、既に欧州でシスコのロジスティクスを 経験しているという実績だった。
TNT(正 確にはTNTロジスティクス)は欧州でLL P(リードロジスティクスプロバイダー=4 PL)の役割を担うUPSワールドワイド・ ロジスティクス(米国UPSの子会社)のア ンダーとして、オペレーション部分を担当し ている。
シスコ側はTNTのこれまでの経験 を買っており、それがコンペの結果にも反映 された。
逆に、TNTにとっての唯一の悩みは国内 拠点網が手薄な点だった。
日本進出以来、大 都市を中心に拠点を増やしてきたが、既にど の拠点も空スペースが残っていない状態。
本 来、TNTの3PLは自社のデポや営業所を 使用するのが基本だが、今回は特例としてR FD十一カ所の運営とユーザーへの配送を阪 急交通社に外注することで補っている。
「そもそも営業所が進出していない地域も あり、オペレーション部分のアウトソーシン グに踏み切ったが、TNTが全体のマネジメ ントに責任を負うことでシスコには納得して もらっている」(愛敬部長)という。
3PLの一本化へ シスコの物流は大きく?完成品の供給、? スペアパーツの供給、?故障品の回収――の 三つに分かれている。
従来、これらの物流は フェデックスに一本化することで、きれいに まとまっていた。
ところが、サービスメニュ ーの増加やサービス対象地域の拡大に伴い、 3PLを使い分ける戦略に変わり、ロジステ ィクスが複雑化してしまった。
「いずれは元のように3PL一社に三種類 のロジスティクスを一括で委託するかたちが 理想」(重松氏)だという。
ベストなのはワ ールドワイドでの一本化だが、まずは地域ご とに集約することが当面の課題だ。
既にオー ストラリアでは一本化→複数利用を経て、再 び一本化する方向に進んでいる。
当然、TNTは日本におけるLLP(=4 PL)の立場を狙っている。
「スペアパーツ に関していえば、まず日本CDの運営までを 取り込むこと。
その後、既に配送を担当して いる故障品回収の業務領域の拡大、さらに完成品供給にまで踏み込みたい。
シスコがアジ ア各国に進出する際のロジスティクスのパー トナーとして指名されるかどうかは日本での 取り組みに掛かっている」と意気込む。
日本向けの完成品輸送を担当する近鉄エク スプレス、欧州のLLPとして成功を収めて いるUPSロジスティクス、EMSから故障 品の修理、物流管理にまで事業領域を拡げつ つあるソレクトロンなど、いずれのライバル もLLP志向だ。
TNTにとっては手強い相手になる。
スペ アパーツの供給体制が確立され、一段落した かに見えたシスコの物流をめぐる争いは一層 激しくなりそうだ。
(刈屋大輔) TNTエクスプレスの愛敬澄 雄営業本部ロジスティクス& メジャーアカウント部長

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