ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2001年9号
特集
マテハン機器/トラック車両 ユーザー満足度調査 サービスとコストを両立させる一括物流センターのマテハン活用法

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

SEPTEMBER 2001 20 マテハン投資が利益を生む 菱食の物流網は、ピース単位のピッキングを集中し て処理するRDC(リージョナル・ディストリビュー ション・センター)を中心として、その周囲にケース 単位の商品だけを扱うFDC(フロント・ディストリ ビューション・センター)を衛星状に配備する形でデ ザインされている。
RDCでバラピッキングされた商 品はトートボックスに詰めて、FDCに横持ちする。
FDCではそれをケース単位の商品と店舗別にまとめ て納品する、という体制だ。
昨年、同社は全国のRDCに、携帯バーコード端 末によるスキャン検品システムを配備した。
ピッキン グ担当者がバーコード端末を携帯し、商品を取り出す ごとに、商品に印字されたバーコードを読み込む。
そ こでミスが発生していれば警告音が鳴る。
間違いはそ の場ですぐに直す。
これによってセンターのミス率は 従来の一万分の二から、一〇万部の二まで改善され た。
その結果「得意先からのクレームは事実上ゼロに なった」と同社の市瀬英司常務取締役ロジスティクス 本部長は胸を張る。
投資額はセンター一カ所当たり七〇〇〇万円から 八〇〇〇万円かかった。
しかし、トータルコストは逆 に下がっている。
従来はミス率を抑えるために出荷の 最終ラインで検品を行っていた。
しかしピッキングの 段階でのミスをなくしたことで、最終ラインの検品は 廃止することができた。
その人件費削減分と比較すれ ば、スキャン検品システムへの投資はお釣りがくる。
さらに、ピッキングのミスがなくなったことで、出 荷積み込み作業の改善も進んだ。
従来、RDCの出 荷ゾーンでは、仕分け機から流れてきたトートボック スを人手でパレットに積み付け、各FDC向け車両に 積み込んでいた。
その後、FDCではケース商品と、 RDCから入荷したバラ商品のトートボックスを、や はり人手で店舗別にまとめていた。
トートボックス一 個当たりの重さは約一五キロ。
かなりの重労働だった。
トートボックス用の自動倉庫と自動積み付け機をR DCに導入することで、この作業を機械化した。
ピッ キング済みのトートボックスをいったん自動倉庫に格 納し、車両別・店舗別に出庫。
それをコロに載ったパ レットに自動的に重ねて積み付ける。
出荷作業員は、 積み付けの済んだパレットを、車両の荷台の奥へ順に 移動するだけでいい。
これによってFDCで店舗別に 仕分ける必要もなくなった。
近畿RDCと関東RDC に、既にシステムの導入を済ませている。
一般には物流投資、とくに自動倉庫のような高額 なマテハン機器ともなると、純粋に投資対効果を計算 しても、まず算盤が合わないと言われている。
しかし 市瀬常務は「そんなことはない。
当社のマテハン投資 は全て純粋な投資対効果に則っている。
そうでなけれ ば稟議が通らない。
逆に金はかかるが、それだけの効 果があるという裏付けがあれば、どんどん投資する」 とマテハン投資の?常識〞を否定する。
米フレミングのノウハウ もっとも、同社にしても九〇年に現在のRDC/ FDC構想を実施に移す前までは、他の中間流通業 者とそれほど変わらないセンター運営をしていた。
R DC/FDC構想を実施するにあたり、同社は米国 の大手卸フレミング社に一〇〇万ドル、当時の為替レ ートで約一億五〇〇〇万円を支払って、センター運 用方法の指導を仰いでいる。
これは廣田正社長自らの 判断だった。
しかし、省力化の進んだ欧州の物流センターと違っ サービスとコストを両立させる 一括物流センターのマテハン活用法 サービスレベルを上げてコストを下げる。
大手食品卸の菱 食は果敢なマテハン投資によって、それを実現している。
実 際、同社はここ数年にわたり各種の自動倉庫、自動積み付け 機、スキャンピッキングといった高額なマテハン機器の導入 を積極的に進めている。
厳密な労働作業コストの把握が、そ の投資判断を支えている。
Part ? マテハン機器User Report 菱食 21 SEPTEMBER 2001 て、米国の物流センターはその多くが広大な規模の平 屋建てで、自動倉庫などのマテハン設備もそれほど普 及していない。
導入設備だけを見れば、むしろ日本の ほうが進んでいるような状態だ。
当時、プロジェクト チームの一員だった市瀬常務は「正直にいえば、現場 の人間は何でそんなことに金を払う必要があるのか疑 問に思っていた」と打ち明ける。
実際、渡米してセンターを見学しても、驚くような 設備があるわけではなかった。
しかし、学ぶべき部分 は別にあった。
フレミングの担当者に話を聞くと、セ ンターの運用にIE(インダストリアル・エンジニア リング)が積極的に採り入れられていることがよく分 かった。
人手による単純な作業を効率化するための体 系的な技術が随所に適用されていた。
倉庫のレイアウト、棚の高さ、作業の手順といった 細部までが、作業効率を上げる目的で厳密に計算さ れている。
さらにフレミングのセンターには「PIP リアルタイム」という、今でいう「レイバースケジュ ーリング(作業労働計画)」のシステムまで導入されて いた。
日本の流通業の常識をはるかに超えた運用管理 だった。
それまで菱食では一般の卸と同様にケース単位の注 文と小分けの注文を同じ物流センターで処理していた。
しかし、ケースと小分けでどれだけオペレーションコ ストが違うのか、正確な数字は把握していなかった。
小分けの物流だけをRDCに集約するといっても、作 業プロセス毎のコスト把握ができないと、物流センタ ーの設計などできないことに気付かされた。
「つまりアメリカの流通センターは見たところ何に もしていないようだけれど、運用の管理はとても進ん でいた。
それを当社は日本に持ち込んだ」と市瀬常務 はいう。
その結果、作業毎の人時生産性など、マテリ アル・ハンドリングの基礎数値が把握できるようにな った。
これによって「作業プロセス管理」というセン ター運営コンセプトの土壌ができた。
自動倉庫の川下的活用法 菱食RDCのピッキングエリアには、内側に向き合 う二本のピッキングラインの中心に、トートボックス の流れるコンベヤーが走り、ピッキングラインに商品 を補充するためのリザーブラックが、二本のピッキン グラインを外側から挟み込む形で配置されている(上 図)。
このレイアウトは米国ダラスにあるフレミング の物流センターが原型になっている。
ただし、運用の仕方は米国とは異なっている。
フレ ミングではリザーブラックからピッキング用フローラ ックへの商品補充に、フォークリフトを使っている。
当初は菱食もそれを倣ってきた。
しかし、その後、自 動倉庫を導入することで、この機能をフォークリフト から置き換えた。
フォークマンの作業プロセスとコストを検討した結果、少なくとも日本では自動倉庫を導 入したほうが安く済むと分かったからだ。
フォークリフトを使った補充では、フォークマンの 人件費に加えて、リザーブラックとフローラックの間 に三メートルのスペースが必要になる。
これが自動倉 庫ならラックの間のスペースはフォークの場合の半分、 一メートル五〇センチ程度で済む。
それだけ使用する 面積が減るため、センターの建設費や賃貸料が安くな る。
しかも、アルバイトでは処理できないため割高な フォークマンの人件費が必要なくなる。
ただし、フォークマンの仕事は単純にリザーブラッ クからフローラックラックへ、パレットを動かしてい るだけではない。
まず商品の入庫時には、ロットの多 いものはリザーブラック、少ないものは直接フローラ 特集 マテハン機器/トラック車両 ユーザー満足度調査 イメージ図 リザーブラック フォークリフトで補充 コンベヤ フローラック ピッキングゾーン ピッキングゾーン リザーブラック フォークリフトで補充 フローラック 3m 3m リザーブラック コンベヤ フローラック ピッキングゾーン ピッキングゾーン 1.5m スタッカークレーン フローラック 1.5m スタッカークレーン 従 来 自動倉庫導入後 リザーブラック 菱食の市瀬英司常務取締役ロ ジスティクス本部長 SEPTEMBER 2001 22 ックに格納するという判断を行っている。
リザーブラックからフローラックに補充する際にも、 パレット単位で補充するわけではない。
フローラック がオーバーフローを起こさない量だけを補充して、残 りはまたリザーブラックに戻す。
他にも空きパレット の回収などを含めると全部で十近くの機能をフォーク マンは果たしていた。
その機能を全て自動倉庫に持た せる必要があった。
処理スピードの問題もあった。
通常、自動倉庫はラ ックの間に装備されたスタッカークレーンが縦奥に移 動して荷物を出し入れする構造になっている。
入出庫 口は手前の一カ所のみで、スタッカークレーンの移動 速度は一時間に三〇往復程度。
従って一時間に三〇 アイテム程度しか処理できない。
流通の川下の多頻度 小口物流にはとても耐えられない代物だった。
そこでマテハンメーカーのダイフクと協力して自動 倉庫の制御ソフトを開発。
手前の一カ所だけで入出 庫する運用を改め、ラックの棚全面を事実上の入出 庫口とすることで、この問題を解決した。
つまりスタ ッカークレーンをリザーブラックとフローラック間の 商品移動に使う運用法を開発したのだ。
通常、縦の 移動に使われるスタッカークレーンを横の移動に使う という全く新しいコンセプトだった。
出庫口が一カ所から数十カ所になったことで、スタ ッカークレーンの速度など自動倉庫のスペックはその ままでも、処理の生産性は数十倍に跳ね上がった。
菱 食はこのシステムを九五年に東北RDCと北海道R DCに導入したのを皮切りに、その後、他の拠点にも 順次導入を進めている。
もちろん投資対効果は厳密に 管理している。
「仮に自動倉庫一機で一億円、それを二機いれて二 億円かかるとする。
まず、それをリース料に置き換え る。
七年リースだとすれば月々一・五%ぐらいだから、 約三〇〇万円というリース料が弾ける。
それに対して フォークマンの人件費が何人分セーブできるのか。
さ らにスペースの削減はいくらになるのかと計算してい くと十分に採算が合う」という。
デジタルピッキングの運用 この自動倉庫システムと同時期に、RDCにはデジ タルピッキングシステムも導入している。
それまでは 商品名によるリストピッキングだった。
そのため作業 員はリストの商品名を見てデザインや外箱をイメージ し、それがどの棚にあるのか判断する必要があった。
RDCで扱うアイテム数は数千にも上る。
ベテランで ないと処理できない職人芸の世界だった。
しかも、こ のやり方だと一〇〇〇分の一〜二程度のミス率が発 生してしまう。
これに対して同社の主要顧客となるチェーンストア は一万分の一〜二のミス率を要求するようになってい た。
ピッキングのデジタル化は避けられなかった。
し かし、既存のデジタルピッキングシステムは基本的に コンビニの専用センターを対象にしたもので、そのま まではRDCのような汎用型センターに導入すること はできなかった。
コンビニ向けのデジタルピッキングは、店舗ごとに 処理を行う。
注文内容に関わらず、全てが同じ動線で ピッキングラインを一巡するという運用を前提にして いた。
コンビニのセンターで扱うアイテム数は一〇〇 〇〜一五〇〇程度に限られている。
各アイテムの出荷 頻度も比較的安定している。
そのためピッキングライ ン全体を一巡する運用法でも、各ブロックでのヒット 率は高く、大きな作業のムダは発生しない。
ところが、コンビニの何倍ものアイテムを扱うRD ▲出荷ゾーンには、トートボックス用自動倉庫と自動積み付け機を導 入した ▼ピッキングエリア――デジタルピッキング用のフローラックの背後 にリザーブラックとスタッカークレーンが配備されている 23 SEPTEMBER 2001 Cでは、ピッキングラインの長さが四〇〇〜五〇〇メ ートルにも達する。
コンビニ方式で運用すれば、わず か数アイテムをピッキングするために五〇〇メートル を移動するというケースまで出てしまう。
RDC用の 運用法を開発する必要があった。
具体的にはヒットがないブロックを飛ばして、ヒッ トがあるブロックに直ぐに移動するようにソフトを組 み替えた。
これによって一万分の一〜二のミス率を達 成しただけでなく、作業のマニュアル化が可能になっ た。
現在、RDCのパート化比率は九三〜九五%に 達しているという。
その後、ミス率に対する小売りの要求が一〇万分の 二〜三というレベルへ、さらにエスカレートしたこと で冒頭のスキャン検品システムを導入することになっ た。
こうした投資はサービスレベルを確保するための ものだが「だからといって当社では、コストがそれま でより高くなることは許されない。
実際、安くなって いる」と市瀬常務はいう。
バラ商品の処理をRDCに集中し、その後、ケース 単位の注文だけを扱うFDCで店舗別にとりまとめて 一括納品する――菱食のRDC/FDC構想は拠点 間の横持ち輸送が発生するため割高になるという指摘 が当初から絶えなかった。
実際、ライバルの大手卸は いまだに菱食型の物流体制を追随していない。
しかし市瀬常務は「最近はそういうご質問もなくな ってきた。
小売業さんも含めて、(当社のモデルは) 既に受け入れられたと思っている。
実際、当社はこの 体制で業績を伸ばしてきた。
大手加工食品卸ではもっとも利益率も高い。
実際の仕入れ価格など他の卸と 変わらない。
それでは何が安いのかと考えれば、自然 とおわかり頂けるはず」と自信を深めている。
過去一〇年以上にわたり同社は毎年一〇カ所前後 のペースで物流センターの新設を続けてきた。
その陣 頭指揮をふるってきた市瀬常務が自ら手掛けたセンタ ーだけでも、その数は既に一〇〇近くに上っている。
同社のRDCには業界内だけでなく広く海外からも、 連日のように見学者が訪れている。
センターの現場では、一つボトルネックを解決する と、次のボトルネックが出てくる。
これを一つひとつ 潰していくという制約理論の教科書通りの改善を、菱 食は進めてきた。
この積み重ねが卸としての見えない 差別化要因となっているようだ。
(大矢昌浩) 特集 マテハン機器/トラック車両 ユーザー満足度調査 ――マテハンのパートナーは、どう選べばよいでしょうか。
「見積書の最終ラインの金額を見て、決めたがる人が 多いようですけれど、賛成できません。
見積もりの中味 を評価できる力がユーザー側にないのに、安い高いを言 っても意味がない」 ――価格以外の何を見ればいいのですか。
「色々な要件を設定して見積もりを出してもらっても、 それだけでは分からない要素がある。
とくに私が重視し ているのは、そのメーカーの実績です。
プレゼンテーシ ョンでは皆、耳障りのいいことをアピールしますが、実 際にその言葉を信用して任せた結果、上手くいかなかっ たという話など無数にある。
本当にそのベンダーが提案 通りに実現できるのかを見極めることが何より大事です。
結果として保守的な選択になりますね。
過去に同じよう なケースを実現させたことがあるメーカーを選ぶ。
ただ し、そればかりでは進歩がなくなってしまいますから、常 に新しいテーマを与えるようにしています」 ――製品自体の違いというのは、それほどない? 「いや、それはありますよ。
加工食品を扱う当社の場合 であれば、一枚当たりのパレットの重量がだいたい五〇 〇キロぐらいです。
そのため、五〇〇キロ対応型で大き さ的には高さ一〇メートル以下のものを選ぶ。
パレット 一枚当たり一トン・高さ三〇メートルの自動倉庫とは、 やはり違います。
つまり同じ自動倉庫といっても規模や 使い勝手によって、メーカーにも得手不得手がある。
コ ンペを重ねていけば、その辺の違いが分かってきます」 ――メーカー以外に、ゼネコンやエンジニアリング会社 をパートナーに選ぶことは。
「ないですね。
ゼネコンに頼むといっても、彼らにマテ ハンについての知識やノウハウがあるわけではないですか ら。
またマテハン業者にしても彼らは機械のプロであって、 その使い方についてはユーザーのほうが詳しい。
実際、当 社からコンセプトを出して、具体的な依頼をするケース のほうが多い。
全体のデザインは当社が自分でやる」 「例えば当社の場合、自動倉庫はダイフクを使用して いるのですけれど、その運用方法は当社のオリジナルで す。
ダイフクさんに対して、こういうことをやりたいと いう要件項目をたくさん織り込んでいく。
ダイフクさん にとっても、そこまで要件をたくさん依頼されたことは ないおっしゃるぐらい織り込んでいく」 ――一般には全体のデザインや運用について、ベンダー から提案を受けるものだと思いますが。
「少なくとも私の経験では、そういうやり方をして上手 くいったケースを知りません」 菱食・市瀬英司常務取締役ロジスティクス本部長に聞く マテハンメーカーの選び方

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