ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2001年9号
メディア批評
視聴率競争がテレビを骨抜きにするドキュメンタリーの基本忘れた現場

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

佐高信 経済評論家 65 SEPTEMBER 2001 先日、テレビ報道番組の審査をやった。
民 間放送連盟東京地区のそれである。
参加作品 は日本テレビ、TBS、フジ、テレビ朝日、 テレビ東京、そして、ビーエス・アイの六作 品。
私は前に九州地区と東北地区の審査をや ったことがあり、なかなかいい作品がそろっ ていたので、今回も期待したのだが、正直言 ってガッカリした。
それは一緒に審査に当た った作家の山川健一、ジャーナリストの野中 ともよの両氏も同意見だった。
たとえば、テレビ朝日の作品は「久米宏が 見たがん医療最前線」なのだが、なぜ、久米 を登場させるのか、その意味がわからない。
彼を出せば視聴率が稼げるだろうというのな ら、あまりに視聴者をバカにしている。
舞台となった亀田総合病院は、医師たちが 学閥を超え、専門の枠を取り払って奮闘して いるところであり、画面からそれが伝わって くるだけに、なおさら、その事実を押し出し て欲しかった。
視聴者を甘く見ていては、視聴率は決して 上がらないだろう。
「がん医療最前線」を追っ たせっかくのドキュメントが、安易に久米を 登場させたことによって薄められてしまった とも言えるのである。
同じことは、TBSの「筑紫哲也スペシャ ル?中国の朱鎔基首相があなたと直接対話〞」 にも言える。
前にクリントンを出したのと同 じスタイル。
朱鎔基の話はそれなりにおもしろいのだが、視聴者にあまりパッとしない質 問をさせるのではなく、それをくみとって筑 紫哲也が朱鎔基と切りむすぶ方がずっと興味 深い番組となったと思う。
また、「報道のTBS」がどうして、これを 出品しなければならなかったのか。
視聴率を 上げるために筑紫を?借りる〞というのはわ かる。
しかし、他に、もっと地 道なドキュメン タリーはつくっ ていないのか。
同局の報道特集 で、出品に値す る作品を見たような気もするが、あまりに気 概がないのではないか。
「報道のTBS」などという名称は、とっく に捨て去ったのだろうか。
少し皮肉に言えば、私は朱鎔基登場までの 交渉の過程をこそドキュメントして欲しかっ た。
そこに中国という国や朱鎔基という人が 生々しく浮かび上がったのではないか。
クリントンの次に朱鎔基、さらには誰を招 くのか知らないが、これではテレビ局は?呼 び屋〞になってしまう。
呼び屋としての成果 を報道番組の審査に出されても、こちらは鼻 白むばかりである。
フジの「 21 世紀 メディアの未来」も、報 道番組とは思えなかった。
木村太郎が登場し て、いろいろ御託宣を並べる。
しかし、「変わ る」ものと「変わらざる」ものがあり、その せめぎあいを描いてこそ「未来」はわかるも のであるはずなのに、そんな問題意識はさら さらなく、森喜朗が「これからはITの時代 だ」と言ったのとどう違うのか、と首をかし げざるをえなかった。
もっとひどかったのが、 嶌信彦、榊原英資に慶応幼稚舎舎長の金子郁 容が雁首をそろえて自慢話をするビーエス・ アイの番組。
審査でなかったら、すぐにチャ ンネルを替えるところだろう。
これらを報道 番組として推す、いわゆるキー局のお寒い現 状だけはよくわかった。
日本テレビの「報道通」はコミカルさを買 って、まあ、審査の対象とはなる。
本当にテレビ東京の「薬に潜む危険を追う」がなかったら、私たち審査員は救われなかっ た。
確率は低いが、誰でも服用するカゼ薬の 副作用でかかる「スティーブンス・ジョンソ ン症候群」を追って、同局はこれが調査報道 だという作品をつくりあげた。
山川健一が言ったように、患者との強い信 頼関係を築くのも大変だったろうし、製薬業 界の圧力も考えないわけにはいかなかっただ ろう。
しかし、そうしたタブーに挑戦してこ そドキュメンタリーはドキュメンタリーたり うるのである。
それを現場はわかっているの か。
視聴率競争がテレビを骨抜きにする ドキュメンタリーの基本忘れた現場

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