ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2001年8号
特集
定温ビジネスの誤算 スーパーの野菜はなぜ高い

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

AUGUST 2001 40 食料品や日用雑貨のような日常品の宅配ビジネス が、これまでに何回か市場に登場しては消えている。
理由は簡単である。
通常の商品販売価格に加え、物 流にかかる作業コストが計上されているためである。
通常の店舗販売であれば、消費者が自分の足で店 頭に出向き、自分で商品を選んで、家まで持ち帰って くれる。
ところが宅配では、配達料に加え、購入商品 の受注、ピッキング作業まで、小売り側で負担しなく てはならない。
この一連の作業を、仮に一人のヒトが行った場合、 一〜二時間はかかる。
時給八〇〇円としても、諸費 用や利益を考慮すると、一〇〇〇円〜二〇〇〇円の 販売価格の上乗せが必要となる。
しかし、実際にはこ れよりもずっと安い配達料しか徴収できない。
そのため宅配ビジネスの主宰者は、配達頻度を抑え、 消費者にまとめ買いを促すようにする場合が多い。
し かし、わが国の一般消費者の住環境を考えた時、欧 米のように一週間分の食料を保管できる冷蔵庫を持 つ世帯が果たしてどの程度存在するだろうか。
一度に まとめて購入できるのは三日分がせいぜいだろう。
ど うしても週二〜三回の配達は必要となる。
もちろんわが国にも宅配ビジネスの利用ニーズが一 定の割合で存在するのは事実である。
高齢者、身障 者等が恒常的に必要とするほか、傷病時、妊産婦等 の一定期間内のニーズもある。
しかし、宅配ビジネス で生じるこれらの物流コストを削減できない限り、成 功はおぼつかない。
逆に言えば、この削減を実現でき た時、宅配ビジネスは新しい業態として確立したとい えるのであろう。
実は同じ指摘が、わが国のチェーンストアにも当て はまる。
スーパーという小売りの業態が登場し、セル フサービスという革新的な販売方法が開発されたこと で、コストが下がり、廉価販売が可能になった。
一般 には、そう言われている。
しかし、本当にそうなのか、 素直には認めがたい。
実際、野菜をみると国産物に関しては八百屋よりも スーパーの方が値段の高いことが多い。
わが国のスー パーは、生鮮品の大きさを均等に揃え、袋詰やテープ 巻きを行う人件費を販売価格に乗せている。
これが 「高いスーパー」の最大の原因になっている。
これに対して、日本にも進出したカルフールの店内 をみてもわかるように、欧米のスーパーマーケットでは、 野菜などは「バラ陳列・バラ売り」が常識となってい る。
カルフールの野菜の量り売りは日本の消費者に馴 染みがないため不評との声も耳にするが、これは同社 の業態が現状では消費者に充分に認知されていないこ とに加え、開業時の混乱が重なったためと思われる。
消えた「量り売り」 実際、日本でもかつての商店街では「量り売り」が 当たり前であった。
筆者自身、年齢的に日本酒の量 り売りは経験していないが、味噌や惣菜は記憶に残っ ている。
当時の惣菜屋は朝の食卓に間に合うように早 朝から営業していた。
そして、量り売りした惣菜を経 木(きょうぎ)に包んで渡してくれた。
菓子も量り売りであった。
チョコレート、キャンデ ー、ガムなどは箱に入っていたが、煎餅、かりん糖な どは、買いたい分だけ店で量って売ってくれた。
当然、 生鮮三品も量り売りである。
肉屋は今でもそうだが、 昔は八百屋もモヤシなどを量り売りしていた。
卸売業者はメーカーから商品を購入して、それぞれ の小売店が必要な分だけ卸す。
そして小売りは消費者 が買いやすい量に小分けして売る。
だからこそ、卸売 業であり、小売業と呼ばれてきたのである。
流通戦略の新常識《第5回》 スーパーの野菜はなぜ高い セルフ販売方式のスーパーという業態が開発されたことで、 流通コストは劇的に下がり、廉価販売が可能になった―― 一般にはそう言われている。
本当だろうか。
少なくとも国内 の生鮮品を見る限り、街の八百屋や魚屋よりもスーパーの方 が値段の高いことが多い。
なぜだろう。
松原寿一中央学院大学 講師 Columns 41 AUGUST 2001 しかし、昔ながらの八百屋は、今や食品スーパーや 総合スーパーの食料品売り場に居場所を奪われた。
こ れに伴い、右に挙げたような商品のほとんどがパッケ ージ化されていった。
理由は明白である。
セルフサー ビス販売がしやすいようにスーパーが取引先に要請し、 パッケージ化させたのだ。
消費者が持ち帰りやすいように、容量や容器が結果 的に変更になったものもある。
古くは一般家庭でも醤 油は一升瓶サイズのものを購入していた。
それがどん どん軽量化されていった。
最近ではビールでも、大瓶 サイズを家庭内で見ることが珍しくなっている。
生鮮三品についても同様のことがいえる。
魚、肉は すべてパックされ、野菜も袋入りや、テープで巻かれ 販売されている。
大型店では対面販売や量り売りの売 り場も一部に設けられているが、やはりセルフサービ ス売り場が主流といえるであろう。
こうしたパッケージ化は、消費者が購入しやすいよ うにするという狙い以上に、小売りが楽をすることに 目的があったのではないかと、筆者は疑っている。
小 売りが楽をする、売りやすくすること自体は決して悪 いことではない。
しかし、そのために必要のないコス トをかけたのでは本末転倒である。
小売りの依存体質 これまで、わが国のチェーンストアの多くは購入量 をまとめることによって、仕入価格を下げ、仕入条件 交渉によってのみ廉価販売を行ってきた。
これを維持 するには、年々購入量を引き上げる必要性に迫られる ことから、出店を積極的に行い、特売を繰り返すこと によって販売量を増やしていった。
ところが、長引く 消費の低迷で、この手法がもはや機能しなくなってし まった。
直面する課題を解決するため、本来であれば安く売 るための物流システムの構築や、店舗オペレーション システムの構築を行わなければならないはずである。
しかし現実には、日本の小売業者はまだ問題を直視で きないでいるようだ。
作業コストの外部依存や、内部 作業をサービス残業に依存することによって、その場 を凌ごうとする体質から脱却できない企業があまりに も多い。
野菜の販売にしても、作業コストを減らして、低価 格販売を行おうとはしていない。
乱暴に言えば、野菜 の形状は揃っていなくとも、一個いくらという均一価 格で販売するだけで、問題の一部は解決する。
大きさ や形は個々の消費者の嗜好に任せれば、量り売りする 必要もない。
小売りにはレジ担当者の負担が大きくな るとの不安もあるようだが、本当だろうか。
ある総合スーパーでは割引のためのスタンプ券を複 数種類発行している。
そのため、レジ担当者が清算時 に、券にスタンプをいちいち押している。
しかも、スタンプ券によって、スタンプ押しの条件が異なる。
単 位購入金額が異なることや、天候によって押したり押 さなかったりするのである。
当然、レジ担当者の記憶に頼ることになるので、担 当者によって対応が適切であったり不適切であったり することになる。
それに比べれば、野菜の数を数える ことの方がはるかに単純である。
わが国でチェーンストアの経営不振が伝えられて久 しい。
大手チェーンによる大規模なリストラ策も連日 のように新聞を賑わしている。
しかし、人員数を一定 率で削減することや、一律に賃金カットを行うことを、 リストラと呼んではいけない。
不要な作業を省くこと こそリストラであり、それによって初めて真のコスト 削減が図られるのである。
特集定温ビジネスの誤算

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