ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2001年8号
特集
定温ビジネスの誤算 ネットスーパーの挫折

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

ネットスーパーの挫折 AUGUST 2001 12 アマゾンに勝つモデル 「定温輸送のできるネット通販のビジネスモデルを 作ることで、アマゾンに勝つことを狙った。
イチゴを 運ぶ会社は本も運べるけれど、その逆は無理。
今でも この考え方は正しいと思っている」。
昨年二月、ネッ トスーパーの運営を目的に設立されたベンチャー企業、 ウィンデックスの元幹部は、同社の事業計画をそう説 明する。
書籍のネット販売から出発したアマゾンがその後、 扱い商品をAVソフトやゲームなどの隣接分野に拡大 し、他の一般消費財まで手を伸ばそうとしていること はよく知られている。
そのために同社は物流インフラ の整備に巨額の投資を行ってきた。
世界各地に物流 子会社を設置し、将来はネット通販の物流プラットフ ォーム事業で収益を稼ごうという狙いだ。
昨年十一月に上陸を果たしたばかりの日本でも、ア マゾンジャパン・ロジスティクスを設立し、ネットワ ークの整備を急いでいる。
当然のごとく「将来はアマ ゾンジャパン以外の物流を請け負う可能性がある」と いう(本誌二〇〇一年五月号ケーススタディ参照)。
日本でもネット販売の「ラストワンマイル(最後の一 マイル)」を担う物流業者になろうと目論んでいるわ けだ。
ただし、アマゾンのネットワークには温度帯管理の 機能はない。
これに対してネットスーパーは生鮮品の 宅配ネットワークを構築することで、温度帯を管理で きるラストワンマイルの担い手となる可能性を秘めて いる。
つまり物販チャネルとしてだけでなく、新たな タイプの定温宅配業者として有望視されているのだ。
ウィンデックスの元幹部は会社設立の準備段階から、 一年以上にわたりネットスーパーのビジネスモデルを 推敲してきた。
マーケティング調査の結果、当日配送 のリードタイムを維持しながら、配送料を最高でも三 〇〇円以内、可能な限り無料にする必要があった。
そ のために温度帯管理機能を備えた軽トラックのオーナ ードライバーを組織化する計画を立て、配送業務を平 準化する独自のシステムまで考案した。
しかし、同社は今年二月末、このプランを実施に移 すことのないまま解散を決めた。
どう弾いても黒字転 換には時間がかかる。
四億円程度の資金調達にメドを つけていたが、それも二年で底をつく計算だった。
I Tバブルも崩壊し、既にビジネスモデルの魅力だけで 大量の資金を調達できる環境でもなくなっていた。
ネットスーパー総崩れ 米国の調査会社ジュピターメディアメトリックス社 によると、二〇〇五年にはネットショッピングで最も 多く消費される商材が「食品」になるという。
その結 果として当然、売り手側の顔ぶれも変わる。
ネット販 売の主役は現在のパソコンメーカーからネットスーパ ーへと交代する。
ところが現実には、将来を約束され たはずの有力ネットスーパーが、昨年から今年にかけ て軒並み経営破綻に追い込まれている。
ソフトバンクが株式の約一〇%を出資する米ネット スーパー最大手のウェブバンは今年七月、事実上倒産 した。
同社は九六年の創業と米国のネットスーパーと しては比較的後発ながら、生鮮品の温度帯管理が可 能な物流設備と自社専用の配送網を、米国全土に構 築するという壮大なビジネスモデルを掲げ、多くの資 金を集めた。
九九年六月のサービス開始から半年足らずの同一 一月には株式を公開。
市場からはネットスーパーの勝 ち組との評価を受け、一時は株価も三四ドルを付けた。
消費者向けeコマースの主戦場は今後、パソコン関連 商品から食品へ移っていくことが予想されている。
と ころが、次代を担う主役となるはずのネットスーパーの 雲行きが怪しい。
そのビジネスモデルをロジスティクス の視点から検証すると、致命的な欠陥が見えてくる。
Report 食品物流市場の生態学 第2部 第3部 第1部 13 AUGUST 2001 昨年九月には業界二位のホームグロッサー社を買収。
これによりネットスーパーの草分けとして知られる最 大手のピーポッド社を売上高で抜いて一躍、業界トッ プに躍り出た。
しかし、業績は赤字が続いていた。
昨年のITバブ ル崩壊以降は株価も低迷し、資金繰りが懸念される ようになっていた。
今年に入って営業エリアを縮小し、 従業員を半分に削減するなどのリストラ策を実施した が、ついに資金は底をついた。
結局、同社は創業以来 一度も黒字を計上しないまま、会社を精算することと なった。
同様にストリームライン社やコズモ社など、かつて ウェブバンのライバルだった大手ベンチャーも既に倒 産に追い込まれている。
老舗のピーポッド社は債務超 過に陥り、オランダのアホールド社に身売りした。
既 存の店舗網を持たない独立系ネットスーパーは総崩れ の状態だ。
日本でも事情は変わらない。
サンクスアンドアソシ エイツ、ソフトバンク・インベストメント、光通信な どが出資して昨年二月に設立されたイーコンビニエン スは、同社が運営するネットスーパー「おかいものね っと」の営業を、サービス開始からわずか一年で一時 停止することになった。
軽トラック運送の軽貨急配と提携。
自社専用の物 流センターを設置し、注文数時間後の配達を売りにし た同社だが、黒字転換のメドが立たず、ビジネスモデ ルの抜本的な修正を迫られた。
物流センターは今年四 月に閉鎖。
今後は既存の食品スーパーを対象に、ネッ トスーパー展開を支援するビジネスに転換するという。
店舗を持たず自前の倉庫に在庫を持って宅配する 形のネットスーパーは成り立たない。
今後は既存の店 舗を補完する販売チャネルとしてインターネットを活 用する形のネットスーパーしか残らない。
eコマース の専門家の間では、そんな見方が既に定着しつつある。
ネットで受けた注文を既存店舗の在庫に引き当て、 そこからピッキングして店舗周辺の消費者宅に配送す る――。
既に英国の大手スーパーのテスコは、この 「クリック&モルタル」戦略を自社の店舗網に適用す ることで、ネットスーパー事業の黒字化に成功したと される。
日本でも西友を皮切りに、イトーヨーカ堂、 ジャスコ、マイカルなどの大手スーパーが相次いで同 じモデルの導入に動いている。
定温のラストワンマイル しかし、ロジスティクスの視点から評価すると、店 舗活用型のネットスーパーには重大な欠陥がある。
従 来の店舗販売のコストに、ピッキングと配送にかかる コストがそのまま上乗せされてしまうからだ。
店頭と 同じ値段で販売すれば、数百円程度の配送料を徴収 しても、よほど購買単価が高くない限り足が出る。
消費者が一週間単位で食料品をまとめ買いする欧 米市場ならまだしも、毎日の「お使い」が習慣化して いる日本で、どれだけの購買単価が確保できるのかは 疑問だ。
実際、国内大手スーパーのネット販売で黒字 を出しているところは、今のところ皆無といわれる。
そもそもネットスーパーのビジネスモデル上の魅力は、 店舗を持たないことによるコストメリットにあったは ず。
店舗の販売を補完するだけなら、従来のチラシと 本質的に変わりはない。
しかも、店舗活用型のネットスーパーが軌道に乗っ たとしてもアマゾンを凌駕するような宅配のプラット フォームとしては機能しない。
何より商品を保管する ようなセンター機能がない。
ネットスーパーにとって、 定温物流のラストワンマイルは遙かに遠い。
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