ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2001年8号
ケース
ワコール――物流子会社

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

AUGUST 2001 62 五カ年計画に二年でメド 昨年四月、婦人用下着メーカー最大手のワ コールは一〇〇%出資の物流子会社、ワコー ル流通を設立した。
新会社の社長で、ワコー ルの流通統括部長を兼務する富田和夫氏は 「これから生き残る企業の条件は三つある。
戦 略、低コスト、そしてスピード対応だ。
これ を外したら絶対に上手くいかない」と強調す る。
実際、驚くべきスピードで改革を進めて いる。
ワコール流通を設立した昨年四月に発表し た計画は、こんな内容だった。
二〇〇〇年三 月期に約七五億円(売上高物流費比率五・七%)かかっていた物流コストを、五カ年計 画で年間一〇億円減らす。
そのために全国一 七カ所に分散していた物流拠点を四カ所に集 約。
同時に?商物一体〞の流通体制を見直 し、コスト削減とサプライチェーンの短縮を 図る――。
十分に野 心的な目標 に思えるが、 同社はわずか 二年間でこの 五カ年計画 にメドをつけ てしまった。
現在、全国 全国17カ所の拠点を4カ所に集約 子会社設立で労務管理にもメス 昨年4月、ワコールは物流子会社「ワコール流 通」を設立した。
このとき打ち出した5カ年計画 は、全国に分散していた物流拠点を集約し、5年 後をメドに物流費を10億円削減する――というも のだった。
この計画はわずか2年で達成できそう だ。
そこで新たな目標として、3年後に物流コス トを4割削減し、5年後に外販比率を50%に高める ことに挑む。
ワコール ――物流子会社 「最大のコストダウンは従業員の生産 性を高めること」とワコール流通の富 田和夫社長 と「ウイング」の二つのブランドが ある。
「ワコール」 は主に百貨店と 専門店で販売さ れているブランド で、年間売上高 は約八〇〇億円。
ワコールの総売り 上げの六割を占 める主力ブランド だ。
一方、量販 店向けのブランド として一九七五 年にスタートした のが「ウイング」 で、こちらは年間 約三五〇億円を 売っている。
子会社新設で物流を内製化 このうち「ワコール」ブランドが、販売チ ャネルの弱体化とともに地盤沈下している。
苦境にあえぐ百貨店はもとより、それ以上に 専門店の衰退の度合いが激しい。
このチャネ ルでは従来から?商物一体〞が基本で、ワコ ールの販売部門ごとに在庫を持っていた。
集 約前に一七カ所あった拠点のうち、実に一五 カ所がこの百貨店・専門店向けだった。
63 AUGUST 2001 の物流拠点は五カ所まで集約済みで、来年中 に福岡の拠点をたためば計画は完了する。
物 流コストについても、すでに「五億円ぐらい の削減効果は出ている」(富田社長)と威勢 がいい。
ワコールが物流改革を急いだ背景には、業 績の伸び悩みがあった。
婦人用下着メーカー としては依然、圧倒的な業界トップの座にあ るものの、経営環境は厳しさを増している。
九〇年代の後半に入ってから業績は頭打ちの 状態が続いている。
とくに最近三年間は減収 減益を余儀なくされている。
深刻なのは、こ れまで販売の主力チャネルとしてきた百貨店 や専門店などの弱体化だ。
ワコールの婦人用下着には、「ワコール」 これに対して量販店向けブランドの「ウイ ング」の物流拠点は、東西二カ所ときわめて シンプルになっている。
「今でこそ『ウイン グ』はワコールの一事業部だが、スタート当 初は別会社だった。
当時は量販店という業態 が進んでいたこともあって、これに対応する ための物流ネットワーク作りも非常に明快だ った」(富田社長)という事情による。
実はこのウイングの物流業務は、ワコール 流通には移管していない。
ワコールのウイン グ事業部のなかに独自の物流部門があって、 1800 1600 1400 1200 1000 800 600 400 200 0 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 売上高(億円)・経常利益(千万円) 経常利益率(%) 97 98 99 00 01 売上高 経常利益 利益率 伸び悩むワコールの業績 9.0% 8.7% 9.2% 8.3% 7.5% 従来は全国に17カ所(ワコール15カ所・ウイング2カ所)を全国4カ所に集約する 《ワコールブランド》 従来 将来 廃止 従来も将来 も変わらず 生産拠点 営業物流拠点 (京都) 販売物流拠点 (全国) 顧  客 《ワコールブランド》 主な販売チャネルは百貨店・専門店。
年商約800億円 《ウイングブランド》 主な販売チャネルは量販店。
年商約350億円 生産拠点 販売物流拠点 顧客 東京 京都 東日本 西日本 2カ所 生産拠点 販売物流拠点 顧客 東京 京都 東日本 西日本 2カ所 ワコールの流通改革 1カ所 14カ所 AUGUST 2001 64 こちらが管理している。
将来的に統合する方 針は決まっているものの、まだ現状では調整 を進めている段階だという。
こうした役割分担があったため、改革の主 眼は何より「ワコール」ブランドの物流体制 の見直しに置かれた。
まず販売部門から在庫 を引き上げて、商物分離を断行。
その後、十 数回にわたる移動と撤収を繰り返して、「ワ コール」ブランド向けの全国一五拠点を、前 述したとおりすでに三カ所まで集約した。
これにより流通在庫の量は二割ほど減った。
当然、外部に支払っていた物流拠点の賃貸料 も大幅に減額できた。
最終的には「全国二カ 所にすることで最低三割は在庫量を引き下げ るつもり」だという。
拠点集約と同時に、それまで約二〇社と付 き合いのあった路線業務も一気に集約した。
約六〇社に声をかけて物流コンペを開き、二 度の選考過程を経て、四社まで絞り込んだ。
その結果、北海道は日本通運、東北六県は第 一貨物、中京から京阪神にかけては西濃運輸、 中四国は福山通運をパートナーに選んだ。
全 国を四つのエリアに分割し、エリアごとに一 社に任せる体制をとったことで「支払い物流 費が二割ぐらい減った」という。
さらに、コスト削減にもっとも大きな効果 を発揮したのは?人件費〞の見直しだ。
富田 社長は「これからワコール流通は物流業者と して生きていく。
そのために当社の給与体系 は中レベルの物流専業者と同等に設定した」 と歯切れがいい。
もっとも、ワコールから出向している約一 八〇人の社員の給与については、今のところ ワコール流通の給与との差額を親会社が負担 している。
ゆくゆくは出向している全社員を 転籍させたいと富田社長は考えているが、ま だ労使の話し合いは途上にある。
これに対して新たにワコール流通に雇用し た従業員については、すべて新会社の給与体 系にそって契約している。
新たに設定した給 与水準であれば、従来はアウトソーシングし ていた流通加工などの構内作業を、内製化し た方がかえって安くなる。
そのためアルバイ トや契約社員の数を増やして、流通加工業務 のインソース化を進めている。
現在、この給与体系に該当する従業員の雇 用をどんどん増やしている。
ワコールから受 託する業務範囲を徐々に拡大させたこともあ って、すでに二〇〇一年六月の従業員数は一 〇〇〇人に達し、子会社設立時の約二・五 倍に膨れあがった。
百貨店向け流通加工が武器 ワコール流通の物流拠点で行われている 作業風景は、一見したところ日用雑貨品の 物流センターに似ている。
独自開発した一〇〇台以上のピッキングカートを使って商 品のピッキング作業などを手掛けている。
カ ートへの指示は無線LANを通じて出され、 作業指示から検品、出荷ラベルの発行など の業務を、すべて情報システムによって管理 している。
入出荷にパレットを使わないため、原則と して倉庫内にフォークリフトはない。
ワコー ルの物流センターでは専用の?コロ台車〞を 使ってすべての商品を移動させている。
これ は四角い底板に四つのキャスターがついてい るだけの簡単な器具で、この上に段ボール箱 を何段か重ね、そのまま手で押して移動する。
特徴的なのは、百貨店向けの流通加工に欠 かせない?値札付け〞の工程だろう。
最近で 独自開発のピッキング台車でセンター内作業を行う 65 AUGUST 2001 はJANコードの普及によって減りつつある とはいうものの、老舗企業ならではの流通加 工業務である。
こうした値札付けのような面 倒な作業に対応してきたノウハウが、今後は 強味になるとワコール流通はにらんでいる。
「細かな加工を大量にこなすノウハウでは 負けない。
百貨店向けの流通加工も一つの武 器になるはず」と同社の平井尚剛課長はアピ ールする。
場合によっては、新たに百貨店と の取引を開始するベンダーの業務を肩代わり することも可能と見込んでいる。
こうした分野で外販を拡大するためにも、 労務管理がワコール流通の競争力を決定づけ る大きなポイントになる。
この点は富田社長 も十分に意識している。
「最大の効果を生む?コストダウン〞は従 業員の生産性を高めることにある。
不平不満 を抱えたまま仕事をしていては、一〇〇の能 力も五〇とか七〇しか発揮されない。
数字で は把握しにくいものだが、?人の生産性〞を 高めることが大きな課題になる」 年間一八億円の追加削減 今年四月、ワコール流通は独自に三カ年 計画を立てた。
新たな目標は、三年後をメ ドに二〇〇一年三月期現在、およそ四八億 円(ワコール事業のみ)かかっている物流コ ストを四割近く削減して三〇億円に抑える というもの。
これによりワコール全体の売上 高物流費比率を四%程度まで引き下げることを狙う。
もっとも、こうしたコスト削減は、ワコー ル流通の売り上げ減少も意味している。
事業 会社として独立した以上、この状況に指をく わえているわけにはいかない。
そこで売り上 げの減少を補うために打ち出した方針が、外 部販売の急拡大だった。
現状では同社のワコール以外への販売は、 通信販売大手のニッセン向けの約一億円と携 帯電話のエーユー向けの約五〇〇〇万円でし かない。
対売上高でみると約三%とわずかな ものだ。
これを「五年後に外販比率五〇%、外販売 上高五〇億円に拡大したい」と富田社長は意 気込む。
「この目標は無謀だという人もいる かもしれない。
だが簡単に達成できるような 数字は計画とは言えない。
チャレンジは大き い方がいい」 ワコール流通の目指す物流事業は、ノンア セット型のサードパーティー・ロジスティク ス(3PL)だという。
倉庫もトラックも余 計なものを持たず、身軽さを武器に営業を展 開していく方針だ。
営業のターゲットとしては、過去にワコー ルの業務で培ってきた能力を生かせる分野を 想定している。
ワコールには、モノの生産から企画、工場仕入れ、技術指導、企画、販促、 それから店頭の販売までを、すべて一貫して 管理する機能がある。
ワコール流通はこうし た業務に対応してきた経験を活かして、外販 を拡大するつもりだ。
もちろん現実がそう簡単ではないことは、 富田社長も分かっている。
そのため外販事業 の収益性は、現段階ではある程度は目をつぶ るつもりだ。
「今年二月からスタートしたニッセンも、ま だ損益分岐点には達していない。
しかし私は、 それで構わないと思う。
まずは新しい仕事を とってきて、これをきちっとこなすというこ とを徹底していきたい」(富田社長)と覚悟 を決めている。
(岡山宏之) 百貨店向けの“値札付け”のような業務を外販拡大に活かす方針だ

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