ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2001年6号
特集
消える物流子会社 外販は国際ロジスティクスで稼ぐ

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JUNE 2001 24 ――物流子会社の再編が始まっています。
「この間、ロジビズの四月号に出ていた、バンテッ クの奥野社長の記事を読みました。
日産の物流子会 社の社長としてMBO、要は経営者による買収をされ たわけですよね。
日産の仕事を頂くだけではなく、か つ外の仕事も取るには親会社の看板を外したほうが有 利だという話をされていましたね。
自分と似たような こと考えている人がいるなあと思って面白かった」 ――MBOを検討されているのですか。
「いや、当社の場合、今のところ親会社の看板を利 用さ せてもらっている部分の方が幸いにも大きいけれ ど、将来は分からない。
実際、外販をとるときに親会 社の看板が邪魔になることもありますからね。
アメリ カの現地法人は『SDL』という社名にして、住友電 装の色を消しているぐらいです。
だから発想としては よく理解できます」 ――物流子会社が攻めに転じる場合、MBOだけでは なく同業の子会社を買収して業界内シェアを高めると いう選択肢もあると思います。
他の物流子会社を吸収 合併することで、その親会社の仕事をとるという考え はありませんか。
「それはやりたくありませんね。
人や資産を抱 えて、 重荷を背負いたくない。
当然、労使問題が関わってき ますからね。
そんな話をちらっと聞いても絶対に耳は 貸さないようにしています。
将来、環境が変われば、 また考え方も変わるかも知れませんがね。
少なくとも 私が社長をやってる間はないでしょう」 ――連結決算の影響についてうかがいます。
実は親会 社の住友電装は連結会計の日本における先駆的な事 例となっているとか。
「トップの方針で九〇年代の後半から当グループは 連結重視の経営に変わりました。
外資系の会計コンサ ルタントに入ってもらって、当時、米国で最 先端と言 われていた会計システムを構築しました。
この分野で はケーススタディの対象になっています」 ――ということは、物流子会社の扱いも当時から一般 の日本の会社とは違った? 「そうですね。
余剰人員の押しつけや親会社の決算 数字をよく見せるための、しわ寄せというのはほとん どなかった」 外部からプロを登用する ――それが事実だとすると、なぜ住友電装は物流子会 社を作ったのですか。
「小さな経営単位にすることによって、責任と権限 を与える。
そうすると、本人たちがやる気になる。
活 性化する。
それが大事なんです。
また、小さな経営単 位にすることによって、始めて見えてくることもある。
例えば同じ荷主に物流費をたずねても、人や部署によ って皆、違う数字をおっしゃる。
担当者によって物流 費の概念が違うわけです」 ――しかし、それは管理会計の問題であって、だから 子会社化すればいいという理由にはならないのでは。
「もう一つはですね、少し細かい話になりますが、物 流 費が『月ズレ』を起こしていたんです。
つまり、社 内で物流を管理し、外部の専業者を使う体制だと、売 り上げと物流費の発生時期がズレてしまう。
物流費は 後から請求が立ちますからね。
特に決算期をまたぐ時 期などは、これが深刻な影響を及ぼしてしまう。
そこ で物流子会社を作って、物流費は売上高の何%とい う取り決めで支払うようにすることで、予算も計画も 立てやすくなる。
実績も狂わない」 ――しかし、売上高に対する割合で物流費を決めると いっても、実際のコストには波動があ ります。
それを 自動車部品メーカーの物流子会社として、組み立てメーカーへのJIT 納品を得意とする。
物流子会社としては珍しく、収入の3分の1以上 を国際物流事業で稼いでいる。
外販拡大も国際物流をターゲットに置 く。
自動車業界で積み上げてきたノウハウによって、物流専業者より も短いリードタイムで確実に届けることができると自負している。
住電装ロジネット後藤泰三社長 第2部有力物流子会社トップインタビュー 「外販は国際ロジスティクスで稼ぐ」 25 JUNE 2001 物流子会社が吸収することに失敗すれば結局、親会社 にしても後から帳尻を合わせる必要が出てきてしまう。
「それは確かにね。
ご苦労されている会社が多いの はよく知っています。
物流子会社が活きるかどうかは 結局、親会社の経営思想の問題に関わってきます。
や はり親会社のトップが自ら『物流は大事だ』『お客さ んに一番近い所にいるのが物流だ』と発信していかな いとダメですよ」 ――本当に物流が大事なら子会社化すべきではない。
「何の方法論もなしに子会社化すれば確かに意味の ないことになる。
物流には 『戦略』と『戦術』と『戦 闘』があるけれど、この三つをまとめて子会社化しな いとダメだというのが私の持論です。
だから私は物流 子会社を設立する時にも、物流スタッフ部門を本体に 残さないことを条件にしました」 ――親会社の人間がそのまま物流子会社のスタッフと して有能であるとも限りませんね。
「当社の場合は、必要な人材は外部から引っ張って います。
とくに現在の提案営業部隊の九人は全員が 全員、船会社や国際物流会社から引き抜いてきたプ ロたちです」 「もちろん当社も社員トータルの数は減らす方向 で す。
しかし必要な人材は外から確保して、どんどん増 やす。
同時に親会社から来るのも、仕事のできる人材 を一本釣りしています。
そういう人材がとれなければ、 外部の仕事をとることもできない。
子会社化していな いと、こういう人事戦略も難しいでしょう」 国際物流事業で外販を拡大 ――親会社のコスト削減が物流子会社にとって売上減 少につながるという矛盾については、どうお考えですか。
「当社の場合、親会社の売上比率がいくら下がって も構わない。
その分、他の注文を頂戴したら済みます」 ――他の注文をとるといっても、そう簡単ではない。
「できないことではありません。
実際、当社の外販 もここ一〜二年で急速に伸びています。
二〇〇一年 三月期は売上高の約一〇%が外販でした。
前期は七 〜八%でしたから、一年でかなり伸びた。
もちろんそ の間に全体の売上高も増えている。
二〇〇一年三月 期の売上 高が約一五一億円。
昨年が一二二億円です から、二割以上の増収です。
利益も増えています」 ――親会社向けの売上高は? 「国内はほとんど横這いですが、海外事業が増えて いますので若干、増加しています」 ――どうやって外部の仕事をとるのですか。
「当社が狙うのはグローバル・ロジスティクスの仕 事です。
日本の中で取り合いをしているようなところ へは出てかない。
国内だけみていたら、確かに仕事を とるのは難しいでしょう」 ――国際物流の分野で、航空フォワーダーや海上輸送などの専業者を向こうに回して、物流子会社が勝つこ とは難しいはずです。
どこに競争力があるのですか。
「まず当社には国際物流のベースカーゴがある。
そ こに外部の荷主を乗せて国際共同輸送をやるわけです。
これによって荷主のコストが下がるし、何よりリード タイムを短縮できる」 「実際、ある外部荷主はそれまで大手総合物流業者に 委託していた輸出入貨物を当社に切り替えたことで、三 週間以上かかっていたリードタイムが二週間になった。
キャッシュフロー経営という視点に立てば、このリー ドタイム短縮は単なる輸送費の削減よりはるかに大き な意味を持ちます。
三週間が二週間になるということ は、それだけ在庫を減らせるということですからね」 ――どうして、専業者にできないことが、物流子会社 特集 16000 14000 12000 10000 8000 6000 4000 2000 0 11,215 住電装ロジネットの売上高の推移 百万円 2.607 2.749 2.999 3.305 201 145 103 99 3.917 3.813 4.386 6.702 98/3期 99/3期 00/3期 01/3期 4,588 4.658 4.696 4.944 11,319 12,226 その他 15,152 倉庫事業 海外事業 輸送事業 JUNE 2001 26 にできるのですか。
「自動車業界の『TPS活動』、すなわちトヨタ生産 方式、今は『TPS』のTはトータルということにな っていますけれど、それをずっとやってきたからです。
今日、SCMと言われているものは、基本的にトヨタ 生産方式のことだと私は解釈しています。
実際、トヨ タ生産方式ではモノの流れをスルーでみるということ をずっとやってきた。
これはまさにSCMです。
物流 の専業者には、そういう発想がない」 ――具体的には、どういうことですか。
「例えば今年の四月から当社は通関の特例事業者の 認定を受けることができました。
二年ほど前からもの すごい努力をしてきた結果、地元の第一号を頂けた。
これによって通関をスムースに通れるようになる。
つ ま り、さらにリードタイムが短縮できるわけです」 「今はメーカーが直接、船会社と契約できる時代で すから、当社も全部自分で船を手配しています。
しか も船だけではなくて、ドキュメントの処理や、その後 の陸送の部分も含めて、どうすれば速く確実に届くの かを考えてトータルで手配します。
何かトラブルが起 こった時の緊急連絡先まで明記して荷主にスケジュー ルを提供できる。
こうした積み重ねの結果として作り 上げたスケジュールに、外部荷主の荷物を乗せるから 専業者より速くて確実なんです」 ――大手物流業者のなかには全ての機能を持っている 総 合物流業者もいます。
「しかし、実際には全部門が一体となって活動でき てはいない。
部門ごとの連携はそれほどスムーズでは ない。
だから、当社のほうが早く着く」 ――一般的には物流子会社の多くが海外事業に手を 出せないでいます。
外販もできない。
なぜだと思いま すか。
「結局、意識じゃないですか。
経営者の意識です。
何 がなんでもやろうと経営者が常に騒ぎまくっていたら 皆その気になります」 物流会社の「ティア1」目指す ――自動車業界では現在、日産のカルロス・ゴーン氏 による構造改革が急ピッチで進んでいます。
物流面で もミルクラン方式の導入や、物流業者の見直しなどが 行われている。
日産にも納入している部品メーカーと して当然、住電装ロジネットにも影響が出てくるはず です。
どのように対応しようとお考えですか。
「私などが口をはさむような問題ではないし、お考 えのようにやられればいいと思います。
ただし、あま り値段ばかりにこだわって、無理に安くしようとすれ ば、安いなりの運転手と車が来ます。
当然、荒い仕事 になってくる。
それでもいいとお考えなら、それも一 つの選択でしょう」 ――日産に限 らずですが、こうした組み立てメーカー の構造改革の動きに対して、住電装ロジネットとして 何か手を打つ必要はありませんか。
「共同化は一つのテーマになりますね。
コストだけ でなく環境の問題もあるわけですから、納品トラック を減らすという動きは今後も進むと思います。
同じ工 場に持って来るんなら皆、一緒に積んでこいというこ とになるでしょう。
その時に、誰が運ぶのか。
そこで 自動車業界の『ティア1』というのが効いてくる」 ――「ティア1」というのは、組み立てメーカーにと っての一次協力企業ですね。
いわば、元請け部品会社。
「そうです。
幸い当 社の親会社はトヨタさんなどに 対して『ティア1』として扱って頂いている。
であれ ば、親会社に『当社は物流も大丈夫ですよ』と納品 先の組み立てメーカーに自信を持っていってもらうた 「一目瞭然システム」 品質管理のためのIT投資は 業界に先駆けて実施している 27 JUNE 2001 めの物流品質を保証すればいい」 ――そこで認めてもらうことで、住電装ロジネットが いわば物流業者の「ティア1」として、親会社以外の 「ティア2」の納品物流を受注できるわけですか。
「そうです。
そのためには、月並みですが、品質に 対する信頼が大事なんです」 ――信頼といっても抽象的ですが。
「例えば当社は六年間かけて、納品に使うポリケー スに全てバーコードをつけて、出荷伝票とポリケース の中身を照合する仕組みを作りました。
これによって、 納品の間違いが発生した時の責任の所在が明らかにな る。
ポリケースの中に品物を入れるのは、工場の責任 です。
ただし、出荷伝票との照合は、これはみな我々 の責任です。
そして当社は自分の仕事を一〇〇%クリ アしている」 「すると何が起こるかというと、納品先の対応が変 わってくる。
これまでは組み立てメーカーの人が納品 ミスに気付くと、全部物流にクレームが回ってきた。
しかし、実際は納品先で技術者が勝手に部品を取っ て行ってしまったとか、工場の出荷に間違いがあった とか、物流以外のところでミスが発生している場合が 多いわけです」 「ところが、当社の場合は、バーコードシステムを 元に『こういう経歴でお出ししているから、多分間違 いないと思います。
もう一度お調 べ願えませんか?』 と言える。
そうすると、納品先も『あそこにうだうだ 言ったらやばいぞ。
ちゃんとやってるから』という話 になる。
結果として、あそこは大丈夫という評価を頂 けるわけです」 品質の悪い会社は業績も悪い ――しかし、それで直接的に業績が上がるわけじゃな いですよね? 「それは、その通り。
しかし、手は抜けない。
反対 に品質の悪い会社は、必ず業績も悪い。
これはメーカ ーの常識です。
品質が悪ければ、必ず業績は下がりま す」 「信頼の問題は極めて重要です。
とくにトラブルへ の対処には全力を挙げて取り組むようにしています。
悪天候などでインフラが混乱したような時には、ぱっ と緊急本部を結成する。
そして全員、徹夜で会社に 残って現場を指示する。
納品先の工場 がたとえ稼働し ていなくても、当社は納品の準備を常にしておく。
道 路が使えなければヘリコプターを確保する」 「そんな時は私自身もずっと泊まり込みです。
それ で自分で書いた指示書で納入日がどうだったとか、手 配する。
これは手で書くことに意味があるんです。
社 長の手書きの指示書が回ってくるのだから、現場も手 が抜けない」 ――ヘリを飛ばせば、それだけコストがかさむでしょう。
「それでも高々四〇万円ぐらいです。
この間も北陸の 大雪でトラックが全部動かなくなった。
しょうがない から、ヘリを飛ばした。
名古屋から米原に飛ばした けれど、向こうでも納品の対 応ができないから結局、 荷物を下ろさずに帰って来た。
しかし、無駄ではな いんです。
ヘリまで飛ばしても駄目だったということ であれば、後で顧客から何か言われた時でも申し開 きができる。
あの会社はあそこまでやってくれるとい う認識を持っていただける。
これは大変な財産になり ます」 ――それが物流会社としてのブランドイメージになる。
「そうです。
ブランドイメージです。
それは当社のブ ランドイメージだけではなく、そのまま住友電装のイ メージになる。
つまり親会社にも貢献できるわけです」 特集 【企業概要】 94年に住友電装の一〇〇%出資で設立された。
自動車メーカーの 生産ラインへの部品納入を主に手掛けている。
後藤泰三社長は住 友電工の物流部長、住友電装の物流管理部長を経て、94年に住電 装ロジネットに赴任。
同社設立以来、現在に至るまで経営責任者 を務めている。

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