ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2001年5号
ケース
杏林製薬−− 3PL

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MAY 2001 68 物量がいきなり二倍に急増 薬局の棚をみれば分かるように医薬品 は手のひらサイズのものが多い。
当然、物 流管理の基本単位となる荷姿も小さい。
そ のうえ製品の付加価値が高いため、一般 に医薬品メーカーの売上高物流費比率は 一%程度といわれる。
患者の命を預かるという製品特性もあ って、物流管理の主眼は、厳密な温度管 理や徹底したロット管理といった?品質重視〞になる。
結果として医薬品メーカ ーの物流管理の多くは、コスト意識の希 薄な自前主義と、大規模な自動化が主流 になっている。
かつての杏林製薬も例外で はなかった。
しかし、九八年に大きな転機が訪れた。
ヘルスケア事業を強化するため、米プロク ター・アンド・ギャンブル(P&G)から 乳児用消毒薬「ミルトン」の国内営業権 を取得したのである。
これによりミルトン の製造ラインが丸ごと杏林の生産工場内 に移設され、日本での生産から 販売までを一手に担うことにな った。
一〜二リットルのプラスチッ ク容器に入った消毒液と、ほ乳 瓶が一度に五本は入る容量約五 リットルの専用容器――。
いず れも従来、杏林が扱ってきた小 さくて付加価値の高い医薬品と 医薬品物流を全面的にアウトソーシング 受注から補充発注まで日立物流が代行 物流管理を自前でまかなうことの多い医薬品業界 にあって、杏林製薬の大胆なアウトソーシングは異 色だ。
同社は昨年4月、受注代行業務まで含む物流 管理全般を日立物流に委託した。
初期投資を抑える ため医薬品専用ではない営業倉庫を使いながら、運 用の工夫によって物流品質の確保とコスト削減を両 立している。
杏林製薬 || 3PL 杏林製薬の佐々木貞三物流管理課長 69 MAY 2001 はまったく異なる物流管理を必要とする ものだ。
保管スペースがかさむため作り置 きできず、物流のコスト効率は桁違いに悪 い。
営業権の取得により増えた売上高が 一割程度だったにもかかわらず、管理すべ き物量はいきなり二倍に増えた。
九八年五月、物流部門のスタッフは初 めてミルトン買収の話を聞かされた。
杏林 の佐々木貞三物流管理課長は「従来の物 流体制では対応し切れなくなるのは明ら かだった。
しかし、買収が公表される前に 表立っては動けない。
急遽、倉庫を借り 足して体制を整えた」と振り返る。
何とか倍増する物量をさばけるようには したものの、杏林にとっていずれは物流ネ ットワークを抜本的に見直さなければなら いことが必至だった。
それでなくても当時、主力物流拠点と して稼働していた野木物流センター(栃 木県)の老朽化という問題に直面してい た。
バブル経済が全盛の九二年に稼働し た同センターは、医薬品業界のご多分に 洩れず、大規模な自動倉庫を備えた豪華 施設だ。
それが物流機器のめざましい進 歩によって陳腐化し、ある物流機器メー カーなどは「野木センターに納入した機器 の製造停止が決まった。
四年後には交換 パーツは特注品になる」と言ってくる始末 だった。
情報システムのほころびも目立ち始めて いた。
かつてケース単位で物流管理をして 杏林製薬本社 杏林製薬支店・営業所 ホストコンピュータ HBホストコンピュータ 補充指示修正 特殊入力 問い合わせ 受注代行センター (日立物流) 発注 外注メーカー 入出荷実績 在庫 杏林製薬工場 工場倉庫 入庫管理 在庫管理 出荷管理 受注管理 在庫管理 物流戦略管理支援 マスタ管理 PC PC レーザープリンタ PC PC PC 補充 納品 受発注、卸販売、卸在庫データ シリアルプリンタ レーザープリンタ ラベルプリンタ レーザープリンタ ラベルプリンタ 配送センター 管理サーバー 出荷指示 補充指示 入荷予定(出荷可・試験待・出荷停止) 入荷予定 補充入荷予定 出荷指示 補充出荷 返品連絡書 入荷予定 仕切 マスタメンテナンス、商品、価格連絡データ 卸販売、卸在庫、 仕切、伝票、在庫データ 入出荷実績 在庫 入庫管理 在庫管理 出荷管理 返品管理 入庫 ラベル 送状 納品 案内書 各種 レポート 荷札 バーコード ハンディターミナル 特約店、卸店 仕切、商品、価格連絡データ 品切れ警告 FAX、TEL注文 FAX返品連絡書 日立物流 配送センター 自動倉庫 DPS 自動倉庫 DPS 納品 生産指示 VAN (JD-NET) 物流情報システム 全体概要図 MAY 2001 70 いた時代に構築したシステムは、今では当 たり前になったロット管理(単品管理)に 対応していない。
システムでカバーできな い作業負担は物流現場へのしわ寄せとな り、物流部門にとって新たな情報システ ムの構築は切実な願いになっていた。
物流コンペで3PLを選定 そもそも杏林の物流管理の歴史は、完 全な自前主義からスタートしている。
一九 六〇年代には自社の営業拠点に在庫を持 ち、杏林の営業マンが自ら病院に納品し ていた。
その後、全国展開して売り上げ 拡大を図るという営業戦略の転換によっ て、販売を卸チャネルに全面移管。
以降、 全国六〇カ所に分散していた自社物流拠 点の集約を進めてきた。
同社の主力生産拠点は、栃木県の野木 町、長野県岡谷市の国内二カ所。
ここで 作った製品を全国五〇社弱の取引卸の物 流拠点、約六〇〇カ所に納品している。
こ のサプライチェーンの中継点となる物流拠 点は、九八年の時点で主力工場に隣接す る野木センターと、札幌、東京、大阪、福 岡(二カ所)の計六カ所まで減っていた。
野木センターをマザーセンターと位置付け て全国をカバーする物流ネットワークは、 それなりに完成度の高いものだった。
そこに突然、割り込んできたのがミルト ン買収による物量の急増である。
ミルトン の生産ラインが長野県の岡谷工場内に移 設されたことによって、ここを起点とする 新たなサプライチェーンを組むことが不可 欠になった。
こうして九八年末から、杏林 の物流改革をめぐる試行錯誤が始まった。
まず最初に物流管理部が決断すべきは 「自前」か「アウトソーシング」かの選択 だった。
「一番初めに出てきたのは物流子 会社を作るというアイデアだった。
しかし、 薬事法の規制が厳しい医薬品業界では、物 流子会社に扱える荷物は親会社のものに 限定される。
結局、事業化の意味は小さ いとして経営トップからストップがかかっ た」(佐々木課長)。
主力の野木物流センターを刷新して、自 札幌C 東京C 東日本C (日立物流) 西日本C (日立物流) 福岡C 大阪C 福岡C 福岡2C 岡谷工場 野木工場 岡谷工場 野木工場 野木センター 北海道 東  北 関東甲信越 東  海 北  陸 近  畿 四  国 中  国 九州・沖縄 北海道 東  北 関東甲信越 東  海 北  陸 近  畿 四  国 中  国 九州・沖縄 物流改革前 新体制 野木倉庫 中継 杏林製薬のサプライチェーン 71 MAY 2001 前の物流網をリニューアルすることも検討 した。
だが将来の物量の変化に最大の影 響を及ぼすミルトンの販売量が、今後ど うなるかは読めない。
おまけに施設のリニ ューアル中は自動倉庫が使えなくなるため、 この間の代替施設をどう確保するかとい う難問も抱えていた。
結局、リスクが大き すぎることを理由に、野木センターをリニ ューアルする案もボツになった。
ただし、ここで一つの流れができた。
野 木センターの刷新中に一時的に外部に任 せるぐらいなら、一気にアウトソーシング した方が良いという方向性である。
自前 主義による物流再構築が手詰まりになっ ていたこともあり、ほどなく物流改革の論 点は具体的なアウトソーシングの手法へと 移っていくことになる。
どこまでの業務をアウトソーシングすべ きかは、物流業者の能力を見極めないこ とには判断のしようがない。
そこで九九年 八月に物流コンペを開くことになった。
こ のとき杏林が物流業者に求めた条件は二 つ。
全国展開できる物流ネットワークと、 情報システムの構築力である。
保管や配送などの実務を任せていた既 存の取引物流業者に加えて、サードパー ティー・ロジスティクス(3PL)として 業界誌などに登場する頻度の高かった数 社に声をかけた。
そして、まずは約一〇社 による一次説明会を開催。
さらに第二ス テップとして四社によるプレゼンテーショ ンを実施した。
その結果、選んだパートナ ーが日立物流だった。
コンペに勝つための工夫 杏林が日立物流を選んだ理由は三つある。
コスト、情報システム、危機管理である。
杏林の佐々木課長は、「日立物流の提案 には、後から追加のコスト負担が発生し ないという安心感があった。
情報システム についても彼らだけが『どうせやるなら、 この部分までやりましょう』と踏み込んだ 提案を持ってきてくれた」とパートナーの 姿勢を評価している。
このとき日立物流サイドで杏林との折 衝を仕切ったのは、ロジスティクスソリュ ーション統括本部の大崎良秀産業システ ム部長である。
同統括本部は総勢二四〇 人からなる日立物流の3PL部隊。
ここ で流通分野以外を営業ターゲットとして いる産業システム部を率いる大崎部長は、 同社が八九年に開始した医療業界向けサ ービス「メディカルNET」の育ての親で もある。
「杏林さんとの3PLでは薬事法への対応 方法を可能な限りシンプルにしている。
も ちろんキチンと規制を守りながら、過剰な 設備を減らすことで投資額を抑えた。
大 がかりなマテハン機器による自動化を追求 せずにバーコード管理を中心に設計した点 は、従来の医薬品業界のセンターという よりアパレル業界の仕組みに近いかもしれ ない」(大崎部長)。
冒頭でも述べた通り、一般に医薬品メ ーカーの専用物流センターはコスト度外視 ともいえる施設が少なくない。
空調完備、 虫一匹の侵入も許さない高い密閉性、高 度な自動化による管理精度の追求――。
だ が医薬品卸や病院の現場では、そこまで 高い管理レベルは追求していない。
つまり、 それが必ずしも不可欠とされる条件ではな かった。
にもかかわらず医薬品業界の常識で考 えると、コスト削減のために過剰設備にメ スを入れるという発想は出てこない。
日立 物流の大崎部長はここに眼を付けた。
「空 調や清潔さを高レベルに保つことは運用 しだいで可能だ。
ラックとフォークリフト 主体のシンプルな機器でも、ITを上手 く使えば自動倉庫並みの管理精度を実現 できる。
しかも、こうしたシステムの方が 物量や荷姿の変動への対応力がある」 また、大崎部長はプレゼン前の打ち合 わせの段階で、かなり踏み込んだ提案をし 日立物流の篠塚武人主任 MAY 2001 72 た。
受注業務の全面的な代行である。
「セ ンターの入口と出口の両方を管理しなけ れば在庫管理はできない。
杏林さんの事 務所で受注を受けている限り、貨物の所 在確認のためには常に物流センターに問 い合わせる必要がある。
こうした伝言ゲー ムを避けるためにも、物流センターで受注 代行まで手掛けるのが一番いい」 九九年九月、提案内容とプレゼンの分 かり易さを高く評価した杏林は、四社の 中から正式に日立物流をパートナーに選 んだ。
そして、それから約三カ月間を費や して契約条件を詰めた。
まず日立物流が 契約書の叩き台を提出し、これを杏林が 法務セクションなどとも相談しながら検討 するという手順で契約手続きが進められ た。
両社が正式調印した契約書は三部構成 になっている。
まず一〇数頁からなる「基 本契約書」で支払い条件などを規定。
こ れに業務範囲を詳細に定めた「業務委託 取り決め書」と、新設する物流センター の設計などを定めた「開発計画書」を添 付してある。
従来の杏林の経験ではあり 得ないほど、「互いの責任範囲を細かく規 定」(佐々木課長)した物流契約だった。
物流管理指標を日常的に報告 二〇〇〇年七月、三カ月間の準備期間 を経て、杏林の新たな物流ネットワークが 本格稼働した。
日立物流がこの取引のた めに埼玉県加須市に新設した営業倉庫で は、全体の四分の一のスペースを杏林が 使い、残りのスペースは資生堂が使ってい る。
日立物流としても投資コストを抑制 するため、土地と建物は地元の倉庫業者 からの長期リースでまかなっている。
倉庫内の雰囲気は、一般的な医薬品倉 庫とは明らかに違う。
ラック内でパレット に積み上げられた段ボールを見ると、まる で飲料メーカーの倉庫のようにも思える。
だが清潔な床や、作業者がみな帽子を着 用している様子は医薬品倉庫ならでは。
段 ボールをばらしてバラピッキングした製品 についても、絶対にむき出しのままでは放 置しない。
必ず折り畳みコンテナに入れる ことによって、埃などの付着と製品のロケ ーションが乱れることを防いでいる。
現場管理を担当している日立物流の篠 塚武人主任は、「医薬品の物流では誤出荷 ゼロは当たり前。
二重、三重のチェックに よってミスを未然に防ぐ仕組みになってい る。
また荷動きのあった製品については毎 日、すべてを出荷後三〇分以内に棚卸し することによって、仮にミスが発生しても お客様の手元に届く前にストップできる」 と胸を張る。
ピッキングや梱包作業を担当している パート従業員一八名は、センター稼働の 一カ月前から訓練を繰り返してきた。
「ほ とんどのパートさんはセンター稼働時から 定着している。
だいぶ慣れてきたため最近 では、製品ロケーションの変更の提案など も増えてきた。
ピーク時以外はほとんど定時に業務を終えられる」と、日立物流の 広瀬剛至センター長は余裕の表情を浮か べる。
センターに常勤している杏林の社員は 一人しかいない。
薬事法によって設置が 義務づけられている管理薬剤師だけであ る。
あとは全て、日立物流サイドの従業 員が管理をしている。
センターの在庫管理も日立物流の仕事 だ。
杏林の工場に対してどれだけの製品 をセンター在庫分として発注するかを日立 物流が判断している。
もちろん、基準とな る在庫量は決まっているが、センター内で の作業予定や人員配置の都合などに配慮 しながら最終的には日立物流が工場に発 注するというやり方だ。
施設内の杏林事務所には受注代行セン ターが置かれている。
ここでは日立物流の 従業員が、杏林の取引卸から寄せられる 受注業務を処理する。
この代行業務のた 日立物流の広瀬剛至センター長 めに日立物流は、医薬品業界の業界VA N「JD ―NET」に杏林の代理人として 加盟。
杏林にかわってVANセンターに アクセスし、受注から出荷までをすべて管 理している。
VANに加盟していない約 五%(件数ベース)の受注分については ファクスで注文を受け付ける。
顧客から寄せられる問い合わせにも日 立物流が対応する。
受注センターのスタ ッフは兼任も含めて四人。
物流事務の経 験者をあてて、センター稼働までにみっち りと訓練を積んだ。
医薬品業界に独特の 習慣や専門用語に慣れるために、取引卸 のところでの研修も積んだ。
その甲斐あっ て「当初、営業サイドは心配していたにも かかわらず予想以上に上手くやっている」 (杏林の佐々木課長)という。
また、日立物流は、杏林が希望する物 流管理指標を日常的に報告している。
こ れは日立物流が「物流戦略管理支援」と 呼ぶ業務で、3PL取引の物流コンペで は必ず提案するものだという。
情報システムの運用まで受注するため には、荷主を不安にさせないだけの報告が 欠かせない。
そのために荷主の望む形式で、 物流の管理状況を報告するサービスを行 っている。
杏林の場合は顧客ごとの物流 コストなどを全て算出できるよ うになっている。
今年四月、センター稼働から ちょうど一年が経過した。
これ を機に、両者は新しい料金体系を改めて設定することになる。
当初、杏林が見込んでいた年間 約三億円の物流コスト削減もほ ぼ予定通り達成できそうだ。
契 約では「二年目以降は、前年度 の実績をもとに両社協議の上、 改善目標値を別に定めその達成 に努める」と成果配分に関する 条項も盛り込まれている。
アウトソーシングが軌道に乗 った現在、課題は継続的な改善 によって互いに利益を出し続け られるかに移っている。
「次は 医薬品業界で共同配送の仕組み を構築したい」と日立物流は事 業拡大を狙っている。
(岡山宏之) 73 MAY 2001 杏林製薬東日本配送センター(日立物流埼玉北物流センター) ラックとフォークのみのシンプルな構成物流改革の発端となったミルトン ← バラピッキングした製 品はバーコードによっ て厳しく管理している 各オリコンにも管理ラ ベルを添付し、ロケー ションを管理する → 二重、三重のチェックで精度を確保する受注代行センターのスタッフ 作業の注意点を表示

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