ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年9号
特集
物流拠点の潰し方 もう物流資産はいらない

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

SEPTEMBER 2002 22 もう物流資産はいらない ダイエー型の自社センターか、それともヨーカ堂流の指定 問屋方式か――。
そんな二者択一が、これまで日本では中間 流通拠点の所有を巡る論点となっていた。
そこに今、新たな 選択肢が加わろうとしている。
工場直送から共同化へ サッポロビールが物流拠点の集約を積極的に進めて いる。
工場から顧客への直送率を上げることで、ピー ク時に全国四〇カ所あった拠点を今年末までに二四 カ所に絞ろうとしている。
昨年は関西地区四カ所のう ち三カ所を閉鎖。
中国地区でも二カ所の在庫拠点を、 在庫を持たないスルー型に機能転換することで、コス トを一〇分の一に削減した。
同社の大川幹雄ロジスティクス事業部部長は「工 場から直送するだけのロットがまとまらない納品先が かなりあるため、今回は断念せざるを得なかったが、 中国地区の二カ所も本来は閉鎖する予定だった。
最 終的には全国八カ所の工場隣接型センターだけに集 約してしまうのが理想だ。
実際に、それを可能にする ための取り組みも考えている」という。
同社を含めてビールメーカー各社は「個配センタ ー」と呼ばれる仕分け拠点を、それぞれ全国に配置し ている。
配送機能の脆弱な特約店卸に代わって、メー カーが卸から「個配料」を徴収し、小売店に納品する ための施設だ。
この個配センターをライバルメーカー と共同化してサードパーティーに運用を委託すれば、 工場倉庫以外の物流拠点をメーカーが自分で持つ必 要はなくなる。
ただし従来は酒税法の規定によって営業倉庫に複 数メーカーの在庫を保管する場合には、保管ロケーシ ョンをメーカー別に区分することが義務付けられてい た。
フリーロケーションが許されなかったわけだ。
そ れが昨年の法改正で撤廃された。
これによって自動倉 庫の利用など、共同保管倉庫の柔軟なオペレーション が可能になった。
「まずは他のビールメーカーと、都市型の個配セン ターの共同化を進めようとしている。
ビールメーカー 四社でエリアを分担して、他社の製品も含めて店別に 仕分けて納品する。
今後は工場直送と並んで、こうし た共同化による拠点集約が一つの定石になっていくは ずだ」と大川部長は考えている。
この一〇年間でビールメーカーの拠点政策は一八〇 度転換した。
販売力強化のために全国各地に自前の 物流拠点を増設していったバブル期から一転、九〇年 代後半からは自社で所有する物流施設の売却と、拠 点の集約に各社とも躍起になっている。
他の産業でも同様だ。
住友金属工業もバブル期ま では右肩上がりで物量が増え続けることを前提に拠点 投資を行っていた。
しかし、今は逆。
同社の連結売上 高はバブル崩壊後じわじわと減り続けている。
現在は ピーク時より二割以上落ちこんだ。
このため九〇年代 の半ばに大規模なリストラに取り組み、全国九カ所に あった自社物件のうち三カ所を売却。
直送化の推進 などによる輸送ネットワークの再編によって、十数億 円のコスト削減を実現した。
「既に社内的な拠点の集約は済んでいる。
過剰感は ない。
今後は共同化などの工夫が必要だ。
現在、新 日鉄との業務提携を進めている。
物流面でも拠点の 相互利用による拠点集約や、内航船の帰り荷の融通 などを検討している」と田中裕之営業統括部物流企 画室室長は説明する。
不要な物流拠点「買います」 あらゆる産業で、直送による物流拠点の中抜き、さ らには競合他社との共同化による物流拠点の廃棄が 進められている。
これから景気が上向くことはあって も国内の物量が増えていくことは考えにくい。
サッポ ロビールの大川部長は「メーカーが物流センターを新 解 説 23 SEPTEMBER 2002 日本の物流用不動産の情報に詳しい生駒シービー・ リチャードエリスの丁田剛売買・物流部企画・推進 部マネジャーは「既に日本の倉庫用地は、値上がり目 的ではなく、純粋に賃貸収入による投資リターンだけ で評価して買える水準まで下がってきている。
しかし 物流業者や荷主企業でこれから自分のために倉庫用 地を買いたいという会社など、ほとんどない。
単純売 却は難しくなっている」という。
その一方で、手持ち資金の運用に頭を悩ませている 投資家も多く存在する。
そこで生駒CBリチャードエ リスでは、物流資産の売却を希望する企業と、そうし た投資家を結びつける方法として、二〇〇〇年に改 正された資産流動化法・投信法を活用した「セール ス・アンド・リースバック」と呼ばれる新たなスキー ムを提唱している。
このスキームでは、物流施設を投資家に売却した企 業が、改めて投資家からその拠点を賃借することにな る。
これによって、その企業は資産売却で調達した資金を、有利子負債の削減や本業への投資に充てるこ とができる。
また既存の拠点をそのまま使用できるた め、物流拠点の売却による移転作業に手間取ること がない。
「当初は商業ビルやマンションを対象に適用されて いた方法だが、優良な投資案件が減ってきたことで、 投資家の目が物流施設に向くようになってきた。
倉庫 用物件は一般の不動産に比べて単価は低いが、地価 相場の変動が少なく、安定した収益が見込める。
投 資家からすれば他の不動産証券と組み合わせてポート フォリオを組むという意味合いがある」と丁田マネジ ャーは説明する。
このセールス・アンド・リースバックと並んで、遊 休地を対象とした「開発型」と呼ばれるスキームも用 特集 たに購入することなど、今後は一切なくなるだろう」 という。
むしろ売りたくても売れない。
バブル期に高値で購 入した物流拠点は現在、多額の含み損を発生させて いる。
売却すると、それが表面化してしまうことに各 社は頭を悩ませている。
しかし、それも二〇〇五年度 までには決着を付ける必要がある。
国際会計基準に則 り日本にも「減損会計」が導入されることになったか らだ。
金融庁の企業会計審議会は八月、二〇〇五年度に 減損会計を強制導入する方針を決めた。
これによって 企業は、土地や建物などの固定資産の現在価値が帳 簿価格を下回っている場合には、その差額を特別損 失として計上することが義務付けられることになった。
建設や不動産、流通など、土地を多く使う産業には とくに深刻な影響が出ると懸念されている。
物流業者、そして物流資産を自ら抱え込んでいる 荷主企業もその影響を避けられない。
日本の会計制 度には、これまで固定資産に関する明確な基準がなか ったため、高値掴みしてしまった物流資産でも簿価の まま放置しておくことで、取得した土地の値下がりに よる損失を表面化させずに済んできた。
しかし減損会計が導入されれば、投資の失敗が決 算書にそのまま反映される。
物流資産の含み損を抱え ている企業は、段階的に損失を処理していく必要があ る。
もしくは二〇〇六年三月期決算で、巨額の赤字 計上を覚悟しなくてはならない。
日本企業は過去の物流資産戦略の棚卸を迫られて いる。
含み損の表面化を恐れて資産売却をためらう理 由も、もはやなくなっている。
しかし、もう一つ。
誰 が不良債権化した物流資産を買うのかという問題は 残されている。
サッポロビールの大川幹雄 ロジスティクス事業部部長 住友金属工業の田中裕之 営業統括部物流企画室室長 SEPTEMBER 2002 24 意されている。
投資家が工場や物流センターの跡地を 買収し、そこに新しい物流拠点を建設して、別のテナ ントにリースするというものだ。
既存の倉庫業者とよ く似たモデルだが、投資家は開発と賃貸だけに特化し、 自分で庫内のオペレーションを手がけることはない。
不動産証券化を物流施設に適用 こうした物流向け不動産開発の世界最大手がプロ ロジスだ。
同社はUPSやフェデックスなどの世界的 物流業者や、資産を所有せずにソリューションを提供 するノンアセット型3PLをパートナーとして、彼ら にリースする物流施設を開発することで急成長を遂げ た欧米3PL市場の隠れたキープレーヤーだ。
米国各地の中堅デベロッパー一〇数社が合併し、九 四年に不動産投資信託(リート・REIT:Real Estate Investment Trust )としてニューヨーク証券 取引所に上場した。
プロジェクトごとに特定目的会社 (SPC:Special Purpose Company )を設立。
SP Cが投資家や金融機関から資金を調達して土地を取 得し、物流施設を建設する。
それを3PLや荷主企 業に賃貸することで運用益を稼ぐというビジネスモデ ルをグローバルに展開している。
同社の資料によれば現在、全世界に東京ドーム四 一五個分に当たる一九四〇万平方メートルの物流施 設を所有・運営し、物流施設の利用規模において世 界上位一〇〇〇社に位置する企業のうち、四五〇社 にサービスを提供しているという。
そのなかには日本 通運や日本郵船、近鉄エクスプレスなどの物流業者や、 花王、シャープ、日立製作所といった有力日本企業 も含まれている。
ただし、こうした日本の有力企業がプロロジスの物 流センターを利用するのは、これまでは海外市場に限 られていた。
事実、同じ会社が日本国内では、今も多 くの物流資産を賃貸ではなく自ら所有している。
もし くは物流子会社に所有させることで、グループ内に確 保している。
もともと日本企業にとって、物流センターとは自社 の資産として所有するものだった。
単純な保管だけな ら営業倉庫も利用するが、マテハン設備を用いて出荷 や流通加工を処理する場合には、自ら土地を購入し、 上屋を建て、現場にスタッフを置いてオペレーション までコントロールするのが常識だった。
いったん自社センターを購入してしまえば、その後 に地価が値上がりしても物流費は上昇しない。
むしろ 含み益を生んでくれる。
設備も耐用年数を待たずに償 却できるため、固定費が低減される。
何より不動産は 社会的な信用力の尺度であり、資金調達する時の切 り札となる。
荷主企業のみならず物流業者にとっても、それは同 じだった。
路線事業のターミナル用地として、幹線道 路沿いに取得した土地の値上がりは、大手運送業者 が全国展開していく上で、資金的なバックボーンにな った。
また倉庫業者は、簿価が安く償却も済んだ施設 を時価で賃貸することで、安定した収益を確保してき た。
今も大手倉庫会社は収入の三分の一程度を純粋 な不動産事業に依存している。
業種を問わず、また程度の差こそあれ、これまで大 部分の日本企業が不動産会社の顔を持ってきた。
こ れは世界的に見ると異例のことだ。
地価は相場で変動 する。
値上がりすることもあれば当然、下がることも ある。
下がれば土地を所有する会社はダメージを受け る。
不動産会社以外にとって、不動産の所有は本業と は無縁なところにリスクを抱えることを意味する。
基 生駒シービー・リチャードエ リスの丁田剛売買・物流部企 画・推進部マネジャー セールス&リースバックのスキーム 資産売却 リースバック 出 資 配 当 物流拠点 荷主企業・物流業者 投資家 特定目的会社 (SPC) 25 SEPTEMBER 2002 本的に株式や先物取引と全く変わらない。
ただし、九 〇年まで日本の不動産市場は素人でも負けることのな い希有な博打場だった。
バブル経済の崩壊によって、 その潮目が変わった。
さらに減損会計の導入によって、 これまでの博打の精算を強いられている。
「所有」と「運用」が分化 「これで時限装置が仕掛けられた。
日本企業の物 流資産処理が一気に進む」。
プロロジスの山田御酒ヴ ァイスプレジデント(VP)は、減損会計の導入によ って訪れるビジネスチャンスに意欲を見せる。
同社は 米国全土をカバーした後、九〇年代後半にはEU各 国に展開。
短期間でEU市場における事業化にメド を付け、今年から照準を日本市場に定めている。
六月にはシンガポール政府と共に日本国内の物流 用不動産を対象に一〇億ドル規模の投資ファンドを 設定。
翌七月には公開入札で東京・大田区の約一万 五〇〇〇平方メートルの都有地を落札した。
同地に は六階建て延床五万五〇〇〇平方メートルの「プロ ロジスパーク東京」を建設する計画だ。
単なる保管倉庫ではなく高機能の物流センターとし て整備する。
各階に積み卸しのできるトラックバース を設け、トラックで直接、上層階まで乗り入れること のできるスロープを備える。
テナントとして既に一〇 社程度から引き合いがある。
今年中にも全フロアーの テナントを確定できそうだという。
国内外の有力物流 業者が主な候補となっているようだ。
「物流企業にとっても荷主企業にとっても不動産開発 は本業ではない。
とりわけ物流向け不動産の運用に は、独得のノウハウが必要だ。
立地をどう評価するか。
設備に汎用性を持たせるには、どのような構造にすべ きか。
建設費を抑えるには何に配慮すべきなのか。
当 社は物流施設の不動産開発に特化することで、そう したノウハウを蓄積してきた」と山田VPはアピール する。
かつて物流拠点の所有を巡って日本では自社センタ ーのダイエー型か、もしくはアウトソーシングのイト ーヨーカ堂型かという議論があった。
その後、過剰な 不動産投資によってダイエーが破綻したことで、いっ たんは議論の決着はついた。
しかし今日、物流拠点の 所有と運営が分離されたことで新たな選択肢が生まれ ている。
一般にはヨーカ堂やセブン ―イレブン・ジャパンの 物流パートナーは、オペレーションを担うスキルを持 つことが指定を受ける条件になっていると考えられて いる。
しかし、実際には「物流センターの仕組みは細 部に至るまで全てヨーカ堂側で指示するため、誰が運 営したって構わない。
むしろ、遊休施設を持っている など、必要な施設を確保できるかが選定基準になって いる」と同社の関係者は打ち明ける。
つまり、物流センターを所有することが運営を委託 する条件になっている。
所有と運用がセットになって いたのだ。
しかし、プロロジスのように所有だけに特 化した専門業者が現れてきたことで、与件が変わった。
オペレーションとソリューションに特化した3PLを 選択することが可能になる。
これまで日本には馴染ま ないとされてきたノンアセット型の3PLの土壌が生 まれる。
日本の不動産ビジネスに欧米のノウハウが導入され たことで、物流資産戦略の常識が変わろうとしている。
「自家物流 VS アウトソーシング」という議論を経て、 「アセット型 VS ノンアセット型」、「専用センター VS 汎 用センター」というテーマを改めて検討し直す時期に きている。
特集 プロロジスの山田御酒 ヴァイスプレジデント

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