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郵便局が公社になると何が変わるの?

郵便局が郵政公社になると何が変わるの?


 今年4月1日に日本郵政公社がスタートしたそうですが、これまでの郵便局と何か変わったのでしょうか。よく分かりません。

 結論から言えば、郵便局が郵政公社になっても、一般の利用者にとっては当面、ほとんど影響はありません。手紙やハガキ、小包のサービスは従来通り。もしくは民間企業との競争によって利便性は増すことになりそうです。郵便貯金もしかり。これまで同様、ATMの手数料は無料。自動振込や振替手数料の変更もなし。簡易保険も全く変わりません。保険証書などを書き換える必要もないとのことです。

 結局、サービスの利用者という立場では、街の郵便局の親会社が、総務省から日本郵政公社という組織に変わった、というぐらいに考えて、差し支えなさそうです。ただし、納税者という立場では、郵便局の公社化は無視できない動きです。今後の運営状況次第では、公社が大きな負債を抱え、最終的に税金でそれを補填しなければならない可能性があるからです。

 事実、郵便、郵貯、簡易保険のいわゆる「郵政三事業」のうち、郵便事業は4月の公社スタート時点で既に債務超過の状態にあります。民間企業であれば、裁判所が破産を宣告することができるような財務状況にあるわけです。しかも昨年度の郵便事業は当初、一〇億円の黒字を予定していたにもかかわらず、蓋を開けてみると四〇〇億円近い赤字に陥っていました。

 ファックスやeメールなどの普及によって今後、郵便事業の需要は縮小していくことが確実視されています。民間企業であれば、大規模なリストラが必至となるところですが、公社ではそれもままなりません。全国の郵政局員は公社になった今も国家公務員の立場を保証されています。人員削減はもちろん賃下げも難しい状況です。

 現在、人件費は郵政公社全体の収入の約七割を占めています。それが削減できない、売上げも増えないとなると、さてどうすれば黒字化できるのか。今のところ決定打となる策は見当たりません。関係者のなかには、このままでは郵政公社は巨額の税金投入を余儀なくされた国鉄の二の舞を踏むと懸念する声まであがっています。

 そもそも何故、郵政公社ができたのでしょうか。ことの発端は九七年の橋本内閣時代の行政改革でした。それまで国でやっていた事業のうち、民間にできるものがあれば民間に任せる。それによって政府をスリム化し、国民負担率を下げよう、というのが橋本行革の基本的な考え方でした。

 この方針に沿って九八年には「中央省庁改革基本法」が成立。それまでの二二省庁を一府十二省庁に再編すると共に、二〇〇三年に郵政三事業を郵政公社に移行することが決定しました。ただし、この基本法には公社はあくまで国営であり民営化の検討はしないことが明記されていました。

 ところが二〇〇一年四月に、かねてから郵政民営化を持論としてきた小泉首相による新内閣が発足したことで、民営化論議が再燃しました。突如として復活した小泉首相の民営化論に真っ先に反発したのは、首相のお膝元の自民党でした。自民党にとって郵便局は有力な票田です。全国の郵便局員によるネットワークは一〇〇万票にも上る集票力を持つとも言われています。民営化によって集票マシンが機能しなくなってしまうことは自民党、とりわけ郵政族にとっては死活問題になります。

 この小泉首相VS自民党郵政族の政治闘争は、最終的には郵政族の圧勝で幕を閉じました。実際、郵便局員の公務員の立場は公社化後も保証されることになりました。また法律上は民間企業にも郵便事業参入の道を開いたものの、参入するための条件として数々のハードルを設けたことで、実質的には事業の国家独占を維持することができました。

 問題はこれからです。先に説明した通り、郵便事業は重度の赤字体質に陥っており、改善のメドが立たない状態です。政治闘争に勝利したことが、黒字化には逆に足かせになっている格好です。一方、郵政族の設けた参入障壁が高過ぎて、郵政公社に代わって郵便サービスを提供しようという民間企業は当面、現われそうにありません。その最有力候補といえる大手宅配業者は、いずれも参入を断念しています。つまり競争が起きないわけです。

 アンケート調査の結果などを見る限り、これまでの郵便局のサービスに対して、一般利用者は概ね好意的な評価をしているようです。しかし封書で八〇円という日本の郵便料金は諸外国と比較してかなり割高です。また国民一人当たりの郵便利用率も日本は先進国中、最低レベルです。利用者が郵便局のサービスに不満を感じないのは、比較する対象がないからかも知れません。

 事実、ヤマト運輸が始めた宅急便は、あっという間に郵便局の小包サービスを凌駕してしまいました。同時に宅急便は、郵便局が事業を独占していた時代の一〇倍以上に小口荷物の市場規模を拡大させました。新しいサービスが新しい需要を喚起したわけです。そこには当然、新しい雇用も生まれました。
 正当な市場競争があれば同じことが手紙やハガキの分野に起きてもおかしくないはずです。これまでの郵便局のサービスに変化がないからといって、一般国民が郵政公社化に対して無関心でいていいというわけではないのです。(2003/3執筆)

 

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