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SCMってどういうこと?

SCMって何だろう?

 原材料から製品が作られ、最終的な消費者の手にわたるまでには、様々な企業が介在します。原材料メーカー、加工メーカー、卸業者、小売業者のほか、商品の輸送や保管を担う物流業者も、そこに携わっています。これら一連の流通チャネル全体をサプライチェーンと呼びます。直訳すると「供給の鎖」です。その管理がサプライチェーン・マネジメント(SCM)ということになります。

 現在、書店のビジネス本のコーナーに行くとこの「SCM」を冠した関連書籍が山と積まれています。そのほとんどが一昨年から今年にかけて出版された新刊です。同じ現象が、数年前には米国で起きていました。その後、米国ではSCMが一過性のブームに終わることなく、数十にも及ぶ大学で専門コースが開設されるほどに定着しています。こうした米国の動向は欧州にも、ほぼリアルタイムで伝えられています。

 SCMに関して、欧米に出遅れた形になっています。しかし、SCMはその元を辿ると日本の「系列取引」や「かんばん方式」に範をとっています。八〇年末から九〇年代初頭にかけて、米国は日米構造協議で、日本市場の閉鎖性を厳しく批判していました。しかし、その裏ではチャッカリ、日本の産業構造の優位性に着目し、自己流に改造して利用していたのです。

 八〇年代の米国産業界は自動車の“ビッグ3”が全て赤字に転落するという酷い状況でした。その元凶とされたのが、日本車の台頭でした。同じことがエレクトロニクスの分野でも起きていました。安価で品質の良い「メイド・イン・ジャパン」製品が米国市場を席巻していたのです。

 日本企業の強さの秘密は何か。米国は官民挙げて分析に取り組みました。そして日本の組み立てメーカーの多頻度小口化に対応した生産方式(リーン生産)と、それを支える「ジャスト・イン・タイム(材料を在庫せずに、必要な分だけ必要な時間に納品させる)」の物流に着目しました。さらに、それが組み立てメーカーと、その調達先企業との系列取引によって支えられていることに気が付いたのです。

 それまで米国のメーカーは自らのビジネスに関わるあらゆる機能を社内に囲い込む「垂直統合」を強みとしてきました。材料の調達先との関係は敵対的で、目先の価格にばかり振り回されていました。少しでも条件が有利な取引先が見つかると直ぐに乗り換えるため、調達先の顔ぶれは頻繁に変わりました。米国企業にとって、ビジネスとは条件を巡る駆け引きでだったのです。

 これに対して日本では、組み立てメーカーと、その調達先の部品メーカーが緊密な関係を結び、長期的に安定した取引を行っていました。そして品質面や物流面などで取引先同士が協力して改善を進めていました。

 従来の産業構造を改める必要がある。米国の産業界はそう考えました。改革のコンセプトとして八五年にマイケル・ポーターが有名な「バリュー・チェーン」を打ち出しました。その後も「ビジネス・プロセス・リエンジニアリング(BPR)」、「コア・コンピタンス経営」、「クイック・レスポンス(QR)」、「ECR(効率的な消費者対応)」といった様々な経営のキーワードが世に送り出されました。

 いずれもビジネス全体の仕組みの見直しである点で、これらの改革コンセプトは共通しています。BPRは、巨大化し過ぎた組織の再統合を目指す大企業病の処方箋であり、コア・コンピタンス経営は、何でも自社内に取り込もうとする、それまでの垂直統合に対するアンチテーゼでした。この二つに取り組むことで、多くの米国メーカーが自らの競争優位点に経営資源を集中し、それ以外の業務を外部委託に切り換えていったのです。

 こうして社内の整理が終わると、次のテーマが一企業の枠組を超えた改革、取引先との関係の見直しでした。アパレル業界を舞台にしたQR、加工食品業界でECRが生まれました。これが後にSCMというキーワードに収斂されていきました。SCMは言わば米国生まれの「ケイレツ」取引なのです。

 日本の自動車メーカーが系列部品会社を巻き込んだ、かんばん方式によって仕掛かり在庫の大幅削減を達成したように、SCMも在庫削減を目的の一つに掲げます。さらに日本の系列取引同様、SCMも取引関係が固定化されるため、いったんそこから弾き出されれば、再び参入するのは至難の業となります。そして現在、日本に逆輸入された「ケイレツ」が、株式の持ち合いや特約店制度によって結ばれた従来の日本的系列を全く違う色に塗り替えようとしているのです。(1999/12執筆)


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