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EMSで工場はどう変わるの?

EMSで工場はどう変わるの?


 「これからの工場はEMS化して自立しなければならない」などと聞くようになりました。どうやら、工場が自分の会社の製品を作るだけではなく、ライバル企業など他社の製造まで請け負えということのようですが、そもそもEMSって何ですか。


EMSとはエレクトロニクス・マニュファクチャリング・サービス(Electronics Manufacturing Service)の頭文字をとった略語で、一般には「電子製造受託サービス」とか、「電子機器の受託製造」などと紹介されています。要は一つの工場で複数メーカーの商品の製造を請け負うわけです。

 「何だ。下請け工場のことか」と思われるかも知れません。しかし、ソニーやNEC、富士通といった押しも押されぬ大企業の工場が現在、そろってEMS化を進めていると聞いたらどうでしょう。実際、EMSは従来のようなOEM(相手先ブランド生産)や単なる下請け生産などとは全く次元の違う、工場経営の新しいモデルであり、むしろ工場の「脱・下請け化」を目指すものなのです。

 製造業における「スマイルカーブ現象」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。製造業には商品の「設計」に始まり「調達」、「製造」、「物流」、「販売・サポート」という一連の仕事の流れがあります。このうち、どのプロセスがどれだけの付加価値を産み出しているかをグラフにしてみると、ちょうど笑った口のような曲線を描きます。この曲線上でボトムの部分に当たるのが「製造」のプロセスです。それだけ製造という機能が価値を産まなくなってしまったことを、スマイルカーブは表しています。

 一般に産業が成熟化すると、商品そのもので違いを出すことが難しくなります。その結果、値段で競争することになる。買い手市場になるわけです。それを避けるためには、商品以外のところで差別化するしかありません。つまり製造以外の機能、スマイルカーブの左右のプロセスを工夫することで、ライバル企業と差別化していくわけです。結果として、ますますカーブが極端になっていく。それがスマイルカーブ現象です。

 スマイルカーブ現象が進んでいくと、経営者は付加価値を産まない工場を、自分の資産として抱え、そこに正社員を張り付けておくことに意味があるのだろうかと考えるようになります。とくに株式を公開している企業では、効率の悪い資産を抱えていれば、株価の重要な指標となっているROI(総資本利益率)が下がるため、直接株価に響いてしまいます。

 実際、アメリカではここ数年、大手メーカーによる自社工場の売却が相次いでいます。工場を売却して製造機能は外注に回し、自らは製品開発やマーケティングに特化する、いわゆる「選択と集中」を進めているわけです。そして、こうした大手メーカーの構造改革の受け皿となっているのがEMSなのです。

 EMSはメーカーから工場を従業員ごと買い取ると同時に、その製造機能を代行します。しかも、単に委託された商品を製造して納品するのではなく、商品の設計から調達、物流までを一括して請け負います。その契約方法も、従来の下請け生産のように商品の売買という形はとらず、工場のラインとそこに従事する従業員を一定期間貸与するという形をとるのが一般的です。

 EMS最大手のソレクトロン社は、このやり方で次々に大手メーカーの工場を買収し、過去十年余りの間、前年比50%増というペースで劇的な成長を遂げました。EMSとして複数のメーカーの商品を製造することで工場の稼働率を維持し、また事業規模を拡大することで調達コストを下げるという好循環を作ったのです。

 日本の大手メーカーが今、このEMSに熱く着目しています。昨年、ソニーは国内工場のソニー中新田を従業員ごとソレクトロン社に売却しました。同時にソニーは国内の十一工場を統合して生産統括会社を設立。こちらはEMS化することで、ソニーの看板に頼らない独立採算を目指すという戦略をとっています。

 もっとも、ソニーにように工場を外資に売却してしまうケースは国内ではまだ希で、むしろ日本のメーカーの多くは、稼働率の下がってしまった工場を復活させる切り札として、自社工場のEMS化を検討しています。

 いくら付加価値を産まなくなったといっても、日本ではアメリカのように、工場と社員を簡単に売却してしまうことなどでない。どうやらEMSが突破口になりそうだ。自社工場をEMS 化すれば、雇用を守りながら工場が自立できる。上手くいけば、親会社に利益を還元してくれるかも知れないーーと期待をかけているわけです。

 ただし、こうした日本流のEMS化には、懐疑的な見方をする専門家も少なくありません。EMSを成功させるには、単に製造能力だけではなく、グループ外のメーカーに対する営業力や、複数の顧客を管理する仕組みなど、工場自身がこれまで経験したことのない機能を持つ必要があります。とりわけ工場長は、従来の製造責任者から経営者に変身しなければなりません。

 容易なことではないはずです。しかし、もはや非効率な工場を維持していくだけの余裕は親会社にも残っていません。産業界の構造改革は否応なく進んでいます。工場だけが構造改革と無縁でいられるはずはないのです。(2001/6執筆)

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