ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年8号
特集
中国的物流 日系企業の上海シフトに焦点を当てる

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

AUGUST 2002 36 主戦場は華南から華東へ ――中国の物流市場で、中心になるのはどこのエリア ですか。
「当初は香港を中心とする華南地区の貨物がメーン だった。
日系の部材メーカー、セットメーカーが出揃 っているエリアで、中国でもっとも激しく競争してい る地域だ。
物流も同じだった。
ところが二〇〇〇年く らいから上海を中心とした華東地区に進出する日系 企業が増えてきた。
もともと繊維産業を中心としてき たエリアだが、最近ではあらゆる産業が集まっている」 「華南から華東に顧客企業の生産拠点が移ってきた 理由の一つに、物流の問題があった。
華南は通関に時 間がかかる。
深 など香港の周辺地域で生産した製 品を日本に輸出する場合には、本土から香港に輸送 する際にいったん国境通関をして、その後さらに香港 で通関しなければならない。
二度手間だ。
しかも深 の 通関では、トラックが長蛇の列をつくっている。
これ に対して、上海では国境通関がないため、その分リー ドタイムが短くなる。
この点をセールスポイントにし て上海は企業誘致を進めてきた」 「こうした動きに合わせて当社も徐々に上海のある 華東地区にターゲットを据えるようになった。
当社が 上海に作った保税倉庫はすでに満庫状態。
現場から は増床するように依頼がきている。
まだまだ上海への 顧客企業の進出は続きそうだから、増床も本格的に 検討しなければならないと思っている」 ――中国で物流ビジネスを展開するうえでの障害は。
「フォワーディングライセンスがなかなか下りないこ とだ。
かつては当社のような日系企業が中国に進出す るには、ライセンスを持っている地元の企業と提携を 結ぶしかなかった。
もちろん地元業者を守るために中 国政府が規制をかけているわけだが、日系企業側でも 当初は地元の代理店を使ってオペレーションすればい いという感覚だった」 「しかし、最近では自分たちで免許を持っていない とリードタイム短縮という顧客企業のニーズに応えら れないことが分かってきた。
通関をアウトソーシング していると、代理店と書類等をやり取りする分だけ時 間が掛かってしまう。
そのため、やはり自分で免許を 持たないとダメだと考えるようになった。
今は当社も ライセンスを持っているが、実際に取得するまでかな りの時間が掛かった」 ――現在は北京近鉄の支店という形で、上海の仕事を 運営していると理解していいのですね。
「そうだ。
上海は北京の分公司(支店)だ。
北京で 持っているライセンスで仕事をしている。
税金は北京 に落ちる。
ただし、北京近鉄には現在、社員が六五〇 人いるが、そのうち三五〇人が既に上海地区で仕事を している。
他に上海には一〇〇%独資の上海ロジステ ィクス(上海近鉄物流有限公司)という倉庫会社が あり、外高橋保税区内に拠点を持っている」 ――現在の顧客層は? 「ハイテク関連が圧倒的に多いが、それに拘ってい るわけではない。
繊維、機械設備にも力を入れている。
地域別の割合は日系企業が五〇%、米系が一〇%、残 りが台湾系企業。
行き先は日本、次いで米国が多い」 欧米系物流企業も参入 ――ライバルの物流企業は多いのですか。
「欧米系の物流企業が航空貨物の取扱免許を持つ現 地企業を買収するなど攻勢をかけている。
当社が自社 で免許を取得したのも、その対抗手段という意味合い がある。
もっとも免許をとったからといって、そのこ 「日系企業の上海シフトに焦点を当てる」 これまでの中国ビジネスは香港、深 を擁する華南地 区が中心だった。
それが現在、上海を中心とする華東地 区へと主戦場を移そうとしている。
こうした変化に対応し て、近鉄も上海シフトを急いでいる。
北京近鉄運通運輸有限公司(近鉄エクスプレス) 稲村寿通董事長 Interview 37 AUGUST 2002 特 集 との優位性は長くは続かない。
中国のWTO加盟で 免許はいずれ自由化されるだろう」 「すでに免許を持っている企業を数えても何百社も ある。
しかし実際に仕事をしているのはそのうちの五 〇社程度。
さらにレベルの高いサービスを提供してい るのは一五〜一六社に絞られる。
そこでの争いになる。
いかに短いリードタイムで貨物を運べるかが勝負だ」 ――リードタイムに関するニーズが、それだけ大きい ということですか。
「顧客企業、特にハイテクメーカーのリードタイム に対する要求は極めて厳しい。
オーダーを出してから 四時間以内に部品を生産ラインに投入しろというレベ ルの要求がザラにある。
それに応えるためにベンダー 側では工場の近くに在庫を持たなければならない。
し かもVMI(ベンダー主導型在庫管理)が求められて いる。
その倉庫の運営を任されているのが当社だ」 ――VMIサービスの内容はどういうものですか。
「当社がセットメーカーの工場の近くに用意したV MI倉庫を、ベンダーが共同で利用する形だ。
事前に セットメーカーがベンダーに対してフォーキャスト (需要予測)を出す。
ベンダーはその指示通りに当社 のVMI倉庫に在庫しておいて、オーダーから数時間 以内に当社が納品する。
セットメーカーの納入頻度は 一日三回というケースもある。
これまで香港では、こ うしたVMIが行われていたが、それが上海でもいよ いよ始まろうとしている。
実際に一部始まっている」 中国本土の陸上運送を強化 ――部品をベンダーまで取りに行く物流は? 「話はあるが上海ではまだ実施していない。
華南地 域ほど部品メーカーが集積していないことが理由だ」 ――中国における現在の近鉄の拠点展開は。
「都市部を中心に拠点は二一カ所ある。
内訳は支店が 十三カ所、駐在員事務所が八カ所だ」 ――最近は中国国内のネットワークづくりも強化して いますね。
「もともとは加工貿易に関連する輸出入業務が当社 のメーン・ビジネスだったが、顧客企業がだんだんと 中国での国内販売に力を入れるようになってきた。
そ れに合わせて、国内ネットワークを構築しようという 動きになっている。
もはや輸出入だけでは顧客は満足 してくれない。
輸出入と国内販売物流を丸ごと委託し たいから、拠点を設けてくれという依頼が増えている。
今後、都市部の購買力が伸びていくのに合わせて国内 の販売物流も拡大すると見込んで、当社としても国内 拠点の充実に力を入れている」 「陸上での定期便は顧客企業からも好評だ。
中国国内 にはたくさんのトラック業者がある。
しかし、日系企 業の多くは地元のトラック業者が提供するサービスレ ベルに満足していない。
特に小口混載の分野は未整備だ。
貸切は誰でもできるが、小口混載に対応できる物 流企業は少ない。
日系でも国内ネットワークが充実し ている企業はわずかだ。
チャンスだと思っている」 ――しかし、国内輸送となると、投資負担もそれだけ 重くなるはずです。
「要は中国でも、もう単機能の物流サービスではダ メということだ。
航空、海運、陸上輸送、倉庫運営と いった一連のサービスをすべて請け負うことができる 物流企業でないと、相手にしてもらえない。
欧米系の 物流企業も同じ認識のようで、彼らも現地企業との 業務提携などを急いでいる。
のんびりやっていると、 そうした欧米企業に顧客を奪われる。
実際、国内配 送の需要は伸びている。
昨年の中国ビジネスの営業収 入の二五%は国内配送だった」 近鉄が運営するVMI倉庫

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