ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年8号
特集
中国的物流 日系物流業者の算盤勘定

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

AUGUST 2002 16 儲からない中国物流 九二年、当時の中国最高実力者だった 小平氏は、 経済特区の深 や珠海を視察してその成功を称賛し た。
このときいわゆる?南巡講話〞を発表して「改 革・開放を加速せよ」と発破をかけたことで、中国は 外資の受け入れを一気に積極化した。
当時、コスト競 争力を維持するためアジア諸国への生産移転を進めて いた日系メーカーが、これを機に相次いで中国に生産 拠点を移管。
それを追うように日系の物流企業も続々 と中国進出を果たした。
九六年に中国国内の産業を保護する狙いで物流業 に関する外資規制が強化されたことで、いったんは物 流業者の進出ラッシュは沈静化したかにみえた。
しか し、九七年七月の香港返還を経て再び加熱。
それま で以上に本格的な投資が今日まで続いている。
日系物流企業の第一次中国ブーム(九二〜九六年) 時の進出先は、香港や深 など華南地区が中心だっ た。
だが今回の第二次ブーム(九八年以降)では、投 資の矛先は上海や蘇州など華東地区をはじめとした中 国全土へと拡大、青島、天津、北京、大連といった 大都市に拠点や駐在員事務所を構える企業が急増し ている。
現在、中国で活動する日系物流企業の数は 約一〇〇社。
トラックターミナルや倉庫など拠点数は 年々、増加の一途をたどっている。
進出企業の顔ぶれ も超大手から中小企業まで幅広い。
外資系物流企業に対する一連の規制も中国のWT O加盟によって今後数年の間に緩和される方向にある。
トラック運送業や倉庫業については三年以内に外資 一〇〇%出資の会社設立が可能になる(特集第四部 参照)。
高速道路網など物流インフラの整備も着々と 進んでいる。
確かに傍目には物流業者にとって千載一 中国における物流ビジネスは儲からない。
それでも主要顧客のサプ ライチェーンが中国まで伸びた以上、物流業者もまた中国シフトを進 めていくしかない。
顧客ニーズを満たしながら、いかに自らの利益を 確保するか。
苦しい算盤勘定を迫られている。
本誌編集部 遇の好機が訪れているように見える。
しかし、「中国に進出した日系物流企業の大半は儲 かっていないはずだ」と日本国際貿易促進協会の林浩 司貿易投資部次長は明かす。
この協会は日本と社会 主義諸国との経済交流を活発化させる目的で一九五 四年に発足した任意団体だ。
ここで林次長は長年、日 系物流企業を中国に橋渡しする役割を務めてきた。
外 資系企業が中国で物流ビジネスを成功させることの難 しさを熟知しているだけに、今後の展開についても楽 観的にはなれないでいる。
「今はまだ先行投資」と割り切る山九 日本通運、山九、日新の三社は俗に中国物流の ?御三家〞と呼ばれ、中国各地に多くの現地法人や 支店、駐在員事務所を有している。
欧米の有力物流 企業が中国進出で出遅れる中で、いち早く中国国内 および海外ネットワークを整備。
陸・海・空運や倉庫 運営など幅広いサービスメニューを用意することで、 中国での物流ビジネスをリードしてきた。
山九は八六年に初めて天津に設立して以来、これ までに中国国内に計九つの現地法人を立ち上げた。
分 公司(支店)や現地法人の子会社を含めた拠点数は 計一四カ所。
海運貨物および航空貨物の輸出入、通 関、倉庫管理、国内配送、プラント輸送などのサービ スを提供している。
同社の中国関連のビジネスの年間売り上げは約三 〇〇億円ある(日本からの輸出貨物の取扱を含む)。
ここ数年は年率二〇%以上の伸びで推移しており、四 年前に比べると倍増しているのだという。
しかし、肝 心の利益は確保できていない。
八六年の立ち上げ以来、 赤字を垂れ流し続けてきた。
ようやく昨年、現地法人 九社すべての黒字化に漕ぎ着けたが、利益はごく僅か 日系物流業者の算盤勘定 第2部 特 集 17 AUGUST 2002 しか確保できなかった。
それでも山九本社で中国ビジネスを担当している村 本章二国際企画管理部企画グループマネージャーは 「中国事業はまだ種蒔きの時期。
成功を収めるために はここ一、二年が勝負なので、しばらくは意識的にコ スト高の日本人スタッフを投入していくつもりだ。
各 種事業規制の緩和後に収穫期を迎えることができれば いい」と覚悟を決めている。
中国に派遣している三五人の日本人スタッフを現 地化すれば利益確保の早道になることは、同社も分か っている。
しかし、今はまだ拠点新設や新規荷主開拓 などパイを拡げていくことが重要で、日本人スタッフ の存在は不可欠というのが日本サイドの判断だ。
これに対して、現場サイドではライバル企業の台頭 に日々危機感を強めている。
実際、中国での物流企 業の価格競争は激化する一方だ。
関係者によると、中 国の運賃市況はこの一〇年で急速に悪化している。
陸 上輸送運賃の単価下落も深刻化する一方だ。
例えば、中国国内のドレージ輸送の運賃単価は九六年、走行 距離一キロメートルにつき十二元(四〇フィートコン テナ対応)だった。
それが現在では七・五元にまで落 ちている。
とりわけ下落幅が大きいのは外航海運だ。
現在、例 えば青島〜東京間(片道)のコンテナ運賃は四〇フィ ートのリーファーコンテナで一二三〇〜一二五〇ドル で取引されている。
ドライコンテナで八〇〇ドル。
上 海〜東京間(同)では四〇フィートのリーファーで一 三〇〇ドル。
いずれも運賃は九六年市況の四分の一 程度の水準だという。
中堅外航海運業者、宇野船舶の石井敏雄中国総代 表は「中国〜日本間の定期コンテナ船で適正な運賃 を確保できたのは四〜五年前まで。
それ以降は規制緩 日本通運は昨年五月、一〇〇%出資の中国現地法人 「上海e ―テクノロジー」を設立した。
ただし狙いは物 流ビジネスの拡大ではなく、社内の業務コストの削減 だ。
従来、日本国内で処理してきた間接業務を中国に 移管したことで、すでに人件費負担が三分の一程度に 低減されたという。
上海e ―テクノロジーは現在、大きく分けて二つのサ ービスを提供している。
一つはデータエントリー。
こ れまで日通の各支店・営業所では、荷主が作成した手 書きの輸送指示書を、事務員が端末のキーボードを叩 いてデータ入力していた。
それが現在は輸送指示書を ファクスもしくはイメージファイルで上海e ―テクノロ ジーに送信するだけで済むようになった。
上海e ―テクノロジーが日本にある日通各部門の基幹 システムに直接アクセスして、受信した情報を元に入 力作業を行っている。
現在、海運、引越、旅行部門な どの支店の一部から業務を引き受けており、一日に約 四〇〇〇件のデータを処理している。
将来は日通グル ープの海外現地法人からの業務受託も視野に入れてい るという。
煩わしい事務処理業務から解放することで、日本人 スタッフには営業活動に専念してもらおうという狙い だ。
もちろん、コスト削減効果も大きい。
「人件費だけ でなく、中国はオフィス賃料や通信コストも安い」と 田島晴弥総経理。
現在、同社は七〇人のオペレーターを抱えている。
平均年齢は二五歳。
ほぼ全員が日本語を話せる。
英語 対応も可能だ。
当初は日通ではシンガポールやフィリ ピンなどに拠点を置くことも検討したが、田島総経理 は「日本の支店との電話のやり取りが発生する。
日本 語の話せる人材をたくさん集められるのは上海だった」 と説明する。
もう一つのサービスが情報システムの開発だ。
主に 本社・情報システム部、海外現地法人からの依頼を受 けて、各種システムの開発にあたっている。
日通社内 の業務システムのバージョンアップやメンテナンスを 任されているほか、特定荷主向けに受発注管理システ ムなどの開発にも着手している。
システム開発担当者は三五人。
会社設立から約一年 で四〇本のシステム開発に成功した。
これまでの開発 で得たノウハウを活用してWMSなどのパッケージソ フトを開発し、販売することも計画中だ。
最近は現地 企業からの引き合いが特に増えているという。
もっとも同社の昨年度の売り上げは一〇〇〇万円。
今期は一五〇〇万円を見込んでいるというが、まだ日 本人スタッフを張り付けるほどの事業規模はない。
「そ もそも日本側のコストを削減することが目的で設立さ れた会社。
日通グループ内ではコストセンターという 位置付けだ」と田島総経理はいう。
しかし、将来は物流コンサルティングサービスによ ってプロフィットセンター化を図る。
物流情報システ ムの開発・運用に関するコンサルティングをメーンに、 情報システム構築からオペレーションの管理までを一 括受託する3PL、4PL的な仕事を展開する計画だ。
目下の課題は人材の確保だ。
上海では金融やITと いった業種は他産業に比べ報酬が高い。
とりわけIT は労働力が不足している分野で、他社による引き抜き も多く、人材の流出が激しい。
同社の場合、日本語が できてITも分かることが採用の条件となるため、適 任者を確保するのが非常に難しいという。
それでも、 来年三月末までに五〇人程度を増員する計画だ。
社内業務の移管でコスト削減狙う日通 ―― 上海e―テクノロジー ―― AUGUST 2002 18 和によって競争力を失った中国の船会社によるダンピ ングに引っ張られるかたちで、運賃がどんどん下がっ ている。
政府や業界団体が介入して、船腹や価格の 調整に動いたが、状況はまったく改善されない。
消耗 戦が続いている」と現状を説明する。
既に大手陸運業者のなかにはすでに撤退する例も出 てきた。
ある会社は、沸騰する中国ブームとは裏腹に 早々に合弁企業を整理してしまった。
こうした状況下 で、現地で催される物流コンペへの参加企業も様変わ りしつつある。
従来は日通や日新など?御三家〞を中心にいつも 同じ顔ぶればかりだった。
それが最近では総合商社や 外資系の船会社などが加わるようになっている。
上海 経貿山九儲運有限公司の姫田正規総経理は、「いずれ も手強い企業ばかり。
老舗の看板で当社を選んでくれ るという時代ではなくなった。
中国現地物流企業の運 賃ダンピングが横行し、その影響で荷主企業からの値 下げ要請も厳しくなっている」と危機感を隠さない (三四ページインタビュー記事参照)。
顧客の囲い込みを狙う日立物流 こうした厳しい状況を認めながらも、中国から事業 撤退をするケースは稀だ。
それどころか日系物流企業 の多くは、以前にも増して対中投資を積極化している。
これまで子会社を使って中国ビジネスを進めてきた日 立物流もそのうちの一社だ。
日新運輸という子会社を通じて、早くから中国進 出を本格化してきた同社の市川勇男取締役は現状を こう分析する。
「世界の工場としてサプライチェーン の起点となりつつある中国の物流を抑えなければ、そ の先の日本での国内配送や倉庫運営といった従来の 仕事を失ってしまう危険性がある」 いま中国に出ていく日系物流業者の多くは、中国 国内で発生する物流だけで利益を確保できるとは考え ていない。
そもそも中国で儲けようという発想そのも のが希薄だ。
たとえ中国国内のオペレーション部分が 採算割れであっても、その先の、例えば日本国内での 倉庫管理や配送の部分で少しずつ利益を積み上げて いけば、最終的にきちんと利益を確保できると算盤を 弾いている。
確かにグローバル展開する荷主企業のアウトソーシ ングに対するニーズは高まっている。
「世界の工場」と してサプライチェーンの起点になりつつある中国の物 流を取り込んでしまえば、日本や欧米向けの物流まで を一括で受注できる可能性は高い。
逆に中国の物流 を抑えなければ、日本での従来の仕事を失う危険性が ある。
日系物流企業が対中投資の手を緩めないのは、 そういう危機感があるためだ。
日立物流の場合、日立グループ向けの業務について は物流の元請け企業としての地位があるため、サプライチェーンの起点を抑えることにそれほど躍起になる 必要はない。
しかし、既に日本で獲得している外販の 顧客が中国に生産拠点を移管するとなれば、話は別だ。
中国まで顧客を追いかけていくことで、日本での仕事 を守らなければならないケースもある。
これまでの同社の中国物流ビジネスは、日立グルー プ向けの仕事が中心だった。
現在の華南地区や華東 地区での拠点展開も、グループ企業の中国進出に合 わせて進められてきたものだ。
典型的な物流子会社の 中国進出パターンと言える。
中国ビジネスでの売り上 げは年率一五〜二〇%の伸びで推移しているが、これ も日立グループ各社の生産量の拡大によってもたらさ れた面が大きい。
日立物流の日本での外販比率は既に五〇%を超え 山九が運営する上海市内の倉庫 中国〜日本間の運賃ダンピングは激しい 19 AUGUST 2002 特 集 ているのに対して、中国では一〇〜二〇%にとどまっ ている。
実際には「外部顧客の数は増えているが、日 立グループの仕事がそれを上回る伸びを示しているた め、なかなか外販比率の割合が大きくならない」(藤 原弘明上海事務所長)という事情もあるが、中国で の事業展開が親会社に依存しているという事実に変わ りはない。
現在、同社が中国で外販拡大のターゲットに据えて いるのは、日本や欧米での販売拡大を模索している中 国系のエレクトロニクス企業だ。
日立グループ向けに 用意した拠点を活用することで、「施設の稼働率を上 げ、日立グループと外部顧客の双方に低コストでサー ビスを提供する」(市川取締役)ことを狙っている。
ただ拠点の立地条件が必ずしも外部顧客のニーズに マッチするとは限らない。
しかも「中国にはカントリ ーリスクがあり、闇雲に投資をして拠点を増やしてい くことは得策ではない」(中久信会長)。
同社の次の一 手として考えられるのは中国の現地物流企業との戦略 的アライアンスだ。
物流センターなどのアセットを持つ現地物流企業に オペレーション部分を任せる。
そして、日立物流自身 は4PL的な立場で全体をコントロールすると同時に、 日本でのオペレーションを担当する。
中国への投資を 最小限に抑えたうえで?サプライチェーンの起点〞を 手に入れるためのシナリオである。
近鉄EXPは中国内陸に傾注 従来、物流企業に求められていたのは、中国で生産 した製品を日本や欧米に輸送する機能だった。
ところ が最近ではここに中国国内の配送網の整備という条 件が加わった。
物流業者の投資負担は増すことになる が、近鉄エクスプレスはこうしたニーズを逆手にとっ て中国での競争優位を確立しようとしている。
WTO加盟で中国国内での販売に関する規制が一 気に緩和される。
それに伴い人口約十三億人を抱える 巨大マーケットを開拓しようと、メーカーが一斉に流 通チャネルの構築に動き出す――。
近鉄エクスプレス にとって、いま中国で起こっている変化は追い風以外 の何物でもない。
主力事業の国際航空貨物のフォワー ディング事業と並行して、中国国内完結型の輸配送 サービスの拡充に力を注いできたことが実を結びつつ ある。
中国国内には約三百十万社のトラック事業者が存 在する。
しかし、現地企業が提供するサービスの品質 は日本に比べはるかに劣っていて、中国に進出してい る外資系メーカーの多くは満足していなかった。
北京 近鉄運通運輸有限公司の稲村寿通董事長は「都市部 を中心に購買力が伸びており、メーカーが中国での国 内販売を強化するのは時間の問題だった。
それを見越 して、国内のネットワークづくりを進めてきたのは正解だった」と振り返る(三六ページのインタビュー参 照)。
現在、近鉄が中国国内向けに提供しているのはトラ ックによる定期小口混載便サービスだ。
上海を起点に 北京、天津など主要十二都市を結び、各コースについ て週二〜三便のペースで運行している。
便数は中国に 進出している日系物流企業の中でもトップクラス。
し かもその大半を自社トラックで賄う割合が多いためサ ービスの質が高く、顧客からも評価されている。
このサービスには単体で儲けることのほかに、輸出 入貨物を囲い込むという狙いがあった。
従来から付き 合いのある近鉄の顧客の間では、輸出入と国内販売 物流を一括で頼みたい、そのためにはもう少し国内の 配送拠点を充実させてほしいという要請が絶えなかっ 日立物流の藤原弘明日立物流の市川勇男取締役 上海事務所長 近鉄エクスプレスは国内配送網の整備を強化する AUGUST 2002 20 た。
「日本市場と同様、もはや中国市場でも単機能の 物流サービスのみを提供していたのでは生き残ってい けない。
航空、海運といった輸出入の機能に、倉庫運 営や国内配送を加えないと相手にされない」と稲村董 事長は説明する。
ただし、近鉄の中国国内ネットワークが優位性を発 揮できる期間はそう長くは続きそうにない。
すでに欧 米系の物流企業も中国国内での小口混載サービスの 重要性を認識して、有力な現地企業と業務提携する などネットワーク整備を急いでいるからだ。
これに対して、近鉄も新たな路線便の開設、自社 保有トラックの拡大、既存便の増発といった対抗策を 講じる構えだ。
小口混載便事業への積極投資を維持 していくという。
中国でもニッチ市場を攻めるアルプス物流 アルプス物流の場合は電子部品の物流に特化する ことで、活路を見出そうとしている。
現在、同社が上 海に構える現地法人「阿尓卑斯物流(上海)有限公 司」では、外高橋保税区内でVMI倉庫(Vender Managed Inventory: ベンダー在庫管理方式)を運 営している。
VMIとは部品を納めるベンダー側が納 品先である組み立てメーカーに代わって、部品在庫を 管理するSCMの手法の一つだ。
組み立てメーカーは 使用する分だけ部品を購入すればいいため、その分在 庫リスクを回避できる。
ハイテクメーカーを中心に導 入が広がりつつある在庫管理方式である。
アルプス物流は日本でもVMI倉庫を運営している。
部品ベンダーに代わって部品在庫を管理して、組み立 てメーカーから指定された場所にジャストインタイム で配送するという業務を請け負ってきた。
その仕組み と長年の倉庫運営で蓄積したノウハウをそっくりその まま中国に持ち込むことで、ビジネスの拡大を狙って いる。
同社には日本で普及しつつあるVMIが、中国 でも必ず展開されるという確信があった。
実際、この読みは見事に的中した。
「今中国はVM Iブームに湧いている。
組み立てメーカーに足を運ぶ と、どこに行ってもその話になる。
ことによると中国 のほうが日本よりも早くVMIが一般化するかもしれ ない」と長迫令爾会長の鼻息は荒い(三〇ページのイ ンタビュー参照)。
上海のVMI倉庫で扱っているのは主に日本から 輸入される電子部品だ。
これを組み立てメーカーから 出荷指示を受けた後、四八時間以内に中国各地の生 産拠点に納品する。
出荷指示を受けるとすぐに保税 地区から持ち出すための免税手続きの書類を作成し、 税関に申告。
翌日の午後に通関が終了するまでに倉 庫でのピッキング作業などを済ませておく。
そして通 関手続きを終えると、トラックに部品を積み込んで倉 庫を出発し、例えば無錫や蘇州などにある組み立て工 場に翌日朝までに配送している(次ページの囲み記事 参照)。
上海の倉庫でのオペレーションの様子はほとんど日 本と変わらない。
顧客に提供するサービスも日本国内 に比べても遜色のないレベルにあるようだ。
あえて異 なる点を挙げるとすれば、現場で中国語が飛び交って いることくらい。
「在庫管理用の情報システムも作業 のマニュアルもすべて日本から持ち込んだ。
しかも中 国人の作業スタッフは仕事を覚えるのが早く、手先も 器用」と阿尓卑斯物流(上海)有限公司の岸島副総 経理は現地スタッフのスキルを高く評価している。
そもそもアルプス物流が中国に進出したのは親会社 であるアルプス電気が生産拠点を移管したのがきっか けだった。
その後を追うように天津、大連、上海など 阿尓卑斯物流(上海)有限公司 の岸島副総経理 21 AUGUST 2002 に相次いで物流拠点を構えた。
もともとは親会社が生 産した部品を取引先の中国に組み立て拠点に供給し たり、生産品を日本や欧米に輸出するといった仕事が メーンだった。
それが最近では、親会社からの仕事よりもむしろ外 部顧客からの受託が急増している。
上海の倉庫には連 日のように日本から部品メーカーや部品商社の物流担 当者が見学に訪れているという。
組み立てメーカーの 中国シフトに伴い、部品ベンダーは中国に在庫拠点を 持たなければならなくなっているためだ。
しかし、「部 品メーカーは日本から送る部品のためにわざわざ中国 に倉庫を建てるわけにもいかない。
当社の倉庫を利用 すれば、投資負担を減らすことができる」と、岸島副 総経理はVMI倉庫へのニーズが膨らんでいる理由を 説明する。
アルプス物流では今後、日本市場と同じように、中 国でも電子部品の物流に特化する方針を既に固めて いる。
日本の電子部品メーカー一六〇〇社の約七五% が中国に進出済み、もしくは中国への進出を検討中だ という。
こうした部品メーカーに対して、中国各地に 上海のようなVMI倉庫を用意。
電子部品の物流共 同プラットフォームを提供することで、部品メーカー のコスト負担軽減に貢献していく。
ニーズは高まって おり、既存の倉庫のうち上海ではすでに増床も決まっ ている。
同社が電子部品の物流に拘るのは物流企業同士の 価格競争を避けるためだ。
中国で生産された製品を日 本に運ぶ仕事は誰にでもできる。
それだけに価格競争 も激しくなる。
これに対して、「電子部品の物流管理 には専門的な知識やノウハウ、細かい作業が必要だ。
一部の業者しかサービスは提供できない。
当社は日本 で長年にわたって電子部品の物流に特化したサービス を提供してきた。
ノウハウや情報システムをそのまま 中国に持ち込むだけでいい。
投資も最小限で済む」と 長迫令爾会長はアピールする。
ニッチな市場を攻めて、必要な場所に必要な拠点だ けを用意し、競争を優位に進めていく。
国内の電子部 品の物流で圧倒的な強さを誇るアルプス物流の戦略は 中国でもまったく変わらない。
特 集 アルプス物流の中国的VMI倉庫 電子部品用のラック。
ケース単位で出荷する 荷受け検品後、ロケーション管理されたラックに格納 する パレット単位で出荷される部品は倉庫の1階部分で一 時保管する 日本や東南アジアなどから送られてきた電子部品を荷 受け検品する 部品の入出庫は日本から持ち込んだ情報システムで すべて管理している 電子秤を使って細かい部品を数え、ビニール袋に小分 けする

購読案内広告案内