ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2002年8号
メディア批評
官房長官の核発言よりサッカーを優先大衆に迎合する大新聞の危ないセンス

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

京都に住む友人が『京都新聞』を含む六月 一日付の各紙のコピーを送ってくれた。
『朝日』は一面トップ記事の大見出しが「新 『日韓』へW杯開幕」 『毎日』が「アジア初 熱狂の祭典」 『読売』が「日韓W杯開幕」 『産経』もほぼ同じで、すべてサッカーであ る。
私もやはり日本チームの活躍には拍手を 送ったが、この中に『京都新聞』の一面トッ プの見出しを置くと、大手紙の横並びに首を かしげざるをえなくなる。
「政府首脳 非核三原則見直し言及 福田長官『核保有は可能』」 これが京都新聞のそれである。
「日韓W杯開幕」は同じ一面で大きく扱って はいるが、トップ記事ではない。
ついでに送ってくれた『しんぶん赤旗』も 「非核3原則変更も」がトップで、「日韓W杯 キックオフ」はその横にある。
『朝日』『毎日』『読売』『産経』が並んだ形 だが、『読売』や『産経』はともかく、『朝日』 や『毎日』では異論はなかったのだろうか。
いくら開幕とはいえ、それより福田発言の方 が問題なのだから、そちらをトップにという 声は両紙の中からは挙がらなかったのか。
私は、福田は当然罷免されて然るべきと思 ったが、いわゆる大手紙がそろってサッカー では、そんな気運が盛り上がるべくもない。
『週刊現代』の六月二十二日号で、作家の城山三郎と社民党党首の土井たか子が、この国 の「いま」を憂う対談をしている。
司会者として同席した私が、福田はこの発 言報道に「誤解だ」と言い、受け取り方が間 違っているような発言に終始したのは腹立た しかったとし、 「百歩譲って誤解であるとしても、誤解を与 えるような重大な失言をした側には大きな責 任があります。
そうした反省がまったく見ら れない」 と口をはさんだら、土井は、 「福田長官の発言は、小泉首相がW杯の開会 式に出席するために訪韓している最中のもの です。
官房長官は、総理不在の間は、総理の 臨時代理なのです。
そうした立場にいながら、 世界各国を驚愕させる発言をしました。
だか らこそ、問題は大きいのです。
しかも、この 報せを受けた小泉首相は『なんてことはない』 と言った。
これも『誤解』とどっこいどっこ いの、まったく無神経きわまりない問題発言 というべきですよ」 と怒っていた。
大手紙は、小泉の「なんてことはない」と いう感覚に同調して、W杯開幕をトップにし てしまったのか。
いや、そうではない、それ なりに重要だとは思ったのだと反論するとし ても、結果的には小泉の感覚と同じになって しまったのではないか。
昭和二年生まれの城山と三年生まれの土井 の対談は、かつての「皇国少年」と「皇国少 女」としての危機感がひしひしと伝わってく る語り合いだったが、「有事にならないように するのが政治家の仕事なのに」と有事法制を 批判する城山が、小泉はどういう人かと土井 に尋ねると、土井はこう答えた。
「他人の言うことを聞いていない方ですね。
小泉さんが国会で答弁される際に、議論がす れ違うことがあるでしょう。
私も最初は、時 間稼ぎをするために、わざとはぐらかしてい るのかなと思いましたが、そうではありませ ん。
小泉さんは他人の話を聞いていないから、 答えがすれ違ってしまう。
『どうせ、この人は 自分と意見が違うから、そんなものは相手に する必要はない、聞く必要はない』というの が、小泉さんの姿勢ですよ」 他にもあったのかもしれないが、『京都新聞』 の姿勢、感覚こそが共有されなければならな いのである。
『赤旗』が孤立し、「どうせ『赤 旗』だから」となる時、「非核」原則は「核保 有」原則と化してしまうだろう。
佐高信 経済評論家 71 AUGUST 2002 官房長官の核発言よりサッカーを優先 大衆に迎合する大新聞の危ないセンス

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