ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年5号
特集
物流IT 先進企業はココが違う インターネットでコネクトする

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

横文字嫌いのアナタのための アングロサクソン経営入門《第14回》 MAY 2002 38 三つのコネクト ――今月は情報システムのコネクトについて整理した いと考えています。
入江 それは厳密に説明すれば、かなり技術的な話に なるな。
恐らくアナタが期待しているのはウェブアー キテクチャーによるコネクトの話でしょう。
その分野 での最近の大きな動きは、SAP(ERP最大手)が 従来のBASISというアーキテクチャーを拡張して、 ウェブアーキテクチャーでプログラムを構築したとい うことですね。
――??? 入江 全然、分かってないみたいですが、コネクトっ てそういう話ですよ。
――ちなみに、それは従来のSAPの設計では、コネ クトができなかったということですか。
入江 従来のクライアント/サーバー方式では、サー バーにもクライアントにも、それぞれプログラムがイ ンストールされていないと仕事ができなかった。
それ をウェブアーキテクチャーに移し換えたわけです。
つ まり特別なソフトがなくてもパソコンでサーバーにア クセスするだけで誰でもシステムが使えるようにした のです。
――それは、EAI(本号三六頁参照)でシステムを コネクトするという話とは関係ないの? 入江 コネクトのレイヤーが違う。
コネクトには基本 的に三つのモードがあります。
一つがシステム同士の コネクト。
この場合にはEAIのようなツールを使う。
もう一つがピープル(人)とシステムのコネクト。
こ れはシステムをウェブで開放すればいい。
最後がピー プルとピープルのコネクトで、メールのやりとりなど です。
――そのうちシステムとシステムのコネクトが一番や っかいなわけですね。
入江 それを説明するために図1を使いましょう。
こ の図はサプライチェーン全体のコネクトの関係を表し ています。
販売、製造、調達、設計というプロセスと、 各々のプロセスを統合する情報システムがある。
この うち製造と設計の統合ではCPC(Collaborative Product Commerce )、つまりウェブ環境でコラボレ ーション(協働)して、製品開発と製造を一発で処理 するというアプローチがとられている。
従来は一つの 製品を開発するにも、そこで使われる部品、さらにそ の部品に使われる部品という形で、ツリー状に縦に長 いサプライヤーの階層があったわけです。
――自動車業界などの「ティア1」「ティア2」「ティ ア3」というヤツですね。
入江 そうです。
そして実際の設計では、設計変更が どんどん起きる。
ところがサプライヤーの階層が長い ため、情報が全てのサプライヤーにキチンと届かない ことが往々にしてあった。
それが後で不具合の原因と なるケースが少なくなかったんです。
そこで従来の仕 組みを改め、CPCによって全てのサプライヤーが一 つの環境で開発に取り組めるようにする。
――CPCというのはソフトウェアの種類ですか。
入江 ソフトウェアの一つのカテゴリーであり、また そのソフトウェアを使って製品開発のコラボレーショ ンを行う考え方でもあります。
もうひとつのDSM ( Design Sourcing Management )も同じで、これは 設計と調達の統合です。
――そして調達と製造の統合がERPですか。
これは 違和感があるなあ。
ERPというのはシステム全体の 基盤なのではなかったですか。
入江 確かにERPの定義は色々と難しいのですが、 入江仁之 キャップジェミニ・アーンスト&ヤング副社長VS 本誌編集部 インターネットでコネクトする アウトソーシングを導入するには、プロセス別に組織を 切り分けると同時に、分散した各組織の活動を統合しな くてはならない。
そこで直面するのがインターネットを活 用した情報システムのコネクトだ。
Columns 39 MAY 2002 先進企業は ココが違う 特 集 歴史的にはERPは製造と調達の統合から出発して いる。
ERPの元になったのはMRP(Material Resource Planning )です。
MRPは販売計画から生 産計画を策定し、さらにそれを部品に展開して必要な 調達をして‥‥といった一連の流れを処理していた。
それが進化してERPになった。
そのため、ERPベ ンダーの多くがMRPのポジションからビジネスを開 始している。
だから別にこの部分はMRPでも構わな い。
ただし最近はMRPという言葉をあまり使わなく なっているから、ERPと書いてある、という程度に 理解して下さい。
SCMのシステム環境 ――そして製造と販売の統合が本誌にも馴染みの深い SCP(Supply Chain Planning )というわけですね。
ところで、この図の太い矢印の部分。
一つにはSCM と書いてありますが、これは何を示しているのですか。
入江 SCMの大きな改革の領域です。
今日のSC Mは大きく三つの流れで整理できる。
一つは狭義のS CM。
製造、販売、調達およびそれを結ぶ物流の統 合です。
そこでは製品在庫の削減を目的として、リー トタイムの削減が進められる。
その施策としては「中 抜き」が行われるという意味です。
――ロジスティクスに近いですね。
入江 そうですね。
製・販・物の統合といってもいい。
一方、広義のSCMにはPLM(Product Lifecycle Management )や戦略的調達などが入ってくる。
PL Mというのは、顧客に受け入れられる製品を、いかに 速く開発して市場に投入するか。
つまり、できあがっ た製品を、いかに売るかがSCMであるのに対し、P LMは売れる製品をどうやって作るかというアプロー チをとる。
このPLMで目的とされるのは、新製品の投入拡 大です。
そのために知識の再利用によってTime to Market の短縮を進める。
なお、ここでいう知識には 二つの側面がある。
顧客のニーズ、クレーム、行動と いったマーケットに関する知識が一つ。
もう一つは製 品に関わる知識。
どういう製品をどう作るか。
過去に 作った製品の知識をどう再利用するかという知識です。
――そうした知識を使って市場のニーズを把握し、そ れをすぐに商品化して市場に投入するまでのサイクル をどんどん縮めていくのですね。
入江 図でもう一つの軸となっているコスト削減は、 先ほどの戦略的調達という視点からのアプローチです。
――ここまでの話をまとめると、太い矢印で示された 三つの改革を実現するために、その内側に描かれたシ ステム環境が必要になるというわけですね。
入江 ええ。
それが情報システムを使ったサプライチ ェーンの改革です。
システムの何を変えるのか ――そこで二つ疑問が沸いてきます。
そもそも今の三 つの統合は企業の中の誰がやる仕事ですか。
入江 それは良い指摘です。
現状ではそれが存在しな い会社が多い。
多くの場合、改革の責任を負う部門 を作るところからプロジェクトを始めなければならな い。
サプライチェーン本部や調達推進本部などですね。
――となると本誌の中心読者層である物流マンは、従 来の物流管理から図1のSCMの矢印に機能転換す ることを目指すべきですね。
入江 そういうことですね。
――サプライチェーン改革を、もう少し具体的に説明 するとどうなりますか。
図1では販売、製造、調達の 流れをSCPとERPでつなぐと示されていますが、 図1 アダプティブ・エンタープライズ eProcurement 調達 プロセス 施策:コンテンツ管理 目標:集約/合理化 目的:コスト削減 設計 プロセス 製造 プロセス 施策:中抜き 目標:リードタイム削減 目的:製品在庫削減 販売 プロセス 施策:知識再利用 目標:タイムトゥマーケット削減 目的:新モデル投入拡大 戦略的調達 SCM PLM ERP DSM CPC SCP CRM CAD MAY 2002 40 ソフトを使うことと、統合することは基本的に別の話 でしょう。
入江 図1は情報の統合、基本的には計画系のデー タの統合を示しています。
これとは別のレイヤーに実 行系の統合、そして会計系の統合がある。
――うーん。
もう一つギアを落として説明してくださ い。
要するにSCMとは何をすることなのですか。
入江 それではこの図2を使いましょう。
ロジスティ クス情報システムの概念図です。
この図で横軸はプロ セス、縦軸は時間を表しています。
――時間軸は一番下が「過去」で上に行くほど、「現 在」、「将来」、「未来」と先の話になっていく。
このう ち「過去」に当たるのが「統制」すなわちERPなど の会計系のレイヤーで、「現在」が実行系。
ここがW MS やTMSなどのいわゆる物流情報システムです ね。
さらに「将来」がSCPなどの計画系。
また「未 来」が計画系とは別に「戦略」として区分されていま すが、これは年を単位とする長期的な戦略と、日時を 単位とする短期的な計画の違いですね。
入江 そうです。
――この図のうちSCM部隊は何から手をつけたらい いのでしょう。
システム的には既にどの部分が整備さ れていて、どこが未整備なのか。
そして何を統合すれ ばいいのか。
入江 まあ、焦らないで。
図2のような従来のロジス ティクス情報システムでは、「計画」がプロセスごと、 部門ごとに分かれていた。
パソコンの表計算ソフトな どで各部が独自の仕組みを作って運用していた。
週次 や日次でデータを更新させて、他の部署とデータをや りとりしていたわけです。
それを表現したのが図2のジグザグの矢印です。
販 売が受けた顧客の注文が販売から調達に流れ、という 形で情報が更新されていく。
このやり方では現場に情 報が届くまでに時間がかかる。
現場のデータが更新さ れる頃には元のデータが変わってしまっている。
それ が従来の状況した。
それが現在のサプライチェーン計画システムでは図 3のようになります。
まず一つのデータを全ての部署 でシェアできる形に、システムのインフラを変える。
従来型のクライアント/サーバーや、コンピュータ・ センターのメーンフレームを使う仕組みを、ウェブア ーキテクチャーに変えて、データをリアルタイムでシ ェアできる仕組みにする。
そして一つのデータに基づ いて全ての計画を作るようにするわけです。
――そして最終的にはこの図3の真ん中にあるサプラ イチェーン計画を現実に作成するわけですが、全体が 最適化されたサプライチェーン計画を作るとは、具体 的にはどういう仕事になるのですか。
米国の失敗に学べ入江 それはビジネスによって異なってくる。
これは 少し説明がやっかいなのですが、一言で全体最適とい っても、例えばある業種では現在残っている部材や遊 んでいる設備を元に、それで何が作れるかを販売や顧 客に提案して売上げを獲得することが最適化になる。
パソコンのように製品のライフサイクルが数カ月しか ないビジネスでは、少しでも早く高く在庫を売り切る ことが重要です。
そのため販売計画を連動させて価格 を柔軟に変更させるという施策を打っていく。
ところ が部材が陳腐化しないような別のビジネスでは売れ残 りリスクがないため、そうしたコントロールも必要ない。
――要は商品やマーケットによって統合しなければい けないレベルも違ってくるということですか。
入江 そうです。
業種によっては情報システムに投資 図2 従来のロジスティクス・システム マネジメント サイクル タイム フレーム 設 計 調 達 生 産 輸 送 流 通 顧客管理 戦 略 計 画 実 行 統 制 未来 将来 現在 過去 年 年 月 月 週 週 日 日 時 時 分 秒 分 業績評価・分析 トランザクション処理 輸送計画 流通計画 基準生産計画 需要計画 製造 能力所要 量計画 資材所要 量計画 設計 調達 輸送 倉庫業務 販売 Design Procurement Production Transportation Distribution Customer Management 先進企業は ココが違う 特 集 41 MAY 2002 せずSCMはマニュアルで管理して、投資を他に向け るという判断も出てくる。
例えば産業用の機械で月に 数台から数十台を売ればいいようなビジネスであれば、 わざわざ情報システムで管理しなくても、人間が顧客 ごとにサプライチェーンを管理すればいい。
実際には図2の情報のやりとりでさえ、システムで はなくマニュアルで動いているケースも少なくありま せん。
そこではトレードオフの調整も現場の人間の判 断に委ねられている。
実は、それでも大きな問題がな ければいいわけです。
ところが、これまでサプライチ ェーン計画システムを導入すべきだと主張してきた人 達は全て、最適な計画の立案を組織のどこか一カ所に 集約して、現場は彼らの指示通り動けばいいという考 えに立っていた。
実際それが米国では常識だった。
しかし日本の現場は、従来から自律的な判断を委 ねられながらも、米国よりずっと上手くオペレーショ ンを処理してきた。
この事実をどう解釈するか。
それ が日本企業のSCMのポイントになります。
つまり現 場に判断を依存する従来のやり方を踏襲していくのか、 それとも中央集権化するのかという問題です。
――で、入江さんはどう考えているのですか。
入江 日本企業は米国企業のように中央集権化すべ きではない。
現場は自律的に動くべきです。
だからこ そ、この連載で何度も繰り返してきた「アダプティブ」 のモデルを提唱しているわけです。
――過去を振り返れば、米国でもかつては恐らく現場 に判断を委ねるしかない状態でサプライチェーンを運 用していたわけです。
それを中央集権化する形で改革 してきた。
それに対して日本は時間的にだいぶ遅れて、 米国の後を追って現在、中央主権化を進めようとして いる。
ところが、その間に肝心の米国では中央集権化 への揺り戻しが起きている。
それが「アダプティブ」 ということですね。
入江 米国は市場環境の激変に直面した。
顧客のニ ーズや注文の仕方がどんどん変わり、調達の能力が急 に変わるといった環境に直面し、中央集権型のモデル では対応できない事態に陥った。
つまり中央集権の限 界が見えた。
そこから現場に依存するモデルも改めて 考えなければならなくなったのです。
――周回遅れとなった日本が改めて米国の二の轍を踏 む必要はない? 入江 日本企業はいったん中央集権化して、その後 にアダプティブを導入するのではなく、二つを同時に 実現すべきです。
限界が見えたといっても、中央集権 型の計画を作るという機能は一方では必要なんです。
しかし、全てを中央集権化する必要はない。
――となると分散型のシステムとは何かという話にな りますね。
入江 うん。
そこでまず現在、世に出てきているのが 実行形のレイヤーにおけるアダプティブのモデルなんです。
つまり計画は中央集権型でやる。
中長期、週次、 月次の判断は計画で処理する。
ただし、日々の実行の 指示までは計画しない。
実行は分散型にして現場で判 断するというモデルです。
――今月も最後はやはりアダプティブか。
入江仁之(いり え・ひろゆき) キャップジェミ ニ・アーンス ト&ヤング副社 長。
製造・ハイ テク自動車産業 統括責任者。
公認会計士合格後、 約20年にわたり経営コンサル ティングを行う。
とりわけサプ ライチェーン・マネジメント分 野では国内屈指のスペシャリス トして評価が高い。
ハーバード 大学留学を経て、都立科学技術 大学大学院、早稲田大学大学院 などで客員講師をつとめる。
著 書訳書多数。
プロフィール 図3 サプライチェーン計画システム マネジメント サイクル タイム フレーム 設 計 調 達 生 産 輸 送 流 通 顧客管理 戦 略 計 画 実 行 統 制 未来 将来 現在 過去 製品戦略 サプライチェーン戦略 設計 統合トランザクション処理 ワーニング モニタリング/ステータス管理 業績評価/分析 調達 製造 輸送 倉庫業務 販売 製品寿命 計画 調達計画 調達計画 需要計画 製品構成 管理 製造順序 計画 輸送計画 輸送順序 計画 流通計画 需要計画 流通順序 受注 計画 部品調達先管理 顧客戦略 年 年 月 月 週 週 日 日 時 時 分 秒 分 サプライチェーン計画 要求仕様 流通能力 設備能力 原材料供給 労働力 需要予測 在庫水準 輸送能力 価格設定 要求納期 顧客注文 請期回答

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