ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年5号
値段
日本郵船

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MAY 2002 62 期間損益が安定 海運業界は熾烈な価格競争や世界的なア ライアンス・再編に晒されるなどグローバ ル化の洗礼をいち早く受けた。
数年前まで は衰退産業の筆頭であったが、ここ数年は 石油業界などとともに、復活・再生を遂げ た数少ない産業として再評価されている。
現在、日本の海運会社のコスト競争力は 世界のトップレベルに達しているといって も過言ではないだろう。
陸運など国内物流 事業者にとって、海運各社がこれまで歩ん できた歴史は今後どのような戦略で経済環 境の変化に対応していくべきか、その良い 手本である。
そこで、今号および次号では海運会社に 焦点を当ててみたい。
今回は明治一八年(一 八八五年)に当時の三菱会社と共同運輸が 合併して発足した老舗企業、日本郵船を取 り上げる。
同社の業績はここ数年、急速に回復して いる。
利払い後事業利益(=営業利益+金 融収支)は九三年度の収支均衡ラインから、 二〇〇〇年度には六〇〇億円を超える水準 にまで拡大した。
世界的なアライアンスや 買収・合併合戦が進行したことや、銀行の 貸し渋りなどで資金調達面での制約を受け たことを背景に、ヒト、モノ、カネのリスト ラクチャリングを急ピッチで進めてきたこと が奏功した。
期間損益は一定のレベルを維 持できるようになった。
業績の安定を受けて、海運中心の事業戦 略を改め、陸運や空運などを含めた総合的 な物流サービスの提供に力を入れていくと いう姿勢を明確にした。
「NYK LOGISTICS & MEGACARRIER 」というキャッ チフレーズの下、事業構造の見直しを進め ている。
そのスタンスは二〇〇一年三月期にスタ ートした中期三カ年計画「NYK21 」にも反 映されている。
計画ではシナジー戦略とス ケール戦略という大きく分けて二つの戦略 を打ち出しているが、このうちシナジー戦 略では顧客にとってのシングル・ウィンド ウ(一つの窓口)となるべく、コンテナ船 部門、不定期専用船部門の機能に物流部門の機能を組み合わせて、複合的なソリュー ションを提供することを目標としている。
同社の海運キャリア事業を中心に、航空 フォワーダーの郵船航空サービス、航空貨 物キャリアである日本貨物航空、海外の倉 庫・配送事業会社などの子会社および関係 会社の各機能を結びつける。
それによって、 例えば、海外小売事業者に対して調達から 販売に至るまでの一貫輸送サービスを提供 する、という戦略である。
一貫輸送サービスでの競合相手は海運会 社ではなく、むしろUPSやフェデックス のようなグローバルプレーヤーたちを想定し ている。
ここ数年、海外の倉庫・物流会社 第14回 日 本 郵 船 安定した業績を背景に、日本郵船が次の一手を打ち出そうとしてい る。
航空、倉庫、トラックなどグループ企業との結束を強め、今後は 各機能をうまく組み合わせた一貫輸送サービスの提供を目指すという。
ライバルとしてはUPSやフェデックスなどのグローバルプレーヤーを 想定している。
北見聡 野村証券金融研究所 運輸担当アナリスト 63 MAY 2002 の買収などに積極的なのは、こうした企業 を強く意識したものである。
今後、どれだけのスピードで諸機能を拡 張できるかが五年後、一〇年後の同社の将 来像を決めることになる。
それだけに今後 も企業買収などに経営資源が最大限注がれ ることになると見ている。
定期コンテナは赤字に転落 もう一つの柱であるスケール戦略だが、こ ちらではコンテナ船部門、不定期専用船部 門、物流部門、客船部門の各四部門の競争 力を高めることを目標としている。
このう ち、海運事業は過去と比較すれば改善が見 られるとはいえ、まだまだ盤石とは言い難 い面もある。
特に定期コンテナ船部門は、米 国やアジア地域の景況感悪化による輸送需 要の減退や、世界的な船腹供給過剰感によ るコンテナ運賃市況の低迷から、二〇〇二 年三月期の部門損益が再び赤字に転落して しまった。
コンテナ船の分野では個別企業の合理化 努力はもちろんであるが、根本的な産業再 編による競争条件の緩和が必要とされてい ると感じている。
日本郵船が再編の旗振り 役となるかどうかは日本の海運業界のみな らず、世界の業界動向を占うことになるだ ろう。
一方、不定期船・専用船ビジネスでは、鉄 鋼メーカーや電力会社、自動車メーカーな どの基幹輸送を担っているが、契約期間も 短期のスポット契約が少ないため、期間損 益は安定してきた。
ただし、中長期的に見 れば、日本の産業構造の変化や、産業の空 洞化などの問題が控えており、必ずしも楽 観視できる状態にはない。
客船ビジネスでは現在、日本で「飛鳥」、 米国で「クリスタルハーモニー」「クリスタ ルシンフォニー」を保有している。
しかし、 旅客と貨物とでは営業戦略や競争条件に違 いもあり、コアビジネスとしての位置付け を明確にすることが問われている。
周辺事業の集約統合が不可欠 直近の業績を見ると、海外船社と比べて、 事業ポートフォリオの広さが、全体の収益 水準を押し下げない要因となっている。
し かし、事業競争力が相対的に高くない周辺 事業を多く抱えていることが、積み上げて いくと短期業績に大きな影響を及ぼしてい る。
すなわち必ずしも定期コンテナ船部門 の業績が会社全体の業績を決定付けるとは 言い切れない、ということを再認識させた。
今後、マーケットの寡占化に伴い、価格 決定力が劣位にない自動車船、契約期間の 長い一般不定期船やエネルギー船などのコ スト競争力をさらに強化していくことは欠 かせないであろう。
その一方で、周辺事業 の集約統合や連結子会社・関係会社の再編 も早急に進める必要がある。
物流事業を本格的な収益源として成長さ せていくという観点からも、同社には今ま さに「NYK LOGISTICS & MEGACARRIER 」の真意と行動力が求められていると 言えるだろう。
きたみ さとし 一橋大学 経済学部卒。
八八年野村 証券入社。
九四年野村総 合研究所出向。
九七年野 村証券金融研究所企業調 査部運輸セクター担当。
社団法人日本証券アナリ スト協会検定会員。
プロフィール 日本郵船の過去5年間の株価推移 (円) (出来高)

購読案内広告案内