ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年4号
特集
物流業の倒産と再建 倒産を会社変革のチャンスに

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

APRIL 2002 30 「管理不倒産方式」の破綻 ――米国では一九八〇年に物流業の規制が緩和され、 その後の一〇年間で、それまでの業界大手五〇社のう ち、半分が入れ替わるという大きな再編が起こりまし た。
これに対して日本では、九〇年に規制緩和が実施 されましたが、今のところ再編と呼べるような動きは ありません。
大型倒産もフットワーク以外には見られ ない。
「物流業者に限らず、日本には倒産が少ない。
バブ ルがはじけて以降、景気は長期低迷が続いている。
日 本経済が構造的に行き詰まっていると誰もが感じてい る。
GDPもマイナス成長だ。
本来ならもっと倒産が 多く出ないとおかしい。
そうならないのは、現実には 倒産している会社を銀行が支えているから。
日本の銀 行のそうしたやり方を、私は『管理不倒産方式』と呼 んでいる」 「過去にはこの方式が、結果として成功した。
二回 の石油危機をその後の景気の急回復によって乗り切り、 またバブル経済によって、それまでの不良債権が優良 債権に変身するということを経験した。
それがあるか ら、今回の不況も銀行はじっと持ちこたえていれば、 いずれ景気も良くなると考えた。
実際、九〇年初頭に は政府もそう予想していた」 「基本的に銀行が不良債権を処理するには、貸し出 し先の会社を潰す。
もしくは債権を放棄するしかない。
このうち銀行は債権放棄を九〇年代の半ばから散々 繰り返してきた。
債権放棄というのは、借金の棒引き であり、事実上の私的整理だ。
ただし、債権を放棄す るのは銀行だけで、納入業者は放棄しない。
そうやっ て倒産をさせないことで問題を先送りし続けた。
とこ ろが、一向に景気は上向かない」 ――もともと『管理不倒産方式』は、神風が吹かない 限り成功しないスキームだったのに、それが吹かなか った。
しかし、問題の先送りにも限界があるはずです。
「もちろんだ。
今後は日本でも倒産が日常化するこ とを覚悟しなければならない。
日本が資本主義経済で ある限り、倒産をなくしてしまうことはできない。
景 気循環をなくせない以上、倒産は必ず起こる。
会社が 潰れてなくなったら、確かに従業員は大変だ。
しかし、 倒産をおそれるのではなく、企業改革のチャンスとし てとらえるべきだ。
これまでのやり方では非効率な会 社がそのままの姿でじっとしていても、銀行が支える 限り、その会社は倒産しなかった。
結局、業界全体が 過剰な設備と過剰な人員を抱えたままということにな る。
それで景気が良くなるはずがない」 ――景気回復に倒産が必要なのであれば、ここ数年の 倒産の増加は経済が健全化に向かっていることを示し ているといえます。
「ただし、現在の倒産処理には問題がある。
例えば 会社更生法でも民事再生法でも裁判所と弁護士は必 ず大企業をスポンサーに付けようとする。
破綻した企 業を大企業の系列に入れてしまい、業態を転換しよう とはしない。
借金を棒引きして、人を減らすのみで、 後は持ち主が変わるだけ。
業態としては、そのままの 形で生き延びさせる」 「会社更生法には、かねてから希代の悪法だという 批判がある。
会社更生法を適用されると、それまでの 借金が棚上げされる。
これに対して、倒産していない 既存の競合企業は金利負担を常に抱えている。
両者 を競争させたら、どちらが有利になるかは明らかだ。
コスト競争ができなくなる」 ――つまり現在の倒産処理には業態の転換、ビジネス モデルの改革を妨げるという問題があるのですね。
そ 「倒産を会社変革のチャンスに」 日本では今後、倒産が日常化する。
しかし、それを恐れるのではな く、倒産を企業改革のチャンスとしてとらえるべきだ。
歴史的な役割 を終えた既存の大企業を、新しい経済環境に適応した小さな専門企業 に解体することで、日本経済は再び活性化する。
奥村宏 経済評論家 Interview 特集 物流業の倒産と再建 31 APRIL 2002 れは理解できますが、なぜ大企業ではダメなのかは分 かりません。
大企業がスポンサーになって系列化する こと自体に問題はないように思う。
「大量生産・大量販売方式、いわゆる『規模の経済性』 が発揮されるのは重化学工業、とりわけ自動車、電機 といった産業だ。
そうした産業で大量生産すれば確か にコストは安くなる。
コストが安くなれば値段を下げ られるので大量に売れる。
それでまたコストを下げら れるという好循環が起きる。
重化学工業において大企 業の存在が重要なのは当然だった」 「とくに日本の場合は、一九五五年頃から第二次世界 大戦後の高度経済成長の中で産業構造の重化学工業 化を進めてきた。
ところが今はそれが行き詰まってい る。
そういう産業はどんどん東南アジアや中国にシフ トしている。
今後、国内の重化学工業は間違いなく 衰退していく。
さらに、これからの産業といえる情報 産業や福祉産業などは大量生産方式には馴染まない。
むしろ、そこでは機能分化によるスペシャリティが重 要になる」 大企業を解体せよ ――確かにサービス業化が進むと、従来の大量生産方 式は機能しなくなりますね。
「これからの経済環境に適合するのは大企業ではな く、環境の変化に柔軟に対応できると同時に、高い 専門性を持った小さな組織だ。
従来、大企業が追求 してきた『規模の経済性』は今やマイナスの足かせに なってしまっている。
大企業病を克服するために日本 の大企業は事業部制を導入し、カンパニー制を導入 し、それでもダメだからと分社化を進めてきた。
さら に今度は持ち株制度だという。
しかし、いくら持ち株 会社制を敷いたといっても外から見れば全くこれまで と変わりはない。
結局、頂上にいる持ち株会社が全 部の子会社に指令を出している。
分権化は形だけだ。
徹底してやらない限り分権化は機能しない。
実際、米 国の企業の多くはそうしている」 ――日本の大企業を持ち株会社方式で解体するのでは なく、その資本関係まで断ち切るべきだということで すか。
「そうだ。
上からコントロールする人や組織がある 以上、分権化などできない。
ある事業部が黒字でも、 別の事業部に赤字が発生していれば結局、その穴埋め をさせられることになる。
それでは黒字を出した事業 部まで成長できなくなる。
赤字の事業部が倒産するこ ともやむを得ないということでなければ、完全な独立 などない。
淘汰することこそ大事なのだ」 「以前に東芝でこんな話を聞いたことがある。
当時、 東芝では利益の大部分を半導体で稼いでいた。
他の 事業はほとんど赤字だった。
それを聞いて私は、だっ たら半導体事業を独立すればいいじゃないかと言った。
ところが、今は半導体が儲かっているけれど五年後、 一〇年後は逆に養ってもらっているかも知れない。
だ からできないという」 「そんなこと言っているから大企業はいつまでたっ ても儲からない。
日本の大企業はリスクを会社の中で 分散している。
それを市場化すべきなのだ。
儲からな い事業はやめたらいい。
もしくは、完全に独立させる。
完全に独立させれば業態転換をするか、規模を縮小し て生き残るための改革を始める。
ところが実際は独立 も業態転換もさせないで、リストラだといって従業員 を解雇してしまう」 ――なぜ日本企業は変われないのでしょうか。
「経営者が組織を守ること、あるいは組織を大きく することこそ最大の使命だと思いこんでいるからだ。
『倒産はこわくない』奥村宏著 (岩波アクティブ新書) APRIL 2002 32 かつて松下電器産業に、松下幸之助の大抜擢によっ てトップに就いた山下俊彦という社長がいた。
彼が社 長を辞めたあと私は『松下の社長として何がアナタの 最大の課題でしたか』と尋ねた。
すると彼は大企業病 だと答えた。
どうしようもないほど松下の組織は肥大 化して、大企業病に陥っている。
それを退治するのが 私の仕事だったと言った」 「では、それができたのかと尋ねると、残念ながら 難しかったという。
そして当時はまだ持ち株会社が解 禁されていなかったから実際にはできないけれど、理 想とすれば松下を持ち株会社にして、各事業部、各 工場を完全に独立させたかったという。
そこで私は改 めて、なぜその時に松下が株を持たないといけないの かを尋ねた。
それに対する答えは、『それは幸之助さ んが作った会社だからや』というものだった」 ――それはもはや理屈ではない。
「理屈じゃない。
経営者というのは組織を守る。
組 織大きくする。
それが使命だと信じ込んでいる。
同時 に従業員も会社は大きくなければダメだと思い込んで いる。
日本で良い大学にいくのは良い会社に就職する ためだ。
そして良い会社というのは大企業だ。
そうし た考えが強く染みついている」 ――日本の特殊性でしょうか。
「少なくともアメリカでMBAコースのエリートた ちに聞けば、彼らは皆、独立したいと答える。
もっと も、今は日本でも大企業がどんどん倒産するので、大 企業信仰も徐々には崩れてきた。
しかも大企業は人を 採らなくなってきているので、学生は意識を変えざる をえない。
実際、一〇年前と比べて学生の意識は相 当変わった。
僕自身、大学教師として就職の相談な どを経験していたからよく分かる。
変わらないのは、 お母ちゃんと親父や(笑)」 エンロン倒産を機に次の時代へ ――今、日本は国際会計基準の導入を進めていますが、 それとセットになってコーポレート・ガバナンス(企 業統治)という考え方が輸入されるようになりました。
欧米式の企業統治とは、会社とは株主のものだから、 株主価値の最大化こそ経営の目的だという原則に基 づいています。
日本企業もそれに影響を受けるように なっている。
「実は米国で株主資本主義が盛んに言われるように なったのは、それほど昔の話ではない。
八〇年代から だ。
一九世紀に近代株式会社が成立した頃には、株 式会社とは株主が出資したものだから、株主のために 利益を上げて、利益は全部株主に返せという考え方が 確かに存在した。
しかし、その時の株主というのは、 文字通りの資本家であり、オーナー、あるいはごく少 数の金持ちだけだった」 「その後、二〇世紀に入って株式会社の規模が大き くなると、株式の所有者が広汎な零細投資家に分散 されていった。
これによって、株式会社は経営者支配 に移る。
つまり株式を持っていない経営者が会社を支 配する。
これが三〇年代に言われた『経営者革命論』 だ。
この段階になると、株式会社が株主のものだとい う理論は通用しなくなった。
実際、経営者は株主のた めだけでなく従業員や顧客、あるいは社会といった 様々なステークホルダーのために経営をするようにな った。
それが八〇年代までずっと続いた」 「ところが七〇年代頃からアメリカで機関投資家、と くに年金基金が株主として大きな存在になってきた。
といっても実際に株式を運用するのは株主ではなく、 年金基金のファンドマネージャーだ。
ファンドマネー ジャーは成功報酬で、自分の運用成績によって給料が 特集 物流業の倒産と再建 33 APRIL 2002 変わる。
しかも、成績を一年もしくは非常に短期で評 価される。
そうなるとファンドマネージャーは将来の ことはどうあれ、短期的に株価を高くすることを要求 し、会社に圧力をかける。
それが現在の株主資本主義 の土台となっている」 ――つまり古典的な株主資本主義が形を変えて復活し たわけですね。
「ファンドマネージャーが経営者に対して、株価を 極大にしろ、言うことを聞かなければ株を売るぞとい う圧力をかける。
そういった傾向が強く出てきた。
実 際、九〇年代の初頭にIBMが赤字に陥った時には、 ファンドマネージャーが社外取締役に圧力かけて同社 の会長をクビにした。
GMの会長もそうやって飛ばさ れた。
そこで会社の経営者もクビにならないために、 株価の極大化を率先して進めるようになった。
その典 型がエンロンだ。
エンロンは決して例外的な企業では なく、株主資本主義の先頭を走ってきた会社だった」 「エンロンは株価をつり上げるために、特定目的会社 (SPE)を使って決算を粉飾した。
しかし他の大手 企業も株価をつり上げるためにいろんな工作をしてい る。
さらに彼らは自社株の買い戻しをする。
それによ って市場に流通している株を少なくして、一株当たり の利益を上げる。
その結果、株価が上がるというカラ クリだ」 「自社株買いに使われた金は将来の利益を全く生ま ない。
本来であれば研究開発などに投資すべきだがそ うはしない。
そうした経営の典型がエンロンだった。
そのエンロンの倒産は今日の株主資本主義の行き詰ま りを象徴する出来事だといえる。
実際、米国ではエン ロン事件を契機にGEやIBMといった企業にまで不 信の目が向けられるようになっている」 ――日本企業にとっての株主資本主義はどう考えれば いいのでしょう。
「日本ではバブルが崩壊した後になって、一部の経 営者や経営学者が、株式会社というのは株主のために あるものだ、日本企業がそうしていないのはケシカラ ンと主張するようになった。
彼らは日本企業がなぜ株 主軽視でいられたのかという理由を分かっていない。
これまで日本の大企業にとって株とは?持ち合い〞す るものだった。
実際、日本では個人株主が全体の二 三%の株しか保有していない。
それなのに日本の学者 や経営者の多くは一九世紀の古典的な株式会社を頭 に描いて、つまり歴史を見ないで勘違いしている」 「彼らが頭に描いているような株式会社は日本のど こにもない。
日本には米国のようなファンドマネージ ャーは存在しない。
また株主主権の原則で運営されて いる会社も存在しない。
株主総会をみればそれは明ら かだ。
よく指摘される日本の民主主義の形骸化よりも、 はるかに日本の株式会社の形骸化は進んでいる」 「人本主義」のウソ ――会社組織は今後、どこへ向かうのでしょうか。
「株式会社がそうやって変質しているということを キチンと認め、さらに現在の環境にふさわしい形に株 式会社の在り方を変えていく必要がある。
具体的には 現在の大企業を分割してもっと小さな組織にする。
そ こに従業員も株主として、参加させる。
従業員持ち株 制度自体は既に日本にも広く普及しているが、形とし てあるだけで実際には日本企業の全上場株式の一% 程度しか持っていない。
もっと従業員に経営に関与さ せる。
それは、その会社のことを最もよく分かってい るのが現場の従業員であるからだ」 「日本の大企業はよく従業員参加の経営などと言う が、従業員に発言権など全く与えていない。
日本に取 おくむら・ひろし 1930年生まれ。
新聞記者、 経済研究所員を経て、龍谷大学教授、中央大学教 授を歴任。
日本は世界にも希な「法人資本主義」 であるという視点から独自の企業論、証券市場論 を展開。
日本の大企業の株式の持ち合いと企業系 列の矛盾を鋭く批判してきた。
主な著書に「企業 買収」「会社本位主義は崩れるか」などがある。
PROFILE APRIL 2002 34 締役や社長を従業員の選挙で決める会社があるだろう か。
大企業を工場単位、拠点単位ぐらいに分割する ことで、現場の従業員の言葉も組織に反映されるよう になる。
ちなみにドイツの株式会社は共同決定法によ って、少なくとも監査役の半分を従業員の代表が占め ている。
」 「もう一つ。
株式会社に代わるものとして、協同組 合などのNPO(非営利組織)の活用を考える。
例 えば、これからの日本で大きな問題となる老人介護ビ ジネスなどは、株主の利益追求のためにやるような仕 事ではない。
ちなみに大学もNPOだ。
病院もそう。
利益追求のために経営していますなどと言ったら、患 者はみんな逃げていく」 ――そもそも日本企業の経営者は株主のために経営し ているという意識はほとんど持っていませんでした。
経営者自身が従業員出身だということもあって、昔か ら株主価値よりも従業員の雇用を守るほうを大事に考 えている経営者のほうが多い。
「そのため一橋大学の伊丹敬之教授などは、日本企 業は人間本意の『人本主義』だと言う。
しかし、僕は 全くそう思わない。
日本企業は人間本位ではなく会社 本位だ。
経営者は会社のために働いている。
従業員の ためではない。
会社が潰れそうになった時にそれがハ ッキリと分かる」 「本当に人本主義であるなら、なぜリストラなどが できるのか。
日本の会社が家族のような従業員の共同 体であるなら、弱いものにメシを食わさないというリ ストラなどありえない。
むしろ、弱いもののために皆 が犠牲になって力を合わせるのが共同体だ。
人本主義 だというならそうしなければならない。
しかし現実に はそうなっていない」 ――人を切るか、倒産するかとなったら、人を切るの もやむを得ないのでは。
「だからこそ、倒産する前に業態を転換する必要が ある。
もしくは倒産して業態を転換すればいい。
大事 なのは、会社が転換できるようにすることだ。
同時に 会社は最初からあるものではなく、作るものだという 意識を皆が持つ必要がある。
古い会社の観念のもとで 建て直しをしようとしても出口はない。
再建もできな い。
それこそが今日の不況を克服する上で、強く迫ら れている問題だ」 ――協同組合やNPOでは競争機能が働かなくなる心 配もある。
「NPOといってもボランティアでも国有企業でも ない。
給料がなければやっていけなくなるのだから、 その点は問題にはならない。
いやでも市場メカニズム は働く。
そこには適切な淘汰がある」 ――そういうタイプのNPOでは、労働とその対価と しての給与という考え方も変わっていかざるを得ませ んね。
「確かに今は労働者が資本家に労働力を売るという 観念が非常に強い。
しかし、そこでいう労働とは古代 ギリシア時代からレイバー(Labor)という言葉 で、ワーク(Work)とは明確に区分されてきた。
現在の株式会社で働く従業員はレイバーだ。
しかし、 新しい企業ではワークを取り戻す必要がある」 「先ほど例に出した介護サービスにしても、時給を もらうことだけが目的ならば、あれほどキツイ労働は できない。
そうかといって介護サービスが純粋なボラ ンティアであるわけでもない。
それこそが『仕事』と いうものだ。
今の日本人には、そうした『仕事』の喜 びが失われてしまっている。
『仕事』を復権する時が 来ている。
そうしたことを真剣に考える契機として倒 産を活用することが大事だと思う」 特集 物流業の倒産と再建

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