ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年3号
特集
その後の物流ベンチャー 過剰在庫をネットで仲介――ラクーン

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MARCH 2002 20 契約書を書かない合理主義 ――九二年に起業のために脱サラして中国に留学しました。
その狙いは何だったのでしょうか? 中国にこだわる理由は何もありませんでした。
充電した かったというのと、何か武器を持ちたいなと思っただけで す。
ですから、留学しようとは決めていましたが、行き先 は、正直なところどこでも良かった。
実は最初は米国に行 くつもりだったんです。
しかし、米国に留学した人達のその後を見ていると、ど うも彼らの話は、『いまアメリカはどうなっている』とか 『アメリカはどこが進んでいる』というのが多い。
でも事 業にとって一番、大切なのは何なのか。
そこから考えてい ましたから、まず私にとってのベンチャーの定義というの を決めたんです。
――どのような定義なんですか。
ベンチャーにとって、本当に大切なのはオリジナリティ だと思ったんです。
そうした職業というのは、おそらく現 在の電話帳には記載されていない。
二〇年前には通販事 業なんてありませんでしたよね。
電話帳の職業欄に新しい カテゴリーができるというのは、新しい産業ができること を意味します。
これがすごく重要だと思ったんです。
――たまたまだとしても留学先に中国を選んだことは大き な財産になっているようですね。
中華系の経営者は、あまり契約書を書きません。
当社 に投資してくれているシンガポール航空の会長もそうです。
彼はハーバード大学を出ていますんで、さすがに弁護士の 作成した書類とかが来るのかと思っていたんですが、何に も無し。
三〇分のフリートーキングで、明日振り込むみた いな感じです。
まるで『マネーの虎』みたいな感じですよ。
少しビック リしましたが、それでも私がさほど驚かなかったのは他の 華僑の多くも同じだからです。
契約を結んでも、力関係 で反故にされることはいくらでもある。
信頼関係の方がず っと強いんです。
米国の合理性とは種類が違いますが、彼 らは本当に合理的なんです。
――中国留学から戻って貿易商社を始めました。
三〇才に してついに起業ですね。
単なる貿易商ですよ。
何のビジネスでも良かったんです。
最低限、自分が食べていけるだけのお金を稼ごうと思った。
かねてから私は、勝負は四〇才ぐらいだと思っていました。
なぜ四〇才かというと、経験とお金と努力がバランスする だろうということです。
従ってそれまでの一〇年間は、完 全にエクササイズの場と位置付けたんです――貿易商の仕事からはどんなことを学びましたか。
流通の川上から川下まで一通りの業務を知ることがで きました。
メーカーの業務も輸入業務も覚えたし、広告の 出し方なんかも覚えた。
通販も自分で経験しましたからね。
ある小売店の経営者には、小売りについて徹底的に教え てもらいました。
どんなものを仕入れて、どうやって売る か。
問屋に連れていってくれて商品も見せてもらいました し、商談にも立ち会いました。
実は、私にはこういう恩師 が各業界に一〇人ぐらいいるんですよ。
――九八年に「オンライン激安問屋」を始めたきっかけと して、在庫で痛い思いをした経験がありましたね。
ある大手の小売業者と、中堅規模の問屋を介して取引 をすることになったんです。
その問屋から大手と取り引き できるという話が入ってきた。
しかし、商品をいくつ確保 していいか分からなかったので、知人にも相談して二〇〇 〇個を確保した。
当社にとっては小さくない量だった。
過剰在庫をネットで仲介 ―― ラクーン 小方功 社長 「在庫が憎くて憎くて しょうがなかった」 ラクーン 小方功社長 ビジネスモデル 「オンライン激安問屋」というマーケットプ レイスで、企業の過剰在庫を転売する業務を 手掛ける。
出品メーカーの匿名性を保てること が評価されて、会員数を順調に伸ばしてきた。
メーカー五七〇社と小売業者一万四〇〇〇店 舗が会員として参加。
会員間で商談が成立す るとラクーンが手数料を得る仕組み。
沿 革 技術系のコンサルタント会社に五年間勤めて いた小方功氏が、一年間の中国留学を経て九 三年に起業した。
当初は対中国貿易商社とし てのビジネスを手掛けながら、流通分野のノウ ハウを蓄積。
売上高は順調に伸びたが、九七 年に約一〇〇〇万円分の商品在庫を抱えて経 営危機に瀕したことが転機になった。
21 MARCH 2002 大手に扱ってもらうときにはタイムリーなデリバリーを 要求されますので、ストックすることが、いわば義務なん です。
ですから私も、自分でリスクを負って一〇〇〇万円 分ぐらいの商品を購入しました。
このとき私はまだ、六畳 一間の家賃三万五〇〇〇円の風呂もないアパートに住ん でいましたから、寝て起きるスペース以外は部屋中、商品 だらけですよ。
ところが結局、正式なオーダーは来なかった、後でよく よく聞いてみたら、伝言ゲームに原因があったんです。
小 売りはちゃんと説明していたのに、問屋が間に入っていた ためメッセージが正確に伝わらなかった。
何のことはない 事務の女の子が報告するのを忘れていただけだったんです。
――そのときに初めて在庫処理がビジネスになると考えた わけですね。
そういうことです。
たまたま、そのとき私は別のところ に商品を持ち込んで在庫を捌くことができたんですが、こ の話を聞いた周りの経営者達が、『私のところにも在庫が ある』と相談してくるようになった。
一〇人以上いました ね。
それで私は、こんなに多くの人達が困っているのだか ら、そこにはニーズがあるだろうと考えた。
だから在庫の ビジネスをはじめたんです。
当初はファクスを使って過剰 在庫の仲介をしていました。
ファクスの同報送信をしてい て、これが意外と評判がよかった。
これをインターネット に移行するのは時間の問題だったわけです。
――世間ではラクーンはネットベンチャーという認識です。
違いますね。
まず最初に、実業ありきのビジネスです。
そもそもネットを使って何かやろうというのは、おかしい。
やる前から失敗しているようなもんです。
もし現在の商売 をするのに、ネット以上に適した媒体があれば私は何のた めらいもなく変えますよ。
――九八年に商売をネットに一本化して、ファクスで情報 を得て自分で処分先を探す仕事から撤退したことで、いっ たん売り上げがどん底まで落ちています。
あの時のことを私はフィージビリティ・スタディ(=F S:企業化調査)の期間だなんていっていますが、そうせ ざるを得なかったんです。
ネットに移行するためには、営 業で問屋を回ったりする手間がかけられなかった。
自分で催事場を借りて不良在庫をさばいて、何とか家 賃を払っていました。
それで夜になって帰ってきては、一 生懸命にサイトを作り込んでいた。
そうしながらネット上 の検索エンジンだけで、どれだけ収入が増えるかを、ひた すら測定し続けたんです。
収入を伸ばすためには何をどう すべきかを朝から晩まで考えていました。
一時は借金が五〇〇〇万円ぐらいまでいきましたが、九 九年ぐらいから自然にお客が増えていくようになりました。
公開なんて目指したくなかった ――そして九九年十二月に、基本モデルとしての単月黒字 を達成するわけですが、この時のコスト構造は。
仕入れた商品と売った商品の差益です。
そこから家賃 や人件費や通信費、営業コストなどを払い、私の給料も 引いて残れば、黒字ということです。
――このときにビジネスモデルが完成したわけですね。
自信がありました。
これに投資をしない奴は損するぞと 思っていました。
――株式公開を意識したのはいつからですか。
他人の資本を受け入れたその日からです。
彼らはキャピ タルゲインのために投資をしているわけですからね。
公開 は投資家との約束です。
仮に、私がもともと一億円のお 金を持っていたら、公開なんか絶対に目指しません。
――今年二月にスタートした「スーパーデリバリー」は、 従来の「オンライン激安問屋」とはまた違います。
どちら かというと流通変革を目指す動きに見えます。
私は九七年ぐらいには、在庫が憎くて憎くてしょうがな かったんです。
どうしたら在庫をなくせるかというのを禅 問答のように考えつづけました。
そのときに、小売店とメ ーカーを直結させるしかないと考えたんです。
激安問屋は 発生してしまった在庫の処理を目的とする、いわば「治療 医学」です。
これに対して、スーパーデリバリーはそもそ も在庫を発生させない「予防医学」なんです。
特集その後の物流ベンチャー 98年8月に開設した「オンライン激安 問屋」。
2000年10月には日経インター ネットアワード2000を受賞した 2002年2月には流行品や正規品の 販売を仲介する「スーパーデリバリ ー」を開設。
新たな事業領域に挑む 以降、過剰在庫の処分を仲介するブローカ ー的な仕事を手掛けるようになり、九八年春に 過剰在庫の転売業を正式にスタート。
初めはフ ァクスの同報送信や電話によって売買のマッチ ングをしていたが、九八年八月にインターネッ ト上に「オンライン激安問屋」を開設。
それか ら一年四カ月のフィージビリティ・スタディで 単月黒字化を確認すると、それまで一〇〇〇 万円だった資本金を一気に増強。
二〇〇〇年 一二月には四億六〇〇〇万円(準備金含む)ま で増資し、攻めに転じた。
今年二月には「スーパーデリバリー」という 新サービスも開始。
従来の過剰在庫転売業に くわえて新品や流行品を、地方の小規模小売 店に卸売する業務を始めた。
中小卸の廃業に よって商品供給が細りつつある小売店に対し、 メーカーが営業コストをかけずに商品を販売で き る 仕 組 み を 構 築 し よ う と し て い る 。
http://www.raccoon.ne.jp/

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